冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

文字の大きさ
10 / 57

10.ひとはそれを寵愛と呼ぶ

しおりを挟む
 その日、俺とクラメンは、朝早くから大聖堂を目指してひっそりと歩きだした。今日が開放日だからか、兵士達とすれ違ってもとめられることもなく、俺達は大聖堂前まで楽に来れたよ。
 
 計算外だったのは、城の中の移動距離が長いこと。自分の宮殿から大聖堂まで来るのに、30分は歩いてるんじゃないか?ーーここ時間が曖昧な時計しかないから正確とは言えないけどさ。

「広いな……」
 フリーギドゥム城の豪華な装飾や、気品ある内装に見惚れている暇はない。だけど、修学旅行とかで見学に来たいレベルの建築物だよ。なんでこんなに立派な建物が、クレーン車も油圧ショベルもないのに建つんだろ?

「お疲れでございますか?」
 元気だよ、でも、女装には疲れている。下が頼りない、っていうのかな……、足にスカートがまとわりつくのも嫌だしさ。
「大丈夫だよ……。うわぁーー」

 すごいーー……。

 クラメンが荘厳というだけあって、震えてくるほどすごい建物だ。天井なんか、トーキョードームの天井より高いんじゃないか?アーチになってる天井を支える円柱といい、壁一面に広がるステンドグラスといい、ここが特別だということが、ありありとわかる神秘的な別空間だ。

 ーーなんていうか、ーー神様がいるんだな……、って場所だ。

「セラフィナ様?」
 黙ってしまった俺を見て、クラメンが声をかけてきた。ああ、お祈りをするんだよな。俺は心配ないよ、とクラメンに頷いて見せた。

 上段に行くことができるのは皇帝と皇妃だけらしく、妃候補や貴族はその一段さがったところまでだって。
 壁にかけられた神様は、想像通りイエス・キリストじゃなかった。漫画で見るような竜みたいな生き物の彫刻だ。

「ーーこの国の神、雪竜様です。フリーギドゥム王族の祖先だと言われております」
 ん?それって……、皇帝はひとじゃないのか?人間離れしたイケメンだとは思ったけど、なるほどだ。

 
 ーーしかし、ヤバいな、この威厳ってやつかな?それがぐっと伝わってくるよーー、これを造ったひとは神様への畏敬の念とか、信仰心が厚かったんだろうな……。



 ふと、遠くのほうから、規則正しい靴音が響いてきた。それも複数だ。
「ーーーセラフィナ様、頭をお下げください」
 急にクラメンの声が低くなる。緊張しているのか?


「………!」
 待てよ……、ーー身代わりとはいえ俺は妃候補だ。それが頭を下げる相手なんてーー……。

 あっ、と気づいた瞬間だった。室内の空気が一気に冷えてくる。ちらっと顔をあげると、皇帝と目が合ってしまった。うぎゃあーー、だよ!
「ーーー」
 大聖堂に衛兵達の靴音が、乱れることなく鳴り響いた。しゃべっていた国民達も、一斉に動きをとめて頭をさげる。

 その中、俺は動揺を抑えるのに必死だった。ーー皇帝は何かを勘づいたのか?たまたま同じ時間になっただけかーー?もしかして、ロウバイ宮殿に見張りをつけられているのなら、俺達が出るのを知らされた……?

 ーーヤバい、絶対にマークされてるよ。あーー、俺の命乞いに意味があるかなーー?

「ーー皇帝陛下のお姿を拝謁できるなんて………」
「ーー今日はすごい日だな……」
 後ろから声が聞こえた。やっぱり普段は来ないんだ……。


「ーーセラフィナ」
「!」
 おい!直球かよ!ま、まさか大聖堂でばっさり斬られないだろうなーー……。こうなったら、ーーこうなったらーー!

