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チャンスは最大限に生かす

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~アシュレイ~ 

シェリルを家に泊めるにしても、まずはサマンサさんに報告しなくてはな。 

妖精達は特に扱いが難しく、その架け橋となり得るシェリルは貴重で、本人が思う以上に事態は深刻なのだ。
だけど、シェリルにはなるべく今まで通りでいて欲しい。
その他のフォローは俺がすれば良いのだから。

兄貴といい、俺といい、どちらも国単位で守るべきものが妻というのは良かったのか悪かったのか?
仕事と妻じゃ守る側の気合いが違うから良かったんだろうな。

妖精眼だろうとなかろうとシェリルとは結婚するって決めてたし、俺にとってはシェリル以上に大事なものなどないのだ、これから先も。
だから、たまたま結婚相手が妖精眼になった、そう思う事にした。

そのシェリルはちょっと考え込んでる。
おそらくサマンサさんに今日のことを上手く説明できるか悩んでいるのだろう。

「俺が話すよ。サマンサさんに事情は説明しておかないといけないしな」
「お願いします。正直、今日のこと上手く説明するの難しいので」
「わかった。ちょっと混み入った話になるからあっちで話してくる」

通信機を取り出し、シェリルから少し離れてサマンサさんに連絡した。

コール音と共にサマンサさんが出る。

『あら、アシュレイさん、こんばんは。どうしたの?』
「サマンサさん、不測の事態が起きました。今少しお時間いただいて良いですか?」
『えぇ。今度は何?シェリルが街でも破壊しちゃった?』

冗談めかしたサマンサさんに余裕があったのもここまでだった。
俺が説明を始めると、みるみる声が固くなり、う~んと唸り声を上げたと思うと、しまいには黙り込んでしまった。


『・・・ふっざけんじゃねえよ』

ようやく出た声がこれである。
ドスの効いた低い声で、ゴリサマと呼ばれていた現役時代を彷彿させる。

まあ、自分がお腹を痛めて産んだ子供が妖精の取り替えっ子だったからと、勝手に連れ去られたのだから、気持ちはわかる。
妖精眼にされた経緯を聞いた時、マジで城を破壊してやろうかと思った。
我慢した俺を褒めて欲しいくらいだ。

『でも、本当、アシュレイさんがシェリルの旦那さんになってくれるのは幸運だったわ。あの規格外のクリストファーさんとも仲良いしね。また連れ去るような事があったら、妖精界ごとぶっ潰しましょう。後始末は私に任せて』

過激な事を言ってるが、俺も異論は無い。
サマンサさんが後押ししてくれるなら遠慮はいらない、必ずぶっ潰す。

「今日散々脅した感じからすると、また連れて行かれる可能性は低いとは思いますが、万が一の事もあるので、これからシェリルと魔力を混ぜ合わせてしまおうと思っています。許可していただけますか?」
『あら♡その手があったわね。シェリルさえ良ければこちらは全く問題ないわ』

さっきまでのドスの効いた声はどこに行った?というくらいご機嫌になった。

「許可していただきありがとうございます」
『うふふ。あの子、初心者だからお手柔らかにね。明日もゆっくりすると良いわ。シェリルに代わってくれる?』

俺は通信機をシェリルに渡した。

はあ、良かった。サマンサさんが賛成してくれて。
魔力を混ぜ合わせてしまえば、シェリルの魔術ももっと安定するし、お互いの存在をいつでも感じ取れるし、俺としてもかなり安心できるしな。
クリストファーに貰った子種封じ(仮)もあるので、妊娠の心配もない。

シェリルはサマンサさんと話していたが、切る前に真っ赤になって大声を上げた。
何を言われたんだか・・・

「何だって?」
「姉妹揃って珍妙な物に好かれるって。確かにそうだけどさ」
「あはは、本当にそうだよな。専門家から見たら垂涎の的なんだぞ。二人ともなりたくてなった訳じゃ無いってのも一緒だよな」
「そうだよ。頼んだ訳じゃ無いのにさぁ~、勝手に祝福するなっての。それと、私の事は全部アシュレイさんに任せるって。これ以上おかしな物に目をつけられる前に、とっとと魔力を混ぜ合わせてもらいなさいって言われた。えぇ~っと、その・・・よろしくお願いします」

真っ赤になって少し上目遣いになりながら、一息に言い切って頭を下げて来た。

・・・だからもう、そういうとこだぞ、シェリル。

金色の後頭部を見ながら、思わず、ふふっと笑いが込み上げて来た。

笑い声に反応して顔を上げたシェリルは、更に赤くなって俺を見つめていた。
何を惚けている。全く、本当に俺の顔が好きだな。

「こちらこそよろしく、シェリル。心配しないで、対策は万全だから」

そう言ってゆっくりとシェリルに顔を寄せる。
それに合わせてシェリルもゆっくりと長いまつ毛を伏せた。
よし、いい感じだと思った瞬間

「ん?対策?そうだ!アシュレイさん家って、最強子種で有名でしたよね。万全とはどういう事ですか?」

この流れで、それ今気になる!?
まぁ、いいか。シェリルにとっては一大事だもんな。

俺はクリストファーからもらった小瓶を取り出してシェリルに見せた。
透明な瓶の中にピンクの錠剤が半分ほど入っている。

「クリストファーがロックス家でも対抗出来るよう、前から作っていたという避妊薬、『子種封じ(仮)』だ。精子の中の子種を封じる事が出来る。まだ試作品だが、クリストファーの魔力をかなり練り込んでいるそうなので、効果は期待出来ると思う。安心してくれ」
「こ、子種封じっっ!?凄いネーミングセンス」
「まぁ、(仮)だからな。アイツにその辺のセンスは無い。世に出る時はアルスさんが何とかするだろう。一粒で最大一週間効果があるって言ってたぞ」
「えぇ!一週間ですか!魔力混ぜるのって、そんなにかかるもんなんですね」

いや、一回でも大丈夫だし、うちの子種は多分一週間は無理だと思うが、あえて訂正するまい。そういうことにしておこうと、ニッコリと笑って誤魔化した。

「あらためて、よろしく、シェリル」
「よろしくお願いします」

シェリルと一緒にいる以上、ムードだの情緒だのそんな事気にしてられるか。
チャンスは最大限に生かす!



——————————————————————————————
後日、この避妊薬はこれ以上無いインパクトから、そのまま『子種封じ』として売り出された。
クリストファーしか作れないため、少々値は張るが、その絶大な効果でロックス家の男子がこぞって買い求め、瞬く間にロックス家御用達、というか、ほぼロックス家しか買わない『最強子種封じ』として世に知られる事になった。

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