ブレンド・ソウル

野鈴呼

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新たなる船出

「大草原の少年」

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 日が昇り、日が沈み、日が変わり、日がまた昇り、沈み、変わり……

 家を出てから数日、センジは歩き続け、時にヒッチハイクで馬や馬車に乗せてもらい、ミナッタ村からずいぶん遠い喧騒な歓楽街まで足を運んでいた。

 深夜でも明るくにぎやかな街路からひとたび建物の裏手に回ると、別世界にまぎれ込んだように暗くて寂しい路地になる。その路地で、センジは初対面の男と1対1で向かい合っていた。立ち寄ったショットバーで隣り合わせ、一番安い酒を一杯おごってくれた探偵業の男だ。

 探偵とはいえ、闇稼業に手を染めていてもおかしくない程の怪しいオーラだ。念のため、センジは家から持ち出した鉄鍋をかぶって顔を隠し、酒はストローですすり、正体不明をつらぬいていた。

 実はこの鍋、目の前だけでも見えるよう、エバイの修理後センジはひそかに小さな二つの穴をあけておいたのだ。


 人目を忍び、夜陰に乗じて取り引きをするセンジと探偵の男だったが、どちらもせっかくの夜陰に全くとけ込めていなかった。

 なぜなら、探偵の男は赤いマントに赤いテンガロンハット、赤いバンダナと赤だらけの出で立ちで、センジもまた、魔界では一風いっぷう変わった上衣に足袋たび、おまけに鉄鍋のインパクトがあり過ぎて、人目を忍ぶどころか目立ちまくっていた。


「吸血魔族の公爵だと?」

「ああ。ドリンガデスのどこかに囚われているはずなんだ。手がかりはなにもないが……  調べてくれないか」

「突拍子のないことを……  ドリンガデスのような大国で、なにひとつ手がかりなく探せるワケがないだろう」探偵の男は、いぶかしげにセンジを正視した。

ゼロから調査するのがプロの探偵じゃねえのかよ」センジが言い放つと、男はグッと唇を噛んだ。

「しかし……  お前、金がないんだろう?」

「……  幾らだ」

「幾ら出せる?」

「幾らかは……」

「幾らでもいい」

「イクラじゃダメか」

「いくらなんでもそれは――! グオッッ!!」

 真剣な交渉の真っ最中、突然探偵の男が地面に崩れ落ちた。真後ろから何者かの魔力で背中を突き飛ばされ、センジの鉄鍋に顔面を強く打ちつけたのだ。

「おいっ、大丈夫か!?」センジが手を貸そうとした時、暗闇から小柄な若い女がスウ~ッと現れた。   

「とっとと消えな、この変態鉄鍋男。こちとらヤバい商売してるんだからさぁ。それなりの報酬いただかないと上がったりなんだよ。ですよね? 大将」

「グ、グググ……」男は地面にうずくまっている。

「変態だあ!? お前こそ、乱暴な暴力野郎じゃねえかよ!!」センジはカッとなり怒鳴りつけた。

「ヤロウだ……?」女は何やらイラ立ちをあらわにしている。

 そのイラ立ちをしずめるように深呼吸した後、女は軽く背中をそらすとテンポ良くはずみをつけて助走を始め、センジめがけてまっしぐらに走って来た。そして徐々にスピードを上げ、うずくまる男を踏切台にして高々たかだか飛び上がるや勢いよく躍りかかってきた。

「な、なな、なんなんだよっ、てめえ!! 走り幅跳びかあっ!?」

 センジはとっさに路地の脇に積まれたクレートに飛び移り、素早く女から身をかわした。

 つもりだったのだが……

 一杯とはいえ、空腹でのんだ酒が身体にこたえていたのだろう。クレートの上に着地する寸前、センジはわずか、ふらついた。女はその一瞬を見逃さず、センジの両足首をガッチリとつかみ取っていた。

