冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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23.月璃、落ちる。

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「あっ、とめてくださいなーー」
 ヘレナが漕ぎ手に声をかけると、小船がゆっくりと動きをとめる。
「ロウバイの乙女、湖の中をご覧になって」
「?」
 俺は彼女の指を視線で追う。ーー湖の中?魚でもいるのかな……?

「ーーーッ!」
「わかります?水氷華すいひょうかですわ」
 覗いた先に見えたのは水の中で咲く氷の花だ。氷ってわかるぐらいツンツンしてるんだけど、それが溶けることもなく、きちんとした形を水の中で保ってるんだよ。

 ーーあれはなんだっけ、極楽浄土みたいな花に似てるんだけど……、きれいだな……。

 とても美しい氷の花園が、湖の中に広がっている。船の縁に手をかけて、俺は時間を忘れてその光景に魅入った。


「ーーよほど、気に入られたのですね」
 ルーシェの声にハッとなって、慌てて身体を起こす。
「見たいだけみてくださいな……、宮殿の中ばかりでは気も滅入ってしまわれるでしょう……?」 
 そう言った彼女こそが、浮かない顔をしていた。他のふたりもそうだ、ヘレナは水氷華を見ずに遠くの景色を見ているし、リタナなんか鏡をのぞいているよ。

「………」
 
 俺は黙って視線を湖の中に戻した。ーーいま、姫様達は何を考えているんだろう……。彼女達は俺が、憎いんだよな……。憎まれることは、ーーちょっとしかしてないけどさ……、姫様達にとっちゃルイリが俺のところにばかり来るのは、当然たえられない事実なはずーー………。

 ーーどうしたらいいんだろう……。

 そのとき、俺の困った顔をうつしていた水面が、大きく揺れた。
「……?」
 あれ?風なんかないのに……、なんだ?


 ゴンッ!

 直後だ、急に船底から衝撃がきたのはーー!

「きゃあ!なに!?」
 立ちあがろうとしたリタナの手を、俺は思いっきり引いて床に座らせる。こんな揺れてる状態で立ったら、ぐらぐらして湖にダイブだってーー!

「まあ!何を!?」
「ダリアの乙女!伏せなさい!」
 ルーシェの厳しい声に、リタナが目を見開いた。他の姫様はわかっているんだな、体勢を低くして小船の揺れがおさまるのをまっている。

「………」
 それを見てリタナが唇を噛んだ。ーーこの3人もいろいろありそうだーー。

「姫様方ーー!動かずにいてくださいーーーっ!」
 衛兵の声に、ヘレナとルーシェが頷いたんだけど、俺はそれよりも船底に目がいっていた。視線の先から、ごぽっ、と音が聞こえて、みるみるうちに水がしみ出してきたんだよ。

「ッ!」

 ーー船底に穴があいてんじゃんか!

 まずい、こりゃまずい!ーー俺は自分の手で穴を押さえたんだけど、あたりまえな話、水はとまらない。隙間からどんどん出てきて俺の服が水浸しになっていく。けど、ここで食い止められるなら、姫様達は濡れなくてすむぞ。

「…………!」
 あーー、話せないのってつらい!せめて「濡れないように!」とか、言えたらいいんだけど、手も使ってるから書けないしーー、スケブ塗れてないかな?



「ーーゆっくりと移動してください!」
「え、ええ!」
「ロウバイの乙女、早く立ちなさい!」
 よかったーー、姫様達は衛兵に誘導されて向こうの船に移動しているよ。俺も行かなきゃ、そろそろヤバいなーー。

「ロウバイの乙女様!早く!」
 衛兵の甲高い声に、俺は立ちあがる。手を離したから水の勢いが増しちゃったけど、このまま押さえててもどっちみち時間の問題だ。

 俺は差し出されている衛兵の手をつかんで隣りの小船にと足をかける。ーーあっ、このひとーー……、

 ゴンッ!

「!?」

 急に俺達の乗っていた小船と、衛兵達の小船が強くぶつかり、俺は体勢をくずした。ーーあれ?手をつかんでたはずなのにーー、なんでないんだ?俺は誰の手をつかんでいたんだっけーー………?


 バチャッ!!


「きゃあ!」
「ロウバイの乙女!」
「ええーー!?」
 姫様達の叫び声が聞こえたのは一瞬だ。そのまま俺は湖の中に落ちてしまい、水のあまりの冷たさに身体が動かなくなる。

 ーーつ、つめたっ!なんじゃこのつめたさは~~~!

 俺ははじめての寒中水泳に泣きそうになりながら、服の帯に手をかけた。だけど、帯紐はかたくなっててどうにも解くことができない。手も死ぬほど痛いんだよーー。え~ん、服が重たくて沈む~~~~~。


 ーー衛兵さん、俺のために飛び込んでくれるのかな……?ーーけ、けど俺ってば、それまで息がもつ?

 苦しいし、つめたいーー、もがきながら上をみあげた俺は、波のない凪のような水面に人影を見た。あれーー?何だよ、まわりがさらに寒くなってくるけどーー、これは死ぬな、確実にーーー………。

 意識がなくなりそうな俺の前で、突然、水面が強く光った。白銀の輝きが、爆発したみたいに見えたんだけどーー……。




 ​ガキンッ!





​ 俺のまわりからものすごい音が響く。なんだ?何の音なんだ?いや、ーーもう寒い……、寒くて、すごく眠いやーーー…………。

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