23 / 57
23.月璃、落ちる。
しおりを挟む「あっ、とめてくださいなーー」
ヘレナが漕ぎ手に声をかけると、小船がゆっくりと動きをとめる。
「ロウバイの乙女、湖の中をご覧になって」
「?」
俺は彼女の指を視線で追う。ーー湖の中?魚でもいるのかな……?
「ーーーッ!」
「わかります?水氷華ですわ」
覗いた先に見えたのは水の中で咲く氷の花だ。氷ってわかるぐらいツンツンしてるんだけど、それが溶けることもなく、きちんとした形を水の中で保ってるんだよ。
ーーあれはなんだっけ、極楽浄土みたいな花に似てるんだけど……、きれいだな……。
とても美しい氷の花園が、湖の中に広がっている。船の縁に手をかけて、俺は時間を忘れてその光景に魅入った。
「ーーよほど、気に入られたのですね」
ルーシェの声にハッとなって、慌てて身体を起こす。
「見たいだけみてくださいな……、宮殿の中ばかりでは気も滅入ってしまわれるでしょう……?」
そう言った彼女こそが、浮かない顔をしていた。他のふたりもそうだ、ヘレナは水氷華を見ずに遠くの景色を見ているし、リタナなんか鏡をのぞいているよ。
「………」
俺は黙って視線を湖の中に戻した。ーーいま、姫様達は何を考えているんだろう……。彼女達は俺が、憎いんだよな……。憎まれることは、ーーちょっとしかしてないけどさ……、姫様達にとっちゃルイリが俺のところにばかり来るのは、当然たえられない事実なはずーー………。
ーーどうしたらいいんだろう……。
そのとき、俺の困った顔をうつしていた水面が、大きく揺れた。
「……?」
あれ?風なんかないのに……、なんだ?
ゴンッ!
直後だ、急に船底から衝撃がきたのはーー!
「きゃあ!なに!?」
立ちあがろうとしたリタナの手を、俺は思いっきり引いて床に座らせる。こんな揺れてる状態で立ったら、ぐらぐらして湖にダイブだってーー!
「まあ!何を!?」
「ダリアの乙女!伏せなさい!」
ルーシェの厳しい声に、リタナが目を見開いた。他の姫様はわかっているんだな、体勢を低くして小船の揺れがおさまるのをまっている。
「………」
それを見てリタナが唇を噛んだ。ーーこの3人もいろいろありそうだーー。
「姫様方ーー!動かずにいてくださいーーーっ!」
衛兵の声に、ヘレナとルーシェが頷いたんだけど、俺はそれよりも船底に目がいっていた。視線の先から、ごぽっ、と音が聞こえて、みるみるうちに水がしみ出してきたんだよ。
「ッ!」
ーー船底に穴があいてんじゃんか!
まずい、こりゃまずい!ーー俺は自分の手で穴を押さえたんだけど、あたりまえな話、水はとまらない。隙間からどんどん出てきて俺の服が水浸しになっていく。けど、ここで食い止められるなら、姫様達は濡れなくてすむぞ。
「…………!」
あーー、話せないのってつらい!せめて「濡れないように!」とか、言えたらいいんだけど、手も使ってるから書けないしーー、スケブ塗れてないかな?
「ーーゆっくりと移動してください!」
「え、ええ!」
「ロウバイの乙女、早く立ちなさい!」
よかったーー、姫様達は衛兵に誘導されて向こうの船に移動しているよ。俺も行かなきゃ、そろそろヤバいなーー。
「ロウバイの乙女様!早く!」
衛兵の甲高い声に、俺は立ちあがる。手を離したから水の勢いが増しちゃったけど、このまま押さえててもどっちみち時間の問題だ。
俺は差し出されている衛兵の手をつかんで隣りの小船にと足をかける。ーーあっ、このひとーー……、
ゴンッ!
「!?」
急に俺達の乗っていた小船と、衛兵達の小船が強くぶつかり、俺は体勢をくずした。ーーあれ?手をつかんでたはずなのにーー、なんでないんだ?俺は誰の手をつかんでいたんだっけーー………?
バチャッ!!
「きゃあ!」
「ロウバイの乙女!」
「ええーー!?」
姫様達の叫び声が聞こえたのは一瞬だ。そのまま俺は湖の中に落ちてしまい、水のあまりの冷たさに身体が動かなくなる。
ーーつ、つめたっ!なんじゃこのつめたさは~~~!
俺ははじめての寒中水泳に泣きそうになりながら、服の帯に手をかけた。だけど、帯紐はかたくなっててどうにも解くことができない。手も死ぬほど痛いんだよーー。え~ん、服が重たくて沈む~~~~~。
ーー衛兵さん、俺のために飛び込んでくれるのかな……?ーーけ、けど俺ってば、それまで息がもつ?
苦しいし、つめたいーー、もがきながら上をみあげた俺は、波のない凪のような水面に人影を見た。あれーー?何だよ、まわりがさらに寒くなってくるけどーー、これは死ぬな、確実にーーー………。
意識がなくなりそうな俺の前で、突然、水面が強く光った。白銀の輝きが、爆発したみたいに見えたんだけどーー……。
ガキンッ!
俺のまわりからものすごい音が響く。なんだ?何の音なんだ?いや、ーーもう寒い……、寒くて、すごく眠いやーーー…………。
52
あなたにおすすめの小説
30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
※未完
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。校正も自力です!(笑)
白熊皇帝と伝説の妃
沖田弥子
BL
調理師の結羽は失職してしまい、途方に暮れて家へ帰宅する途中、車に轢かれそうになった子犬を救う。意識が戻るとそこは見知らぬ豪奢な寝台。現れた美貌の皇帝、レオニートにここはアスカロノヴァ皇国で、結羽は伝説の妃だと告げられる。けれど、伝説の妃が携えているはずの氷の花を結羽は持っていなかった。怪我の治療のためアスカロノヴァ皇国に滞在することになった結羽は、神獣の血を受け継ぐ白熊一族であるレオニートと心を通わせていくが……。◆第19回角川ルビー小説大賞・最終選考作品。本文は投稿時のまま掲載しています。
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる