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魔術師の愛は重すぎる

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~ミランダ~

ガンッ!バキン!!と凄い音がした。
なんだ?誰か暴れてるのか?

開発室のみんなも何だ何だと、わらわらと集まって来た。
廊下に出てみても、特に変わったことは起こってない。
何だろう?気のせい?な訳ない。
とりあえず席に戻った。

こういう時こそ、ノゾキ魔おっさんに聞いてみよう。
こっそりと声をかけた。

「ちょっと、おっさん、さっきの音何?」
『あ~、そうじゃな・・・アシュレイがちょっと・・・』
「アシュレイさんがどうしたの?シェリルと取っ組み合いの喧嘩でもしたの?」
『いやいや、そうではなくてな。薬盛られて襲われたようじゃな』
「はぁ?何言ってるのよ」

薬盛られたって、ロックス兄弟はよくよく盛られる体質らしい。

『シェリルがすぐに来たから、大事ない。さっきの音はシェリルが無理やり結界を壊した音じゃ』
「なるほどね・・・」

う~ん、我が妹ながら、凄いな。結界って力技で壊せるもんなんだ。
ゴリラって言われる筈だ。
んん?でも犯人は捕まってる筈なんだけど。
他にも仲間がいたの?

「犯人は?」
『バートンとかいうやつじゃ』
「バッッッ!」

バートンさんっっ!!慌てて口を塞ぐ。
あの色っぽい兄さん!何やってるの。
アシュレイさんってば、男に薬盛られて襲われたってわけ?
ちょっと、ちょっと何それ!
思わずワクワクしてしまうのは許して欲しい。

それにしても、バートンさんってば・・・やっぱりね~、距離感おかしかったもん。
シェリルと仲良さそうにしてたから、爆発しちゃったのかなぁ。
あ~あ~、モテすぎるってのも、罪よねぇぇぇ。
フゥゥ、とため息を漏らして、また箱の中のボロい古文書の時を戻した。



~シェリル~

室長室を出て、所長室に向かう。
犯人捕まったし、少しならアシュレイさんから離れても大丈夫だろうから、運動がてら歩いて行くか。近いしねぇ。

室長室は同じ階にある。すぐに着いた。
ノックをするとすぐに中から返事があった。

「失礼します。アシュレイさんに頼まれて、書類をお持ちしました」
「あぁ、ありがとう。アシュレイから連絡は受けてる」

どうぞ、と差し出すとすぐに受け取ってくれた。
帰ろうとすると何故か呼び止められ、ソファを進められた。

「最近、アシュレイはどう?」
「お元気ですよ。調子も良さそうですし。仕事も捗ってます」
「そうか。私はね、君のおかげじゃないかと思ってるんだ。君が護衛についてから、アシュレイはいい意味で変わったと思う」
「そうなんですか?一応義理ですが親戚ですけど、護衛に着くまであまり話したことはなくて、前のアシュレイさんとの違いはわからないんです」

接点なかったもんね。
子供たち懐いてたからいい人なんだろうな、とは思ってたけどさ。
所長はふふっと笑う。

「本当に残念だなぁ。シェリルさんは仕事が早くて助かるってアシュレイが言ってたから。きっと寂しがるよ」
「はは、そうですかね。私も貴重な体験させてもらえましたし、アシュレイさんには苦手な魔術を教えてもらって大変助かりました」
「お互いに支えあえるいいコンビだね」
「ありがとうございます」
「頑張って欲しいなぁ」

何を?仕事を?首を傾げる。
もちろん手を抜かず頑張りますとも。
そう思ってると、通信機からピッと音が聞こえた。

「すみません、アシュレイさんから連絡入りました」
「そうか。では報告書ありがとう」

通信機に手を触れる。

『うご・・な・・たす』
「アシュレイさん?」
「どうした?」
「何かあったみたいです。失礼します」

挨拶もそこそこにすぐに転移した。

執務室の中に入ろうとしたら、入り口に結界が張ってあった。
怒りが込み上げてくる。
(アシュレイさんの危機だっていうのに、面倒なことを!!!)
拳に魔力を纏い、力任せに結界に叩きつける。

ベキッ!とすぐにヒビが入った。続け様に殴りつける。
ベキッ、ガキンッッッと凄い音がして結界は砕け散った。

「アシュレイさん!!」

慌てて駆け込むと、椅子に座って壁際まで追い込まれたアシュレイさんと、覆いかぶさるようにしているバートンさんが見えた。
アシュレイさんの縋るような目を見た瞬間、怒りが沸き起こり、何してんだこのヤローとばかりにバートンさんを取り押さえる。
とっさに殴らないよう自重した私を褒めて欲しいくらいだ。

素早く魔術封じと拘束魔法をかけて、アシュレイさんに駆け寄った。
声をかけても反応が無く、必死で目で訴えてるのがわかった。
薬を盛られて動けなくなってるらしい。
周りを見ると、机の上に飲みかけのコーヒーがあった。
これか。躊躇わずに口に運ぶ。
母から薬に対する耐性訓練も受けていたため、多少の毒でも何ともない体になっている。
うん、今回のは大したことない痺れ薬だ。
すぐに解毒剤を持ってこよう。

アシュレイさんに解毒剤を持ってくると伝えてすぐに第一隊に取りに行った。



戻ってくるなり飲ませようとしたけど、口まで痺れが来てるらしく、薬が溢れてしまった。
あらら・・・こりゃダメだな。う~ん、仕方ない、口移しで飲ませよう。

「ごめんなさい。ちょっとだけ我慢してください」

すぐに薬を口に含むとアシュレイさんの顔を固定して、そっと流し込んで薬を飲ませる。
一緒に魔力も流せば、回復は早いだろう。
アシュレイさんはびっくりした顔をして、一瞬体をこわばらせたものの、すぐに力を抜いて身を委ねてくれた。
しばらく魔力も流す。

ふぅ。これで一安心。
顔を離すと、アシュレイさんはうっとりした顔してこちらを見ていた。
うっ!!何かいつもより無防備で可愛い。反則だよ、これは。
アシュレイさん無駄に顔が良いだけに、可愛い姿は破壊力が凄いな。思わずギュッとしたくなる衝動を抑える。
いかんいかん、庇護欲掻き立てられてる場合じゃない。
プルプルと頭を振る。

しばらくしたら回復して来たのか、アシュレイさんがバートンさんと話をしたいと言ってきた。
まぁ、そうだよね。バートンさんもいくら何でもやり過ぎだよ。

私は二人の邪魔をしないよう、扉の前で待機することにした。
そういえば、姉から聞いたけど、魔術師って魔力が多い程独占欲も愛情も強くなるって聞いたな。
あの、魔力が多くて有名なクリストファーさんが良い例で、奥さんへの愛情は周りがドン引きするくらいだとか。
レオナルドさんだって、愛人10人くらいいそうな顔して、実際は奥さん一筋らしいし。
そう考えると、バートンさんも薬を盛ってまでアシュレイさんを手に入れたいと思ってしまったのだろうか。
それだけ追い詰められてしまったのだろう。
そこまで一人の人を思うなんていう経験がない私には想像もつかないけどね。
なんにせよ、魔術師の愛は重すぎるってことだ。

やれやれと私はため息をついた。







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