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ー10ー 怒ってるの?景君。
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そのとき、机の上からスマホの着信音が聞こえてきた。ぼくのじゃないってことは……、
「ーー電話か……、誰だろ?」
手を洗わせて、とスポンジを置いた景君が、ぼくのほうに手を伸ばしてくる。ぼくは皿ごと自分の手をどけ、景君が洗いやすいようにした。
「ありがと」
さっと手の泡を流した景君が、水を払った手でスマホの画面を押す。
「ーーもしもし」
『あっ、景ー♡今日はありがとーーー』
「スピーカーだった……、ちょっと待っててーー」
『はぁい~、待ってま~す♡』
ーー甘ったるい、鼻にかかるような声……。
景君が自分のアウターのポケットに手を入れようとしているのを見て、ぼくは横からタオルを差し出す。手拭きかけにタオルがないから、ハンカチを取り出そうとしたんだね。ーーごめん、洗う前にかけとけばよかったんだけど……。
にこっと笑った景君がタオルを受け取り、軽く手を拭いてからスマホを持ちあげた。
「ーー悪い。ーーーうん、ーーはいはい………。いやーー、それはちょっと……」
くるっと後ろを向いた景君は、ぼくが知らない声色で会話をしはじめる。景君なのに、景君じゃない声、会社の声とも、友達と話す声でもない、何か特別なひとのための…声ーー……。
……うん、……ーー気にしちゃだめだ……。
「そう、ーー24日にーー……」
「………」
24日……。
電話を終えた景君が、またぼくの隣りで食器を洗いだす。ーー嫌だな……、ぼく普通に話せるかな……?これは、今日の晩も未練たらたら泣き明かしコースになるだろうな……。
「ーー24日だけど」
「えッ!?」
景君てば、ぼくに何を言おうとしてるの!?ーーあっ、クリスマス会ーー……、行けないってことか……。
「う、うん。景君、い、忙しそうだね!やっぱり社会人になると、予定が多くなるのかな!」
「……少しは、な……」
「ーーえと、ーーむ、無理なら、ぼくらは全然いいから!気にしないでね!お、お金だけ、だしてもらうのも、ホント申し訳ないからだめだよーー!」
ーーいつまでも子供のときのようにはいかないんだーー。蓮と光にも、来年からはナシだってちゃんと言おう。家族となら別日だっていいし、特別な日は……それこそ特別なひとと過ごさなきゃ………。
ぼくは動揺を隠すために必死になりすぎて、何をしゃべっているのか、自分でもわかっていなかった。だから、景君の表情から笑みが消えていくことに、少しも気づかなかったんだーー。
「……それって、ーー3人で楽しみたいってこと?」
「え?」
少し怒ったようなものの言い方に、ぼくはドキッとなる。景君が、ーー怒るなんて……。光にお説教をするときとは違う、普通に不機嫌になっている……。
なんで?
ぼくと景君は無言のまま、食器を片付ける。ぼくは景君の何を怒らせたんだろう……、景君はぼくの何に怒っているんだろう?
「ーー……」
静かすぎる部屋に、道場からひときわ大きなはしゃぎ声が流れ込んできた。
「ありがとうございました!」
「すっごく楽しかった~~~!」
「詩さんの料理、美味しすぎ!」
「ありがと~。また明日のお昼、くる子は来てね!」
「絶対くるーーー!」
「お邪魔しました~!」
玄関からお礼を言って帰っていく子供達の満足そうな声に、ホッとしたいところだけど、ーーそんな感じじゃない……。
「ーー終わったみたいだね……」
同じ建物の中なのに、向こうとこっちの温度が真逆だ。シーンとした冷たい沈黙の中、ぼくは食器を片付ける。震えてきそうな手を動かして、拭いた食器を棚入れてーー………、
ガシャーン!
しまった!手がすべった!
「あっ」
「さわるな!」
割れた食器をつかもうとして屈んだぼくの耳に、景君の焦った声が聞こえる。
「ーー俺が片付けるから」
「そんなーー、ぼくが割ったんだから、ぼくが片付けるよ」
「危ないだろ」
「ーーこ、子供じゃないし」
「子供だなんて思っていない。実律が怪我するのが嫌だから言ってるんだ」
…………、
ぶわっと顔が熱くなってくる。
そんなことを景君に言われて、ーーぼくはどうしたらいい?目の前で景君が割れた食器を片付けてくれてるのに、動くこともできないーー、ぼくがやったことなのに、なんでぼくは自分でやらないの?
