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16 レモン味の飴
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シードロヴァが帰ってから、イオリはずっとソファに座ったまま頭を抱えて黙っている。私は彼のそばに立って、彼が何かを話すのを待っていた。
明らかに悩んでるっぽい。シードロヴァについてなんだろうけど、どう言うことでそんなに悩んでいるのか分からないので、試しに聞こうと思った。
「どうしたの?」
「……別に。」
「何それ。」
「いや……俺の勝手な妄想だ。」
うーん。言いたくないなら仕方ないけど、と私はイオリの隣に座った。するとイオリが口を開いた。
「初めて聞いたよ、レモン味の飴について。」
「え、レモン味の飴食べたことないの?」
「それは食べたことある!」とイオリが私の肩をべしんと叩いた。ちょっと痛かった。「……飴自体のことではない!彼の作り上げた飴の方だ!彼の発明である時空間歪曲機の件はノアズでも有名だった。ここだけの話、職員の皆は、そんなの出来っこないとシードロヴァのことを半分馬鹿にしている。」
「そう、なんだ。まあタイムスリップだしね。」
「ああ。俺としては、彼がどんな研究もすんなりやり遂げてしまって生きる意味を失っているよりかは、無謀でも挑戦できることがあるのはいいことだと思っている。」
「じゃあイオリも出来ないと思ってるんだ。」
「……そうだとしても、彼のことを馬鹿にはしていない。俺は彼を尊敬している。シードロヴァは時空間歪曲機の他にも所長から与えられた難題な設計にも天才的に対応しているから、彼が何をしようと誰も何も言わない。だが、レモン飴の研究は少し……今まで彼が着手してきた研究とは違って、一線を超えている気がした。」
「確かに、ジャンルで言ったらSFじゃなくてホラーだもんね。」
「ああ……。」
と、またイオリが頭を抱えてしまった。
「心配してるの?シードロヴァのこと。」
「そう、だな。ノアズの為にしたと彼は言ったが、俺の悪い癖だ、相手の目の動き、咄嗟の微表情で、彼が嘘を言ったことが分かった。もしや彼はあれを、彼自身に使うのでは無いかと……そんなことはないか。勘ぐりすぎか。研究に対する意欲はあるのだから、まさか、人生を諦めようなんぞ。」
私はイオリの腕を掴んだ。不安げに揺れる彼の瞳が私を捉えた。イオリの予想はきっと正しいかもしれない。私には何が出来るだろう。
「私には何が出来るだろう?」
「お前、今考えたことをそのまま言ったな。」
「イオリは、相手の考えを読めるの?」
彼は照れたのか、目を逸らして答えた。
「……完全に読める訳ではない。微かなシグナルを読み取って、相手が肯定的なのか否定的なのか、或は楽しんでいるのか悲しんでいるのか、見立てを作るだけだ。大体当たるが。」
「じゃあサラが好きって言って嘘ついてるかも「分かるが今それを言うな!」
またベシッと叩かれた。イオリはジト目で私を見て、それからまた悩み始めた。
知ってたけどイオリは心優しい人だ。もっと早く会ってたら、私もイオリに影響されて優しく誠実で真っ当な人間になれてたかもしれない。
相手の気持ちが分かるのは便利だ。でも相手の本音が分かる分、気苦労も多いんだろう。真実を全て受け止めなければいけないのは、とても辛いことだ。彼はツンツンしてるように見えて、実は繊細で優しい。
明らかに私はイオリに恋している。それも彼にはお見通しなのかな。ちょっと恥ずかしい。
「何故、顔が赤い?」
「分かるくせに。」
「……知らん。はあ。」
「よし。」
ここは私が一肌脱ぐしかない。「何がよしだ」と突っ込んでいるイオリのシャツの袖を引っ張って、彼に聞いた。
「シードロヴァの研究室はどこ?」
