冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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17.最初からバレていたそうだ。

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 ぶぅ~~~、ぷんっ。

「ーーいつからバレてたんだよ」
 俺がふてくされて頬をふくらますと、皇帝は身を起こしてシャツの乱れを整えた。
「見た瞬間にわかった」
「ウソだろ~~~!なんでそこで殺さなかったんだ!」
「殺すーー?なぜ、私がそんな面倒なことを?」
 ひとを殺すことを面倒だとはーー、このひと、発言がおかしいことには無自覚なのか?


 ーーしかし、最初からバレていたなんて、ーーまあ、たしかに無理があったよな……。

「ヘレナとルーシェも疑っているようだ」
「誰だそれ?」
「ミルトニアの乙女とユリの乙女だ」
「ああ、あんたの嫁か」
 皇帝の左側にいたきれいな姉ちゃん達か。
「嫁じゃない」
「嫁候補なんだろ?」
「望んでいない」
 うん、そんなこと俺には関係ないけどな。ほんと、どうでもいい。

「なんで姫様に疑われたんだろ?」
「顔は愛らしい顔をしている」
 俺の顎をつかんで、感心するように皇帝が言った。うるせーー、どうせなよっちいカマ顔だよ。
「だが、いつまでも服をこちらのものに変えないからな。首を隠さなければならない理由があるのかと話をしていた」
「あーー、賢いね」
 みんなわかってるけどツッコめない状態って、くっそ恥ずかしいぜ。かといって、あんな身体にピッタリしたドレスが着れるわけないしさ。

「ーーさて、おまえのことを尋ねてもよいか?」
「ん?ああ、俺は唐梅月璃」
「カラウメツキリ?」
「月璃が名前。たぶんすっごい遠いところからきた」
 俺自身よくわかってないけど、そういうことだ。

「たぶん?」
「気がついたらロウバイ宮殿にいたんだよ。セチアっておじさんが、魔犬に襲われそうになっていた俺を助けてくれたそうなんで、恩返しをしてるんだ」
「義理堅い奴だ」
「自分でもそう思うよ。それにしても、殺さないなら早く言ってほしかった」
「必死なのが面白くてな」
「………」
 最悪だぜ。

「魔犬と言ったな。どこにいたのだ?」
「うん?家臣のひとはロウバイ宮殿の庭って言ってたよ」
「………」 
 そんなはずはないーー、みたいな顔をされても俺も確認できないしな……。あーー、クラメンならわかるか。

「まあ、バレてちょうどいいや。俺、この国の字を覚えたいんだ。子供用の教材みたいなの、ゆずってくれないか?」
「字か。ーーどうしてだ?」
「ここから出て外で働こうにも、読み書きができなきゃたいしたことはできないだろ?」
「……なぜ、出ていく?」
 一瞬だけ、皇帝の声が固くなった。冷たくなった、っていうのかな。

「ーーいつまでもこんなところにいれるわけがないーー」
 俺は気にせずに話を続けた。男とバレたんなら、妃候補のためにある宮殿を去るのは当然だ。ーーでも、心配なのはクラメンの今後のこと。ここを追い出されるなら、俺が無事に国に帰してやらないとな。


「ーー読み書きなら私が教えてやる」
「あんたが?」
 俺にかまったところで、皇帝様には何のメリットもないよ?
「夜に来る」
「嫁のところへ行けよ」
 それが一番。俺ではあんたの嫁にはなれませんからね。

「行きたくない」
「もったいなーー」
 あんな美人な嫁がいて行きたくないとは、贅沢な悩みをお持ちだ。それが皇帝ってやつなのか?まあ、素晴らしい。

「いっこ聞きたいんだけど、セラフィナがいなくなれば、また新たな姫様が来るのか?」
「ーーそうだ、妃候補が四人いないと妃を選ぶことができない」
「3人でもいいだろ。どうせ、みんなあんたの嫁なんだから」
 わざわざ人数増やさなくても、愛妾までいるんだろうし。

「ーーこれはいわば代理戦、というやつだ」
「ーー代理、いくさ?」
「我が国には私が皇帝になるときに成り上がった公爵家が四つある」
「ーーふうん」
 成り上がった?成金みたいな?
 
