【完結】うちの魔術開発研究室室長さまがモテ過ぎています(主に男に)

いかくもハル

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お屋敷渡り 2

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~アシュレイ~

「ふぅ~」

隣でシェリルがバースから鞍を外した。

「お疲れ様、バース。ここまでありがとう。ゆっくり休んでね」

バースはブルル、返事をすると、シェリルにスリと鼻先を擦り付ける。
コイツ、本当にバースか???全然違うんだけど。
二重人格すぎるだろっっっ。いや馬だから二重馬格か。

それにしてもアイツ、毎回毎回、シェリルにベタベタしすぎじゃないのか?
シェリルもそんなに優しく撫でなくていいから。
こんな奴はバシーンと叩いておけ。グーで殴っても良い。むしろそうして欲しい。

「あと一日よろしくね」

ヒン、と頷いて広場に行くのか、向きを変えてこちらを見た。

ブルルと激しく顔を振って鼻を鳴らす。
ベチョっと、鼻汁が俺の頬にかかった。

コイツ・・・マジでムカつく。

「アシュレイさんにもすっかり懐いたね。お利口だよ、バース。少しずつで良いから、みんなと仲良く出来るようにしようね」

どこがだっ!!明らかにコレは悪意だろ。
グイと頬についた鼻汁を乱暴に拭ってシェリルの肩を抱く。

「そんな事より、もうすぐシェリルの楽しみにしてたバーベキューだぞ。早く行こう」

俺はバースを見て、ふふんとせせら笑った。
どうだ、お前は参加できまい。

俺とバースの間でバチバチバチと火花が散った。

ふんっ、とお互いに踵を返してそれぞれの場所に戻っていく。




「ええっっっ!!本当か!?」

思わず大声を出してしまった。
バーベキュー会場で兄貴たちと合流し、そこで、衝撃の事実を聞いた。
何と、今年の春、テトとバースは夫婦になったと言うのだ。

なるほど。
俺の愛馬がテトなのが気に入らないのか、ヤツは。
仲が良いからな、俺達。
ふふふ、俺とテトに嫉妬して嫌がらせをするとは、中々可愛いことするじゃないか、バース。

「アシュレイさんとも随分仲良くなったんですよ、バース」

兄貴は、え!という顔でこちらを見た。
いやいや、無いから。さっきも鼻汁つけられたからな。

「まだまだこれからだな」
「でも、前ほどの攻撃性は感じないぞ。シェリルさんのお陰で大分バースも人を信じられるようになったんだろうな」
「え~なになに、あのデッカイ馬?」

義姉のミランダがワインボトルを片手にやって来た。

子供達はと見ると、ジルの子供達と仲良く肉をパク付いていた。
何度かロックス領に来るうち、仲良くなったらしい。
似てるから本当に兄弟みたいだな。

「カッコイイよね。何でシェリルに懐いたのかナゾだけどさ、あの存在感は凄いなって思った」
「え、そう?初めて見た時ビビビと来たんだよ」
「何それ、運命の出会いってやつ?」

あはは、と笑ってグラスにワインをダバダバと注いだ。

「まぁ、無事にキャンプ場に着いたし、乾杯しよ、乾杯」

もちろん、俺達に否やはない。
遠慮なくワインで乾杯した。


あちこちバラバラに散らばってるロックスが半年に一度程こうやって顔を合わせる機会があるからか、我々一族は全体的に仲が良い。
子沢山一族と言われる通り、兄弟も多いから、俺も久しぶりに親族に会えて嬉しかった。
ここ数年は結婚、結婚言われるから仕事を理由にちょっと敬遠してたけど、やっと堂々と気兼ねなく来れる。

シェリルも楽しそうだった。


ワイワイしていたバーベキューも子供達が寝出したのを界に徐々に片付けを開始した。
安全のために馬達のいる広場まで、全体にバリアを張っておく。
多少何かあっても大丈夫だろう。