「あんな魔境に行ってどうする?観光気分で写真でも撮るのか?はは。お土産に彼奴の無表情のマグネットでも欲しいところだな。はは。」
「いいからちょっと案内して!早く!」
「だから何故!?」
「分かるくせに!」
「そこまで分かりはしな……っておい!」
ぐいっと引っ張って、私はイオリを連れてドアの外に出た。それから小さい子どものように「早く、早く!」と駄々をこねると、イオリが困りながらも「少しだけ、見るだけだぞ?」と先導してくれた。
イオリのオフィスから真っ直ぐ歩いて一つ目の角を曲がると、今までの白い廊下の雰囲気が消えて、メタルに包まれた廊下が出現した。
壁には謎のモニターがあり、謎の波動が表示されている。天井を見ると、そこかしこに監視カメラと思われるものと、その隣にくっつくように小型タレットが設置されていた。
一瞬で私は苦笑いになった。イオリは立ち止まり、私を見た。
「ほらな……魔境だと言っただろ。所長でさえ、ここにはあまり来ない。下手に動いて、あのマシンガンロボットに撃たれたらどうする?」
「あれは味方を撃たない。さあ行こう。」
「お前……卑怯だぞ。」
「何が?」
「姿を消すな。」
そんなこと言っても私はゴーストだし、あのタレットが怖いので、一応姿は消させてもらう。私はイオリの手を引いて歩き始めた。案の定カメラが我々の動きを捉えている。気にせず歩いて一つの大きな扉の前に着くと、イオリが慌てた。
「ここまでにしておいた方がいい。さあ心置きなく写真を撮れ。」
「写真撮りたいから来たんじゃない。」
「じゃあ何をしにきた?彼に用があるならメールを送ればいいだろう。中に本人がいたらどうする?」
「もし本人がいたら、イオリが彼の注目を集めて囮になって。私はその間にするから。」
「するって何を……。」
私はイオリに近づいた。彼の頬をツンツンすると、それで私がコソコソ話をしたいのが分かったのか、彼が少し屈んで私の方に耳を向けた。私はその耳に言葉を放った。
「レモン飴を盗もう。」
「ばっ!?」
私を掴もうとするイオリの両手をバックステップで避けて、私はドア横にある暗証パネルに近づいた。
「ねえイオリ、この扉を開けられる?」
彼が小声で叫んだ。
「開けられるものか!それに何を盗むだって!?馬鹿めが!」
「だって盗んでしまえば彼は使えない。設計図も一緒に盗も。あ、そうか。」
「何を言ってる!?」とか「そもそもロックを解除するのは無理だ!」とか慌ただしいイオリを余所に、私はそっと手だけを透けさせて壁の向こう側からボタンを押して、ロックの解除をした。
簡単に開いた。これ……私、この能力すごいな。普通に使えるよ。
「う、そだろ……!」
イオリが放心状態になってる。
「開いた開いた、入ろう。そしてすぐ、盗る。」
迷わずに私はシードロヴァの研究室に入った。彼は別の場所にいるようで不在だった。広々としたメタリックな部屋に、様々な機械が骨組みのままで置いてあり、多数ある作業台には機械の塊とケーブルなどがごちゃっと置いてあった。
絶句して放心しているイオリを放っておいて、私はこの部屋とはミスマッチの木製の大きなデスクに近づいた。デスクの上にはノート型のPCが閉じられて置いてあるだけで、他には何も無かった。
設計図はこのPCの中にあるのかな?それだと盗るのは無理だ。じゃあレモン飴の現品だけでも盗もう。
「リア……盗ってどうするんだ?」
「シードロヴァが心配なんでしょ?」
「だからって。」
「そばにあれば、ふとした時に使っちゃうよ。量産出来ないって言ってたから、ここにあるレモン飴を全部盗れば使わない。」
「だが、窃盗は犯罪だ。」
「じゃあ私が盗る。」
「そう言う問題では……。」
イオリがガクッと肩を落としたので、今だと思った私は、デスクの一番広い引き出しを開けた。すると中には一枚の大きな紙に、何かの図式が書かれているものが入っていた。設計図?
