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ー6ー 泉水君の告白
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「ーー豪華な飾り付けですね!」
剣道道場を改装して、子供達の寄り場にした室内は、いつもは壁に子供達が描いた絵やラクガキがあるだけなのに、今日は風船や、赤と緑のイルミネーションが吊るされている。
ーー去年はちょっと大きいツリーがあるだけだったのに……。今年のツリーは、……ヤバいな……。
天井まで届いているツリーをみあげて、ぼくは無意識につぶやいた。
「ーーすごい……、気合いが入ってる……」
「ふふっ、泉水がクリスマス会なんてしたことないって言うから、はりきっちゃったわ」
その言葉を聞いて、泉水君が照れたように少し笑った。ーー泉水君、笑うんだ……はじめてみたかも……。
ーー笑うとかわいいんだね……、言ったら引かれるかな?
「………叔父さんは、そういうことはしなかったから……」
「あ……」
そっか……、泉水君には両親がいないから……、家族イベントの思い出が、ないのかーー………。まったくないってことはないだろうけど、まわりの話を聞くと、うちと景君の家はいろいろやりすぎてるほうだもんね……。
「ここを出て行くまでは、たくさんやってあげようと思ってねーー」
まかせといて、って詩さんが胸を叩く。ーー良い人だな……、ーー例えば詩さんが女性だったら、きっと景君とお似合いだと思うし、ぼくも絶対に祝福する……。
ーー詩さんなら、ぼくはーー…
複雑な想いを抱きながら、ぼくは詩さんの男にしては愛らしい顔を見た。でも、泉水君はその顔を、とてもまぶしそうな目で見ていたんだ。
「詩さん」
静かに口を開いた泉水君が、何か決意をしたような顔をしてる。
「何?泉水……」
明るく返事をした詩さんだけど、泉水君の強い目に顔から笑みが消えた。
「おれは、ーーここを出ていきません」
「え?ーーああ、結婚するまではいてくれていいのよ」
「一生、詩さんと暮らしたい」
「!」
「一生って、ーーーえッ!?」
突然の泉水君の告白に、ぼくは口を押さえて叫ぶのを我慢した。だけど、詩さんからはとんでもないぐらい大きな叫び声がでる。
「な、な、何言ってんの!あんた、まだ未成年なのにお酒を飲んだのね!?」
「真剣です。真剣に、おれは本気で詩さんが好きです!」
「泉水………」
見つめ合ったまま、ふたりは何も言わない。ーーえっと、これぼくはどうしたらいいんだろ……、ク、クリスマス会の、じゅ、準備したほうがいいよね?
「ーーあ、あの、ぼく、台所に行きますね……」
「あっ、ごめん!ミノちゃん。ーー泉水、あんたまだ若いんだから、一生なんて口にしちゃダメよ!」
「ーーーごまかすんだ」
「そうじゃない。アタシはあんたの未来をつぶすことなんかしたくない!ーー絶対に後悔するよ!」
泉水君のことを本当に案じるような口調で、詩さんが言った。でも、その言葉を受けても泉水君の表情は少しも変わらない。むしろ、さらに決意を強めるように言葉を続けた。
「詩さん、おれは知ってる」
「……あら、何を?」
「人間は、必ず後悔するんだ」
「………」
「おれの母親は、ガンの治療を後回しにしておれを産んでくれた。治療をするには中絶しなきゃならなかったからだ」
「泉水…君……」
「でも、母さんは、俺を産んだことを後悔してないって。ーーただ、俺を育てられなくて悔しいって言って亡くなったそうだけど……」
「……」
「だから、おれは詩さんと一生いる。詩さんと離れることが、俺にとって100%の後悔になるからだ」
「……泉水、そんなこといま決めないで、冷静になりなさいよ。一緒にいても後悔するんでしょ?」
「後悔してるのは、『おれが頼りない』、ってことをだ。グレたりなんかしないで、もっと運動や勉強をやっておけば、今すぐ詩さんを守れる男になってたかもしれないのに……。
けど、おれだって必ず頼りになる男になるから、おれを一生、詩さんの側に置いてくれよ!」
普段からは考えられない泉水君の情熱的な告白に、ぼくの胸のドキドキがとまらない。側にいるだけなのに彼の熱量に圧倒されて、ぼくまで告白を受けているような気持ちになってしまうよ。
「泉水、あんたねーー」
「詩さんがおれの将来を想って、おれの気持ちを拒絶するなら、遠慮なんかしない。少なくともおれのことを嫌ってわけじゃないんだろ?」
「ーーーもうっ、泉水ったら……」
詩さんは泣き出しそうな顔を引っ込めて、泉水君に笑顔を見せた。ふたりは寄り添うように近づいていき、そんなふたりにぼくの顔はトマトよりも赤くなる。
「詩さん……」
「泉水……」
いや、ちょっとまって。完全にぼくったら空気が読めないやつだ。そっと、音を立てないように、なんとか静かに台所に行かないとーー………。
がちゃんっ。
ーーぼくのばか~~~~!
なんでまた机にあたるの!
「あ、あら、ミノ君……」
「ーー大丈夫か?」
「う、う、うん……。すみません……」
ねえ、お願いだから、泉水君。
ぼくのこと、睨まないでください~~~!
