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居心地は良い

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~シェリル~

アシュレイさんが所長を、呼びに行くと言うので、そそくさとバートンさんの前に座り、早速話を聞いてみる。

「バートンさん、一体どうしちゃったんですか?」

バートンさんは初めは仏頂面で私を睨んでいたが、吐き出したい思いはあったようで、そのうちポツリポツリと話し出した。

初めは友人としていい関係を築いていたものの、ふとした時のアシュレイさんの顔にいつの間にかやられてしまったらしい。

「あ~、アシュレイさん、無駄に顔は良いですからね~。それに、前から皆さんとアシュレイさんの距離、ちょっと近いなって思ってたんですよ~」
「だろっ!!顔を近づけても、肩や腰を組んでも、全然嫌がらないから・・・」
「ですよね~、勘違いしちゃうのもわかります」

私はうんうんと頷いた。
それと、最近私と一緒にいる時間が多く、何だか楽しそうにしている我々を見て、焦ってしまったらしい。
う~ん、それは申し訳ない。

「で、シェリルさんはどうなの?アシュレイのこと」
「へ?私ですか?どうって、師匠だし護衛対象ですし」
「特別な気持ちは無いのか?本当に?」
「えぇぇぇ・・・」

そう言われましても・・・
あ、そういえば、さっき解毒剤飲ませるのに、緊急時とはいえ、唇に触れてしまった。
初めてみるトロンとした可愛いアシュレイさんを思い出して、ちよっとドキドキしてしまう。
いやいや、緊急時だから、人助けだから・・・

ちょっと赤くなった私を見て、バートンさんはフンっとそっぽを向いて、ボソッと呟いた。

「二人して、同じような反応すんな」
「ん?何と?」
「いや、こっちの話」

それからバートンさんは下を向いて、ハァァとため息をついた。

「犯人捕まったんだろ?護衛はまだ続くのか?」
「犯人と特定されれば護衛は必要ないので即時外れると思います。バートンさんに嫌な思いさせてしまっていたなら本当に申し訳ないです」
「いや、あんたといてあいつが楽しそうにしてしてたのは知ってたんだ。だから余計に焦ったんだな。あんたならすぐに止めるとわかって行動した」
「そうだったんですね。本当にアシュレイさんが好きなんですね」

バートンさんが本気でアシュレイさんをどうにかしようとするなら、護衛がいなくなった後に行動を起こしただろう。
アシュレイさんを本気で傷つけるつもりなどなかったに違いない。
思わず、うんうんと頷いた。

ガチャと扉が開き、アシュレイさんと所長が入って来た。


バートンさんの処罰も決まり、彼は1週間の謹慎に入る。
思いの外軽くてホッとした。
場合によっては魔術師の資格を剥奪される可能性もあったに違いない。

彼も辞めさせられるか、地方に飛ばされるくらいは覚悟していた様だった。
所長とアシュレイさんの判断で今回は謹慎と減俸で済んだ。
彼のこれまでの功績を鑑みて、厳しい処罰より寛大な処置をとることにより、バートンさんに恩を売って今まで以上に頑張ってもらうようにしたのだろう。
彼が今まで問題を起こしたことは無いらしいし。
良かったんだよね、きっと。





就業時間も終わり、アシュレイさんがこちらを見た。
お、その顔は飲みに行きたいのかな?まぁ、そうだよね。

「お供いたします」

ニッコリ笑ってこれの隣に並んだ。
行き先はもちろんグロリア亭。


「今日は混んでますね」
「金曜の夜だからな。カウンターなら空いてる」
「じゃあ、そこで」

ちょうどカウンターの端が空いていた。
男性の隣に座ろうとしたら、なぜか壁際にされてしまった。

「護衛なので私がそちらに座りますよ」
「もう勤務は終わったろ、いいからそこ座っとけ」

アシュレイさんはとっとと席に着くとママさんを呼んでいつものビールと適当なつまみをもらった。

「腹は空いてる?」
「はい。普通に。アシュレイさんは?」
「俺も。あ、刺身がある。頼もう」

渡り人ブームによって、最近は異世界の料理も人気だ。
生で食べる刺身も、魚介の豊富なこの国では大人気になった食べ物の一つだった。

美味しい肴をつまみに、アシュレイさんと乾杯する。
アシュレイさんはビールを一口飲むと、ふぅと、一息ついた。

「今日は疲れたなぁ・・・」
「でしょうね。もう体調とか大丈夫ですか?」
「何とも無いよ。そうえば、バタバタして助けてもらったのに、お礼も言ってなかったよな。すまん。ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、私はアシュレイさんを守るためにいますから」
「初めて目の当たりにしたけど、強いのな」
「実はけっこう強いんです。じゃなかったら、室長クラスの人の護衛受け持ちませんよ」
「はは、だよな」

そうなのだ。入隊したばかりの小娘だと思われがちだが、個人的な戦闘技術はトップクラスなのである。エッヘン。
義兄であるグラントさん所属の第二隊のような連携プレーはあまり向いていないのは自分でもわかっていたので、初めから第一隊を希望していた。

どうせなるなら、魔術騎士が良いと姉に助言され、受かると思わず試験を受けた魔術専科にまさか合格でき、魔術騎士になれた。
魔術は苦手だけど、アシュレイさんのおかげで大分マシになったと思う。

「私、アシュレイさんの護衛出来てほんと良かったです。というか、この機会無かったら、ずっと苦手意識持ったままでした」
「え?俺のこと苦手だったの?」

ちょっと、ガーンという顔をしてアシュレイさんが言った。

「ほとんど話したことないし、近寄りがたい印象しかなくて。でも、今は全然違いますよ、ホントに。話しやすくって、何というか・・・居心地良いです」

うん、そうそう。アシュレイさんの側はすっごい居心地良い。

「居心地良い・・・」

アシュレイさんは何やら呟いて、ちょっと考えていた。
ん?どういたのだろう。変なこと言ったかな?























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