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13 ノアズ
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首都ヴィノクールにはイオリの家がある高級住宅街、商いの広場に、大通り、ビルの立ち並ぶビジネス街がある。イオリと出会った洋館のあるムーンストリートは一般的な住宅の立ち並ぶエリアにある。
そして街の真ん中には、ノアズの本部がある。周りを頑丈な外壁で囲んで、ウロウロとノアズの衛兵が屯っていて、その奥に白い大きな建物がある。それがイオリの職場だ。
私は苦笑いでイオリに付いて行った。こっちの人間からすれば、ノアズの本部に近寄ることはイコール死を意味することだからだ。特に私のようなスナイパーは捕まればもう二度と陽の光を浴びることが出来ない。
何度も何度もイオリに「私一緒で大丈夫?」と聞いた。イオリは歩きながらノアフォンをポチポチ操作しつつ、「大丈夫だ。俺のそばにいろ」と答えた。
正面の門にも勿論衛兵がいて、イオリが私のことを客人だと言うと結構すんなりと通れた。もしやイオリは結構上の立場なのではと思った。ノアズのセキュリティは信じられないくらいに硬いと夫も言っていたのに。
花々が可愛く揺れる中庭を通っていくと、ノアズのテーマカラーである白い制服を着たノアズの職員がチラチラ私を見てきた。まあ確かに、白い髪もそうだけど、この黒いゴシックなワンピースはこの白い世界では相当目立つ。
門から建物の入り口に着くまで十五分はかかったと思われる。結構歩いたなぁと今来た道のりを眺めた。すると、どこかから大声が聞こえた。
「ああああああっ!」
「え?」
振り返るとイオリがフロントのところで頭を押さえていて、彼の前には……受付嬢の姿をした、サラがいた。
……サラは受付の人だったんだ。髪の毛はグレーアッシュのままだけど、ここは彼女の職場だからか真面目そうに後ろに一つに結んでて、メイクも昨晩ほど派手ではなくなってる。
「イオリ!何考えてんの!?あれを連れてくるなんて!しかもイメチェンしてるし!」
「こらこら」とサラの隣にいる中年ぐらいの同じく受付嬢の人が、サラのことを軽く裏手でぺしんと叩いた。「プライベートと仕事は分けて考えなさい。呼び捨てはやめて、アルバレス先生でしょ?」
「聞いてモリー!さっき話したでしょ?あの子が昨日の夜イオリの家にいたゴーストなんです!」
めっちゃ私のことを指差してくる。ため息まじりに、モリーという名のもう一人の受付さんが言った。
「あのねぇ……確かに三階の窓の外にいたのは奇妙だけど、こんなにはっきりと存在感のあるゴーストがいるわけないでしょう?変な夢を見たのよ、ねえ、アルバレス先生?」
「あ、ああ、そうかもな……入館許可証。」
イオリが早くくれと手招く仕草をすると、モリーが慌てて引き出しから許可証を出して、イオリに渡した。イオリはそれを私に差し出したので、私はそれを受け取った。
すると明らかに私を睨んでいるサラが、私に聞いた。
「名前は何なの?」
「ア……じゃなくてリア。リア・ブックハート。」
「ミドルは?」
「えっと……。」
本名だとミドルはルイーズだけど、それはアリシアのミドルネームだから、私は適当に答えた。
「レッド。」
「レッド?変わった名前ですね、リア。」
イオリを見ると、微かに口角を上げていた。だってそれしか思いつかなかったんだもん。イオリのノアフォンのカバーが赤いから。
「リア・レッド・ブックハートね。登録したからもう通れるけど……ちょっと、アルバレス先生?」
「な、何だ?」
「彼女が生きてるなら別の問題が生じてるよね?仕事上がったら話がしたいんだけど。」
「構わない。」
イオリはそれだけ言って、先の通路に歩いて行った。サラはチラッと私を睨んでから、すぐにPCを操作し始めた。
