LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる

meishino

文字の大きさ
228 / 253
命は一つ!想いは無限編

228 力の種

しおりを挟む
「キルディア、」

「ん?」

「戦から、帰ってきたら、私の恋人になってください。」

「それは出来ない、ごめんね。」

 はあ……、と彼のため息が聞こえた。

「頑なですね。全く、頑なだ。はあー……、私に何度ため息を与えれば、あなたは満足するのでしょうか。全く。」

 怒り始めてしまった。私は少し笑いながらジェーンを見た。彼はムッとしていた。

「ふふっ、もう、それはだってさ、いろいろ話し合ってきたじゃない。恋人になるって、とても難しいことだ。」

「難しいと考えるから難しい。簡単だと思えば、簡単です。しかしあなたの心情も理解しております。私はただ、素直に言葉を発しただけ。無視していただいて構いませんよ。」

「無視は絶対にしないよ。」

「はあ!」なんだよそのため息は、私は笑ってしまうと、彼も少し笑った。「突き放しては、甘い褒美をくれる。何ですあなた、どこでその技術を習得しましたか?ふふ。兎に角、次の戦は、絶対に勝ちましょう。」

「そうだね、絶対に勝とう。厳しい戦いの中で、心が負けそうになったら、ジェーンの笑顔を思い出すよ。ふふ。」

「もう我慢出来ません。」

 えっと思ったその時だった。彼が私の腕を引っ張って、私は彼の胸に飛び込む形になってしまった。急にそんなどうしたのか。彼はギュッと私を抱きしめている。いつもよりも服がないので、肌と肌が触れて何だか、生々しい。

「びっくりするよ、ジェーン。」

「それは申し訳ございません。」

 私は彼の首元を見ている。それしか視界に入っていないからだ。こんなにくっついて、何だか、緊張する。ドキドキする。でも明日は戦なんだから、ちょっとぐらい激しいスキンシップでもいいかと、自分を甘やかした。すると彼は、私の手をとり、その甲に口づけをした。

 と、ここで私は、あることに気付いた。現在、私のお尻は彼の股の間に位置しているが、何かが当たっているのだ……なるほど、彼がお手洗いに行きたいのは、そういうことだったのだ。

「ジェーン……あのさ、」

「はい。」

「あ、当たってるんだけど。」

「……。」

 彼が手の甲にキスするのをやめて、はあ、とまたため息をついた後に、バスタブに肘を置いて、やれやれと言った様子で、髪の毛をかき上げた。

「当たり前です。好いている人物の、露出の高い姿を視界に入れて、何とも思わぬ男がいますでしょうか。はあ、キルディア。生物学的に考えてみてください。オスがメスに発情するのは、そんなにいけないことでしょうか?」

「べ、別にこれがダメって言ってないよ。あと、メスって言うな、オスとも言うな!」

「注文が多いですね。では、雌しべと雄しべ。」

「それもやだ……。」

 何そのオーガニック。笑っていると、彼も、ふふっと口を押さえて笑った。でもまあ、言いたいことはわかる。これは仕方ないことなのだ。彼だから冷静でいられるが、もし私がケイト先生で、ジェーンがクラースさんだったら、この湯船は大変なことになっていただろう。それよりは良い。

 いずれにしても、明日、私は人生で最大の尽力を見せることになるだろう。少しだけ甘えたい。彼の肩に寄りかかってみると、彼は私を優しく抱いてくれた。

「また、一緒にお風呂に入りたいです。キルディア。」

「うん、私もです。」

「私を男性名で呼んでください。」

「え?あ、ああ……アレクセイ。」

 暫く、そのままの姿勢で、我々は静かに互いの感触を想っていた。視界に、ジェーンの胸が入っている私は、ゆっくりと手を動かして、彼の鎖骨あたりを撫でた。ゴクリとジェーンの喉がなったので、面白くなった私は、ゆっくりと手を下に移動した。

「キ、キルディア……何を。」

「撫でているだけだよ。それだけ。」

 ジェーンの胸筋を触った。固いと感じると、さらにドキドキした私は、あろうことか、そのタイミングで大きなくしゃみをしてしまった。

「バッシュ!」

「ふぁっ……!」

 すっごく、勢いよく手を振り下ろしてしまった私は、結果的に、彼の胸の先っぽにある桃色を、ギロチンのように指先で激しく弾いてしまった。もう本当にごめんと、笑いが止まらないでいるが、ジェーンは変な声を出してしまったこともあり、私を何度もベシベシ叩いている。

「ごめんってば!わざとじゃないの!本当に!あっはっは!」

「不測の事態に備えて日頃から行動すべきです!」

「ごめんってば!」

「触れましたね!私の禁断スポットに!無事で風呂から出られると思わないことですね!私を本気にさせたのですから!」

「いやいやいや!」

 私は浴槽から出ようと試みたが、ジェーンに両腕を掴まれて阻止された。私は何度も頭を下げた。ジェーンは頬を膨らまして、ムッとしている。

「ごめんね、本当に事故だったから、ごめんね、ふっふっふ。」

「……私にも触らせてください。」

「それは何卒、何卒お許しあれ。分かった、まだ、出ないから。ね?」

「分かりました……ではまた、私に寄りかかりください。もう少し、くっついていたい。」

「でも、色々と、ジェーンのあれが……。」

「無視してください。何卒。」

 何卒返しが面白かったので、私はまた、ジェーンの肩に頬を寄せてくっついた。刺激的で癒される風呂は初めてだ。できればまた、味わいたい。

 ジェーンが私の顎を掴んで、彼の顔の方に向けた。少し見つめあってから、キスをした。剣先と剣先がぶつかるような、優しくて尖ったキスだった。我々は今、同じ感情を抱いでいるんだと、確信した。

 キスが終わると、鼻をくっつけたまま、互いにうっとりしながら見つめあった。そしてジェーンが、静かに言った。

「キルディア、あなたは、明日、死ぬ確率が高い。」

「そうだね。」私は、彼を安心させる為に、微笑んだ。「いいさ、この命、帝国民の為に、くれてやる。」

「ふふ、誰よりも凛としている。」彼も微笑んだが、瞳は真剣なままだった。「しかし、帝国民の為に、その命を散らすのは、勿体無い。ならば、どうかその命、私にくれてください。」

 今までで一番、彼も凛々しいと感じた。何だか、それには、逆らえないと思ってしまった。

「分かった。生きて帰ったら、君にくれてやる。ふふ。」

「言いましたね、」と、彼は私をきつく抱きしめた。「私は覚えていますよ。絶対に、覚えています。」

 私も彼のことを、抱きしめた。ずっとずっと、私たちは抱きしめ合っていた。戦場で諦めかけた時、この感触が、私のお守りになるに違いない。胸の中に刻まれた、一番の温もりだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...