冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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44.月璃の抵抗

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「ーーあくまでこっちは新薬の経過検査なんだ。おまえの後ろにいるやつがその半分ほど、その隣りのやつはーーもうすぐだな」
「ふん、まあいい……。楽しみだぜ!」
 ふたりの話が終わった直後だった。すぐ近くから、ひとの呻き声が聞こえてきたんだ。



「………あっ、あぁ!~~~~んぅ~~~!」
「おっ、はじまったのか!」
 下卑た笑いを浮かべながら、サージが声のする方に顔を向けた。そしたら、ヤツの目が、どんどんギラギラとしてくるんだ。

 ーー何を見てるんだ?そっちには何があるんだ?

 その間にも俺の身体がなんだかだるくなっていく。変だ……、もうおじさん達はいないのに、逃げる気力がわいてこない。ーー逃げなきゃ、こんなわけがわからないところからは早く逃げなきゃ……。

「あああっ~~~!」
「おら!欲しかったもんだぜーー!」
「あッ!ひゃ~~~~~んッ!!」
 なんだ?ひとが他にもいる?何をしてるんだーー?

 パンパンッ!とはじめて聞くような音に、俺は眉を寄せる。なんか、何かが激しく、何かとぶつかってる?
「ーーすっげえな……」
 充血した目を見開いてサージが唸る。獣みたいにハァハァ言って、心底気持ち悪いーー、しかも、下半身のナニが膨らんでる気がするし……。

 キモーーー………。

 その姿を見ていられなくて、俺はサージの後ろの牢屋に目を凝らす。そこにはひとがひとりいて、俺よりも少し年上の男のひとのように見えた。そのひともそこから動けないのか、牢屋の中でじっとしている。

 だけど、様子がおかしいーー……、座ったままもじもじと、太ももを動かしているんだ。足がかゆいのかなーー?でも、顔がかなり赤いし……、熱に浮かされてる、っていうのかーー……。

「あ~~~~あ~~~~!!」
 ひときわ高い叫び声にドキッとなる。なんか、だんだんひどくなってないか?こんなの異常だろ。
「ひょ~~~!しまる~~~!!」
 下品な声だ。何か拷問のようなことをしているんだろうか?

「うわぁ!すげえ!すげえーーッ!ツキリ!早く薬が効けよ!」
 興奮したサージが鉄格子を強く握って、俺に唾を飛ばす。汚いなーー、何が早く薬が効けだよーー……。


 ……え?
 
 ふと、頭の中の冷静な部分が警鐘を鳴らしはじめた。ーー薬って、俺も飲まされたやつだよな……。まさか……、なあ、まさか俺もああなるのか?この砂時計の砂が全部落ちたら、あんな理性を無くした声をだして、獣のように叫ぶのか?


「……あん!………あぁんっ!」
 サージの後ろからも、似たような声が聞こえてきた。苦しそうに座っている男のひとが、あの甲高い声をあげてきたんだ。

「おっと、こっちもはじまったか!ツキリ、よく見ておけよ!おまえももうすぐこうなるからな!」
「ーーー」
 だるい目を前に向けて、俺はそのひとをよく見た。火照った顔に荒い呼吸、何より目がおかしい……。どこを見ているのか、何を考えてるのかさっぱりわからないけどーーー、

「!」

 突然、そのひとが自分の下半身を弄りだした。ひとが見ているのがわからないのか、モノをだしてしごきはじめたんだよ。
「……」
 そんなの人前でやることじゃないだろ……、俺はたまらず視線をそらしたのに、サージがゲラゲラと笑いながら言葉を放つ。

「ーーおまえにもひとりでショーをやってもらわねえとな~。前もーー、うひょ、もう後ろが疼いてるのか!」
 無邪気に笑うサージが、俺は怖かった。あんなとこ見ちゃだめだろ?かわいそうじゃないか……。いまは正気を失ってるみたいだけど、きっと知ったら傷つくよーー。

「ツキリ……、おまえが獣みたいに乱れまくるところ、早く見てえな~~~」
「!」
「ーー後ろが疼いて疼いて仕方なくなって、俺のモノを挿れてほしくておまえは泣くんだよーー」

 顔がこわばってくる。
 そんなーー……。うそだろ……、この身体のだるさは…、そういうことなのか……?

