クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡

濃子

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ー9ー 景君

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「ーーきゃあ!」
「やったあぁぁ~~~!」
「ーーもう、こんなに……!」
 なんだか玄関のほうが騒がしくなってきた。詩さんの怒ったような声に、泉水君が立ち上がる。

「誰か来たのか」
 慌てたように台所をでていく彼の、空いた食器を片付ける。そしてぼくも、自分のお皿に残った米粒を指でつまんで口に入れ、食事を終えた。
 さて、子供達が使った食器の洗い物をしなくちゃーー。

「ミノちゃん、景が来たわよ!」
「え?」
 食器を洗おうとスポンジに洗剤をつけたぼくは、驚いて後ろに振り返った。

 ーー嘘だ……、今日は朝からデートに行ったはずだもんーー。……目にしたわけじゃないけど、服装が蓮が読んでる雑誌に載ってるような、デートコーデだったし……。

「け…い…君……」
 なんでいるの?
「お疲れ、実律」
「景ったら、アイスを買ってきてくれたのよ!しかも、高いやつ!」
 詩さんにつつかれて景君が、「ははっ」、と笑った。あーー、さわやかすぎて見てられない……。景君の頭、後光がさしてない?

「実律……」
「ん?」
 景君がぼくの顔に手を伸ばした。えッ!なんで!?ぼくってば、何かあったのーー!?

「……口の下、米粒がついてる」
 景君がぼくの口にさわる。軽くさわられただけなのに、ぼくの身体が異常に反応してビクッて動いちゃったけど、変だと思ってない?

 いや、でも、指先についた米粒を自分の口の中に入れるって、景君、それはだめだよ……。完全にアウトだよーーッ!ぼくの口についてたやつだよ!?ああ、もう!今だけあの米粒になりたいっ!

 心の中でパニックを起こすぼくを気にせずに、景君は余ったアイスを冷凍庫にしまう。
「この後、どうするんだ?」
「プレゼント交換して終わりよ」
「プレゼントも詩が?」
「それは各自が準備してるわよ。何があたるかみんないまからドキドキなの!」
 会話が自然なふたりを、後ろにいる泉水君がひどい顔で睨んでいる。ちょっと、景君を睨むなんて、やめてよね!ふたりは剣道仲間で、親友なんだからーー。

「ーー実律がつけているエプロン……、詩のか?」
「そうよ。うふっ、カワイイでしょ?」
「ーー……」

 ーー詩さん。景君があきれてるから変なこと言わないでよ~!

「似合いすぎだな」
「でしょ?アタシと並んでると、姉妹でも通るわよね!」
「おまえに無理がある」
「ひっどお~~~い!」
 プンプン怒る詩さんに、笑う景君。詩さんのお祖父さんの剣道道場に、通い出した幼稚園年長のときから、いままでずっと仲が良いふたりーー。

 調理師専門校に行って女性の格好をはじめた詩さんだけど、「ゲイだから」、ってまわりにカミングアウトしたのは高校生のときだって……。景君はそれをどんな気持ちで聞いたのかな?自分が対象になってないか、心配したりしたのかなーー?

 ーーけど、詩さんがゲイでも、関係がそのままってことは、景君はそっちの理解があるってことだよね……。


「ーー詩ちゃん!アイス食べた~~~」
「プレゼント交換やろう!」
「はいはいーー、泉水手伝って」
「ああ」
 詩さんにうながされて台所を出ていくときの泉水君……、すっかり彼氏ポジション…っていうのかな、景君を睨んで……、うん、それはダメだよ。

「ぼく、洗い物しときますから」
「あら、後でやるわ」
「いいえ、道場内が暑いから、こっちにいます」
「あー、子供の熱気で暖房いらずよね」
 ふふっ、と笑いながら詩さんは泉水君といなくなった。さてと、かなりの食器の量だねーー。

「俺も洗うよ」
 景君が白のアウターを椅子の背もたれにかける。アウターの下の白のニットって、景君たらぼくのことを殺しにきてるね。こんなの、ちょ、ちょ、直視できるわけないでしょ?

 ーー白い服が多いけど……、景君の中で流行ってるのかな……?

「なんだよ。あー、服?……似合わないだろ?」 
 ぼくの視線に気づいた景君が、照れくさそうに言った。ーーえ?見てたのバレてる?そんなに見てたかな……、うん、視姦レベルでいくとまだ3レベぐらいなんだけど……(なんなんだよ。視姦レベルって。by光)。

「えっと……、ーー無茶苦茶カッコいいよ」
 まるで景君のために作られた服みたいだーー、なんて言えないけど、とてもよく似合ってるから、ぼくはちょっと恥ずかしい……。

 そんなもじもじと挙動不審なぼくを、景君がじっとみてきた。
「……ありがと」
 優しく言われてぼくの心臓が、飛び跳ねる。景君が隣りにいるだけで心拍数がおかしくなるのに、これ以上はヤバいってーー!

 ーーい、息吸わなきゃーーー、景君がいなかったら深呼吸をしてたんだけど、ここは鼻呼吸をがんばらないとーー、はい、鼻で吸って~~、吐いて~~~。

 不自然なぼくに首をかしげながら、景君はスポンジを取った。彼のいつものクセで洗剤をつけた後、スポンジを3回クシュクシュともむ。

 ーーかわいい……、ーーじゃなかった!

「あ、あの……、け、景君は背も高いし足も長いから、なんでも似合うしーー、すごくうらやましい!」
「ーーそうでもないよ。しかし、双子に追いつかれるとは思わなかったな……」
「あーー、そうだね……。蓮も光もいっしょぐらいか……」


『ミノちゃんは大きくてうらやましいわ~』、って言われてたぼくの身長が、まさか166cmで止まるなんてーー、きっと恵さんが一番驚いているよね……。


「うち、父さんも母さんも高いからな」
「たしかに、うちの父さんと母さんはずんぐりむっくりだよね」
「ずんぐりむっくり……、ーーふふふっ」
 こらえきれなかったのか、景君が吹きだした。
「お、おかしかった……?」
「面白すぎる」
 笑いながらお皿を丁寧に洗っていく。成瀬家でも予洗いをしたり、食洗機に入れるのも景君がやってるんだ。ーーあの双子は食べたらそのままで、すぐにソファーに寝転びに行くから……。

「ーーこれ、蓮に売りつけられてさ」
「え?」
「買ったけど、家で着たらイメージと違ってたらしい」
「ーー買ったの?返品しなかったんだ」
「あいつ、レシートを置いてないんだよ。社会人はレシートが大事だぞ」
 実感がこもる声で景君が深く頷いた。ぼくはお皿の泡を流しながら、ずっと笑ってた。ああーー、うれしいな……、景君とふたりで話せるなんて、最近なかったんだもん。

 ーーうれしいな……。



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