もらいたての入館許可証を首からぶら下げて、私はイオリについて行った。その間もイオリはポチポチと操作していた。あまり話してくれないけど、仕事場だからなのかなと思った。
イオリのオフィスは最上階にあった。他の階は研究室がメインっぽいけど、最上階は重役のオフィスがメインで、ドアの間隔が広々としていた。
綺麗な白い廊下を歩いて、漸く彼の名前のシルバープレートが掛かっているドアの前で止まった。イオリはドアを開けて、自分だけ通って閉めてしまった。
私のこと忘れてませんかね……?もし廊下に監視カメラがあった時、私が透けることが出来るのがバレたら厄介なので、私もドアを開けて入ろうとしたけど、ロックがかかっていた。
「え?ちょっと」
すぐにドアが開いた。
「ああすまない。つい一人の癖が出てしまった。どうぞ。」
「どうもです。」
中に入ると奥の壁は本棚で埋まっていて、側面は大きな窓から太陽の光が差し込んでいて、オフィスの中央にあるL字型のブラウンのソファを照らしていた。
本棚の前にある大きな木製のデスクの隣には観葉植物があり、入り口側の壁にも観賞植物のプレートがかけられている。一目でリラックス出来そうな雰囲気があった。
私はソファに座った。ふわっとしてからしっとりと沈んだ、何なのこの感覚、とろけそうになった。目の前にある白い木製のコーヒーテーブルには、卓上の時計と、ちょこんとしたサボテンが置いてあった。
「とてもいい雰囲気だね。」
と、デスクに座っているイオリを見ると、いつの間にか彼が細くて丸い銀色のフチの眼鏡をかけていたので、私は二度見した。何その不意なインテリポイントは。イオリは私の視線に気付かず、PCを操作しながら言った。
「来客がリラックスしやすいように心掛けてはいる。俺の仕事は犯罪現場の解析がメインだが、たまに重役のカウンセリングが入る。その為だ。」
「イオリのカウンセリングかぁ。」
「何だ?不満か?俺にはベラベラと話す癖に。」
「それは言えてる。」
ふふっ、あははっと二人で同時に笑った。笑いが消えていくと、イオリは黙って作業に集中し始めた。
……何か手伝った方がいいのだろうか。一応、部屋の隅には簡易的なシンクがあって、ポットもある。あの棚の中にはコーヒーか紅茶があるに違いない。
でも私、コーヒーの入れ方知らない。パック的なコーヒーならお湯を注ぐだけなのでいけるかもしれないが、もしそれがコーヒー豆だったらもう終わりだ。出来ればお茶であって欲しい。お茶はお茶でも、パックであって欲しい。急須を使わないで欲しい。
「イ、イオリ……。」
「ん?」
「コーヒーはパックのだと有難い。」
イオリは苦笑いして答えた。
「そんなことを言う客は初めてだ。パックの物しか飲んだことがないという意味か?」
「パックのもあまり飲んだことない。でもパックだったら、いれやすいから。」
「そんなことよりも。」
そんなことよりも?私は体を向けて、イオリの発言を待った。イオリは背伸びをしてから私を見つめて言った。
「先程からアリシアのような前例があるかどうか調べては見た。しかし全く情報が出てこない。と言うことは、この現象は未だかつて無いということが判明した。」
「ああ、私の他にも同じようなゴーストがいるかもって?」
「そう考えたんだが……これが初となると、どうにもこうにも対処が出来ん。」
「犯人はティーカップの中が終わるまでだと思う。でも今朝は一緒にいていいって言った。」
「確かに言った。あれは先週放送が始まったから、あと半年の間、それまでだと思ったからだ。その前に打ち切りにでもなれば有難いことこの上ないが。」
「打ち切りはやだ。」
「まあそうなのだろうな。残念なことに、お前と同じ考えを持つ市民が大勢いるらしく、視聴率は好調のようだ。もし今後シーズン化されたら俺の人生はどうなるんだ……!」
イオリが頭を抱えてしまった。
「そんな、大丈夫だよ。」
「……シーズン化されても、興味ないと?」
