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117 終わりの始まり
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動かなくなった彼のことを、私はずっと抱きしめている。レイヴがサラに何かをずっと叫んだ。サラもその場にしゃがんで、叫んで泣いた。
イオリの防弾チョッキから、血が溢れていて、とても憎かった。防弾してくれていない。彼が目を開けたままだったことに気づいて、私は彼の目をそっと閉じさせた。
「イオリ!?」
声がしたので振り返ると、グリーンのペンキ缶の山の陰からイルザ様が現れた。レイヴも振り返って、泣いた目をゴシっとこすってから、彼女に言った。
「今危ないですから!ちょっと隠れてて!」
「私は、いけないことをしました。作動させていないのです、イオリ、撃たれたのですか?」
「ああ、あいつに。」
レイヴがサラを指差した時に、サラの方から声が聞こえた。
「わたくしがイオリを消し去ろうかと思っておりましたのに。」
サラの方を見ると、彼女の背後にラズベリーがいた。何があったのか、彼女は左腕を負傷していて、包帯がぐるぐると巻かれていた。
しかし残った右手には金色の銃が握られていた。他にボードン兵はいない。包帯の他は綺麗なままのラズベリーと、メイクも服も髪もぐちゃぐちゃなサラが、変にアンバランスだった。
でも、何をしても、彼はもういない。私とそういう事だってしたから、ゴーストにもなることが出来ない。
私は体を起こして、ぐったりと眠っている彼の頭を自分の太腿にのせた。口や鼻から血の跡が続いている。銃弾は、防弾チョッキの真ん中のところに穴を開けていた。
脈を触った。でもダメだった。悲しみのどん底にいるけれど、目の前を見ると、イルザ様を狙うラズベリーとサラ、イルザを守ろうと両手を広げて盾になっているレイヴがいた。
レイヴは叫んだ。
「まずいな、二人同時かよ!まずい!ダニー……無理か、銃がないから……ああ、ああ!両方同時には撃てねえし、こうするしかない!」
レイヴが必死こいて盾になっているのに、イルザ様は彼の後ろで何やらノアフォンを操作しては首を傾げて、おでこを人差し指でかいて、なんか退屈そうにしていた。
……何が起こってるのかもう分からない。でももう気力もない。でもレイヴの為に、頑張らないと。
立ち上がろうとした時だった。何かが引っかかって私は立てなかった。イオリの手が、私の背中の服を握っていて、そのまま固まっていた。まだ、守り足りないの?私は、ポロポロ泣いた。彼の指を一つづつ、外した。
サラが一度ラズベリーを見た。そしてレイヴに叫んだ。
「そこをどいて!さもないと!」
レイヴも叫んだ。
「無理だね!俺はあの兄貴の弟、ユウリ・アルバレスだ!兄貴が守りたかったものを、俺だって守らなきゃならねえ!俺はもう死ぬのは怖くねえんだよばーか!」
「……。」
サラはレイヴをじっと睨んでから、彼に向けて引き金に力を入れた。しかしその時に、レイヴに銃を向けていたラズベリーが、突然サラに銃を向けて、彼女のことを撃った。
彼女は叫んで倒れた。銃は太腿に当たったようで、彼女はそこを押さえて、痛みに呻いている。
「ラズベリー……何してんの。」
レイヴが言った。ラズベリーはそれには何も答えずに、もっとサラの方に近づいていき、彼女が床に落とした銃を遠くへ蹴った。
そして彼女の頭に銃を向けた。サラは「やめて」と小さく叫んだ。でもラズベリーは何も答えずに、引き金を引こうとした。
銃声が響いた。レイヴの方からだった。そしてラズベリーが手を押さえて、銃を落とした。レイヴの撃った銃弾は、ラズベリーの拳銃に当たっていた。
銃を落としたラズベリーは何かを考え込んで、じっと地面を見つめて立ち尽くした。サラが彼女が落とした銃を拾おうとしたが、彼女の背後から飛びついたダニーによって、拘束された。
「やべえ、今のはヤバかった……見てたか兄ちゃん。俺、今までで一番凄かったんだけど。」
レイヴがその場でそう呟いた。イオリも今の言葉を聞いていただろう。でもイオリは私の膝枕で、静かにぐっすりと寝ていて、何も答えなかった。
「カタリーナ、」とレイヴの背後から出たイルザ様が話しかけた。「もう全てが終わりました。意味がわかりますか?」
「……ええ、存じ上げておりますの。わたくしは、ノアズに行くのね、それも一生。」