「……」
 俺は顔をあげてにっこりと笑った。絶対に口の端がぷるぷる震えてるだろうな。そして、自分から皇帝に近づいて上段の前で止まり、クラメンに教えてもらったお辞儀を披露する。

「………」
 うわっ、めっちゃ見てくるし!あんたと違って平凡な顔だよ、面白くもないだろーー?マズイなーー、変な動きはできないぞ、う~ん。ーーよし、ーー本当に俺に好意があるなら、この方法を使ってやる!


「ーーどうした?」
 俺は自分を指差した。それを見て、皇帝が優美に口を開く(何やってもイケメンなヤツだな、口開けただけなのに)。それから、その指を皇帝に向ける。
 
 まるで、皇帝を指差すような仕草に、衛兵達がざわざわしだした。特に横目に見えるカメリアの表情が、鬼のようになってしまってるよ。

「………」
 だけど、俺はその人差し指を、そのまま大聖堂の入り口へと向ける。ーーこれで伝わらないなら次はーー……。

「外に行きたいのか?」
 切れ長の目を細めて、皇帝が言った。
「!」
 ナイスだ、皇帝!その通りだよーー!
 俺がしっかりと頷くと、衛兵達のざわざわがピークになる。なんでだよ、嫁が旦那を外出に誘って何の問題があるんだよな?

「いいだろう」
 皇帝が俺を促すように腕を動かす。
「護衛は数人でよい」
「陛下!妃候補は外にはーー!」
「よい」
 悲鳴のような声をだしたカメリアを気にせずに、皇帝がゆっくりと歩きだした。おっと、待ってくれよーー!


 ぎゅっ。

「………」
 俺は皇帝の肘に腕を通して、しっかりと腕をつかんだ。ーーなぜかって?ーーそれは胸にパッドをいれているから、ちょっとでも俺を女だと思ってもらえるようにだよ!

 ほら、どうだ!ぎゅっ!ぎゅっ!と腕に当たってるだろ?(そんなたいしたパッドじゃありませんよ。byクラメン)、俺は完全に女だぁーー!!

 


 ざわざわざわ…………。

 なんか、外野が騒がしいぜーー。皇帝も男なんだから、腕ぐらい組むはずだ。俺の前に嫁が3人もいるんだしさ。ーーうん、振りはらわれないから大丈夫ってことだよな。


 ふわっ。

「!」
 大聖堂の門をくぐると、俺の肩に黒いマントがかけられた。あれーー、自分のマントを俺にもかけてくれるなんて、紳士なヤツだなーー。

 うすうす感じてはいたけど、やっぱりこの国って寒いから、出かけるときに防寒着をもってこないといけないみたいだ。


「何を見たい?」
 聞かれてもわかんねえよ。逆にここからの見どころはなんなんだよーー?、と目をパタパタさせながら首をかしげた俺に皇帝が言った。

「ーーユニコーンの仔を見たくないか?」
「?」
 ん?ユニコーン……?なんだっけ、それは?ガ◯ダムかな?

 よくわからないけど、俺は首を縦に振る。問題はそれがどこにあるかなんだけどさーー。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
※未完 4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者

ひとりも、ふたりも

鈴川真白
BL
ひとりで落ち着く時間も、ふたりでいる楽しい時間も両方ほしい 1人を謳歌するマイペース × 1人になりたいエセ陽キャ

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。校正も自力です!(笑)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

白熊皇帝と伝説の妃

沖田弥子
BL
調理師の結羽は失職してしまい、途方に暮れて家へ帰宅する途中、車に轢かれそうになった子犬を救う。意識が戻るとそこは見知らぬ豪奢な寝台。現れた美貌の皇帝、レオニートにここはアスカロノヴァ皇国で、結羽は伝説の妃だと告げられる。けれど、伝説の妃が携えているはずの氷の花を結羽は持っていなかった。怪我の治療のためアスカロノヴァ皇国に滞在することになった結羽は、神獣の血を受け継ぐ白熊一族であるレオニートと心を通わせていくが……。◆第19回角川ルビー小説大賞・最終選考作品。本文は投稿時のまま掲載しています。

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...