だって、ーーだって………。
「ーーきれいに割れてるけど、細かい破片があるな……。実律、そこの粘着テープをとってくれないか?」
「…………」
「実律?」
「ーーあっ!な、な、なに!」
我に返ったぼくの目に入ってきたのは、困惑している景君の顔だ。
「ーー粘着テープを……」
「あ!これね!け、景君、ガムテって言ってよ!ぼ、ぼく、ばかだからわかんなかったよーーー!」
「………」
テープを渡したぼくは、鏡を見なくてもわかる……、ひどい茹でダコ状態だろう。
ーーあーー、もうっ!ぼくのばか!最悪だよっ!なんで景君に片付けさせてるの!家では自分でやってるだろ?ーーだって……、だって、こんなのまるでーー、………まるで…、ーーお姫様扱いみたいで………。
「……ありがとう、景君」
ドキドキする胸がバレないように、苦しい胸のうちを悟られないように……、ぼくは必死でごまかそうとした。
「ーーああ」
でも、ふいっと景君に視線をはずされて、泣きそうになってくる。ぼくが悪いんだからしょうがないけど、……。
「ーー実律……、体調が、良くないのか?」
「え……」
「いや、……その……、ーー顔が赤い………」
「!」
勢いよく伏せた顔を、どうしたらいいんだーー?ノープランだよ、これからぼくはどうするの?なんて言ったらいいんだろーー……。
「実律ーー」
「ーーミノちゃん!ありがとう~!お疲れ様!ついでに景もーー!」
「……ついでって」
天の助けかってくらいの、絶妙なタイミングで詩さんが台所に入ってきた。元気な詩さんの声に、ぼくは救われる思いだよ。
「お腹空いてない?」
「ない。奢りで昼を食べてきた」
「あら、残念。と~っても美味しい唐揚げがあるのに~~~」
「ーー唐揚げなら、実律のが一番美味いよ」
「まあ!食べてみたいわ!」
「け、景君……」
……お世辞すぎです。ーーもう、恥ずかしいことは言わないでほしいよ……。
「ーー電話か……、誰だろ?」
手を洗わせて、とスポンジを置いた景君が、ぼくのほうに手を伸ばしてくる。ぼくは皿ごと自分の手をどけ、景君が洗いやすいようにした。
「ありがと」
さっと手の泡を流した景君が、水を払った手でスマホの画面を押す。
「ーーもしもし」
『あっ、景ー♡今日はありがとーーー』
「スピーカーだった……、ちょっと待っててーー」
『はぁい~、待ってま~す♡』
ーー甘ったるい、鼻にかかるような声……。
景君が自分のアウターのポケットに手を入れようとしているのを見て、ぼくは横からタオルを差し出す。手拭きかけにタオルがないから、ハンカチを取り出そうとしたんだね。ーーごめん、洗う前にかけとけばよかったんだけど……。
にこっと笑った景君がタオルを受け取り、軽く手を拭いてからスマホを持ちあげた。
「ーー悪い。ーーーうん、ーーはいはい………。いやーー、それはちょっと……」
くるっと後ろを向いた景君は、ぼくが知らない声色で会話をしはじめる。景君なのに、景君じゃない声、会社の声とも、友達と話す声でもない、何か特別なひとのための…声ーー……。
……うん、……ーー気にしちゃだめだ……。
「そう、ーー24日にーー……」
「………」
24日……。
電話を終えた景君が、またぼくの隣りで食器を洗いだす。ーー嫌だな……、ぼく普通に話せるかな……?これは、今日の晩も未練たらたら泣き明かしコースになるだろうな……。
「ーー24日だけど」
「えッ!?」
景君てば、ぼくに何を言おうとしてるの!?ーーあっ、クリスマス会ーー……、行けないってことか……。
「う、うん。景君、い、忙しそうだね!やっぱり社会人になると、予定が多くなるのかな!」
「……少しは、な……」
「ーーえと、ーーむ、無理なら、ぼくらは全然いいから!気にしないでね!お、お金だけ、だしてもらうのも、ホント申し訳ないからだめだよーー!」
ーーいつまでも子供のときのようにはいかないんだーー。蓮と光にも、来年からはナシだってちゃんと言おう。家族となら別日だっていいし、特別な日は……それこそ特別なひとと過ごさなきゃ………。
ぼくは動揺を隠すために必死になりすぎて、何をしゃべっているのか、自分でもわかっていなかった。だから、景君の表情から笑みが消えていくことに、少しも気づかなかったんだーー。
「……それって、ーー3人で楽しみたいってこと?」
「え?」
少し怒ったようなものの言い方に、ぼくはドキッとなる。景君が、ーー怒るなんて……。光にお説教をするときとは違う、普通に不機嫌になっている……。
なんで?