「はい。しかしあなたはもう、シードロヴァを名乗れません。」
ラズベリーがイルザ様を見た。「何故、ですの?」と彼女に聞いた。その時に、倉庫の入り口の方から、フォレスト大佐と衛兵が多数入ってきた。彼らは我々を発見すると、近くで歩みを止めた。
彼らを横目で見たラズベリーは、降参する意味なのか、両手をあげた。イルザ様は彼女に答えた。
「実は兄が遺書を残していました。あなたは財産を凍結されており、兄の残した遺産は、私に相続させておりました。よってこの戦い、兄の資金も流れていますね。あなたは不当に、私の金銭を受領したことになります。ノアズが兄の遺言を隠していた事、それは謝罪します。しかし今回の出来事、優秀な捜査官の殉職も含め、私は憤りを隠せません。兄が、何をあなたに求めているか、何が起きているのか、今ならお分かりですね?分からない場合は役所に行けば真実が明るみに出るかと。」
「何故、それを秘密にしていたのかしら。」
ラズベリーはイルザ様を睨んだ。彼女は答えた。
「それも兄の遺言の一部でした。隠すことも、彼の意志だったのです。」
「……私は、何もかもを失ったのかしら。あの家も、アートも、全て。」
「その中に、兄は含まれておりますか?」
ラズベリーは嘲笑した。
「含まれている訳ないじゃない。あんな異常者。そんなことよりも、私はどうか、レイヴとあなたをサラから救ったのだから、今まで通りの権力は与えて欲しいのですけれど。」
「今まで通りという訳には参りません。兄の言うことは絶対です。後ほど、ゆっくりと話をしましょう。さあ彼女を捕まえてください。」
「はっ」
フォレスト大佐がラズベリーに手錠をかけた。その時に、大佐がチラッと私の方を見た。それから大佐が私の膝枕で寝ているイオリを見て、辛そうな顔をしたまま、ラズベリーを連れて行った。
サラも衛兵に抵抗を与えながらも、連れて行かれた。レイヴがその場にすとんと座った。
「なんかさー、一瞬だよな、人生って。」
「そうでしょうか。」イルザがまたノアフォンを操作し始めた。「私はそうだとは思いません。」
「なんで?」
レイヴがそう聞くと、他の衛兵が「イルザ様に向かって、なんて口の利き方だ」とレイヴに注意した。しかしイルザ様が「構いません。」と言った。彼女は、私の目の前へと歩いてきた。
イオリの防弾チョッキから、血が溢れていて、とても憎かった。防弾してくれていない。彼が目を開けたままだったことに気づいて、私は彼の目をそっと閉じさせた。
「イオリ!?」
声がしたので振り返ると、グリーンのペンキ缶の山の陰からイルザ様が現れた。レイヴも振り返って、泣いた目をゴシっとこすってから、彼女に言った。
「今危ないですから!ちょっと隠れてて!」
「私は、いけないことをしました。作動させていないのです、イオリ、撃たれたのですか?」
「ああ、あいつに。」
レイヴがサラを指差した時に、サラの方から声が聞こえた。
「わたくしがイオリを消し去ろうかと思っておりましたのに。」
サラの方を見ると、彼女の背後にラズベリーがいた。何があったのか、彼女は左腕を負傷していて、包帯がぐるぐると巻かれていた。
しかし残った右手には金色の銃が握られていた。他にボードン兵はいない。包帯の他は綺麗なままのラズベリーと、メイクも服も髪もぐちゃぐちゃなサラが、変にアンバランスだった。
でも、何をしても、彼はもういない。私とそういう事だってしたから、ゴーストにもなることが出来ない。
私は体を起こして、ぐったりと眠っている彼の頭を自分の太腿にのせた。口や鼻から血の跡が続いている。銃弾は、防弾チョッキの真ん中のところに穴を開けていた。
脈を触った。でもダメだった。悲しみのどん底にいるけれど、目の前を見ると、イルザ様を狙うラズベリーとサラ、イルザを守ろうと両手を広げて盾になっているレイヴがいた。
レイヴは叫んだ。
「まずいな、二人同時かよ!まずい!ダニー……無理か、銃がないから……ああ、ああ!両方同時には撃てねえし、こうするしかない!」
レイヴが必死こいて盾になっているのに、イルザ様は彼の後ろで何やらノアフォンを操作しては首を傾げて、おでこを人差し指でかいて、なんか退屈そうにしていた。
……何が起こってるのかもう分からない。でももう気力もない。でもレイヴの為に、頑張らないと。
