【完結】うちの魔術開発研究室室長さまがモテ過ぎています(主に男に)

いかくもハル

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お屋敷渡り 3

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~アシュレイ~

翌早朝、俺が騎乗すると、一斉にざわついた。
隣のシェリルもニコニコしながらも、どこか自慢げだ。

それもそうだろう、俺がバースに乗っているからだ。

「よし、バース、今日は頼むぞ」

ブルル、と軽く頷いて、唖然として固まっているみんなの前を悠然と歩いた。




夜明け前に俺がバースにして提案とは・・・

「いいか、バース、お前の嫁に俺が乗るのが気に入らないのはわかった。じゃあ、シェリルならどうだ?シェリルをテトに乗せるのはいいんじゃないか?テトはシェリルのことも気に入ってるようだし」

バースがちょっと思案するように首を傾げ、フンフンと頷いた。

「そうなると、俺はお前に乗る事になる。俺がテトに乗るのと、シェリルがテトに乗るのを考えたら、俺がお前に乗る方が良いだろ?」

ううむ、といった感じでバースが考えてるのがわかった。
ややあってから、仕方ないというふうに、ブルルと鼻を鳴らす。

よし、決まりだ。

「じゃあ、そういう事でよろしくな。朝早くから邪魔して悪かったな」

俺はまたテントに戻った。

****

バースとの水面下でのやり取りを話し、テトに乗って欲しいとシェリルに頼んでいた。

「テトはバースの奥さんだったんですねぇ。なるほど、やたらとアシュレイさんに絡んでたのはそういうワケだったのか」

ふむふむ、とシェリルは直ぐに納得して了解してくれた。
しかし、その後直ぐにふふふ、と笑うと

「相手のことになると、視野が狭くなってすぐにヤキモチ焼くなんて、二人とも似てるよね」
「なっっっ!!」

痛いところを突いてきた。
シェリルの事になると、視野が目の幅くらいに狭くなる事は自覚している。

「アシュレイさんに嫉妬されるなんて、光栄だなぁ」

ニコニコと機嫌よく、テトに騎乗している。
テトも心なしか、ご機嫌に見える。

視野が狭いと指摘された俺とバースは同時にふぅと、息を吐いた。




シェリルの言っていた通り、バースは大変乗り心地が良い。
俺は結構デカい方だけど、安定感半端ない。

魔力で指示が出せるので、足に余計な力を加えなくても良いので楽だ。
シェリルとテトを見る。

「テトは綺麗だし、乗り心地も良いんだね~。もうウットリしちゃう」

女同士、キャッキャうふふと楽しそうに道中を走らせている。
早速仲良くなったようだ。
さすが、無自覚人タラシ。いや、この場合は馬タラシか。

全く、と思いながら、朝の山道を下って行った。



何故、親戚一同がお屋敷渡りにやって来るのか。

馬に乗って牛や羊たちを先導したり、群れから離れないよう見張るのはもちろんだが、それだけじゃ無い。

これだけの大移動だと滅多な事では現れないが、山には熊や狼などの獰猛な肉食獣もいる。
最近は浄化が完璧に行われている為、討伐で逃れた魔獣が潜んで襲ってくるなんて事は無いと思うが絶対では無い。

これらを警戒して警備することも兼ねている。
後、山の点検もな。
怪しい輩が山中に潜伏してないとは限らない。
お屋敷渡りは一石二鳥も三鳥も兼ねている行事なのだ。

ん?