「その公爵家が、妃の宮殿と深い関わりをもつ」
「んーー………?」
「自分の家に私にだせる娘がいずとも、妃達の権利をその四公爵家が握っているのだ」
「ははあ、だから代理なんだ」
「ミルトニア宮殿にはミモザ公爵家、ユリ宮殿にはルドベキア公爵家、ダリア宮殿にはリンドウ公爵家、ロウバイ宮殿にはカランコエ公爵家が後ろにつく」
 聞いたところで右から左に流れていってしまうな。どうやって覚えりゃいいんだか……。

「ーーじゃあ、皇妃になると……」
「バックにいるものが公爵家筆頭となる」
「ーーそれって、姫様達の国とその4つの公爵家が元々関わりがあるってことか?」
「ニバリス以外は近隣諸国だからな、当然裏で根回しもされただろう。どちらにせよ、誰が妃になろうとも属国は口をだせない。その四公爵家が他の貴族を牽制したいがための策だからな」
 政治だ。あきれるぐらいに政略結婚だよ。

 しかし、賢いといえば賢い。ようは皇妃の親族でもないのに、いろんなとこでデカい顔ができるんだろ?しかも、筆頭家にならなくても、地位は揺らがなさそうだし。

「ニバリスは?」
「ーー北の僻地すぎて誰も気にしていなかったが、カランコエ家も焦っていたのだろう」

 ーー突然、公爵家の争いに引っ張りだされて、セラフィナも受け入れられなかったのか……、いや、それは逃げだしても仕方ないのかもな……。


「ふ~ん、変なシステム。どうでもいいけどクラメンを国に帰してやりたいな」
 もちろん安全にーー、そう、俺の望みはそれだけだ。後はーー、できたら自分が家に帰れる方法を探したい。

 それには、こんなところにいたって、何の解決にもならない。

「ーー例えば、いまセラフィナがロウバイ宮殿からでていくとする」
「うん」
 すぐにでも行動したい。
「新たな妃候補が決められる」
「ああ、セラフィナもそうだったんだろ?前のひとが、ーー亡くなったから……」

 ーーそういや、こいつの不興をかって殺されたんじゃなかったか?

「そうだ。だが、もうどこも出さないだろう」
「………」
 ……うん…、俺もそう思う、ふたりもやめたらいわくつき過ぎるもんな。
「なら、いまいる3人はどうなるんだ?」
「興味がない」

「ーー興味をもてよ。あーー、4人揃わなきゃ皇妃が選べないならどうするんだ?」
「さあ?公爵達がどういう結論をだすのかーー……」
「なんか、姫様達が可哀想だ。もう、皇帝が良いひと見つけて結婚させてやれよーー」
 最後まで面倒みないとさーー、ってそりゃペットじゃないわ~~、って俺はひとりでボケてひとりでツッコむ。


 けど、言葉をいい終えたのに皇帝が黙っているから、無礼者すぎて気を悪くしたのかなーー?と俺は心配になった。

 偉いやつだし、どう接するのが正解かを聞いといたほうがいいかーー、って思った瞬間だよ。突然、皇帝が俺の頬に手を添えたんだ、ーーというよりは自分のほうに俺の顔を向かせた、って感じかーー。

「………グラキエスだ」
 拗ねたような顔で、皇帝がそう言った。俺が『皇帝』、って呼んでることが気にくわないのかな?

「んとーー…」
「グラキエス・ルイリ・フリーギドゥム」
 だから、なんで怒ってんの?
「おっ、俺と名前が似てるじゃん。ルイリって呼びやすいし、ふたりのときはルイリって呼んでもいいか?」
 いきなり、「このうつけ者が~~」って斬らないよな?

「ーー許す」
 満足そうに頷かれてしまうと、俺は何も言葉を返せない。

 何照れてんだよな……。変なやつ……。
 まさか、こんなことがうれしいのか?偉いひとは感覚が違うんだな。

「でもさ、高貴な姫様って、離婚再婚は普通のことなんだろ?家同士のために駒にされちゃうような」
「………」 

 ーーち、違うのか……。あれーー、鎌倉時代ってそんなのない?政略結婚ぐらい?いや、モンゴルなんか戦に負けるとひどいよなーー……。

 ルイリに黙って冷たい目を向けられ、俺はごまかすようにヘラヘラと笑う。
「ーーおまえの国は、女性にたいして横暴だな」
「ーー俺の国って、そこまでひどくはないけどさ、前まではそんなこともあるよな~って感じ?」
「?」
「ほら、あるじゃん。時代によっては名君が暗君だったり、独裁者が英雄だったりさ」
「ふむ、それは真理だ」
 ルイリは俺の話を真面目な顔で聞いて、しっかりと頷いた。実感がこもっているよ。

 ーーあれ?けど、こいつだって、冷酷ですぐ殺しちゃう皇帝なんだろ?ーーー全然そういう感じじゃないよな?


「ーーあれだな」
「?」
「イメージ稼業は大変みたいだな」
 何かの事情で変な噂が出回るようになったのかね?
「イメージ……、そうだな」
 ため息をつく姿も絵になるとはーー、なんつう顔面の強さだよ。
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