社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa

文字の大きさ
116 / 201
第3章・残念なドラゴンニュートの女の子

113:風獣に気をつけて

しおりを挟む
 イローナちゃんに変わってエッタさんが、前衛としてカルロと戦闘する事になった。カルロからしたら後衛のエルフが、前衛として自分と戦うのかと驚いている。
 後衛をやるようなエルフは、前衛なんてもってのほかと言うくらいの事であり、それをエッタさんがやろうとしている。その場に俺がいても驚いて、本当にやるのかとエッタさんに聞いていたかもしれない。エッタさんの意思は固いものだ。


「私が前衛をやれないって思ってるでしょ? そう思っているところが、貴方の敗因になるわ」

「もう思っちゃいないさ。それだけの自信があるって事は、何か秘策でもあるに決まってる………なら、油断するわけがない。俺は覚悟を決めたのなら女性でも本気で相手になるさ」


 エッタさんの目を見たカルロは、かなり本気の目をしていて何かの秘策があって言っているのだと確信する。それならば、女だといって侮るのは危険だと経験から感じている。
 エッタさんとカルロは互いの目から、視線を外す事なくバチバチッという効果音が聞こえてきそうだ。こういうのは不良の世界でも動物の世界でも、視線を外した方が気持ち的に負けるという鉄則が存在している。それをエッタさんは、生まれつきの感覚で感じ取って行なっているみたいだ。
 そしてメンチを切って少し経ったところで、エッタさんはイローナちゃんにも優らずとも劣らない速度で、カルロの懐に容易に侵入するのである。その侵入する速度に、さすがのカルロも驚いて体重を後ろに下げてしまった。


「うぉっ!? 後衛の速度じゃないぞ!?」

「それは、どうも。これでも昔から、なんでもやればできる子だったんで!!」

・風魔法Level4《ウィンド・スピアー》
・火魔法Level2《ファイヤーエンチャント》
――火神の剛槍ブリギッド・スピアー――

「さすがはエルフっ!! 後衛で使う魔法を、上手く前衛で使えるようにアレンジするなんて………惚れなおしちまうなぁ」


 エッタさんは風と火を合わせた槍を作ると、カルロに向かって斬りつけるのである。後衛で使う技を改良して、前衛として戦えるだけの技に変換させたのである。
 そして槍をカルロに向かって振い始めて、それを警戒してカルロは綱体と自分の体を鉄化させて準備をする。だが、それだけの準備を行なったにも関わらず、槍が横腹を掠った瞬間に、横腹の肉が抉れとれたのである。


「ゔぅっ!? 擦っただけで肉を持って行きやがった………なんちゅう威力してんだよ」

「これで分かったかしら? これがド真ん中に決まれば、貴方のお腹に穴ポコが開くって事をね」

「確かに威力は、当たれば即死もありえる。しかし当たらなければ問題ない事だ………1発も当たらずに、お嬢ちゃんを倒して差し上げよう」


 カルロは横腹に鋭い痛みを感じて、触ってみると鉄に綱体を使っていたはずなのに、肉が抉れていて血がダラーッと出ている事に気がついた。完璧な防御をしていたはずなのに、横腹が抉れる威力に驚きを隠せずにいる。
 それをみてエッタさんは次は真ん中に突き刺して、腹に大きな穴を開けてやるという意気込みだ。俺が居たら見せてはくれない顔をしているので、ここに居たら良かったと後悔する。
 痛みと攻撃の威力を目の当たりにして、普通ならば少しでも萎縮するところだが、カルロは冷や汗を流しながら当たらなきゃ良いんだと強気でいられる。これは数多く積んできた、戦いでの経験値なのではないかと考えられる。


