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第5話 教室に二人
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「梢ー。そろそろ帰らない?」
一緒に作業していたクラスメートの声が降ってきた。
梢は顔を上げる。
「ごめん! あとちょっとだけ。先帰ってて!」
そう断って、梢はすぐに作業に戻った。
梢の真下には、文化祭で使う垂れ幕が横たわっている。
文化祭の一週間前から飾られ、各クラスの出し物の広告塔となるものだ。垂れ幕にも賞が設けられているため、毎年みんな気合が入っている。クラスの演劇に参加しない梢は、この垂れ幕部門のリーダーを任されていた。
「ごめんね、明日はもっと遅くまで残れるから」
「私も明日また手伝うから、無理しちゃだめだよ」
帰り支度を進めつつも、みんなそんな風に優しく声をかけてくれる。なんだかんだで良いクラスだな、と改めて梢は思った。
一人になった教室で、梢は黙々と作業を進める。どうしても下書きだけは今日中に完成しておきたかった。途中で時間をあけてしまうと、全体を見た時のバランスがおかしくなってしまう気がする。下書きさえできてしまえば、あとは着色がメインだ──その段階にさえ入れば、明日からみんなにもっと手伝ってもらえる。
梢は手になじんできた白チャコをせっせと動かし続けた。
(暗い……)
ふと気づけば教室は夕闇に包まれている。いつのまにか結構な時間が経っていたらしい。
もうすぐ下書きが完成するところなのに、薄暗くて手元が見にくかった。
(ちょっと電気つけよう)
そう思って立ち上がりかけた時だった。
教室の電気が一斉にパッとつく。その眩しさに梢は目を細めた。
「──あれ? 中山さん?」
声のした方を振り返ると、そこには相原くんが立っていた。電気をつけたのは彼らしい。部活は終わったのか、もう制服姿だった。
「……ああ、相原くん。部活お疲れ様」
改めて向き合うと、やっぱりかっこいいなあと思う。
それでも、胸を満たすのはときめきと言うよりも、静かで穏やかな幸福感だった。以前のような、苦しいほどのドキドキじゃない。
「サンキュ。中山さんは文化祭の準備? もうけっこう遅いけど……」
相原くんはそう言って、自分の席へと向かう。
梢がいる教室の後ろのスペースにわりと近い場所だ。
「うん、垂れ幕。もうちょっとで終わりそうで」
そう答えて、梢は最後の仕上げに取りかかる。
「相原くんは? どうしたの?」
手を動かしながらそう尋ねると、相原くんが振り返った気配があった。
「忘れ物とりにきたんだけど」
そう言って梢の隣まで来ると、相原くんはその場にしゃがみこんだ。
「……あの、なんか手伝えることある?」
梢はびっくりして顔を上げる。
「え、そんな、大丈夫! もうあと、ほんとにちょっとだし」
そう言って微笑む。その気遣いだけで十分だった。
「じゃあ片付け手伝うよ。あとで戻ってくるから」
そう言って相原くんは教室を出て行った。
梢は彼が出て行ったドアをぼんやりと見つめる。
(なんか、非の打ち所がないよね……)
特別モテるという話は聞かないけれど、相原くんのファンは絶対に多いと思う。
一緒に作業していたクラスメートの声が降ってきた。
梢は顔を上げる。
「ごめん! あとちょっとだけ。先帰ってて!」
そう断って、梢はすぐに作業に戻った。
梢の真下には、文化祭で使う垂れ幕が横たわっている。
文化祭の一週間前から飾られ、各クラスの出し物の広告塔となるものだ。垂れ幕にも賞が設けられているため、毎年みんな気合が入っている。クラスの演劇に参加しない梢は、この垂れ幕部門のリーダーを任されていた。
「ごめんね、明日はもっと遅くまで残れるから」
「私も明日また手伝うから、無理しちゃだめだよ」
帰り支度を進めつつも、みんなそんな風に優しく声をかけてくれる。なんだかんだで良いクラスだな、と改めて梢は思った。
一人になった教室で、梢は黙々と作業を進める。どうしても下書きだけは今日中に完成しておきたかった。途中で時間をあけてしまうと、全体を見た時のバランスがおかしくなってしまう気がする。下書きさえできてしまえば、あとは着色がメインだ──その段階にさえ入れば、明日からみんなにもっと手伝ってもらえる。
梢は手になじんできた白チャコをせっせと動かし続けた。
(暗い……)
ふと気づけば教室は夕闇に包まれている。いつのまにか結構な時間が経っていたらしい。
もうすぐ下書きが完成するところなのに、薄暗くて手元が見にくかった。
(ちょっと電気つけよう)
そう思って立ち上がりかけた時だった。
教室の電気が一斉にパッとつく。その眩しさに梢は目を細めた。
「──あれ? 中山さん?」
声のした方を振り返ると、そこには相原くんが立っていた。電気をつけたのは彼らしい。部活は終わったのか、もう制服姿だった。
「……ああ、相原くん。部活お疲れ様」
改めて向き合うと、やっぱりかっこいいなあと思う。
それでも、胸を満たすのはときめきと言うよりも、静かで穏やかな幸福感だった。以前のような、苦しいほどのドキドキじゃない。
「サンキュ。中山さんは文化祭の準備? もうけっこう遅いけど……」
相原くんはそう言って、自分の席へと向かう。
梢がいる教室の後ろのスペースにわりと近い場所だ。
「うん、垂れ幕。もうちょっとで終わりそうで」
そう答えて、梢は最後の仕上げに取りかかる。
「相原くんは? どうしたの?」
手を動かしながらそう尋ねると、相原くんが振り返った気配があった。
「忘れ物とりにきたんだけど」
そう言って梢の隣まで来ると、相原くんはその場にしゃがみこんだ。
「……あの、なんか手伝えることある?」
梢はびっくりして顔を上げる。
「え、そんな、大丈夫! もうあと、ほんとにちょっとだし」
そう言って微笑む。その気遣いだけで十分だった。
「じゃあ片付け手伝うよ。あとで戻ってくるから」
そう言って相原くんは教室を出て行った。
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