「興味はある。」
「何が大丈夫なんだ……貴様。」
確かにそうだねと笑っていると、オフィスのドアがコンコンとノックされた。
そして街の真ん中には、ノアズの本部がある。周りを頑丈な外壁で囲んで、ウロウロとノアズの衛兵が屯っていて、その奥に白い大きな建物がある。それがイオリの職場だ。
私は苦笑いでイオリに付いて行った。こっちの人間からすれば、ノアズの本部に近寄ることはイコール死を意味することだからだ。特に私のようなスナイパーは捕まればもう二度と陽の光を浴びることが出来ない。
何度も何度もイオリに「私一緒で大丈夫?」と聞いた。イオリは歩きながらノアフォンをポチポチ操作しつつ、「大丈夫だ。俺のそばにいろ」と答えた。
正面の門にも勿論衛兵がいて、イオリが私のことを客人だと言うと結構すんなりと通れた。もしやイオリは結構上の立場なのではと思った。ノアズのセキュリティは信じられないくらいに硬いと夫も言っていたのに。
花々が可愛く揺れる中庭を通っていくと、ノアズのテーマカラーである白い制服を着たノアズの職員がチラチラ私を見てきた。まあ確かに、白い髪もそうだけど、この黒いゴシックなワンピースはこの白い世界では相当目立つ。
門から建物の入り口に着くまで十五分はかかったと思われる。結構歩いたなぁと今来た道のりを眺めた。すると、どこかから大声が聞こえた。
「ああああああっ!」
「え?」
振り返るとイオリがフロントのところで頭を押さえていて、彼の前には……受付嬢の姿をした、サラがいた。
……サラは受付の人だったんだ。髪の毛はグレーアッシュのままだけど、ここは彼女の職場だからか真面目そうに後ろに一つに結んでて、メイクも昨晩ほど派手ではなくなってる。
「イオリ!何考えてんの!?あれを連れてくるなんて!しかもイメチェンしてるし!」
「こらこら」とサラの隣にいる中年ぐらいの同じく受付嬢の人が、サラのことを軽く裏手でぺしんと叩いた。「プライベートと仕事は分けて考えなさい。呼び捨てはやめて、アルバレス先生でしょ?」
「聞いてモリー!さっき話したでしょ?あの子が昨日の夜イオリの家にいたゴーストなんです!」
めっちゃ私のことを指差してくる。ため息まじりに、モリーという名のもう一人の受付さんが言った。
「あのねぇ……確かに三階の窓の外にいたのは奇妙だけど、こんなにはっきりと存在感のあるゴーストがいるわけないでしょう?変な夢を見たのよ、ねえ、アルバレス先生?」
「あ、ああ、そうかもな……入館許可証。」
イオリが早くくれと手招く仕草をすると、モリーが慌てて引き出しから許可証を出して、イオリに渡した。イオリはそれを私に差し出したので、私はそれを受け取った。
すると明らかに私を睨んでいるサラが、私に聞いた。
「名前は何なの?」
「ア……じゃなくてリア。リア・ブックハート。」
「ミドルは?」
「えっと……。」
本名だとミドルはルイーズだけど、それはアリシアのミドルネームだから、私は適当に答えた。
「レッド。」
「レッド?変わった名前ですね、リア。」
イオリを見ると、微かに口角を上げていた。だってそれしか思いつかなかったんだもん。イオリのノアフォンのカバーが赤いから。
「リア・レッド・ブックハートね。登録したからもう通れるけど……ちょっと、アルバレス先生?」
「な、何だ?」
「彼女が生きてるなら別の問題が生じてるよね?仕事上がったら話がしたいんだけど。」
「構わない。」
イオリはそれだけ言って、先の通路に歩いて行った。サラはチラッと私を睨んでから、すぐにPCを操作し始めた。
もらいたての入館許可証を首からぶら下げて、私はイオリについて行った。その間もイオリはポチポチと操作していた。あまり話してくれないけど、仕事場だからなのかなと思った。
イオリのオフィスは最上階にあった。他の階は研究室がメインっぽいけど、最上階は重役のオフィスがメインで、ドアの間隔が広々としていた。
