冷酷な皇帝陛下の妃候補(身代わり)になったんだけど、男だってバレたら殺されるらしい。

濃子

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51.ルイリの葛藤

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「ツキリ……」
 グラキエスは高揚感を抑えきれず、そわそわとまるで子供のように、ぐっすりと眠る少年の顔に魅入ってしまう。普段は血までを凍らせると噂される指先で、やわらかな頬に触れ、ツキリの熱を愛おしそうに確かめる。


「……、う……、ん……、ルイリ……?」
「気分は悪くないか?」
「うん……。ホントにいてくれてんのーー?」
 寝ぼけながら不思議そうな表情で、ツキリが唇を開いた。
「ツキリ、キスをしていいか?」
「え?なんで?」
 心底驚いた顔をされ、グラキエスは気落ちしたように目を伏せる。

「ーーつれないやつだ」
「聞かなきゃいいじゃん」
 聞かれると返事に困るんだよーー、と顔を赤らめた少年を、グラキエスはとても優しく、微笑んでくちづけをしたーーー………。
  













 数週間前のグラキエスは、必要な政務だけをとるとすぐに私室に戻ってきていた。彼の考えることはひとつ、ツキリの身の安全だ。しかし、セラフィナに言われたことが尾を引き、助けに行こうとしても、足が動かなかったのだ。

 ーー会いたくないと言われたら?誰に何を言われてもかまわないが、ツキリにだけは拒絶されたくはないーー。


 臆病になる心にさらに追い打ちがかかるーー。ツキリがロディテの絵を見たと、セラフィナから告げられた。ーーあの女の思惑通りにロディテの絵を見たのなら、その心に傷をつけてしまったのではないかーー?代わりではないのに、自分は身代わりだと思われたらーー?


 ーーすぐにでも会って、言い訳をさせてほしいーー。ロディテに似ていると思っていたのは一瞬で、いまはおまえしか見ていないとーー……。



 しかし、どれだけ心で想ったところで、言葉にして伝えていないものは本人には伝わらないーー。日だけが虚しく過ぎる中、色を失った彼の視界に、ふいに、ロウバイの木が入ってきた。

 セラフィナの要望によりロウバイ宮殿から撤去した木を、庭に植え替えたのだ。愛らしく黄色い蕾が見えだした花を眺め、グラキエスは目をしばたたいた。

 ーーそうだ。花が咲いたら花見をする約束があるーー……、それならば応じてくれるかもしれん……。

 根拠はない。

 だが、これ以上立ち止まっていても何にもならない、ツキリの身に危険なことが起きていないとも限らない、……ーー彼がそう思ったときだった。

「?」
 王城の結界内に知らない魔力を感じた。いや、外から結界内に何かがはいった。

 ーーそんなことができる魔導師など、ノウスぐらいのはずだがーー……。

「……」
 ふわっとした光が、グラキエスの目の前に現れる。
「これはーー……」
 光が形を成していく。象られたのは自分だ。自分の姿を模した光が部屋に現れたのだ。

「……ツキリか」
 見事だ。王城ならまだしも、この部屋の結界内で魔法を使うなど、あり得ない話。ーーフリーギドゥム帝国の神である雪竜の血を引く自分の魔力を打ち破るなど、想定外としか言いようがないがーー……。

 ーーそうか、ツキリはこの世界の人間ではないーー。

 ツキリの魔力からは、この世界にはない異質な何かを感じる。それはこの世界の魔法とは全く違う、異世界の理に基づいたものであり、それが自分の結界を『破る』のではなく、『法則を無視して通り抜けた』、とでもいうべきなのかーー。


「ーーどうした?」
 薄く微笑んでいるような光の自分を見て、グラキエスは首をかしげた。ツキリは何かを伝えるために魔法を使ったのか?

『ーー喜びを噛み締めている』
「何故だ?」
 そんな欣喜するようなことが自分に起こるとは到底思えないがーー。

『再逢一夢希』
「………」

 異世界の言葉だ。ツキリが自分に何を伝えようとしているのか……。

『こんなに情熱的な告白を受けたのははじめてのことだ』
「告白……」
 情熱的な告白……、これが何を意味するのかーー、グラキエスはツキリの魔法を自身の脳内に取り込み、自国の言葉に翻訳した。

「!」
 歌の意味を知り、グラキエスはツキリの魔力を探した。感動などしている場合ではない、彼の身にあきらかに最悪の事態が起きている。これもすべて自身の弱さが招いたことだーー。

 ツキリの魔力をとらえ、そこに最速で移動するーー。国内にいてくれてよかった……、国外ならばどうにもならなかったかもしれないーー……。



 ツキリの決死の覚悟がなければ、グラキエスは低級な魔法師ギルドから、彼を無事に助けることができなかっただろうーー。いや、もっと早く行動を起こさなければならなかった、自分はなんと愚かな男だったのかーー……。



「ーーもう、離さない」
「……え?」
 身体の芯が燃えそうなキスを繰り返し、とろんとした目になったツキリが、何度も瞬きをした。
「こんなに不安な気持ちになったことなどない……。ツキリ、私はおまえから離れないーー」

「ルイリ……。あ、……その……」
 気まずそうな表情を浮かべた少年は、「いや……、まあ……、」、と曖昧に言葉を濁そうとする。ツキリの考えていることは、至極真っ当なことだ。

 皇帝には後継者が必要だーー、それも直系の血を引く後継が……。

 ただ、いまのグラキエスにとってそんなことは、些末な、取るに足らない話だった。
「ーー死ぬ前に、私に会いたいと願ったのだろうーー?」
 ツキリの魔力で創られた自分が、彼の気持ちを伝えてくれた。あんなに心が満たされたことなど、いままでにないーー。


「………あっ」




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