「ふんぎゃっっ!!」

 両足をつかまれ逆さづりにされたセンジは、たまらずカエルがつぶれたような声を上げた。

 女は容赦なく、無造作にしばった髪を振り乱し、我が身を軸にグルグル回転しながらセンジをブンブンと振り回した。小柄な身体からは想像もつかない程とてつもない腕力で、恐ろしく凶暴だ。

「おらおら!! 今度はハンマー投げだよっっ!!」

「ギャア―――ッ!! なにしやがる、この野郎っっ!!」女の怪力はすさまじく、センジは絶叫した。

「ヤロウヤロウと、性懲りもなく……!!」

「よ、よせ……  ヤロー。ここは陸上競技場ではないぞっ。それにそいつは貴重な客だっ」男は、道をい苦しみながらも女を止めようとしている。

「ぬるいですよ、大将。どのみち追い払うだけのもんなしの客だ。派手に退散させちまおうじゃないですか。だいたいこいつは拙者せっしゃを二回も呼び捨てにしやがった。許せやしませんよ」

「だが、そいつはイクラなら出せると言っていた。今夜のめしにはありつけるかもしれん……」

「フン。だまされちゃいけません。金もイクラも持っちゃいないさ。こんだけ振り回しても、ふところからなぁ~んも落ちてこないんですからね」

 女は最後にいちだんと力を込めてセンジを大振りして手を放し、一気に空へと解放した。

「ふ、ふざけんなぁぁ――――っっ!!!!」叫喚と共に、センジははるか彼方へ飛ばされてしまった。

 真っ暗な夜空を飛ぶセンジは、どの方角へ飛ばされているのかすらも分からない。分かるのは、飛行速度がとてつもなく速い事と、飛行距離がむちゃくちゃ長い事だ。

 鉄鍋の両側の取手とってを握りしめて頭にグッと押さえつけ、センジはおのが運命に身を任せるよりほかなかった。


 *  *  *  *  *  *  *


 地平線が360度見渡せる、大草原。

 空中飛行のすえ、陸に降り立とうとしたセンジは運悪く深く狭い土のくぼみに着地してスッポリはまってしまい、鉄鍋をかぶっている首から上だけを地表に出していた。

 身動きがとれず立ったまま眠り、人の話し声で目覚めると、辺りは明るく絵に描いたような早朝の空になっていた。

 離れた場所に、見覚えのない青年と、見覚えのある遊牧民らしき少年が地べたにあぐらをかき巻きタバコをくゆらせている。

 少年の髪は檜皮ひわだ色で、シャツにつりズボンという平凡な服装だ。センジは、その少年がハーゲンの息子ヒロキである事に気が付いた。センジと同じ魔族と人間の混血ブレンドだ。

