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9章
2 ちょっと待って!!
しおりを挟むシロウは恥ずかしさのあまりか、溺れる口付が途切れたからか理性を取り戻していた。
シロウの理性は強靭だったようだ。
朝の日も高いうちから耽る行為ではない──というのもあるが、今はそれどころではない。
シロウは昨晩、携帯も財布も──服もだが──無くして、正真正銘の一文無しになりかけているのだ。
それをふいに思い出したことによって、もういちゃついているどころの心境では無くなっていた。
シロウの変化に気づいたリアムは自分の股関が固く昂り主張しているのがわかりながらも、行為を中断して「何事か?」と見つめる。
酷いことをしているかもしれないとは思いつつ、リアムがこちらに傾聴してくれたので、シロウは言い募った。
「あの……俺、携帯とか財布とか、昨日無くしたものが気がかりで……」
言われてリアムも気づいた。確かにその通りである。
リアムはどこかに出掛けてしまった理性を連れ戻し、昨晩いったい何があったのかをシロウに説明させた。
リアムが一切聞いてこないのをいいことに、どうしていなくなったかは説明せず、狼となってしまった経緯だけを簡単にリアムへ話し、シロウは俯き加減に下唇を噛む。
(可愛いな……)
真面目には聞いていたものの、その幼い仕草にリアムは目を奪われた。
先ほどのキスで少しふっくらとして濡れた唇にまたキスをしたくなったが、それどころではない──と首を振って思い直す。
確かにそれらは早急に対処しなければならないことだった。
(呆れられちゃったな……)
リアムが神妙な面持ちで首を振るのを見て、シロウはそう思った。
シロウは文無し問題もさることながら、それより重大な問題に直面していた。
──姉の櫻子にどう説明するか……。
携帯を取られたことは大した問題ではない。もともと、こちらで落ち着いたら、アメリカの通信会社で携帯を契約するつもりだった。不幸なことに落ち着けなかったため、日本の携帯を使い続けていただけだったのだ。
だが、新しい携帯を契約する前に、まずは今の携帯は止めなくてはならないし、携帯は不通だが、その連絡を櫻子にしないわけにはいかない。
櫻子に怒られることは必至だろう。
シロウからしてみたら櫻子は、成人男性相手に少し過保護だと思う。
もちろん、そんな姉に感謝こそすれ、疎ましく思ったことなど一度もない。
ただ、両親亡きあと、櫻子はシロウの姉であり、親代わりだった。シロウはいつまでも可愛い愛する弟で、ずっと目をかけなければならない相手なだけなのだ。
それはシロウも理解していた。
渡米直後に数日間音信不通になり、心配をかけたあと、近くに居ないせいもあるのか、櫻子の過保護さには拍車がかかった。
連絡は頻繁で、少しでもメッセージの返信が滞ると、シロウの無事を直ぐにでも確かめるかのように電話が着ていた。
このところ、そのメッセージ攻撃もシロウの生活が多少落ち着きを見せてきた様だと理解してからは少し収まり、返信が遅れたとしても、着信が立て続けに残されるようなことはなかったのだが──。
一晩、メッセージを返していないどころか、その携帯を紛失した。
このことを櫻子が知ったら……。怒られた方がマシと思うほどに心配をかけるだろう。
弁明の余地はない──。
だが、そのことをどう伝えたものか。
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