綺麗な白い廊下を歩いて、漸く彼の名前のシルバープレートが掛かっているドアの前で止まった。イオリはドアを開けて、自分だけ通って閉めてしまった。
私のこと忘れてませんかね……?もし廊下に監視カメラがあった時、私が透けることが出来るのがバレたら厄介なので、私もドアを開けて入ろうとしたけど、ロックがかかっていた。
「え?ちょっと」
すぐにドアが開いた。
「ああすまない。つい一人の癖が出てしまった。どうぞ。」
「どうもです。」
中に入ると奥の壁は本棚で埋まっていて、側面は大きな窓から太陽の光が差し込んでいて、オフィスの中央にあるL字型のブラウンのソファを照らしていた。
本棚の前にある大きな木製のデスクの隣には観葉植物があり、入り口側の壁にも観賞植物のプレートがかけられている。一目でリラックス出来そうな雰囲気があった。
私はソファに座った。ふわっとしてからしっとりと沈んだ、何なのこの感覚、とろけそうになった。目の前にある白い木製のコーヒーテーブルには、卓上の時計と、ちょこんとしたサボテンが置いてあった。
「とてもいい雰囲気だね。」
と、デスクに座っているイオリを見ると、いつの間にか彼が細くて丸い銀色のフチの眼鏡をかけていたので、私は二度見した。何その不意なインテリポイントは。イオリは私の視線に気付かず、PCを操作しながら言った。
「来客がリラックスしやすいように心掛けてはいる。俺の仕事は犯罪現場の解析がメインだが、たまに重役のカウンセリングが入る。その為だ。」
「イオリのカウンセリングかぁ。」
「何だ?不満か?俺にはベラベラと話す癖に。」
「それは言えてる。」
ふふっ、あははっと二人で同時に笑った。笑いが消えていくと、イオリは黙って作業に集中し始めた。
……何か手伝った方がいいのだろうか。一応、部屋の隅には簡易的なシンクがあって、ポットもある。あの棚の中にはコーヒーか紅茶があるに違いない。
でも私、コーヒーの入れ方知らない。パック的なコーヒーならお湯を注ぐだけなのでいけるかもしれないが、もしそれがコーヒー豆だったらもう終わりだ。出来ればお茶であって欲しい。お茶はお茶でも、パックであって欲しい。急須を使わないで欲しい。
「イ、イオリ……。」
「ん?」
「コーヒーはパックのだと有難い。」
イオリは苦笑いして答えた。
「そんなことを言う客は初めてだ。パックの物しか飲んだことがないという意味か?」
「パックのもあまり飲んだことない。でもパックだったら、いれやすいから。」
「そんなことよりも。」
そんなことよりも?私は体を向けて、イオリの発言を待った。イオリは背伸びをしてから私を見つめて言った。
「先程からアリシアのような前例があるかどうか調べては見た。しかし全く情報が出てこない。と言うことは、この現象は未だかつて無いということが判明した。」
「ああ、私の他にも同じようなゴーストがいるかもって?」
「そう考えたんだが……これが初となると、どうにもこうにも対処が出来ん。」
「犯人はティーカップの中が終わるまでだと思う。でも今朝は一緒にいていいって言った。」
「確かに言った。あれは先週放送が始まったから、あと半年の間、それまでだと思ったからだ。その前に打ち切りにでもなれば有難いことこの上ないが。」
「打ち切りはやだ。」
「まあそうなのだろうな。残念なことに、お前と同じ考えを持つ市民が大勢いるらしく、視聴率は好調のようだ。もし今後シーズン化されたら俺の人生はどうなるんだ……!」
イオリが頭を抱えてしまった。
「そんな、大丈夫だよ。」
「……シーズン化されても、興味ないと?」
「興味はある。」
「何が大丈夫なんだ……貴様。」
確かにそうだねと笑っていると、オフィスのドアがコンコンとノックされた。
応援ありがとうございます!
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