クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡

濃子

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ー7ー ぼくと蓮と光

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 揚げ物担当のぼくは、詩さんが仕込んでくれていた鶏肉をどんどん唐揚げにしていく。家でもけっこう作るんだけど、ぼくのと違って詩さんのは格別に美味しいんだ。

「前日につけておくの」
「そうなんだ……。すっごく柔らかいですよね。後、このスペアリブ、教えてもらってからお祝いのときには必ず作ってるんです」
「コーラと醤油で煮るだけだから、簡単でしょ?」
「はい!みんなすごく食べてくれるんです」
「景も?」
「ーーあっ、景君もだけど、蓮も光も好きですよ」
 たくさん作っておすそ分けしたりするんだ。恵さんからも、仕事続きでおかずを作るのが面倒だから、って頼まれることもあるし……。

 ーー景君、『また作ってほしい』、って言ってたな……。

「もう一品簡単なやつで、鶏の紅茶煮はどう?後味がさっぱりでいくらでも食べられるわよ」
「へぇー!教えてください!」
 クリスマス会に作ろうかな……。鶏は唐揚げ以外したことないし……、新しいものに挑戦するのもいいよね?


 ………そうそう、毎年母さんが作るチキンは、鶏の原型をとどめすぎてて、景君は見ないようにしてたっけ……。「俺ああいうのは無理なんだよ」、ってあの言い方がすごく可愛くて………。

「ミノちゃん!肉が焦げてるわ!」
「あっ!すみません!!」
 いけない、いけない、火を扱ってるときに変なこと考えちゃだめだよ。ぼくってーーばかだな……。



 昼近くになると、近所の子供達が次々に道場に飛び込んできた。
「ウタちゃん、来たよ!」
「これ、母ちゃんが野菜持って行けって!」
「あら、ありがとう~~~!大きい子は盛り付けを手伝って!小さい子は空いてるスペースでカードゲームをしましょう」

「はぁ~~~い!」

 元気な声が道場内に響く。ーーいいよね……、みんなでワイワイするのって。こういうの、大人になってもみんな覚えてるんだろうなーー………。



 ーージングルベル~ジングルベル~~♫

 流す音楽はあたりまえだけどクリスマス関係のものばかりだ。子供達も自然にハミングをしてるし、こういう誰もが知ってる歌ってすごいよね。

 詩さんの乾杯ではじまったクリスマス会はとてもにぎやかで、みんな目を輝かせながら食事を楽しんでくれた。
「これ、すっごい美味しい~~~!」
「ウタちゃん、神~~~!」
「最高!この唐揚げおかわりしたい~~~!」

 いつも子供食堂に来る高学年メンバーと、その子供達に誘われて来た友達、20人ぐらいかなーー、みんなうれしそうに、ご飯を食べて、ゲームもしてーー詩さんも本当にうれしそうだーー。

 けど、みんなどんどん騒がしくなっていって、ジュースをこぼす子も続出したり、その対応に忙しいときもあったけど、ぼくもものすごく楽しんだよ。


 子供達の食事が落ち着いた頃に「遅くなってごめん!食事をして!」と言われ、ぼくは台所で食事をとることにした。

 メインのちらし寿司や、唐揚げとスペアリブにエビフライにポテト。ミニ煮込みハンバーグに、ブロッコリーとゆで卵のサラダ……、ってすごいよね、これ全部詩さんの思いやりなんだよ。

 近所のお母さん達は会費を払うって言ってるそうだけど、地域のお年寄りが子供食堂のために寄付してくれてる分もあって、お金は大丈夫なんだってーー。詩さん、お年寄りのために、カフェでランチをつくったりしてるから、まわりからすっごく人気があるんだ。

 ーーこんなひとにぼくもなれたらいいな……。詩さんみたいになれたらーー………。


 キレイに飾り付けされたちらし寿司は、詩さんの性格をあらわしているね。母さんなら、「食べればいいのよ~~~」、って卵も錦糸卵にせずに、スクランブルエッグだろうな。

 ふと、通知に気づきスマホに目をやる。確認すると光と蓮からライツがきていた。内容は水曜日のクリスマス会のことだ。


ピカチュ『オレ寿司とるからな~~~。もち景兄のマネーで!』

イロハス『おれはパスタとサラダをつくるよ』


牛ミノ『了解。ぼくはいつもの揚げ物しま~す』

 ポンッ。


「ーーよし」

 このライツの名前は光に決められたもので、ぼくたちだけのグループのみで使われてる。ホント、バカバカしいよね。
 

ピカチュ『けど、景兄のヤツ、マジはっきりしねえ!』

イロハス『いいじゃん、兄貴にだって付き合いがあるんだから』


 ポン、ポンッと返事がすぐに返ってくる。案外同じ部屋にいて、ライツのやり取りをしてたりしてね……。


 蓮と光とぼくーー。

 よくこの3人で仲良くやってこれたな……、ってつくづく思うけど、これも景君がうまくまとめてくれてたおかげなんだろう……。気づいたら、いつも蓮と光がケンカしだして、ぼくはそれをオロオロ見てるしかできなくて、殴り合いになったら景君を呼びに行ってーー……。

 ーー景君に怒られて、ふたりはいつも泣きながら謝るんだ。光もすっごく荒れてたときでも、景君の前では良い子のフリしてたっけ(バレてただろうけど)……。


ピカチュ『なんだよ!つき合いって!オレ達のほうが大事だろ!?』

イロハス『ーーそういうわけにもいかないって、兄貴も帰りが遅いときもあるしーー』

ピカチュ『あ?あー、風呂はいってくるやつかーー』



「…………」

 ポン!

イロハス『ばか!送信消せ!まだ見てない!』



 焦った蓮の文面に、ぼくは凝視していた画面から目を離す。
「開かずに、見てたから……」
 蓮はぼくがいまの通知を見てない、って思ってるんだ。ーー蓮ってば、……ぼくの気持ちを知ってたんだ……。


「………」
 ちゃんと隠してある気持ちがまわりにバレバレだなんて……、まったく、ぼくは………小さい子供じゃないんだから。

「気を使わせてる……、蓮も優しいから……」



 ーーいずれぼく達のこの関係もなくなるだろう……。



 みんな大好きなひとができて、そのひとのことしか考えられなくなってーー、それが当然なんだから……、当然のことを悲しんじゃだめだよね……。

 送信取り消しになっているライツ、けどそれよりも先に見てしまった、『風呂はいってくるやつかーー』、って言葉……。ーーあたりまえのことに、泣くな、泣くんじゃないよーー………。
 


 忘れたくない思い出ばかりで嫌になる……。でも、忘れてしまったこともたくさんある……。だって、ぼくの頭じゃ覚えきれないぐらい、思い出がいっぱいあるんだものーー。



 あれは、小学1年生のときのマラソン大会だーー。ピストルに驚いて泣き出してしまったぼくを、景君がなだめて一緒に走ってくれた。まわりからは「カッコいいお兄ちゃんでいいねーー」、ってうらやましがられたけど、「おまえの兄ちゃんじゃないのに、なんで?」、とも言われたんだ。

 ーーあのとき、ぼくはなんて返したんだろ?家が隣だから?兄ちゃんみたいなものだから?ーー違うな……、なんて言ったんだろ……。 


『いいの!だって、だって景君はーーーっ!』


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