 澄みきった大自然の空気、静寂を破るやたらでかいヒロキと青年、二人の声。離れていても鉄鍋をかぶっていても、会話の内容は容易に聞きとれた。


邪族じゃぞくだあ?」

「ああ。邪族そいつらの邪術じゃじゅつにかかれば、たちまち人形にされちまうんだってよ」

「へえ~ おもしれえな。なんなら魔族最強のガフェルズ王を邪術にかけて人形にすりゃ、最高なんじゃね?」

「バカッ! めったなこと口にするもんじゃねえよ、ヒロキ!」青年は、周りを気にしながらヒロキをたしなめる。

「心配すんなって先輩。こんな草原のど真ん中で、他に聞いてる奴なんか居やしねえよ」

「そりゃそうだが……  王家の“シェード”を甘くみちゃいけねえ。奴らはどこにひそんでるか分かりゃしねえんだ。エングエーレの“ウィード”もな」

「んなこたぁ、どうでもいいからよ。それよか邪術だっけ? どなたさんか被害にでもあったのかよ」

 ヒロキはタバコの火を灰皿でにじり消し、しぼりたての山羊の乳が入ったカップを青年に差し出した。

「ヘヘッ、サンキュな。知り合いの話だとよ、女の子とおぼしき人形が夜道をテクテク歩いてたんだってよ。邪族の目撃情報もチラホラあるらしいんだ」

「へえ~ そいつはおっかねえな」

 ちゃらんぽらんで人の話を真面目に聞こうとしないヒロキだが、邪話じゃばなしには少しだけ興味がわいたようだ。

「けどよ、異端者のたぐいなら鉾狩ぼうしゅシェードの対象だろ? 奴らが出張って来てとっくに捕縛してんじゃね?」

「それがよ、もうすぐお世継ぎのバースデーパーティーがあるそうでシェードはそっちの警備に出払ってるらしいんだ。他国の王族らも大勢招いてるだろうし、国をあげての盛大なパーティーになるんだろうぜ」

「へえ~ 王家ってのはお誕生日会の方が大事なんだな」

「おっと、いけねえ。もう行かねえと。農家のじいさんとバーターの約束してんの忘れてたよ」

 青年は山羊の乳を息もつかずに飲み干すと、タバコの火を消し急いで馬の背中にまたがった。

「米が手に入ったら分けてやるからな」

「うちはパンとミルクと肉があれば十分だぜ」

「ま、そう言うなって。じゃあな、ヒロキ。おやっさんとモモタローによろしくなっ」

「またな、先輩」

 青年を適当に見送った後、ヒロキは馬の馬具に掛けてある袋から太長いパンを取り出した。

「米なんかより、やっぱこれだろ」カチコチに硬くなっているパンに、ヒロキはかじりついた。

「いてっっ!!」センジはヒロキをからかい、悲痛な声を出した。

「……なんだ? 妙な声が聞こえたが……」ヒロキは辺りを見回し、テントの周囲もグルリと確認している。

「空耳か? こんな大草原に誰も居るワケねえって、俺が言ったんだっけな」ヒロキは気を取り直したらしく、もう一度パンにかじりついた。

「いててっっ!!」センジは再び、一度目より確然とした声を出した。

「だ、誰かいるのか!?」ヒロキは注意深く草原全体を見渡した。

「マジでシェードなんか? それともウィードか? 隠れるとこなんかどこにも……  お、おおっ!?」ヒロキの目が、センジの鉄鍋をとらえた。

「でっけえ石だな。自然と言えば自然だが、不自然と言えば不自然だ……  つうか、あれってホントに石なのか……?」いったん石に背を向け、ヒロキはしばらく考えていた。

「あんなとこに石なんかあったか? 昨日はなかったよな? とりあえず、確かめるしかねえな」ヒロキは向き直り、強烈な魔力で鉄鍋の周りの草やら土やらを吹き飛ばした。

 強い魔力で掘り起こされた鉄鍋はヒロキに向けて飛んでいく。ヒロキは狙い通りとばかりにパンを口にくわえ、鉄鍋を両手でガッチリと受け止めた。

「こ、これは!?」ヒロキは鉄鍋を顔に近づけ驚いた。

「な、鍋じゃねえか!!」大事な朝食のパンはヒロキの口から落ちてしまっている。

「なんだってこんな草原に鍋が埋まってたんだ?」

「答えはこれだよっ」このタイミングで、センジはヒロキに声をかけた。

 ヒロキの魔力のおかげでくぼみが大きくなったため、ようやく地上に這い上がれたセンジは四つ這いで犬のようにブルブル身体を震わせ全身の土を取りのぞき、ヨタヨタ立ち上がるとふらつきながらヒロキに近づいて行った。

「よお、ヒロキ。俺のこと覚えてるか?」

「センジ……? エバイくんとこの、あの居候いそうろうのセンジかよっ?」檜皮色の目を見開き、ヒロキはますます驚いた。


 センジとヒロキはどちらも遠慮のない性格で年齢としも近いためか、たまに顔を合わせると必ずケンカになっていた。一方で、魔界で事あるごとに「欠点種」とさげすまれ苦汁くじゅうをなめてきたブレンド同士、なんだかんだ互いを気にし合っていたのも事実だ。


