14 / 127
14 鬼畜上司
しおりを挟む
ノック音が聞こえると、イオリが慌ててデスクの方からこちらへ向かってきた。私もソファから立ち上がって、先にドアを開けようとすると、彼が小声で叫んだ。
「俺がやる!アリシア、お前は隠れろ!」
「えっ、えっ!?」
そんなことを突然言われてもその場でワタワタするばかりだ。イオリは私の様子を見て、「ああ」と苛々したため息をついてから意を決してドアを開けた。
すぐに開いたドアからギロリと鋭い目つきが私を捉えた。そして既に出来ていた彼の眉間のシワが、私を見た瞬間に更にぐしゃっと寄せられた。彼のヴァイオレットの瞳は、見たことのない瞳の色だった。
純白のノアズの制服は他の職員のものよりも装飾が贅沢で、シルクのような光沢感のあるロングコートタイプの服が彼のすらっとした体型に沿ってくびれている。長身の男性だ。
銀色のネクタイにはプラチナのタイピンが刺さっていた。それも高そうなものだ。でも何より気になったのは、彼がとても美形だと言うことだ。
……絶句するほどの美形だった。彼のクリーム色の長い髪はツヤツヤと輝きを放っていて(イオリの方がサラサラだけど)、まつげは長く、すらりとした鼻先は彫刻のように綺麗に纏まっていて、唇が綺麗に浮き出ていた。(イオリの方がいい口角してるけど。)
そして肩までつくストレートな髪は、片方だけ耳にかけられていて、流した前髪の間から覗く頬には、何一つ肌荒れがなかった。(イオリのちょいウェーブの髪の方がいいけど。)
「イオリ、単刀直入に話す。」
いい声してた。どれだけ完璧なら気が済むんだ。イオリはと言うと彼に向かって首を振っていた。何を言うのか見当がついているらしい。
「私には時間がない。用件は済んだと所長に報告を「それは出来ない。あとで俺が所長に尋問される羽目になる。そんな思いは二度とごめんだ。シードロヴァ、5分でいいからソファに座れ。」
「座れだと?」
「ああはいはい、座ってくださいどうかお願いします。これでいいのか?」
「あなたの敬語はゴミ以下です。」
……なるほどね、中身とバランスが取れているようで、ちょっと安心した。
彼がシードロヴァという人物らしい。名前はニュースで聞いたことがあったけど、こんなに美人だとは思わなかった。でも性格に難ありだ。こりゃ結婚は一生無理そうだなと思った。
シードロヴァは私を少し睨んでから、ソファに向かって歩き、到着すると腕を組んだまま、すとんと座った。斜め向かいにイオリが座り、私は少し離れた場所できちんとした姿勢で立った。
するとシードロヴァがチラッと私を見た。
「彼女がリアですか?」
「え。」
「あ、ああ!」イオリが反応した。「紹介しようと思っていた。ちょっとこれから仕事を共にしようと思っている、リアだ。リア・ブックハート。」
「彼女の名は存じ上げております。報告書は全て確認済みですから。フォレスト教官の報告も、今朝の受付であなたが発行した入館証も、確認済みです。」
「そうか、それはすごいことだ。」イオリは苦笑いをした。「いつでも完璧に物をこなすな。君は。」
「完璧ではありませんよ。」シードロヴァは鼻でため息をついた。「現にこうして、あなた如きに私の時間を割いてしまっている。ああ、あなたの言う通りに、完璧でありたいものだ。」
チラッとイオリと目が合った。私は必死に笑わないようにした。本当にこれが友達同士の会話なのだろうか。そう考えると妙に笑えた。
「シードロヴァ、これは君が望んだことではないが、所長が望んだことだ。ニコライ所長が、シードロヴァがあまりにも人間離れした態度をするから、心配になったと俺に君のカウンセリングを頼んだ。」
「あまりのくだらなさに吐き気さえ覚えます。職場で人間らしい態度を必要とする根拠をお聞かせ願いたい。」
……こりゃ大変そうだ。よく幼なじみでいられるよ。
「人間らしいと言うよりかは、本当の君のままで、職務に励んで欲しいんだと所長は思っている。より良い職場にしたいと思うのは上司としては当然の心理……と言っても通じないか。まあなんだ、そんなことよりも、最近のことを聞かせてくれないか?」
「それよりも重要な話があります。聞きたいですか?」
「聞きたいが、それはまた今度にするよ。」
「ほお。後悔しても知りません。」
またイオリと目が合った。確実に彼が困っている感じなので、私は口を尖らせて笑いを堪えた。すると笑いを堪えたのがバレたのか、イオリが私をじっと一瞬だけ睨んだ。それもちょっと面白かった。
イオリはシードロヴァを見た。
「……じゃあ少しだけ聞こうか。本当は君自身の出来事を聞きたいが。」
「昨夜の事件、フォレスト大佐の報告書には第一容疑者の欄にアリシアの夫の名がありました。リアの目撃情報を元にしたのでしょう。それからイオリ、あなたの名前も。」
「は?」
「フォレスト大佐は、あなたも事件に関与していると考えている。これは面白い。」
「いや、そんな、どうして……。」
イオリが明らかに動揺しながら、片手を頭に添えた。シードロヴァはイオリを見ようともせず、独り言のように呟いた。
「本日、捜査班はアルバレス家の敷地内にアリシアの血痕があるのを発見したようです。」
「あっ。」
つい声が出てしまった。やばい。それは私の血で間違い無いだろう。窓辺で浮いている時に、鼻血出した気がするし。でも……!