チリっと俺の警戒センサーに嫌な感じが引っかかった。
何だ?嫌な感じがした方向を見るが特に変わった事もない、静かな森が広がっているだけだ。

「どうしました?アシュレイさん」

俺の様子に気がついたシェリルが声をかけてくる。
いつの間にか止まっていたらしい。
昨日繋げた魔力のお陰か、バースも俺の警戒に反応してそちらを見ていた。

「兄貴のところに行こう。ちょっと気になる気配があった」
「気になる気配・・・わかりました、直ぐに対応しましょう」

さすが騎士。
無駄な事を聞かずに即座に反応してくれた。

俺とシェリルは兄貴のいる後方の馬車に向かった。
兄貴は義姉と子供達が乗っている馬車の護衛として横についていた。

「どうした?アシュレイ。何かあったのか?」
「前方右手の森に気になる気配を察知した。見に行きたいので一旦列を離れたい」
「獣か?魔獣か?それなら俺も行こう」
「どちらとも言えない。気のせいかもしれない」
「気のせいでも、憂いがあるなら見に行こう」
「良いのか?義姉さんたちは?」
「これだけ周りに人が入れば大丈夫だろう。父さんに声掛けておくが」

兄貴は馬車を軽くノックした。

「ミランダ、ちょっと前方の森で気になる事があってアシュレイとシェリルさんと見て来るから、子供達の事、よろしくな」
「はいよー、いってらっしゃい。気をつけて」

窓から顔を出してヒラヒラと手を振る。
警戒体制の俺たちを見ても呑気なもんだ。
実際、義姉にどうこうできる輩はそうはいないんだが。

兄貴が父とジルに伝えて戻ってくると、俺たちは列から離れて森の中へ入って行った。


しんとした森の中を三騎が進んで行く。
一件変わった事はないが、明らかにおかしいと気がついた。
鳥の声が一切しない。それに、魔術をかけた跡がある。
俺は兄貴とシェリルを振り返り、頷いた。

「この先だ」

指を刺し、二人は頷いた。
さすが精鋭騎士たちだ。直ぐに異常に気がついたらしい。
俺が感じたのは、この魔術の気配だったのか。
兄貴に目で尋ねる。

「この先はもしかして」
「大きめの洞窟があったな」
「なるほど、入り口に認識障害をかけてるな」
「洞窟に何か潜んでいるのですね」
「シェリルは「下がりませんよ。私はアシュレイさんの護衛なの忘れましたか?」」

不敵に笑ってシェリルが言いかけた俺を遮った。
そうだった。

「わかった。気をつけろよ」

俺はシェリルの仕事を尊重してるし、強さを信頼している。
たとえ何があっても、心臓さえ動いていれば、命と引き換えにしてでも治してみせる。

「大丈夫だ。こんな事もあろうかと、クリストファーから最上級ポーション作ってもらってある」
「こんな事もあろうかと、で備えるレベルじゃないだろ」
「何があるかわからんからな。備えは最大警戒時に合わせておくに越した事はない」
「確かに」

全くもって兄貴らしい。
じゃあ行くかと、俺たちは洞窟に向かった。



入り口は認識障害の魔術が掛けてあるだけで、しかもかなり雑なので、俺らは難なく入る事が出来た。
バリアも張って無かった。
呆気なさすぎて、一瞬罠かと思くらいだった。
馬達は洞窟入り口で待っているよう指示した。
中は狭いし、足場も悪いからな。


魔力で気配を探るといた。
人だな、間違いない、15人だ。
一人は割と魔力が多いが後は大した事ない。

俺たちは頷くと気配に向かって歩いた。
そっと伺うと全員男だった。潜伏して長いのか、ヒゲも髪も伸び放題のボサボサだ。

朝だからだろうか、ヤツらは寝ていた。
気配を殺して奴らに近く。

「兄貴、これ」
「そうだな、間違いない」

俺が見つけたのは魔術師のローブだった。
見つけた時からまさかと思っていたが、コイツら偽魔術師の詐欺グループだ。
こんなところに潜伏していやがったのか。
通りで、王都周辺を探して見つからないはずだ。
ロックス領にいやがったとはな。俺達の領地に。


ゾワリ、と俺の中から憎悪が込み上げてくる。
同時に頭の中はシンと静かに、どんどん集中してクリアになっていった。

「悪いな、兄貴とシェリル。コイツらの始末、俺にさせてくれ」
「殺すなよ。コイツらは生かして罪を償わせる」
「なるべくそうする」

ひぇ~、魔王様降臨~、と後ろでシェリルが呟いていた。


さて、コイツらどうしてくれようか。






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