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ー8ー ぼくと泉水君
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「ーーぼくのだから、」
とか、言ったりしてないよね……?
「何がだ?」
「え!?」
隣りの椅子に泉水君が座る。彼はすぐに、「いただきます」、と小さく手を合わせて食事をはじめた。その手の伸ばし方や、深くもなく浅くもない一瞬の会釈は、泉水君を育てた叔父さんが、礼儀作法を重んじるきちんとしたひとだったことが見てわかる仕草だった。
「あっ!えっと……」
ぼくは涙をごまかすように顔をさわって、強引に話を変える。
「ーーさっきの告白、すごくカッコよかったよ!」
「……ああ」
「今日、言おうと思ってたの?」
「いやーー、気持ちが高ぶった」
「そうなんだ……」
それって、オッケーをもらったからよかったけど、だめだった場合、気まずくてこれからどうしよう、ってやつだよね?
「ーー付き合うんだ……」
「クリスマスにデートをする」
「ひゃーー!ロマンティックだね!」
あっ、そうだ、ぼくも光とデートなんだ。何するんだろ……、絶対ボーリング場も混んでるよね?
ーーデートか……、いまいちピンとこないな……。景君はいつもどんなデートをしてるんだろーー?例えば、夜景が見えるおしゃれなバーとか、イルミネーションがキレイな……、城とかだったりするのかなーー……(想像力の限界)。
そして、最後は、お風呂があるところ……。
「……う……ん」
想像で泣けるーー、と落ち込むぼくに、泉水君が言った。
「おまえは、ーー景さんに言わないのか?」
「え?」
ポカンと口を開けたまま、ぼくは泉水君の端正な顔を長い間見ていた。
「あの……」
言葉が続かない。何を言ってるの、泉水君……なんで知ってるの!?泉水君ーーーッ!
「双子じゃないよな?あいつらには恋愛感情はもってないだろ?」
「あっ、うん、それは、うんーー」
ない、そこはきっぱり言う。双子っていうか、ぼくは景君以外のひとに恋をしたことがない。
「言わないのか?」
「言わないよ」
「なんで?」
真面目な顔で尋ねられ、ぼくは姿勢を正した。
「ーーそんな、景君がぼくなんかと付き合うわけないし……、家も隣りだし……、……気まずいし……」
彼の輝くような人生に、ぼくが傷をつけるわけにはいかない。ーー景君なら同情で付き合ってくれるかもしれないけど、そんなの、汚点にしかならないよ……。
「ふうん。ーーそれって、その程度の気持ちなんだな」
「え?」
「だってそうだろ?本気だったら、家が隣りとか気まずいとか、気にしてる余裕もないぜ」
「……」
うっ、と言葉に詰まる。泉水君の言ってること、たしかにその通りだと思う。本気の恋ってそうあるべきだって、恋愛に不慣れなぼくだって思うことだよ……。
でもーー……、
「おまえさ……、自分以外のひとと幸せになるところを、黙ってみてられるぐらい人間ができてるっていうよりは、景さんのこと、そこまで好きじゃないんだろ?」
ぼくの気持ちなんかくだらない、とでもいいたげな泉水君の様子に、自然に眉がつり上がった。
「ーーー何言ってんの!ーー好きだよ!死ぬほど好きだよ!景君の恋人なんか、見たくないし、話しかけられても絶対に無視してやろうって思ってるよ!」
「無視って……」
鼻で笑われて、ぼくは唇を噛んだ。なんだよ、自分がうまくいったからって、ぼくだって、ぼくだって……、言えるもんならいってるんだよーー………、
「ーー景君が、………女のひとと付き合ってるのを、ぼくは見てきてるんだよ?……そんなこと、ーーどうしたら言えるんだよ……」
泣き声になりそうになったから、また唇を噛んで我慢する。
「あ……、ーーー悪い……」
申し訳なさそうな顔で泉水君は目を伏せた。ぼくと景君の間には、根本的に越えられない壁がある。これは、ぼくの力だけじゃどうにもならない壁だ。
「ぼくのために……、そこまでしてって言えないよ……。それならぼくは我慢する。景君のためなら自分の気持ちなんか我慢できるからーー」
拳をきつく握って、ぼくは決意を口にした。本当は好きって言いたい……、言いたいーー……。
箸を置いた彼が、「ごちそうさまでした」、と手を合わせた。そのまま困ったような顔で、ぼくのほうを向いた。
「ーーそうだな……。そういう本気もあるよな……。おれは何がなんでも詩さんを幸せにするのはおれだって思ってるけど、おまえはそうなんだな……」
「………」
「言ったほうがスッキリすると思うぜ」
嫌な言い方だけど、泉水君には失うものが何もなさそうだよね……。ぼくは……、やっぱり景君が未来を失ってしまうのが……、怖いよ。
「そのときはね……、後は後悔するだけだよ」
言い切ったぼくに、泉水君はそれ以上は何もいってこなかった。
とか、言ったりしてないよね……?