「でも!」声を出したのはイオリだった。「あれはリアのものだ。アリシアと双子のリアなら、DNAは一緒だ。」
「リアと、どのような御関係があるのか知りませんが、フォレスト大佐は昨夜の様子から、あなたとリアは知り合って間もないと判断している。それに。」
と、ここでシードロヴァが何故か、肩を震わせて笑い始めた。なんでこのタイミングでそんなに笑うんだろう?こんな狂気じみた人間、見たことなかった。
「ふふっ、イオリは魔工学に精通していませんから、知らないのでしょう。双子のDNAは一緒でも、セルパーティクル、所謂魔力の波紋は一人一人違うのです。あなたの自宅から見つかった血液の波紋は明らかにアリシアのもの。ノアズのデータは幼い頃の彼女の血液検査が元ですから、揺るぐことはない。さて何を隠しますか、これ以上?ふふっ、あっはっはっは……!」
「……!ぬぁぁぁぁ!」
頭を抱えたイオリが、鬼の形相で私を睨んできた。やばいこのままだと殺される。いやもう死んでるけど。でもどうにかしないとと思った私は、意を決してシードロヴァに言った。
「イオリはやってない。」
「そうでしょうね。彼には動機がありません。私からは以上です。」
「……。」
最初からイオリのこと犯人だと思ってないならそう言えよ。喉の奥から湧き出てくるこの言葉を必死に押さえ込んだ。
「俺がやる!アリシア、お前は隠れろ!」
「えっ、えっ!?」
そんなことを突然言われてもその場でワタワタするばかりだ。イオリは私の様子を見て、「ああ」と苛々したため息をついてから意を決してドアを開けた。
すぐに開いたドアからギロリと鋭い目つきが私を捉えた。そして既に出来ていた彼の眉間のシワが、私を見た瞬間に更にぐしゃっと寄せられた。彼のヴァイオレットの瞳は、見たことのない瞳の色だった。
純白のノアズの制服は他の職員のものよりも装飾が贅沢で、シルクのような光沢感のあるロングコートタイプの服が彼のすらっとした体型に沿ってくびれている。長身の男性だ。
銀色のネクタイにはプラチナのタイピンが刺さっていた。それも高そうなものだ。でも何より気になったのは、彼がとても美形だと言うことだ。
……絶句するほどの美形だった。彼のクリーム色の長い髪はツヤツヤと輝きを放っていて(イオリの方がサラサラだけど)、まつげは長く、すらりとした鼻先は彫刻のように綺麗に纏まっていて、唇が綺麗に浮き出ていた。(イオリの方がいい口角してるけど。)
そして肩までつくストレートな髪は、片方だけ耳にかけられていて、流した前髪の間から覗く頬には、何一つ肌荒れがなかった。(イオリのちょいウェーブの髪の方がいいけど。)
「イオリ、単刀直入に話す。」
いい声してた。どれだけ完璧なら気が済むんだ。イオリはと言うと彼に向かって首を振っていた。何を言うのか見当がついているらしい。
「私には時間がない。用件は済んだと所長に報告を「それは出来ない。あとで俺が所長に尋問される羽目になる。そんな思いは二度とごめんだ。シードロヴァ、5分でいいからソファに座れ。」
「座れだと?」
「ああはいはい、座ってくださいどうかお願いします。これでいいのか?」
「あなたの敬語はゴミ以下です。」
……なるほどね、中身とバランスが取れているようで、ちょっと安心した。
彼がシードロヴァという人物らしい。名前はニュースで聞いたことがあったけど、こんなに美人だとは思わなかった。でも性格に難ありだ。こりゃ結婚は一生無理そうだなと思った。
シードロヴァは私を少し睨んでから、ソファに向かって歩き、到着すると腕を組んだまま、すとんと座った。斜め向かいにイオリが座り、私は少し離れた場所できちんとした姿勢で立った。
するとシードロヴァがチラッと私を見た。
「彼女がリアですか?」
「え。」
「あ、ああ!」イオリが反応した。「紹介しようと思っていた。ちょっとこれから仕事を共にしようと思っている、リアだ。リア・ブックハート。」