「あ~~~!挿れて~~~!後ろに挿れて~~~!ほしい、ほしい~~~!」
 気が触れたように、男のひとが自分のお尻を触っている。
「よしよし、かわいがってやるからなーーー」
「マジ、楽しみだぜ!」
 後ろの扉を開けて、ガタイのいい男がふたりも入ってきた。

「あ~~!あ~~~あ~~~!~~~~~ッ」
 声にならない声をあげて、そのひとが狂ったように腰を動かす。その腰を押さえて男が後ろから自分の腰をぶつけているんだけど、あれって、まさかーー……。

「イイぞ!どんだけでもできるんだろ!?もう、待ちきれねえ!この中に早くいれろ!ああ~ツキリ、もうオレは限界だよ!」
 ヤツの突っ張ったズボンが目に入り、俺は恐怖に口を引きつらせた。最低だ、自分の浅はかさに涙が出てくる。なんでこんなヤツについてきたんだよ。

 何のために俺はこんなところにいるんだーーー。


「…………」
 俺の顔はいま、間違いなく真っ青になっているだろう……。怖い、怖くて仕方がないーー、誰か、助けてくれーー、誰でもいいから助けてくれよ!

「助けてーー!助けてくれ、サージ……!」
 こいつに頼むのなんて絶対に嫌なのに、いまはこいつしか俺を助けられるひとがいない。早くしないと、砂が全部落ちて、俺もあんな風になってしまう。

「ああ、助けてやる……。オレははじめて見たときからおまえを抱きたいと思ってた……。そのきれいな面に種をぶちまけて、オレのモノがなきゃ生きていけないと言わせてやる……。最高に楽しい時間にしようぜ……」

 血走った目と目が合った瞬間、サージが俺を助ける気がないことがわかった。絶望に、俺はその場にうずくまる。泣いたってどうにもならないのに、泣くしかできないなんてーー。

「ーーこの魔法薬はな、誰でも簡単に快楽づけにできる薬で、貴族様達が欲しがってて、手に入れるのがすっげえ難しかったんだよ。それをさ、改良したものをおまえの身体で試していいならってことで、話がついたんだ……。ついてるよな~、オレ!」
「………」
 何がだよ、ふざけるな!こんなので俺を手に入れたって、何になるんだよ!

「あっ、たまに精神ぶっ壊れて、もうセックスをすることしか考えられなくなるみたいだけど、安心しろよーー。飽きるまでは抱いてやるからな!」
 叩かれる鉄格子の音に身体が怯える。もう、俺はだめなんだ…、誰も助けてくれないんだ……、もうーー……。



 ………。

 何を俺はがんばろうとしてるんだろ……。別に俺なんかいても何の意味もないのに……、俺が生きてなくても誰も困らないのにーー……。


 俺は懐に隠してある短剣を震える手で取り出し、それをじっと見た。

「おい!おまえ!何を持ってるんだよ!くそっ!おい!ここを開けろぉ~~~!」
 サージが何を言おうと、俺は聞こえなかった。ただ、静かに、心を落ち着けて、短剣で右の人差し指を切る。


 ぷつ……、指先から血がでてきた。痛みなんか感じない……、ヘタしたらそれも快感になりそうで、自分が怖いよ………。

 ゆっくりと床に血で文字を書く。集中してーー、身体をゾワゾワと襲ってくる熱に負けないよう、あのときの皇帝の間で書をかいたときよりも集中してーー、真摯にその文字と向き合った。



「………」
 ふぅ、と息をはく。


『再逢一夢希』……。俺の習字の先生が和泉式部の歌から作った五文字熟語ーー。聞いたときは書ければなんでもいいや、って思ったけど、いまの俺の気持ちにぴったりだーー……。

 何度か傷口を広げ、想いを込めて書いたそれは、何の変化もなく床に赤いラクガキを残しただけだった。でもさーー、俺は満足だよ。
「は?なんだ?」
 戸惑うようなサージの声に、俺は少し笑った。こんなだるい身体でよくできたな、偉いよ、俺……。


 おまえには意味がわからないだろうーー?……俺も知らなかったよ……、少しだけでもいいから死ぬ前に逢いたいなんてさーー。ふふっ、できたら幽霊でもいいから、顔を見たかったんだけどなーー………。


 俺は文字を見ながら、唇を噛み締めた。少し動くだけで身体がピリピリと何かに反応する。気持ち悪いのか、気持ちいいのか、苦しいし、よくわからない感覚だ。
 
 ーー俺もあのひと達みたいになるのか……?ーーはっ!そんなの絶対に死んでもごめんだなッ!
 

 

「………ーーおやすみ……」
 やるなら頸動脈だ、ここが素人でも確実に切れるとこなんだろ?

 短剣を喉にあてた俺に、サージが悲鳴をあげた。
「ちょっと待て!ツキリーー!やめろーーー!」
「………」
 一気に引け!ためらうなーーー!覚悟を決めた俺は、手に力をめいいっぱい込める!


 ーー父さん!母さん!タマ!ーー急にいなくなってごめん!でも、俺はあなた達のこと、絶対に忘れないからーーー………、またーー、どこかで会おう…………!


「ツキリ!クソッッ!!」

 
 !


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