「なんでてめえがここに居るんだよ」

「話せば長くなる。とりあえずヒロキ、お前んちで休ませてくれないか?」

「チッ。しゃあねえな……」

 ヒロキは落としたパンを拾い上げると、えているセンジの腕を引っぱり自分のテントへと誘導した。

 ヒロキたち遊牧民にとってテントは、移動型の住居である。

 木の骨組みにフェルト張りした円形のテント内は余裕の広さがあり、ベッドやテーブルなど木製の折りたたみ式家具もそろえてある。

 ヒロキがドアをあけたとたん、センジは雪崩なだれのようにテントの中へ流れ込み、その場に倒れて寝てしまった。

「おいっ、センジ! 大丈夫か!?」

 センジはそのまま、深い眠りについた。

 ~  ~  ~  ~  ~  ~  ~

  夢の中で、センジは過去に戻っていた 。

 積み木を使って魔力の練習をしている幼い自分を母が優しく見守っている。暖炉の火のせいか、母の琥珀こはく色の髪が赤みがかっている。

「センジ、よーくお聞き。魔力はね、自分を守るためだけじゃなくて、困ってる人を助けるためにもあるんだよ。そういう場面に出くわした時には、自分ができる範囲でいいから力になってあげるんだよ」

「…… ん」おぼつかない魔力で積み木を重ねるのに夢中で、自分は返事がおろそかになっている。

「こら、センジ。聞いてるのかい?」

「き、聞いてるよっっ」

「言っておくことは他にもあるんだよ。これから先の長い人生、出会った人たちを大切に、人と支え合ってどんな時でも前を向いて生きて行くんだよ」

「分かってるやい!」

 積み木の塔が崩れないよう必死で念じている自分は、母の言う事を耳にしながらも正直それどころではなかった。

「それでこそ私の息子だよ。それじゃあ最後にもうひとつ!」

「まだあんのかよっっ」

「母さんが、アンタを誰よりもすごくすごく愛してること、決して忘れるんじゃないよ」母のほほ笑みがかすんで見えた。

 これもまた暖炉の火のせいなのか、母の短めの髪が揺らめき、クロムイエローの目に暗い影を付けていた。

 積み木の塔が崩れてしまった。

 でも幼い自分は、もう積み木などどうでもよかった。小さな足で母の元へ駆け寄り、母の胸に顔をうずめていた。

「おやおや。なんだい、急に。センジは甘えん坊さんだね」母は自分をひざの上に乗せ、頭をなでた。

 ~  ~  ~  ~  ~  ~  ~

 暖色だんしょくが、まぶたに散らついている。

「…… 母さん……?」

 だがそれは暖炉の火ではなく、テントの中央にあるまきストーブの火だった。

 目が半開きのまま、センジは片足を立ててゆっくりと身を起こした。

「やっと目ぇ覚めたか。死んじまったのかと思ってでっけえ花火打ち上げるとこだったぜ」

 ヒロキはラグを敷きつめた床に足を投げ出し、ベッドを背もたれにして座っている。

「親父はエバドゥー届けにミナッタ村へ行ったきり帰って来ねえのに、まさかお前がうちにやって来るとはな」

「おいちゃんはザクロ婆の店の準備手伝ってんだよ」

「らしいな。こないだ連絡あったわ」ヒロキはポケットから小型の電話を取り出した。

 魔界にもあるのだ。人間界ほど性能は良くないが、電話やメールくらいならどこででも使える「手元てもと電話」と呼ばれる携帯電話が。

「お前ら、人間界あっち弟妹きょうだいつくったんだってな」

「ああ。三人とも俺らとおんなじブレンドだ」

 センジとヒロキは頭の後ろで手を組み、床に並んで寝そべった。テントの天窓から望める夕焼け空に、いつしか二人で見入っていた。

「ロンヤってのが面白おもしれえんだ。『ど』が付く程ののんびり屋でな。あいつが起床してから朝飯食い終わるまでに、半日が過ぎてるかもしれねえな」

 流れの遅い夕焼け雲に、センジはふとロンヤを重ねていた。

「よくそんなのと一緒に暮らせるな。せっかちなお前がよ」

「弟だからな。可愛いもんだぜ。お前も兄貴なんだから分かるだろ? そういやモモは? 出かけてんのか?」

「例の『ワクルワ教』だよ。ワク神の『教え』ってやついてもらいに人間の教会まで出向いてんだ」

「あれ、まだ信仰してたのか……」
 
 モモとは、ハーゲンのもう一人の息子でヒロキの弟モモタローの事だ。いい加減で口の悪いヒロキと違い言葉づかいも性分もさわやかで、典型的な好青年ならぬ好少年だ。見た目も似ていない。ヒロキは細身で背が低いが、モモタローは筋骨隆々で上背もある。

 似ていないのは当然だ。センジたち兄弟同様、彼らも血のつながりはないからだ。父親のハーゲンとも――

 片親が人間のブレンドには珍しくない事だ。人間はさっさと天寿を全うしてしまうのだから、残されたもう一人の親が早死にするか子供を手放したりすれば、みなしごのブレンドが増える事になる。そして、後者の親が多いという現実が魔界にはびこっているのだ。


 ずっと夕焼けを眺めていたセンジ達だったが、ヒロキは先に起き上がり、鉄鍋を薪ストーブの上に乗せ水筒の水を入れ始めた。

「それ、俺の鍋か?」センジは上半身を起こした。

ちげえ、うちのだよ。お前の鍋は穴があって使いもんにならねえ。こうして再会しちまったからには鍋パーティーで盛り上がろうぜ。王子さまみてえに豪勢なパーティーにはならねえけどよ」

「なんだよ、王子さまって」

「近々、第一王子のバースデーパーティーがあるんだとよ。まあそいつは表向きの名目で、単なる権力の誇示なんだろうけどな」

「マジかよっ。じゃあ城に人が大勢集まるのかっ?」センジは、これはチャンスかもしれないと期待した。

 もしかしたら、人混みに紛れてドリンケルツ城にもぐり込めるかもしれないと。

「なあ、近々っていつだよ!? どれくらいの規模のパーティーなんだ!? ヒロキ、話せっ、話すんだっ、話しやがれ!!」腰を上げるや、センジはヒロキの胸ぐらにつかみかかった。

「てめっ、なにしやがんだ!! いつとか規模とか知らねえよっ!! 放せっ、放すんだっ、放しやがれ!!」ヒロキはセンジの左右のほおをつまみ、力まかせに引き伸ばして抵抗した。

「あいひやはうっ、いへえはほーは! ほんやほー!(なにしやがるっ、いてえだろーが! こんにゃろー)」

「やかましい! 売ってきたのはてめえだろうがっっ」センジとヒロキの格闘が続き、その間に鉄鍋の水は熱く沸き立っていた。


 コン、コン、コン。

 テントのドアを、ノックする音がした。その音で、センジとヒロキのつかみ合いのケンカはピタリと止まった。

「……  おい、誰か来たみてえだぞ? モモか?」

「あいつならノックなんかしねえよ」

「こんな夕闇迫る草原に来客なんてあるのかよ」

「……  米のおすそ分けかもしれん」

 センジとヒロキはドアに目をやった。

 コン、コン、コン。

 外から、ノックが繰り返された。

「はいよっ。今あけるぜ」

 ヒロキは肩からずり落ちたサスペンダーを直しながら静かにドアを開いた。開いたとたん、ミットみたいな巨大な手の平が伸びてきて、センジの身体を荒々しくつかみ上げた。
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