冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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24.皇帝の降臨

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 ※※※





「へ、陛下!」
「……」
 皇帝グラキエスの降臨に、衛兵達が救助の手をとめその場で頭を下げる。妃候補達はその様子を信じられない、という面持ちで見ていた。皇帝がいるとそれが優先になるのか?人命は?ーーという気持ちなのだろう。

 だが、驚くことにグラキエスが立っているのは湖面の上だ。漆黒のマントを翻し、少しも濡れることなく水面を見下ろしている。彼の顔はいつもの冷たい表情をはりつけたまま、何の感情も読み取れない。ただ、その瞳の奥には、激しい怒りが滲んでいるようにも見えた。

​「……」
​ 衛兵達や妃たちが息を飲む中、グラキエスは一切の詠唱もなく、右手を静かに水面へと向ける。

​ ​その指先から光が走り、湖が凍りついていく。氷はまるで意思をもつかのように、光の速さで広がり、小舟も動かせない状態になる。

「すごい……」
 ヘレナがつぶやいた。凄まじい魔法の威力に、それしか言うことができない。氷は透明なまま深部へと浸食していき、ガキンッ!ピシピシッ!と湖に音が響き渡る。ただ、一部分だけ、凍らない部分があった。

「あっ!」
「ロウバイの乙女!」
 そこに、水中からセラフィナが浮いてきたのだ。彼女の身体に銀の鎖のようなものが巻き付いていて、水面に出るとそれが消えた。少し開いた口から細く白い息が見えるが、顔色は青ざめ意識がない。

 グラキエスはセラフィナの元まで歩き、腰を屈めてそっと抱きあげた。まるで壊れ物を大切に抱くような動作に、その場にいたものすべてが呆然となる。

「………」
「ーーおい……」
 ざわざわと衛兵達が騒ぎだした。彼らもはじめて見る主の姿に、まともにものも言えず絶句するしかない。

 ーー陛下が御自身で妃候補を救うなど……。

 誰もが驚きに言葉を失くす中、グラキエスが指を動かす。

 バァンッ!

 雷鳴のような光に、氷に亀裂が走る。そして、その亀裂から、引きずり出されたのは白い茨の魔物だ。魔法によって氷づけにされた魔物は動くこともできず、そこから無数に生えているツルの部分もぐったりと生気をうしなっている。

「な、茨の魔物ソーンモンスター……、なぜ?城にこんな魔物が!?」
「ーーいや、朝確認したぞ!そのときにはいなかったんだ!」
 動揺する衛兵達を見向きもせずに、グラキエスは指を軽く擦る。すると、茨の魔物がピシッとひび割れ、魔物の証である赤黒い核を外気に晒した。

 グラキエスの表情は少しも変わることはないーー。魔物の生命をつぶすその動作にも、一切の躊躇もなく、一瞬で茨の魔物を無機質な粉へと姿を変える。その灰色の粉が風に舞い、氷が割れた湖面を汚していくーー。

 汚れた氷を見ながら、グラキエスが口を開いた。
「ーーよく調べるように。魔笛まてきの所持も疑え」
「ーーーー!は、はっ!」
 皇帝直接の言葉に、衛兵達が声を揃えて頭を垂れる。そして彼らが息を呑む中、グラキエスはセラフィナを抱えたまま氷の湖面を歩きだした。

「陛下!セラフィナ様の手当てを致します!」
 カメリアが声をかけるも主からの返答はなく、グラキエスは歩みをとめずに宮殿の方へと戻ってしまった。後を追うべき立場の近衛兵達は、皆唖然とした顔でものも言えず、その後ろ姿を見守るしかできない。


「ーーまさか、陛下がキングプロテアに女人を連れて行くなんてーー」
「……これは、ーー皇妃は決まりだな……」
 皇帝の宮殿キングプロテアとつながっているこの湖は、そのバルコニーから湖を一望できる。そこからこちらを見ていたのだろうーー、いや、セラフィナを見ていたのか……。


「ーー魔笛など、所持している者がいると思うか?」
「魔物を操る笛だろ?どうやって手にいれるんだ?」
「陛下の仰せだ、調べるぞ」
 護衛の兵士達がお互いの持ち物などを調べ合う。その中、姫達を乗せた小船が岸へと戻ってきた。


「ーー姫様方、お怪我は?」
 小船が無事に岸に着き、ほっとした顔のカメリアにヘレナは微笑んだ。
「大丈夫ですよ。ロウバイの乙女が船底の穴を押さえていてくださりましたから……」
「あの方の行動力は素晴らしいですわ。ダリアの乙女も助かりましたね」
 感心したように言うルーシェを、リタナが睨みつける。

「ーーーーー新参者の妃候補に、わたくし達の立場をつぶされたのですよ!」
「………立場……」
「そんなもの最初からありましたか?」
 真剣な目をしたリタナをまるで馬鹿にするように、ふたりの妃候補は笑う。


「ロウバイの乙女……、お可哀想……」
 わざとらしく眉を寄せてヘレナがつぶやく。
「ねえ?カメリア様ーー?」
 ふぅーー、とため息をついた彼女に、まわりを気にしながらカメリアが言った。
「ーーそのことは、ロウバイの乙女様にはーー……」
 表情をこわばらせた陛下の側近に、顔を近づけヘレナが囁く。

「ええーー。わたくし達には、わかっておりますわーー……」
 

 

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