「1発も当たらずに……ですか。そうですか、そんなに自信があるならやってみたら良いです」

「なんだい。これ以外にも秘策があるって顔だ……これだけでもゾッとしているのに、何を企んでいるんだい」

「そんなのを馬鹿みたいに教える人はいないでしょ。その身で、自分から味わってみれば分かる」


 経験値が上のカルロが目の前にいて、本気でやると言っているのにエッタさんの顔色は1つも変わらない。逆にカルロの方が、エッタさんに少しの恐怖心を感じてしまっている。
 ここまでの自信があるのならばエッタさんには、この威力の魔法だけじゃなく、なんらかの秘訣があるとカルロは考える。そう考える事が普通の人間の思考であり、ここにきてカルロの思考が普通の人間たちと同じになってきた。


「まぁ確かに味わってみるしか方法は無いか………じゃあ、いっちょ行きますか!!」

――鉄の突進アイアン・タックル――

「そう。そうやって来てくれれば良いのよ………」

「なっ!? どうなってんだ!! 魔法は発動してないだろ」


 味わってから考えようと思ったカルロは、エッタさんに向けて鉄化した体で突進していく。そしてエッタさんの2メートルの間合いに入った瞬間、カルロの全身に切り傷が現れて血を吐く。
 あまりにも突然に起こった事で、カルロは何故に自分の体に切り傷が現れたのかと驚きを隠せずにいる。その驚いた顔を見て、エッタさんはニヤニヤッと企んでいる笑みを浮かべた。そんなのを見たら、カルロは引けずに突進していくのである。


「うぉおおおおお!!!!!!」

「さっきまでは経験とか頭を使ってたのに………少し予想外の事が起きたら、馬鹿みたいに突進だなんてね」

「ゔぅ……はぁ、はぁはぁ。今度は反対の腹かよ」


 身体中に切り傷が出来ても気にせずに突進してくる。しかし痛みで動きが少し鈍ったのを、エッタさんは見逃さずに、今度は反対の横腹を槍で抉ったのである。
 自分の横腹が左右ともに抉られて、さすがの痛みで地面に膝をついて息が荒立っている。横腹を抉られたのは、謎の切り傷が全身に喰らってしまってしまったからだ。それさえなければ、エッタさんには勝てるんだとカルロは思っている。


「魔法が発動してないのに、なんで俺の体には切り傷が出来んだよ………ん? まさか魔法が発動していないって事は、オリジナルスキルっていう事か」

「やっと分かったのね。そう、オリジナルスキルの技の1つを使ったのよ」

――風獣の旋風カマイタチ――

「そういう事か。オートで俺に攻撃してくるってわけだ、そんな怖いスキルを使わないでくれよぉ………まぁカラクリに気がついたのなら、どうにかできる」

「そうかしら? そう思うならやってみたら分かるわ………ここからが本番なのでしょ?」


 カルロは身体中に切り傷ができるカラクリに気がつく。それはエッタさんのオリジナルスキル《神風ゴッドストーム》の技の1つである《風獣の旋風カマイタチ》だった。
 カラクリに気がついたカルロは、横腹を抑えながら立ち上がると冷や汗ダラダラだが、やる気だけは無くなっていない。どうやらカラクリに気がついたのだから、勝つ事だってできると自信満々な作り笑みを浮かべるのである。
 立ち上がったまま動き出すと、またエッタさんのカマイタチの間合に入ろうとしたギリギリのところで、さっきみたいに鉄拳と鉄化のパンチを合わせて、エッタさんの動きを止めた。その隙を突くように、距離を一気に突っ込んで腹を殴り飛ばす。


「うぅ……」

「どうだっ!! 女程度が、この俺様に刃向かうから、こんな風になるんだよ!! このまま殺してやる………」

「えぇ確かに私だけなら死んでしまうかもしれないわ………でも準備は整ったのよね?」

「うん。時間稼ぎありがとう」

「なにっ!?」


 エッタさんは苦しんで少し内容物も出て来ている。それをみてカルロは、完全に勝利したとハイになっているみたいだ。しかし勝利を確信した瞬間、物陰からイローナちゃんが現れた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...