「わぁぁぁ、素敵」

丸くドーム状に張られたテントは二人でも十分な広さがあった。
屈まなくても立てる。
真ん中に設置された簡易ベッドも大きい。
足元も、ベッドにも毛皮が敷かれてあってフカフカだ。

シンプルだが、居心地の良いテントだった。

俺は二人に洗浄魔法クリーンをかけ、サッパリすると楽な格好に着替えてベッドに上がった。

「さて、寝るか」
「あの、アシュレイさん、朝からバタバタしててすっかり言い忘れてたんですけど・・・」
「何?」
「伝統衣装、すっごく素敵です。似合いすぎて目が離せませんでした」

・・・・・・ここに来てそれ言う??
マジでシェリル、俺を悶え殺しにかかったな。
思わず片手で口元を覆うと、堪えてもぐぅぅ、と声が漏れてしまった。

「アシュレイさん?」
「シェリルの方こそ、似合いすぎて他のヤツに見せたく無いって本気で思ってたんだぞ」

そう、コレは本気でそう思った。
キラキラした金髪に虹色の神秘的な瞳のシェリルが、黒に金銀の刺繍を施したうちの伝統衣装を纏うのを見た時、感動すらした。

シェリルは照れながらモジモジし出した。
え~、そうなの?、などど言ってる。可愛い。
瞬時にスイッチが入った。

よし、今日は素直に寝ようと思ったけど、辞めだ。
念の為にと持って来ておいて良かった。
今となってはすっかり"夜のお供"になった子種封じの小瓶を取り出して握りしめると、サクッと防音魔法を張った。二重にだ。

「え?あれ?」
「今のはシェリルが悪いな」

俺はニッコリ笑ってシェリルを引き寄せると、ベッドに倒れ込んだ。
そうか、なるほどな。
お屋敷渡り後、生まれる子供が多い理由が何となくわかった。




夜が明ける少し前、シェリルは隣でスゥスゥと、寝息を立てている。
俺はそっと起きて手早くベッド全体にクリーンをかけて、部屋着を着ると、上着を引っ掛けて外に出た。
少し白みかけた空に星が瞬いている。

歩いた先に馬達がいる広場があった。

「おい、バース」

声に魔力を乗せて、ヤツに呼びかける。
案の定、ヤツはすぐに反応してこちらを見た。
あ、生意気にテトと一緒にいる。

「ちょっと話がある、来てくれないか」

下手に出たのが良かったのか、バースはこちらにやって来た。
何だ?とばかりに首を傾げてこちらを見る。
よしよし。やっぱりヤツは魔力が多くて、魔力を通せばコミュニケーションが取れるんだな。

シェリルとのやり取りを見ていて、無意識にシェリルが魔力をコントロールしてバースとコミュニケーションしてるのではと思ったのだが、正解だった。

ロックス一族は魔力が多いが、魔力コントロールも上手いとは限らない。
多分、バース側からは魔力を通してコミュニケーションしようとしてたんだけど、上手く伝わらなくて、今までイラついていたのだろう。
まぁ、みんなが俺みたいな魔術師じゃないからな。

「今からお前に魔力を流して、他の人もコミニケーション出来るように感度上げてやるから」

ピク、とバースは耳を動かして反応し、更に俺に触れるほどに近づいた。

「触るぞ」

一応声をかけて手を伸ばし、離れないのを確認してヤツの鼻面にそっと触れる。
そのまま手の平に集中してバースに魔力を流した。

お、思ったよりも相性は良いぞ。
スルスルと入って行く。
それを足掛かりに、バースの魔力を整えてやると手を離した。

「どうだ?俺の言う事わかるか?」

今度はわざと魔力を極少量しか込めずに聞いてみた。
バースは、フンフンと言いながら大きく頷く。
魔力が無い人はほとんどいない為、これなら問題はないだろう。
人気の無い時間に来たのは、集中する為だ。

「良かった。上手く行ったみたいだな。で、提案なんだが・・・」

そう、俺はヤツに大事な提案をしに来たのだった。























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