立ち上がろうとした時だった。何かが引っかかって私は立てなかった。イオリの手が、私の背中の服を握っていて、そのまま固まっていた。まだ、守り足りないの?私は、ポロポロ泣いた。彼の指を一つづつ、外した。
サラが一度ラズベリーを見た。そしてレイヴに叫んだ。
「そこをどいて!さもないと!」
レイヴも叫んだ。
「無理だね!俺はあの兄貴の弟、ユウリ・アルバレスだ!兄貴が守りたかったものを、俺だって守らなきゃならねえ!俺はもう死ぬのは怖くねえんだよばーか!」
「……。」
サラはレイヴをじっと睨んでから、彼に向けて引き金に力を入れた。しかしその時に、レイヴに銃を向けていたラズベリーが、突然サラに銃を向けて、彼女のことを撃った。
彼女は叫んで倒れた。銃は太腿に当たったようで、彼女はそこを押さえて、痛みに呻いている。
「ラズベリー……何してんの。」
レイヴが言った。ラズベリーはそれには何も答えずに、もっとサラの方に近づいていき、彼女が床に落とした銃を遠くへ蹴った。
そして彼女の頭に銃を向けた。サラは「やめて」と小さく叫んだ。でもラズベリーは何も答えずに、引き金を引こうとした。
銃声が響いた。レイヴの方からだった。そしてラズベリーが手を押さえて、銃を落とした。レイヴの撃った銃弾は、ラズベリーの拳銃に当たっていた。
銃を落としたラズベリーは何かを考え込んで、じっと地面を見つめて立ち尽くした。サラが彼女が落とした銃を拾おうとしたが、彼女の背後から飛びついたダニーによって、拘束された。
「やべえ、今のはヤバかった……見てたか兄ちゃん。俺、今までで一番凄かったんだけど。」
レイヴがその場でそう呟いた。イオリも今の言葉を聞いていただろう。でもイオリは私の膝枕で、静かにぐっすりと寝ていて、何も答えなかった。
「カタリーナ、」とレイヴの背後から出たイルザ様が話しかけた。「もう全てが終わりました。意味がわかりますか?」
「……ええ、存じ上げておりますの。わたくしは、ノアズに行くのね、それも一生。」
「はい。しかしあなたはもう、シードロヴァを名乗れません。」
ラズベリーがイルザ様を見た。「何故、ですの?」と彼女に聞いた。その時に、倉庫の入り口の方から、フォレスト大佐と衛兵が多数入ってきた。彼らは我々を発見すると、近くで歩みを止めた。
彼らを横目で見たラズベリーは、降参する意味なのか、両手をあげた。イルザ様は彼女に答えた。
「実は兄が遺書を残していました。あなたは財産を凍結されており、兄の残した遺産は、私に相続させておりました。よってこの戦い、兄の資金も流れていますね。あなたは不当に、私の金銭を受領したことになります。ノアズが兄の遺言を隠していた事、それは謝罪します。しかし今回の出来事、優秀な捜査官の殉職も含め、私は憤りを隠せません。兄が、何をあなたに求めているか、何が起きているのか、今ならお分かりですね?分からない場合は役所に行けば真実が明るみに出るかと。」
「何故、それを秘密にしていたのかしら。」
ラズベリーはイルザ様を睨んだ。彼女は答えた。
「それも兄の遺言の一部でした。隠すことも、彼の意志だったのです。」
「……私は、何もかもを失ったのかしら。あの家も、アートも、全て。」
「その中に、兄は含まれておりますか?」
ラズベリーは嘲笑した。
「含まれている訳ないじゃない。あんな異常者。そんなことよりも、私はどうか、レイヴとあなたをサラから救ったのだから、今まで通りの権力は与えて欲しいのですけれど。」
「今まで通りという訳には参りません。兄の言うことは絶対です。後ほど、ゆっくりと話をしましょう。さあ彼女を捕まえてください。」
「はっ」
フォレスト大佐がラズベリーに手錠をかけた。その時に、大佐がチラッと私の方を見た。それから大佐が私の膝枕で寝ているイオリを見て、辛そうな顔をしたまま、ラズベリーを連れて行った。
サラも衛兵に抵抗を与えながらも、連れて行かれた。レイヴがその場にすとんと座った。
「なんかさー、一瞬だよな、人生って。」
「そうでしょうか。」イルザがまたノアフォンを操作し始めた。「私はそうだとは思いません。」
「なんで?」
レイヴがそう聞くと、他の衛兵が「イルザ様に向かって、なんて口の利き方だ」とレイヴに注意した。しかしイルザ様が「構いません。」と言った。彼女は、私の目の前へと歩いてきた。
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