よく見るとLEMON CANDYとタイトルが書いてあった。それを取ろうとしたら、引き出しにそのまま接着剤でべったりくっついているのか、取れなかった。何このギミック……どうしてPCに保存しなかったんだろう。
「昔から、変わったことをする男だ。」
いつの間にか隣に来ていたイオリが、光のない瞳で引き出しを見つめながら、呟いた。
「PCでさえも用心するに値すると思ったんだろうな。アナログが一番セキュリティが固い時があるって、以前言っていたのを思い出したよ。こうまでしている分、レモン飴の設計図で間違いなさそうだが、これでは盗むのは無理だ。」
「ああ、なるほどね……じゃあ設計図の写真撮って。」
「何故?」
「この発明は極秘っぽいし、写真撮っておいたら、色んな時に揺すぶりに使えるよ。」
「お前……呆れるぐらいに悪党だな。」
「でもそしたら、この設計図の写真を回収しない限り、彼は自分に使わないよ。」
「一理あるのが残念だ。一応取っておくか……まあ、そうだな。」
イオリはノアフォンでパシャっと撮影をした。その引き出しをしまうと、今度はサイドの引き出しを開けてみた。一段目には黄色い付箋の束が一つと、ケーブルがごちゃっとたくさん入っていた。
もっと整理整頓タイプかと思っていたが、親近感が湧いた。二段目も開けると今度は何かのパーツがぎっしり入っていた。書類は一つも無かった。きっとこのPCにデータを全部入れているのだろうと思った。
イオリが罪悪感で頭を抱えている間に、私は一番最後の大きな引き出しを開けようとした。しかし鍵がかかっている。ならばと私はさっきと同じように手を透かして、さっきと同じ原理で内側からロックを解除した。
中には一つだけ瓶が入っていた。手のひらサイズの瓶で、中には十個程、黄色い飴っぽいものが入っていた。紙ラベルがしてあり、それには達筆で『レモン』とだけ書いてあった。
「これだ!これ!」
私はそれをワンピースのポケットに入れて、引き出しを閉めて、鍵を元通りにした。
「それを一体どうするんだ……?あの男が激怒するのを、生まれて初めて体験出来そうだな。いや、元から彼奴は職員が仕事でミスすると容赦しないが、これはそれとは次元が違う行為だ。」
「でもこれでシードロヴァは守られた。さあ行こ。」
「俺は……賛成しない。」
「私がやったことだから私の責任でいいと思う。」
イオリの腕を掴んで、研究室から出た。ロックも元通りにして、足早に廊下を歩いた。イオリは力のない様子で私についてきながら、言った。
「確かにそれは、友人として取り上げたいと思っていた。でも何も、盗むだなんて……。」
「イオリは盗んでない。」
「はぁ……。」
イオリの革靴と私の黒いヒールがメタルな床でコツコツと音を立てていた。カメラがあったからきっと我々がやったってすぐにバレる。でもそしたら訳を話せば良いだけだと思った。
明らかに悩んでるっぽい。シードロヴァについてなんだろうけど、どう言うことでそんなに悩んでいるのか分からないので、試しに聞こうと思った。
「どうしたの?」
「……別に。」
「何それ。」
「いや……俺の勝手な妄想だ。」
うーん。言いたくないなら仕方ないけど、と私はイオリの隣に座った。するとイオリが口を開いた。
「初めて聞いたよ、レモン味の飴について。」
「え、レモン味の飴食べたことないの?」
「それは食べたことある!」とイオリが私の肩をべしんと叩いた。ちょっと痛かった。「……飴自体のことではない!彼の作り上げた飴の方だ!彼の発明である時空間歪曲機の件はノアズでも有名だった。ここだけの話、職員の皆は、そんなの出来っこないとシードロヴァのことを半分馬鹿にしている。」
「そう、なんだ。まあタイムスリップだしね。」
「ああ。俺としては、彼がどんな研究もすんなりやり遂げてしまって生きる意味を失っているよりかは、無謀でも挑戦できることがあるのはいいことだと思っている。」
「じゃあイオリも出来ないと思ってるんだ。」
「……そうだとしても、彼のことを馬鹿にはしていない。俺は彼を尊敬している。シードロヴァは時空間歪曲機の他にも所長から与えられた難題な設計にも天才的に対応しているから、彼が何をしようと誰も何も言わない。だが、レモン飴の研究は少し……今まで彼が着手してきた研究とは違って、一線を超えている気がした。」
「確かに、ジャンルで言ったらSFじゃなくてホラーだもんね。」
「ああ……。」
と、またイオリが頭を抱えてしまった。
「心配してるの?シードロヴァのこと。」
「そう、だな。ノアズの為にしたと彼は言ったが、俺の悪い癖だ、相手の目の動き、咄嗟の微表情で、彼が嘘を言ったことが分かった。もしや彼はあれを、彼自身に使うのでは無いかと……そんなことはないか。勘ぐりすぎか。研究に対する意欲はあるのだから、まさか、人生を諦めようなんぞ。」
私はイオリの腕を掴んだ。不安げに揺れる彼の瞳が私を捉えた。イオリの予想はきっと正しいかもしれない。私には何が出来るだろう。
「私には何が出来るだろう?」
「お前、今考えたことをそのまま言ったな。」
「イオリは、相手の考えを読めるの?」
彼は照れたのか、目を逸らして答えた。
「……完全に読める訳ではない。微かなシグナルを読み取って、相手が肯定的なのか否定的なのか、或は楽しんでいるのか悲しんでいるのか、見立てを作るだけだ。大体当たるが。」
「じゃあサラが好きって言って嘘ついてるかも「分かるが今それを言うな!」
またベシッと叩かれた。イオリはジト目で私を見て、それからまた悩み始めた。
知ってたけどイオリは心優しい人だ。もっと早く会ってたら、私もイオリに影響されて優しく誠実で真っ当な人間になれてたかもしれない。
相手の気持ちが分かるのは便利だ。でも相手の本音が分かる分、気苦労も多いんだろう。真実を全て受け止めなければいけないのは、とても辛いことだ。彼はツンツンしてるように見えて、実は繊細で優しい。
明らかに私はイオリに恋している。それも彼にはお見通しなのかな。ちょっと恥ずかしい。
「何故、顔が赤い?」
「分かるくせに。」
「……知らん。はあ。」
「よし。」
ここは私が一肌脱ぐしかない。「何がよしだ」と突っ込んでいるイオリのシャツの袖を引っ張って、彼に聞いた。
「シードロヴァの研究室はどこ?」
「あんな魔境に行ってどうする?観光気分で写真でも撮るのか?はは。お土産に彼奴の無表情のマグネットでも欲しいところだな。はは。」
「いいからちょっと案内して!早く!」
「だから何故!?」
「分かるくせに!」
「そこまで分かりはしな……っておい!」
ぐいっと引っ張って、私はイオリを連れてドアの外に出た。それから小さい子どものように「早く、早く!」と駄々をこねると、イオリが困りながらも「少しだけ、見るだけだぞ?」と先導してくれた。
イオリのオフィスから真っ直ぐ歩いて一つ目の角を曲がると、今までの白い廊下の雰囲気が消えて、メタルに包まれた廊下が出現した。
壁には謎のモニターがあり、謎の波動が表示されている。天井を見ると、そこかしこに監視カメラと思われるものと、その隣にくっつくように小型タレットが設置されていた。
一瞬で私は苦笑いになった。イオリは立ち止まり、私を見た。
「ほらな……魔境だと言っただろ。所長でさえ、ここにはあまり来ない。下手に動いて、あのマシンガンロボットに撃たれたらどうする?」
「あれは味方を撃たない。さあ行こう。」
「お前……卑怯だぞ。」
「何が?」
「姿を消すな。」
そんなこと言っても私はゴーストだし、あのタレットが怖いので、一応姿は消させてもらう。私はイオリの手を引いて歩き始めた。案の定カメラが我々の動きを捉えている。気にせず歩いて一つの大きな扉の前に着くと、イオリが慌てた。
「ここまでにしておいた方がいい。さあ心置きなく写真を撮れ。」
「写真撮りたいから来たんじゃない。」
「じゃあ何をしにきた?彼に用があるならメールを送ればいいだろう。中に本人がいたらどうする?」
「もし本人がいたら、イオリが彼の注目を集めて囮になって。私はその間にするから。」
「するって何を……。」
私はイオリに近づいた。彼の頬をツンツンすると、それで私がコソコソ話をしたいのが分かったのか、彼が少し屈んで私の方に耳を向けた。私はその耳に言葉を放った。
「レモン飴を盗もう。」
「ばっ!?」
私を掴もうとするイオリの両手をバックステップで避けて、私はドア横にある暗証パネルに近づいた。
「ねえイオリ、この扉を開けられる?」
彼が小声で叫んだ。
「開けられるものか!それに何を盗むだって!?馬鹿めが!」
「だって盗んでしまえば彼は使えない。設計図も一緒に盗も。あ、そうか。」
「何を言ってる!?」とか「そもそもロックを解除するのは無理だ!」とか慌ただしいイオリを余所に、私はそっと手だけを透けさせて壁の向こう側からボタンを押して、ロックの解除をした。