ぼくと景君は無言のまま、食器を片付ける。ぼくは景君の何を怒らせたんだろう……、景君はぼくの何に怒っているんだろう?
「ーー……」
静かすぎる部屋に、道場からひときわ大きなはしゃぎ声が流れ込んできた。
「ありがとうございました!」
「すっごく楽しかった~~~!」
「詩さんの料理、美味しすぎ!」
「ありがと~。また明日のお昼、くる子は来てね!」
「絶対くるーーー!」
「お邪魔しました~!」
玄関からお礼を言って帰っていく子供達の満足そうな声に、ホッとしたいところだけど、ーーそんな感じじゃない……。
「ーー終わったみたいだね……」
同じ建物の中なのに、向こうとこっちの温度が真逆だ。シーンとした冷たい沈黙の中、ぼくは食器を片付ける。震えてきそうな手を動かして、拭いた食器を棚入れてーー………、
ガシャーン!
しまった!手がすべった!
「あっ」
「さわるな!」
割れた食器をつかもうとして屈んだぼくの耳に、景君の焦った声が聞こえる。
「ーー俺が片付けるから」
「そんなーー、ぼくが割ったんだから、ぼくが片付けるよ」
「危ないだろ」
「ーーこ、子供じゃないし」
「子供だなんて思っていない。実律が怪我するのが嫌だから言ってるんだ」
…………、
ぶわっと顔が熱くなってくる。
そんなことを景君に言われて、ーーぼくはどうしたらいい?目の前で景君が割れた食器を片付けてくれてるのに、動くこともできないーー、ぼくがやったことなのに、なんでぼくは自分でやらないの?
だって、ーーだって………。
「ーーきれいに割れてるけど、細かい破片があるな……。実律、そこの粘着テープをとってくれないか?」
「…………」
「実律?」
「ーーあっ!な、な、なに!」
我に返ったぼくの目に入ってきたのは、困惑している景君の顔だ。
「ーー粘着テープを……」
「あ!これね!け、景君、ガムテって言ってよ!ぼ、ぼく、ばかだからわかんなかったよーーー!」
「………」
テープを渡したぼくは、鏡を見なくてもわかる……、ひどい茹でダコ状態だろう。
ーーあーー、もうっ!ぼくのばか!最悪だよっ!なんで景君に片付けさせてるの!家では自分でやってるだろ?ーーだって……、だって、こんなのまるでーー、………まるで…、ーーお姫様扱いみたいで………。
「……ありがとう、景君」
ドキドキする胸がバレないように、苦しい胸のうちを悟られないように……、ぼくは必死でごまかそうとした。
「ーーああ」
でも、ふいっと景君に視線をはずされて、泣きそうになってくる。ぼくが悪いんだからしょうがないけど、……。
「ーー実律……、体調が、良くないのか?」
「え……」
「いや、……その……、ーー顔が赤い………」
「!」
勢いよく伏せた顔を、どうしたらいいんだーー?ノープランだよ、これからぼくはどうするの?なんて言ったらいいんだろーー……。
「実律ーー」
「ーーミノちゃん!ありがとう~!お疲れ様!ついでに景もーー!」
「……ついでって」
天の助けかってくらいの、絶妙なタイミングで詩さんが台所に入ってきた。元気な詩さんの声に、ぼくは救われる思いだよ。
「お腹空いてない?」
「ない。奢りで昼を食べてきた」
「あら、残念。と~っても美味しい唐揚げがあるのに~~~」
「ーー唐揚げなら、実律のが一番美味いよ」
「まあ!食べてみたいわ!」
「け、景君……」
……お世辞すぎです。ーーもう、恥ずかしいことは言わないでほしいよ……。
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