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青生り
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咲良の右手を握っていた、瑞樹の左手。
そこに青い勾玉が現れる。
「これが、青生の勾玉……!」
青い光の中、石蕗王が目を見開いて近づいてくる。
「そうだ、これが青生の巫女姫に代々受け継がれる勾玉。双子の片割れを贄にして生まれる、生命の宝玉」
瑞樹は泣きながら顔を上げた。
「これが欲しくて青生の国に来たんだろ? そんなに欲しいのなら、命を生み出す勾玉の力、おまえの体で試すがいい!」
勾玉が発光した。
その瞬間、地面からいっせいに植物の芽が吹き出した。
「おおおおおおお!?」
緑は急速に成長を始め、石蕗王の体に覆いかぶさっていく。もがく腕も絡め取られて、抜け出すことはできない。
「うあああああああああ! 違う、わたしが求めたのは!!!」
「黄泉路で悔いるがいい、欲深なる王よ。人に新しい命を生み出す力はあっても、失われゆくものを取り戻すことは出来ない。それが天原の神々が決めた理だ」
老齢の王が、成長していく木々に押し潰されていく。噴きだした赤い飛沫すら、青い芽に飲まれて消えていく。
やがて緑の成長は止まり、そこには蔦の絡みあう巨木がそびえているのみとなった。
そして、瑞樹の左手には青い勾玉が残された。
石蕗王は死に、配下の者も追い立てられて姿を消した。
長い間奴隷となっていた青生の民は解放された。
「巫女姫様、御待ちしておりました。極寒の暮らしを続ける我々に、いつか必ず春をもたらしてくださると。成人の儀もつつがなく終わりましたことをお喜び申し上げます」
奴隷として里に残り、長い間青生の民をまとめていた男が、恭しく頭を下げた。
瑞樹は左手の勾玉を握り締めた。
咲良はもういない。
二度と帰ってこない。
里は取り戻しても、もう自分の片割れに会うことはない。
けれど、民を前にして自分一人が悲嘆にくれるわけにはいかなかった。
咲良だったら、そんなことは絶対にしない。きっと周囲の者たちを優先する。
自分はもはや巫女姫として民を導く存在になったのだ。
双子の片割れが願っていた通りに。
「瑞樹様……」
笹彦が遠慮がちに声をかけてくる。
瑞樹は涙を振り払った。そして自分を待ってくれていた民たちに向き合った。その顔は、すでに王家の人間としての威厳に満ちていた。
「待たせたな、みんな」
そう言って、瑞樹は涙をこらえて笑った。
一度焼き払った里には新しく住居が建てられ始めた。
貯蔵庫の物資は避難させていたし、勾玉があれば食糧に困ることもない。国の再建はそう難しくはないだろう。
「笹彦、寝不足か?」
瑞樹が声をかけると、うたたねをしていた笹彦は飛び上がった。
瑞樹は男装をやめ、巫女装束をまとっていた。勇ましかった彼女も、こうなれば美しい娘だ。言葉遣いも多少改めたらしく、民の前ではしっかりと治世者として振舞っていた。
「も、申し訳ありませぬ」
笹彦は慌てて居住まいを正した。二人は国の再建に向けて話し合っているところだった。
「おまえが武勇に長けているのは知っていたが、まさか政まで得意だとは思わなかったぞ。その有能な配下に相談に乗ってもらえぬとは、深刻な事態なのだが」
「はい、面目ございませぬ」
「そういえば近頃、他国の王子どもが何度かわたしの寝所に夜這いをかけたそうなのだが、皆こっぴどく叩きのめされて帰ったそうな。相当武芸の腕前がある者が見張りをしてくれているらしい。誰がそんなことをしているのか心当たりはないか」
「いいえ、全く」
くっきりと隈を作っている笹彦の顔を見ながら、瑞樹は苦笑する。
「この頑固者め……。まあいい。馬を持ってきてくれ、国を見てくる」
瑞樹は一人で外に出た。
奴隷から解放された青生の民は、明るく活気に満ちていた。瑞樹が現れると気さくに声をかけてきてくれる。
やがて桜の木のある丘にやってきた。
春になって花が咲いている。吹雪のように花びらが散っていく。
瑞樹は手を上に差し出した。
かつて咲良がいた左の掌に、薄紅色の桜の花びらが乗った。
もう二度と会うことのない、自分の半身。
ぶわっと、熱いものが溢れて視界がぼやけた。
「見えないよ、咲良。こんなに綺麗なのに、全然見えない」
でもそれでは咲良は喜ばないだろう。彼はいつも瑞樹の眼を通して同じものを見ていると言っていた。
瑞樹は涙をぬぐい、何度も眼を瞬いた。緑にあふれるこの土地をしっかりと瞼に焼き付ける。咲良にも同じものが見られるように。
地に草花芽吹きて青と生る――ハルトナル。
その地を青生りとぞ云ふなり。
『青生り~ハルナリ~』
了
そこに青い勾玉が現れる。
「これが、青生の勾玉……!」
青い光の中、石蕗王が目を見開いて近づいてくる。
「そうだ、これが青生の巫女姫に代々受け継がれる勾玉。双子の片割れを贄にして生まれる、生命の宝玉」
瑞樹は泣きながら顔を上げた。
「これが欲しくて青生の国に来たんだろ? そんなに欲しいのなら、命を生み出す勾玉の力、おまえの体で試すがいい!」
勾玉が発光した。
その瞬間、地面からいっせいに植物の芽が吹き出した。
「おおおおおおお!?」
緑は急速に成長を始め、石蕗王の体に覆いかぶさっていく。もがく腕も絡め取られて、抜け出すことはできない。
「うあああああああああ! 違う、わたしが求めたのは!!!」
「黄泉路で悔いるがいい、欲深なる王よ。人に新しい命を生み出す力はあっても、失われゆくものを取り戻すことは出来ない。それが天原の神々が決めた理だ」
老齢の王が、成長していく木々に押し潰されていく。噴きだした赤い飛沫すら、青い芽に飲まれて消えていく。
やがて緑の成長は止まり、そこには蔦の絡みあう巨木がそびえているのみとなった。
そして、瑞樹の左手には青い勾玉が残された。
石蕗王は死に、配下の者も追い立てられて姿を消した。
長い間奴隷となっていた青生の民は解放された。
「巫女姫様、御待ちしておりました。極寒の暮らしを続ける我々に、いつか必ず春をもたらしてくださると。成人の儀もつつがなく終わりましたことをお喜び申し上げます」
奴隷として里に残り、長い間青生の民をまとめていた男が、恭しく頭を下げた。
瑞樹は左手の勾玉を握り締めた。
咲良はもういない。
二度と帰ってこない。
里は取り戻しても、もう自分の片割れに会うことはない。
けれど、民を前にして自分一人が悲嘆にくれるわけにはいかなかった。
咲良だったら、そんなことは絶対にしない。きっと周囲の者たちを優先する。
自分はもはや巫女姫として民を導く存在になったのだ。
双子の片割れが願っていた通りに。
「瑞樹様……」
笹彦が遠慮がちに声をかけてくる。
瑞樹は涙を振り払った。そして自分を待ってくれていた民たちに向き合った。その顔は、すでに王家の人間としての威厳に満ちていた。
「待たせたな、みんな」
そう言って、瑞樹は涙をこらえて笑った。
一度焼き払った里には新しく住居が建てられ始めた。
貯蔵庫の物資は避難させていたし、勾玉があれば食糧に困ることもない。国の再建はそう難しくはないだろう。
「笹彦、寝不足か?」
瑞樹が声をかけると、うたたねをしていた笹彦は飛び上がった。
瑞樹は男装をやめ、巫女装束をまとっていた。勇ましかった彼女も、こうなれば美しい娘だ。言葉遣いも多少改めたらしく、民の前ではしっかりと治世者として振舞っていた。
「も、申し訳ありませぬ」
笹彦は慌てて居住まいを正した。二人は国の再建に向けて話し合っているところだった。
「おまえが武勇に長けているのは知っていたが、まさか政まで得意だとは思わなかったぞ。その有能な配下に相談に乗ってもらえぬとは、深刻な事態なのだが」
「はい、面目ございませぬ」
「そういえば近頃、他国の王子どもが何度かわたしの寝所に夜這いをかけたそうなのだが、皆こっぴどく叩きのめされて帰ったそうな。相当武芸の腕前がある者が見張りをしてくれているらしい。誰がそんなことをしているのか心当たりはないか」
「いいえ、全く」
くっきりと隈を作っている笹彦の顔を見ながら、瑞樹は苦笑する。
「この頑固者め……。まあいい。馬を持ってきてくれ、国を見てくる」
瑞樹は一人で外に出た。
奴隷から解放された青生の民は、明るく活気に満ちていた。瑞樹が現れると気さくに声をかけてきてくれる。
やがて桜の木のある丘にやってきた。
春になって花が咲いている。吹雪のように花びらが散っていく。
瑞樹は手を上に差し出した。
かつて咲良がいた左の掌に、薄紅色の桜の花びらが乗った。
もう二度と会うことのない、自分の半身。
ぶわっと、熱いものが溢れて視界がぼやけた。
「見えないよ、咲良。こんなに綺麗なのに、全然見えない」
でもそれでは咲良は喜ばないだろう。彼はいつも瑞樹の眼を通して同じものを見ていると言っていた。
瑞樹は涙をぬぐい、何度も眼を瞬いた。緑にあふれるこの土地をしっかりと瞼に焼き付ける。咲良にも同じものが見られるように。
地に草花芽吹きて青と生る――ハルトナル。
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