「何がだ?」
「え!?」
隣りの椅子に泉水君が座る。彼はすぐに、「いただきます」、と小さく手を合わせて食事をはじめた。その手の伸ばし方や、深くもなく浅くもない一瞬の会釈は、泉水君を育てた叔父さんが、礼儀作法を重んじるきちんとしたひとだったことが見てわかる仕草だった。
「あっ!えっと……」
ぼくは涙をごまかすように顔をさわって、強引に話を変える。
「ーーさっきの告白、すごくカッコよかったよ!」
「……ああ」
「今日、言おうと思ってたの?」
「いやーー、気持ちが高ぶった」
「そうなんだ……」
それって、オッケーをもらったからよかったけど、だめだった場合、気まずくてこれからどうしよう、ってやつだよね?
「ーー付き合うんだ……」
「クリスマスにデートをする」
「ひゃーー!ロマンティックだね!」
あっ、そうだ、ぼくも光とデートなんだ。何するんだろ……、絶対ボーリング場も混んでるよね?
ーーデートか……、いまいちピンとこないな……。景君はいつもどんなデートをしてるんだろーー?例えば、夜景が見えるおしゃれなバーとか、イルミネーションがキレイな……、城とかだったりするのかなーー……(想像力の限界)。
そして、最後は、お風呂があるところ……。
「……う……ん」
想像で泣けるーー、と落ち込むぼくに、泉水君が言った。
「おまえは、ーー景さんに言わないのか?」
「え?」
ポカンと口を開けたまま、ぼくは泉水君の端正な顔を長い間見ていた。
「あの……」
言葉が続かない。何を言ってるの、泉水君……なんで知ってるの!?泉水君ーーーッ!
「双子じゃないよな?あいつらには恋愛感情はもってないだろ?」
「あっ、うん、それは、うんーー」
ない、そこはきっぱり言う。双子っていうか、ぼくは景君以外のひとに恋をしたことがない。
「言わないのか?」
「言わないよ」
「なんで?」
真面目な顔で尋ねられ、ぼくは姿勢を正した。
「ーーそんな、景君がぼくなんかと付き合うわけないし……、家も隣りだし……、……気まずいし……」
彼の輝くような人生に、ぼくが傷をつけるわけにはいかない。ーー景君なら同情で付き合ってくれるかもしれないけど、そんなの、汚点にしかならないよ……。
「ふうん。ーーそれって、その程度の気持ちなんだな」
「え?」
「だってそうだろ?本気だったら、家が隣りとか気まずいとか、気にしてる余裕もないぜ」
「……」
うっ、と言葉に詰まる。泉水君の言ってること、たしかにその通りだと思う。本気の恋ってそうあるべきだって、恋愛に不慣れなぼくだって思うことだよ……。
でもーー……、
「おまえさ……、自分以外のひとと幸せになるところを、黙ってみてられるぐらい人間ができてるっていうよりは、景さんのこと、そこまで好きじゃないんだろ?」
ぼくの気持ちなんかくだらない、とでもいいたげな泉水君の様子に、自然に眉がつり上がった。
「ーーー何言ってんの!ーー好きだよ!死ぬほど好きだよ!景君の恋人なんか、見たくないし、話しかけられても絶対に無視してやろうって思ってるよ!」
「無視って……」
鼻で笑われて、ぼくは唇を噛んだ。なんだよ、自分がうまくいったからって、ぼくだって、ぼくだって……、言えるもんならいってるんだよーー………、
「ーー景君が、………女のひとと付き合ってるのを、ぼくは見てきてるんだよ?……そんなこと、ーーどうしたら言えるんだよ……」
泣き声になりそうになったから、また唇を噛んで我慢する。
「あ……、ーーー悪い……」
申し訳なさそうな顔で泉水君は目を伏せた。ぼくと景君の間には、根本的に越えられない壁がある。これは、ぼくの力だけじゃどうにもならない壁だ。
「ぼくのために……、そこまでしてって言えないよ……。それならぼくは我慢する。景君のためなら自分の気持ちなんか我慢できるからーー」
拳をきつく握って、ぼくは決意を口にした。本当は好きって言いたい……、言いたいーー……。
箸を置いた彼が、「ごちそうさまでした」、と手を合わせた。そのまま困ったような顔で、ぼくのほうを向いた。
「ーーそうだな……。そういう本気もあるよな……。おれは何がなんでも詩さんを幸せにするのはおれだって思ってるけど、おまえはそうなんだな……」
「………」
「言ったほうがスッキリすると思うぜ」
嫌な言い方だけど、泉水君には失うものが何もなさそうだよね……。ぼくは……、やっぱり景君が未来を失ってしまうのが……、怖いよ。
「そのときはね……、後は後悔するだけだよ」
言い切ったぼくに、泉水君はそれ以上は何もいってこなかった。
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