「彼女の名は存じ上げております。報告書は全て確認済みですから。フォレスト教官の報告も、今朝の受付であなたが発行した入館証も、確認済みです。」
「そうか、それはすごいことだ。」イオリは苦笑いをした。「いつでも完璧に物をこなすな。君は。」
「完璧ではありませんよ。」シードロヴァは鼻でため息をついた。「現にこうして、あなた如きに私の時間を割いてしまっている。ああ、あなたの言う通りに、完璧でありたいものだ。」
チラッとイオリと目が合った。私は必死に笑わないようにした。本当にこれが友達同士の会話なのだろうか。そう考えると妙に笑えた。
「シードロヴァ、これは君が望んだことではないが、所長が望んだことだ。ニコライ所長が、シードロヴァがあまりにも人間離れした態度をするから、心配になったと俺に君のカウンセリングを頼んだ。」
「あまりのくだらなさに吐き気さえ覚えます。職場で人間らしい態度を必要とする根拠をお聞かせ願いたい。」
……こりゃ大変そうだ。よく幼なじみでいられるよ。
「人間らしいと言うよりかは、本当の君のままで、職務に励んで欲しいんだと所長は思っている。より良い職場にしたいと思うのは上司としては当然の心理……と言っても通じないか。まあなんだ、そんなことよりも、最近のことを聞かせてくれないか?」
「それよりも重要な話があります。聞きたいですか?」
「聞きたいが、それはまた今度にするよ。」
「ほお。後悔しても知りません。」
またイオリと目が合った。確実に彼が困っている感じなので、私は口を尖らせて笑いを堪えた。すると笑いを堪えたのがバレたのか、イオリが私をじっと一瞬だけ睨んだ。それもちょっと面白かった。
イオリはシードロヴァを見た。
「……じゃあ少しだけ聞こうか。本当は君自身の出来事を聞きたいが。」
「昨夜の事件、フォレスト大佐の報告書には第一容疑者の欄にアリシアの夫の名がありました。リアの目撃情報を元にしたのでしょう。それからイオリ、あなたの名前も。」
「は?」
「フォレスト大佐は、あなたも事件に関与していると考えている。これは面白い。」
「いや、そんな、どうして……。」
イオリが明らかに動揺しながら、片手を頭に添えた。シードロヴァはイオリを見ようともせず、独り言のように呟いた。
「本日、捜査班はアルバレス家の敷地内にアリシアの血痕があるのを発見したようです。」
「あっ。」
つい声が出てしまった。やばい。それは私の血で間違い無いだろう。窓辺で浮いている時に、鼻血出した気がするし。でも……!
「でも!」声を出したのはイオリだった。「あれはリアのものだ。アリシアと双子のリアなら、DNAは一緒だ。」
「リアと、どのような御関係があるのか知りませんが、フォレスト大佐は昨夜の様子から、あなたとリアは知り合って間もないと判断している。それに。」
と、ここでシードロヴァが何故か、肩を震わせて笑い始めた。なんでこのタイミングでそんなに笑うんだろう?こんな狂気じみた人間、見たことなかった。
「ふふっ、イオリは魔工学に精通していませんから、知らないのでしょう。双子のDNAは一緒でも、セルパーティクル、所謂魔力の波紋は一人一人違うのです。あなたの自宅から見つかった血液の波紋は明らかにアリシアのもの。ノアズのデータは幼い頃の彼女の血液検査が元ですから、揺るぐことはない。さて何を隠しますか、これ以上?ふふっ、あっはっはっは……!」
「……!ぬぁぁぁぁ!」
頭を抱えたイオリが、鬼の形相で私を睨んできた。やばいこのままだと殺される。いやもう死んでるけど。でもどうにかしないとと思った私は、意を決してシードロヴァに言った。
「イオリはやってない。」
「そうでしょうね。彼には動機がありません。私からは以上です。」
「……。」
最初からイオリのこと犯人だと思ってないならそう言えよ。喉の奥から湧き出てくるこの言葉を必死に押さえ込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる