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96 ボロボロのベッド
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イオリが私のことを離してくれない。トレーラーを今日はトロピカルバイス郊外の空き地に停めて、それからずっとくっついて過ごしている。
食事も、アーンと食べさせあった。スプーンで彼の作ったトマトスープを私に食べさせると、彼は微笑んだ後すぐに涙を流した。もう情緒が不安定である。
シャワー浴びる時も彼はドアを開けたまま浴びて、すごい話しかけてきた。医学院での思い出とか、小さい頃の兄弟の思い出とか。それから私のことも聞かれた。
でも私には施設の思い出しかない。周りに馴染めず、いつも一人で唯一自分の所持していたおもちゃ、プラスチックの望遠鏡で空を眺めていた。それを話すと、イオリはまた嗚咽を漏らして泣いた。
……ここまでくると私の思い出に心を揺さぶられたのか、もう残り少ないからなのか、分からない。今夜の彼は、見たことないぐらいに涙脆い。
そして今、一緒の布団に入ってる。ただじっとくっついて横になってるだけなのに、彼の肩が急にガクッと震える、と思ったら次第に彼がまた泣き始めるのだ。
「イオリ……泣きすぎ。」
「うるさい。」すごい鼻声だった。「お前は泣かないのか?ああ?俺と永久にもう会えないんだぞ?ああ?」
すごい喧嘩腰で言ってきた……何でよ。私は苦笑いした。
「それはとても寂しい。泣きたくなる。ねえイオリ、私はイオリに会えて、とても幸せだった。死んでからこんなに楽しい時間を過ごせるなんて、誰に、何に、感謝したらいいのか分からないぐらいに、幸せで混乱してる。」
「どああああ……。」
イオリがさらにギュッと抱きしめてきた。そして何度も私の頬にキスをしてくる。その度に鼻水がつく。
「アリシア、俺は諦めないと言った。ずっとお前が残れる方法を探してた。ネットで、それから電子書籍でも探して、古の魔術書も見た、ヴィノクールの黒魔術のお店に電話もした、でもいくら探しても、ゴーストをこの世界に結びつけさせる方法がない。ヤギが最後の砦だった。でも彼には無理だって俺には分かっていた。」
「そんなに調べてくれてたの、知らなかった……。」私もぽろっと泣いた。「ありがとうイオリ。でもどうして彼には無理だと思ったの?」
「……それは言えない。彼には方法が無かったんだ。そう出来たとしても、出来なかった。」
「何が?どの?何言ってんの?」
「俺は、きっとアリシアを……もう幸せにするしか、方法がない。なあ、吊るしたり、縛るのはやめよう。もっと愛を感じたい。」
「どうして?あれ好きなのに。ご褒美が欲しいよ。」
「……ではさせてもらう、うあああああ!」
耳元でうるさかった。でもちょっと笑った。その時に、雫がぽろっと私の頬を滑り落ちた。
彼と一緒にいられる時間は残り少ない。ふと、ボードン邸で耳にしたことを、彼に話そうと思った。
「イオリ、私ね、レイヴとボードンの屋敷に行った時に、二人で隠れてたの。その時に偶然……ラズベリーとハロルド・ボードンの会話を聞いてしまった。」
「そう、なのか……一体、どんな会話?」
「ハロルドはラズベリーに注意してた。屋敷に誰か連れ込んだだろって。でも一番心配してたのはシードロヴァとの結婚のことだった。破談になったらどうするんだって。」
「それはそうだろうな、いくらボードン財閥でも手に入らないものがある。それが権力だ。ノアズはこの世界を作った。ニコライ所長がこの世界の最高権力者、二番目はシードロヴァ博士だ。ラズベリーは大事な楔なんだろう。」
「うん。あとね、これも話しておく。あと少ししたら、FOCがニコライをやるように仕掛ける。その後で、ボードンがシードロヴァを片付けるって。」
「……そうか、シードロヴァ、可哀想に。いて。」
私はコツンとイオリの頬を叩いた。彼は私の手を握ってしまった。
「そしたらラズベリーがこの世界の最高権力者になっちゃう。ハロルドはこの世のキングはそれなりの技術力がないとなれないけど、ボードンがノアズを飲み込んだら簡単だって。それでね、」
「……ああ。」
「FOCがニコライをやるって、どうして知ってると思う?」
「内通者か?」
「そう。」
「バリーか?」
「え……。」
私はイオリを見た。彼は鼻の先を真っ赤にして、目もグジュグジュにして私を見つめていた。鋭いこと言っておきながらその顔……。
「どうして分かったの?ってか、知ってたの?」
「最初、ホテルのあの部屋でバリーと会った時、やはり彼は粗暴な性格なのだと見受けた。その時はその性格もあり、俺はバリーがアリシアを羞恥を与えた償いとして撃ったのだと思っていた。しかし後日、オリオン様の部屋で、バリーと再会した。三人で話している時に、彼は度々オリオン様に独特な視線を向けた。挑発的であり、見下しているような視線だ。」
「そ、う、なの……。」
「その時、俺はバリーが近々裏切るつもりなのではないかと思った。ああやって大胆に視線を向けるあたり、バリーが心を開いている組織はFOCと同じぐらいに大きいものだ。俺のよく知っているノアズは選択肢から外れるから、残るはボードン。そして……。」
「そこまで知ってたのによく黙ってたね……。」
「知っていた訳ではない。単なる予想だ。バリーはボードンと繋がっている。俺はアリシアが撃たれたのはタトゥーを見たからだと知っていたから、そのタトゥーに知られたくないボードンの手がかりがあるのだと理解した。となると、バリーは射殺を命じられた可能性が高い。本当の雇い主、ハロルドに。ということは、撃ったのはバリーで彼も許せないが、本当の敵はハロルドということになる。」
「なんで……」私はめいいっぱい息を吸ってから叫んだ。「なんでなんでなんで!?なんでいつも真実を知っていても言わないの!?サラの時だって、バリーとボードンの時だって!」
「悪い意味ではないけれど、アリシアは正直だ。バリーが勘付いたら彼を泳がせられないと思った。本当の目的が知りたかった。」
「違ううう!」と私はイオリの上に跨って、彼の首をしめた。彼は「ぬぐぐぐぐ!」と苦しむ声をあげている。
「言ってよ!どうしていつも一人で真実を背負うの!?どうして私を信じてくれないの!?皆じゃなくても、私には言ってよ!」
「は、離せ……!」
私は言われた通りに離した。
「ハアハア、ああ、苦しかった……。アリシアのことを信じていない訳ではない。それに時間が惜しかった。お前と一緒にいる時間は残り少ないのに、組織にそれを奪われたくない。バリーが動くのにはまだ猶予があると考えた。だから、アリシアがいなくなってしまったら、その後で動こうと思った。その後で俺がハロルドを……。でも今は、お前と少しでも一緒に、楽しく居たいから、言えなかった。」
私はポロポロ涙を流した。彼もまた、涙を流していた。
「だから言わなかったんだ。だから最近、いつも上の空だったの?」
「……それはまた違う理由がある。」
ええええええ……。
食事も、アーンと食べさせあった。スプーンで彼の作ったトマトスープを私に食べさせると、彼は微笑んだ後すぐに涙を流した。もう情緒が不安定である。
シャワー浴びる時も彼はドアを開けたまま浴びて、すごい話しかけてきた。医学院での思い出とか、小さい頃の兄弟の思い出とか。それから私のことも聞かれた。
でも私には施設の思い出しかない。周りに馴染めず、いつも一人で唯一自分の所持していたおもちゃ、プラスチックの望遠鏡で空を眺めていた。それを話すと、イオリはまた嗚咽を漏らして泣いた。
……ここまでくると私の思い出に心を揺さぶられたのか、もう残り少ないからなのか、分からない。今夜の彼は、見たことないぐらいに涙脆い。
そして今、一緒の布団に入ってる。ただじっとくっついて横になってるだけなのに、彼の肩が急にガクッと震える、と思ったら次第に彼がまた泣き始めるのだ。
「イオリ……泣きすぎ。」
「うるさい。」すごい鼻声だった。「お前は泣かないのか?ああ?俺と永久にもう会えないんだぞ?ああ?」
すごい喧嘩腰で言ってきた……何でよ。私は苦笑いした。
「それはとても寂しい。泣きたくなる。ねえイオリ、私はイオリに会えて、とても幸せだった。死んでからこんなに楽しい時間を過ごせるなんて、誰に、何に、感謝したらいいのか分からないぐらいに、幸せで混乱してる。」
「どああああ……。」
イオリがさらにギュッと抱きしめてきた。そして何度も私の頬にキスをしてくる。その度に鼻水がつく。
「アリシア、俺は諦めないと言った。ずっとお前が残れる方法を探してた。ネットで、それから電子書籍でも探して、古の魔術書も見た、ヴィノクールの黒魔術のお店に電話もした、でもいくら探しても、ゴーストをこの世界に結びつけさせる方法がない。ヤギが最後の砦だった。でも彼には無理だって俺には分かっていた。」
「そんなに調べてくれてたの、知らなかった……。」私もぽろっと泣いた。「ありがとうイオリ。でもどうして彼には無理だと思ったの?」
「……それは言えない。彼には方法が無かったんだ。そう出来たとしても、出来なかった。」
「何が?どの?何言ってんの?」
「俺は、きっとアリシアを……もう幸せにするしか、方法がない。なあ、吊るしたり、縛るのはやめよう。もっと愛を感じたい。」
「どうして?あれ好きなのに。ご褒美が欲しいよ。」
「……ではさせてもらう、うあああああ!」
耳元でうるさかった。でもちょっと笑った。その時に、雫がぽろっと私の頬を滑り落ちた。
彼と一緒にいられる時間は残り少ない。ふと、ボードン邸で耳にしたことを、彼に話そうと思った。
「イオリ、私ね、レイヴとボードンの屋敷に行った時に、二人で隠れてたの。その時に偶然……ラズベリーとハロルド・ボードンの会話を聞いてしまった。」
「そう、なのか……一体、どんな会話?」
「ハロルドはラズベリーに注意してた。屋敷に誰か連れ込んだだろって。でも一番心配してたのはシードロヴァとの結婚のことだった。破談になったらどうするんだって。」
「それはそうだろうな、いくらボードン財閥でも手に入らないものがある。それが権力だ。ノアズはこの世界を作った。ニコライ所長がこの世界の最高権力者、二番目はシードロヴァ博士だ。ラズベリーは大事な楔なんだろう。」
「うん。あとね、これも話しておく。あと少ししたら、FOCがニコライをやるように仕掛ける。その後で、ボードンがシードロヴァを片付けるって。」
「……そうか、シードロヴァ、可哀想に。いて。」
私はコツンとイオリの頬を叩いた。彼は私の手を握ってしまった。
「そしたらラズベリーがこの世界の最高権力者になっちゃう。ハロルドはこの世のキングはそれなりの技術力がないとなれないけど、ボードンがノアズを飲み込んだら簡単だって。それでね、」
「……ああ。」
「FOCがニコライをやるって、どうして知ってると思う?」
「内通者か?」
「そう。」
「バリーか?」
「え……。」
私はイオリを見た。彼は鼻の先を真っ赤にして、目もグジュグジュにして私を見つめていた。鋭いこと言っておきながらその顔……。
「どうして分かったの?ってか、知ってたの?」
「最初、ホテルのあの部屋でバリーと会った時、やはり彼は粗暴な性格なのだと見受けた。その時はその性格もあり、俺はバリーがアリシアを羞恥を与えた償いとして撃ったのだと思っていた。しかし後日、オリオン様の部屋で、バリーと再会した。三人で話している時に、彼は度々オリオン様に独特な視線を向けた。挑発的であり、見下しているような視線だ。」
「そ、う、なの……。」
「その時、俺はバリーが近々裏切るつもりなのではないかと思った。ああやって大胆に視線を向けるあたり、バリーが心を開いている組織はFOCと同じぐらいに大きいものだ。俺のよく知っているノアズは選択肢から外れるから、残るはボードン。そして……。」
「そこまで知ってたのによく黙ってたね……。」
「知っていた訳ではない。単なる予想だ。バリーはボードンと繋がっている。俺はアリシアが撃たれたのはタトゥーを見たからだと知っていたから、そのタトゥーに知られたくないボードンの手がかりがあるのだと理解した。となると、バリーは射殺を命じられた可能性が高い。本当の雇い主、ハロルドに。ということは、撃ったのはバリーで彼も許せないが、本当の敵はハロルドということになる。」
「なんで……」私はめいいっぱい息を吸ってから叫んだ。「なんでなんでなんで!?なんでいつも真実を知っていても言わないの!?サラの時だって、バリーとボードンの時だって!」
「悪い意味ではないけれど、アリシアは正直だ。バリーが勘付いたら彼を泳がせられないと思った。本当の目的が知りたかった。」
「違ううう!」と私はイオリの上に跨って、彼の首をしめた。彼は「ぬぐぐぐぐ!」と苦しむ声をあげている。
「言ってよ!どうしていつも一人で真実を背負うの!?どうして私を信じてくれないの!?皆じゃなくても、私には言ってよ!」
「は、離せ……!」
私は言われた通りに離した。
「ハアハア、ああ、苦しかった……。アリシアのことを信じていない訳ではない。それに時間が惜しかった。お前と一緒にいる時間は残り少ないのに、組織にそれを奪われたくない。バリーが動くのにはまだ猶予があると考えた。だから、アリシアがいなくなってしまったら、その後で動こうと思った。その後で俺がハロルドを……。でも今は、お前と少しでも一緒に、楽しく居たいから、言えなかった。」
私はポロポロ涙を流した。彼もまた、涙を流していた。
「だから言わなかったんだ。だから最近、いつも上の空だったの?」
「……それはまた違う理由がある。」
ええええええ……。
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