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男娼としての生活を続けること、二年──。
亜季は二十歳になっていた。幼さの残る少年の可愛さは消えて、妖艶な美しさを持つ大人のオメガに成長していた。
「アキ、今日は『グランドシャトーホテル』だそうだ」
「グランド……シャトーホテル?」
今日の客は初めての客だったはずだが、なぜそんなにいいホテルなのかと亜季は不思議に思う。
しかも、そのホテルは幼いころに両親や兄弟たちとよく食事や宿泊しに行っていた高級ホテルであった。値段を考えるだけで、何人の客と寝なければならないのかと気が遠くなる。
そんな思い出の場所に男娼として訪れることに、少しの抵抗はあった。だが、思い出の場所で客を取ることを「まあ、仕事だ」と割り切れるほどには、記憶が薄れていた。
「そうだ、グランドシャトー。こんないいホテルでなんて、どんな羽振りのいい客だよ。どこでひっかけた?」
と、どこかでひっかけてくることなんてありえないことを知っているはずの男は、笑って亜季をからかう。
亜季が働くこの店は派遣型と店舗型を併用しているオメガ風俗だ。
そして、通常の風俗と少し違うのは高級というほどではないくせに、一見の客を取らない。つまり、この客も誰かの紹介があって、亜季を指名している。
「何言ってるんです。誰の紹介なんです?」
亜季の質問にオーナーはパソコンの操作をして、情報を確認する。
「『田中佐藤さん』の紹介になっているが……」
「田中……?」
その名前には聞き覚えがあった。亜季がここで働き始めたころに数度だけ相手をしたアルファの男だった。覚えていた理由はそのふざけた名前だからだ。
「そうだ。しばらく来ていないな」
「そうですか……」
久しく来ていない客からの紹介というのは少し気になる。別に田中という客と何かあったわけではないのでそれほど神経質になる必要もないかと思い直した。特に何があったわけではないが、足が遠のく客というのも少なからずいる。
「どうする?」
「いえ、いってきます」
亜季はオーナーにそう言うと一度家に戻った。
普段よりも露出の少ない服……昔むかし、オメガの学校に転校するよりも前に亜季が着ていたような服にした。立襟でピンタックの装飾が美しく入った真っ白なシャツ、センタープレスの細身のグレーのパンツに、靴は黒のドレスシューズ。
高級ホテルにいても、悪目立ちしない。以前はよくしていたセミフォーマルな装いは今の亜季にもしっくりきていた。
(久しぶりに着たな……)
亜季は鏡の前に立って、スタンドカラーに隠れたネックガードを指でそっと撫でた。
指定されたホテルには時間より少し早く着いた。こんな高級ホテルでオメガを買う酔狂な客に興味をそそられる。
薄暗い吹き抜けのロビー、落ち着いたえんじ色の絨毯フロア。昨今の再開発でにょきにょきと建つビルの高層階にあるモダンなホテルとは違って趣きがある。フロントを素通りして、奥のエレベーターで待ち合わせの部屋へと向かう。
そこで待っていたのは、よく見知った顔だった。
指示された部屋のチャイムを押す。待つこともなく開いた扉から以前の同じ香水をした、以前より歳を重ねた長兄の晴臣がホテルのドアから顔をのぞかせた。
亜季はひどく驚いた。だが、昔の世間知らずだったときのように感情を顔に出すようなことはない。
それにしてもどうして晴臣が──。
知らないふりをして、何食わぬ顔で自己紹介をする。
「ご指名ありがとうございます。アキです」
流石に気づかれるか? と思ったが、長兄にはそれが末っ子オメガだとは気づかなかった。
「アキ……あぁ。はじめまして、晴臣です。今日はよろしく」
(はじめ……まして……?)