剣道道場を改装して、子供達の寄り場にした室内は、いつもは壁に子供達が描いた絵やラクガキがあるだけなのに、今日は風船や、赤と緑のイルミネーションが吊るされている。
ーー去年はちょっと大きいツリーがあるだけだったのに……。今年のツリーは、……ヤバいな……。
天井まで届いているツリーをみあげて、ぼくは無意識につぶやいた。
「ーーすごい……、気合いが入ってる……」
「ふふっ、泉水がクリスマス会なんてしたことないって言うから、はりきっちゃったわ」
その言葉を聞いて、泉水君が照れたように少し笑った。ーー泉水君、笑うんだ……はじめてみたかも……。
ーー笑うとかわいいんだね……、言ったら引かれるかな?
「………叔父さんは、そういうことはしなかったから……」
「あ……」
そっか……、泉水君には両親がいないから……、家族イベントの思い出が、ないのかーー………。まったくないってことはないだろうけど、まわりの話を聞くと、うちと景君の家はいろいろやりすぎてるほうだもんね……。
「ここを出て行くまでは、たくさんやってあげようと思ってねーー」
まかせといて、って詩さんが胸を叩く。ーー良い人だな……、ーー例えば詩さんが女性だったら、きっと景君とお似合いだと思うし、ぼくも絶対に祝福する……。
ーー詩さんなら、ぼくはーー…
複雑な想いを抱きながら、ぼくは詩さんの男にしては愛らしい顔を見た。でも、泉水君はその顔を、とてもまぶしそうな目で見ていたんだ。
「詩さん」
静かに口を開いた泉水君が、何か決意をしたような顔をしてる。
「何?泉水……」
明るく返事をした詩さんだけど、泉水君の強い目に顔から笑みが消えた。
「おれは、ーーここを出ていきません」
「え?ーーああ、結婚するまではいてくれていいのよ」
「一生、詩さんと暮らしたい」
「!」
「一生って、ーーーえッ!?」
突然の泉水君の告白に、ぼくは口を押さえて叫ぶのを我慢した。だけど、詩さんからはとんでもないぐらい大きな叫び声がでる。
「な、な、何言ってんの!あんた、まだ未成年なのにお酒を飲んだのね!?」
「真剣です。真剣に、おれは本気で詩さんが好きです!」
「泉水………」
見つめ合ったまま、ふたりは何も言わない。ーーえっと、これぼくはどうしたらいいんだろ……、ク、クリスマス会の、じゅ、準備したほうがいいよね?
「ーーあ、あの、ぼく、台所に行きますね……」
「あっ、ごめん!ミノちゃん。ーー泉水、あんたまだ若いんだから、一生なんて口にしちゃダメよ!」
「ーーーごまかすんだ」
「そうじゃない。アタシはあんたの未来をつぶすことなんかしたくない!ーー絶対に後悔するよ!」
泉水君のことを本当に案じるような口調で、詩さんが言った。でも、その言葉を受けても泉水君の表情は少しも変わらない。むしろ、さらに決意を強めるように言葉を続けた。
「詩さん、おれは知ってる」
「……あら、何を?」
「人間は、必ず後悔するんだ」
「………」
「おれの母親は、ガンの治療を後回しにしておれを産んでくれた。治療をするには中絶しなきゃならなかったからだ」
「泉水…君……」
「でも、母さんは、俺を産んだことを後悔してないって。ーーただ、俺を育てられなくて悔しいって言って亡くなったそうだけど……」
「……」
「だから、おれは詩さんと一生いる。詩さんと離れることが、俺にとって100%の後悔になるからだ」
「……泉水、そんなこといま決めないで、冷静になりなさいよ。一緒にいても後悔するんでしょ?」
「後悔してるのは、『おれが頼りない』、ってことをだ。グレたりなんかしないで、もっと運動や勉強をやっておけば、今すぐ詩さんを守れる男になってたかもしれないのに……。
けど、おれだって必ず頼りになる男になるから、おれを一生、詩さんの側に置いてくれよ!」
普段からは考えられない泉水君の情熱的な告白に、ぼくの胸のドキドキがとまらない。側にいるだけなのに彼の熱量に圧倒されて、ぼくまで告白を受けているような気持ちになってしまうよ。
「泉水、あんたねーー」
「詩さんがおれの将来を想って、おれの気持ちを拒絶するなら、遠慮なんかしない。少なくともおれのことを嫌ってわけじゃないんだろ?」
「ーーーもうっ、泉水ったら……」
詩さんは泣き出しそうな顔を引っ込めて、泉水君に笑顔を見せた。ふたりは寄り添うように近づいていき、そんなふたりにぼくの顔はトマトよりも赤くなる。
「詩さん……」
「泉水……」
いや、ちょっとまって。完全にぼくったら空気が読めないやつだ。そっと、音を立てないように、なんとか静かに台所に行かないとーー………。
がちゃんっ。
ーーぼくのばか~~~~!
なんでまた机にあたるの!
「あ、あら、ミノ君……」
「ーー大丈夫か?」
「う、う、うん……。すみません……」
ねえ、お願いだから、泉水君。
ぼくのこと、睨まないでください~~~!
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