簡単に開いた。これ……私、この能力すごいな。普通に使えるよ。
「う、そだろ……!」
イオリが放心状態になってる。
「開いた開いた、入ろう。そしてすぐ、盗る。」
迷わずに私はシードロヴァの研究室に入った。彼は別の場所にいるようで不在だった。広々としたメタリックな部屋に、様々な機械が骨組みのままで置いてあり、多数ある作業台には機械の塊とケーブルなどがごちゃっと置いてあった。
絶句して放心しているイオリを放っておいて、私はこの部屋とはミスマッチの木製の大きなデスクに近づいた。デスクの上にはノート型のPCが閉じられて置いてあるだけで、他には何も無かった。
設計図はこのPCの中にあるのかな?それだと盗るのは無理だ。じゃあレモン飴の現品だけでも盗もう。
「リア……盗ってどうするんだ?」
「シードロヴァが心配なんでしょ?」
「だからって。」
「そばにあれば、ふとした時に使っちゃうよ。量産出来ないって言ってたから、ここにあるレモン飴を全部盗れば使わない。」
「だが、窃盗は犯罪だ。」
「じゃあ私が盗る。」
「そう言う問題では……。」
イオリがガクッと肩を落としたので、今だと思った私は、デスクの一番広い引き出しを開けた。すると中には一枚の大きな紙に、何かの図式が書かれているものが入っていた。設計図?
よく見るとLEMON CANDYとタイトルが書いてあった。それを取ろうとしたら、引き出しにそのまま接着剤でべったりくっついているのか、取れなかった。何このギミック……どうしてPCに保存しなかったんだろう。
「昔から、変わったことをする男だ。」
いつの間にか隣に来ていたイオリが、光のない瞳で引き出しを見つめながら、呟いた。
「PCでさえも用心するに値すると思ったんだろうな。アナログが一番セキュリティが固い時があるって、以前言っていたのを思い出したよ。こうまでしている分、レモン飴の設計図で間違いなさそうだが、これでは盗むのは無理だ。」
「ああ、なるほどね……じゃあ設計図の写真撮って。」
「何故?」
「この発明は極秘っぽいし、写真撮っておいたら、色んな時に揺すぶりに使えるよ。」
「お前……呆れるぐらいに悪党だな。」
「でもそしたら、この設計図の写真を回収しない限り、彼は自分に使わないよ。」
「一理あるのが残念だ。一応取っておくか……まあ、そうだな。」
イオリはノアフォンでパシャっと撮影をした。その引き出しをしまうと、今度はサイドの引き出しを開けてみた。一段目には黄色い付箋の束が一つと、ケーブルがごちゃっとたくさん入っていた。
もっと整理整頓タイプかと思っていたが、親近感が湧いた。二段目も開けると今度は何かのパーツがぎっしり入っていた。書類は一つも無かった。きっとこのPCにデータを全部入れているのだろうと思った。
イオリが罪悪感で頭を抱えている間に、私は一番最後の大きな引き出しを開けようとした。しかし鍵がかかっている。ならばと私はさっきと同じように手を透かして、さっきと同じ原理で内側からロックを解除した。
中には一つだけ瓶が入っていた。手のひらサイズの瓶で、中には十個程、黄色い飴っぽいものが入っていた。紙ラベルがしてあり、それには達筆で『レモン』とだけ書いてあった。
「これだ!これ!」
私はそれをワンピースのポケットに入れて、引き出しを閉めて、鍵を元通りにした。
「それを一体どうするんだ……?あの男が激怒するのを、生まれて初めて体験出来そうだな。いや、元から彼奴は職員が仕事でミスすると容赦しないが、これはそれとは次元が違う行為だ。」
「でもこれでシードロヴァは守られた。さあ行こ。」
「俺は……賛成しない。」
「私がやったことだから私の責任でいいと思う。」
イオリの腕を掴んで、研究室から出た。ロックも元通りにして、足早に廊下を歩いた。イオリは力のない様子で私についてきながら、言った。
「確かにそれは、友人として取り上げたいと思っていた。でも何も、盗むだなんて……。」
「イオリは盗んでない。」
「はぁ……。」
イオリの革靴と私の黒いヒールがメタルな床でコツコツと音を立てていた。カメラがあったからきっと我々がやったってすぐにバレる。でもそしたら訳を話せば良いだけだと思った。
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