そうか、晴臣に最後に会ったとき、亜季はまだ十三歳だった。
それから丸八年。
亜季の容姿は随分と変わった。幼さはなくなり、妖艶さが増して、立派な男娼になっていた。
気づかぬ長兄とそのまま肌を重ねた。
初めての発情期の時に次男 冬紀と三男 夏輝とした時のような兄弟で性行為を行うことへの嫌悪感や激しい後悔はなかった。亜季は長兄と肉体関係をもつことに些かの抵抗もなかった。
もう何度もいろんなアルファに抱かれてきたし、そもそもこれは仕事だ。
そう思って、晴臣も他の客にするのと同じようにいつもと変わらない奉仕を始めた。
まずは服を脱いで下着姿になる。
亜季は二十歳になっていた。幼さの残る少年の可愛さは消えて、妖艶な美しさを持つ大人のオメガに成長していた。
「アキ、今日は『グランドシャトーホテル』だそうだ」
「グランド……シャトーホテル?」
今日の客は初めての客だったはずだが、なぜそんなにいいホテルなのかと亜季は不思議に思う。
しかも、そのホテルは幼いころに両親や兄弟たちとよく食事や宿泊しに行っていた高級ホテルであった。値段を考えるだけで、何人の客と寝なければならないのかと気が遠くなる。
そんな思い出の場所に男娼として訪れることに、少しの抵抗はあった。だが、思い出の場所で客を取ることを「まあ、仕事だ」と割り切れるほどには、記憶が薄れていた。
「そうだ、グランドシャトー。こんないいホテルでなんて、どんな羽振りのいい客だよ。どこでひっかけた?」
と、どこかでひっかけてくることなんてありえないことを知っているはずの男は、笑って亜季をからかう。
亜季が働くこの店は派遣型と店舗型を併用しているオメガ風俗だ。
そして、通常の風俗と少し違うのは高級というほどではないくせに、一見の客を取らない。つまり、この客も誰かの紹介があって、亜季を指名している。
「何言ってるんです。誰の紹介なんです?」
亜季の質問にオーナーはパソコンの操作をして、情報を確認する。
「『田中佐藤さん』の紹介になっているが……」
「田中……?」
その名前には聞き覚えがあった。亜季がここで働き始めたころに数度だけ相手をしたアルファの男だった。覚えていた理由はそのふざけた名前だからだ。
「そうだ。しばらく来ていないな」
「そうですか……」
久しく来ていない客からの紹介というのは少し気になる。別に田中という客と何かあったわけではないのでそれほど神経質になる必要もないかと思い直した。特に何があったわけではないが、足が遠のく客というのも少なからずいる。
「どうする?」
「いえ、いってきます」
亜季はオーナーにそう言うと一度家に戻った。
普段よりも露出の少ない服……昔むかし、オメガの学校に転校するよりも前に亜季が着ていたような服にした。立襟でピンタックの装飾が美しく入った真っ白なシャツ、センタープレスの細身のグレーのパンツに、靴は黒のドレスシューズ。
高級ホテルにいても、悪目立ちしない。以前はよくしていたセミフォーマルな装いは今の亜季にもしっくりきていた。
(久しぶりに着たな……)
亜季は鏡の前に立って、スタンドカラーに隠れたネックガードを指でそっと撫でた。
指定されたホテルには時間より少し早く着いた。こんな高級ホテルでオメガを買う酔狂な客に興味をそそられる。
薄暗い吹き抜けのロビー、落ち着いたえんじ色の絨毯フロア。昨今の再開発でにょきにょきと建つビルの高層階にあるモダンなホテルとは違って趣きがある。フロントを素通りして、奥のエレベーターで待ち合わせの部屋へと向かう。
そこで待っていたのは、よく見知った顔だった。
指示された部屋のチャイムを押す。待つこともなく開いた扉から以前の同じ香水をした、以前より歳を重ねた長兄の晴臣がホテルのドアから顔をのぞかせた。
亜季はひどく驚いた。だが、昔の世間知らずだったときのように感情を顔に出すようなことはない。
それにしてもどうして晴臣が──。
知らないふりをして、何食わぬ顔で自己紹介をする。
「ご指名ありがとうございます。アキです」
流石に気づかれるか? と思ったが、長兄にはそれが末っ子オメガだとは気づかなかった。
「アキ……あぁ。はじめまして、晴臣です。今日はよろしく」
(はじめ……まして……?)
そうか、晴臣に最後に会ったとき、亜季はまだ十三歳だった。
それから丸八年。
亜季の容姿は随分と変わった。幼さはなくなり、妖艶さが増して、立派な男娼になっていた。
気づかぬ長兄とそのまま肌を重ねた。
初めての発情期の時に次男 冬紀と三男 夏輝とした時のような兄弟で性行為を行うことへの嫌悪感や激しい後悔はなかった。亜季は長兄と肉体関係をもつことに些かの抵抗もなかった。
もう何度もいろんなアルファに抱かれてきたし、そもそもこれは仕事だ。
そう思って、晴臣も他の客にするのと同じようにいつもと変わらない奉仕を始めた。
まずは服を脱いで下着姿になる。
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