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3章
6 この跡は誰にも見せたくない
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ここの人たちはことあるごとに着替えや入浴を手伝いたがる。今も目の前のメイドさんが、風呂の準備を完璧に整えたのちに、健介が体に巻き付けたシーツを剥がして、風呂に入れようと手ぐすねを引いていた。貴族なら普通のことなのかもしれないが、生まれも育ちも庶民な健介はそれが理解できない。メイドさんたちはそれが仕事だということはわかってはいるのだが、自分に対してとなると、「自分は対象外です」と思う。甘んじて受け入れることはできなかった。
丁重に丁重を重ねて、メイドさんに断りを告げると、目の前のメイドさんは眉をへにょりと曲げて、うっすらと落胆の表情をする。
「承知いたしました。着替えやリネンはいつもどおりそちらに置いておりますので……」
と頭をさげて、浴室を後にした。罪悪感がすごい。
申し訳ない気持ちになるものの、女性に男性の入浴の手伝いをさせるということがそもそも申し訳ないのだし、なによりこの昨晩自分の体中に付けられたサイベリアンの跡を誰にも見せたくはなかった。
朝からたっぷりと湯を張った浴室で朝風呂という贅沢を満喫させてもらう。温かい湯につかると気分が落ち着いた。この三日間と同じように用意された服に袖を通す。この二日間着ていた服より少しばかり華美な気がするのは気のせいか。
(?)
多少の疑問を感じたものの、これ以外に着られるものもないのでそのまま着用する。相変わらず小さく華奢なボタンはボタンホールに一寸の余裕もなくサイズがあっていて、不器用な健介は止める作業ですたひと仕事だった。いつもよりシャツの布の厚みが薄い? 気がするのだ。ちょっと力を入れるとボタンホールを破りかねない。
あと、襟についている……というか襟と一体になっているこの長い部分。これはどうするのが正解なのだろう、ネクタイみたいにするのか、リボン結びか。
サイベリアンくらいの美しい顔やシュナのような可愛い見た目なら、リボン結びでも多いに似合うことだろうが、モブ顔のおじさんが着ても残念な結果になることは目に見えている。
ここにきてまた健介の男性用の洋服の概念を超えてくるシャツが用意されているのだから驚く。健介は「うーん……」と唸り声をあげてから、一番見慣れているだろうネクタイの結び方をして、自分を納得させた。
順番に用意された服を着ていくと、最後に薄手の布で作られた長筒上の袋が二対残った。
そう。靴下だ。
靴下が用意されているということはもちろんあの「ソックスガーター」とやらも、用意されている。健介は付け方がよくわからなかったが、見よう見まねでそれっぽく履くことに成功して、安堵にふぅと大きく息をついた。
靴下を履いたということは部屋履きではなく、靴を履くことだということはわかる。
だが、どうして?
靴下を履いた足を足元の部屋履きにつっこみ、健介はバスルームの外に出た。
「本日のご朝食はお部屋ではなく、サイベリアン様とご一緒に別の場所でお願いいたします」
浴室を出た健介は待っていたメイドさんからそのように告げられて、今日用意されていた洋服がいつもの部屋着ではなく、外着の美しいシャツであった理由がようやく理解できた。
(なるほど)
だが、ここで再び疑問を感じる。初日の朝食に大きな大きな豪華すぎる宴会場に案内されたときは、部屋履きを履いて行ったのだ。
そんな健介の疑問の表情に気づいているのか気づいていないのか、メイドさんは何も言わずに「では、ご案内いたします」と先を歩いて部屋を出る。
おいていかれないように健介もそのあとに続き、黙って後ろをついていくと、行ったことのない方角へとどんどん進んでいく。
よく覚えてはいないが、初日に案内された朝食会場である大ホールとは逆の方向だと思った。こんなに広い屋敷なのだから、朝食を食べる部屋もいくつもあるのかもしれない。
しばらく歩くと、廊下の先は少しさびれた雰囲気になってくる。とても、来客が訪れたり、ホールがありそうな様子ではない。
これは本当にどこにつれていかれようとしているのだろうか……。
健介は少し不安を感じながらも、前に案内のためのメイドさん、後ろを部屋の前にいつも待機してくれている騎士という布陣で、黙って足をすすめた。
丁重に丁重を重ねて、メイドさんに断りを告げると、目の前のメイドさんは眉をへにょりと曲げて、うっすらと落胆の表情をする。
「承知いたしました。着替えやリネンはいつもどおりそちらに置いておりますので……」
と頭をさげて、浴室を後にした。罪悪感がすごい。
申し訳ない気持ちになるものの、女性に男性の入浴の手伝いをさせるということがそもそも申し訳ないのだし、なによりこの昨晩自分の体中に付けられたサイベリアンの跡を誰にも見せたくはなかった。
朝からたっぷりと湯を張った浴室で朝風呂という贅沢を満喫させてもらう。温かい湯につかると気分が落ち着いた。この三日間と同じように用意された服に袖を通す。この二日間着ていた服より少しばかり華美な気がするのは気のせいか。
(?)
多少の疑問を感じたものの、これ以外に着られるものもないのでそのまま着用する。相変わらず小さく華奢なボタンはボタンホールに一寸の余裕もなくサイズがあっていて、不器用な健介は止める作業ですたひと仕事だった。いつもよりシャツの布の厚みが薄い? 気がするのだ。ちょっと力を入れるとボタンホールを破りかねない。
あと、襟についている……というか襟と一体になっているこの長い部分。これはどうするのが正解なのだろう、ネクタイみたいにするのか、リボン結びか。
サイベリアンくらいの美しい顔やシュナのような可愛い見た目なら、リボン結びでも多いに似合うことだろうが、モブ顔のおじさんが着ても残念な結果になることは目に見えている。
ここにきてまた健介の男性用の洋服の概念を超えてくるシャツが用意されているのだから驚く。健介は「うーん……」と唸り声をあげてから、一番見慣れているだろうネクタイの結び方をして、自分を納得させた。
順番に用意された服を着ていくと、最後に薄手の布で作られた長筒上の袋が二対残った。
そう。靴下だ。
靴下が用意されているということはもちろんあの「ソックスガーター」とやらも、用意されている。健介は付け方がよくわからなかったが、見よう見まねでそれっぽく履くことに成功して、安堵にふぅと大きく息をついた。
靴下を履いたということは部屋履きではなく、靴を履くことだということはわかる。
だが、どうして?
靴下を履いた足を足元の部屋履きにつっこみ、健介はバスルームの外に出た。
「本日のご朝食はお部屋ではなく、サイベリアン様とご一緒に別の場所でお願いいたします」
浴室を出た健介は待っていたメイドさんからそのように告げられて、今日用意されていた洋服がいつもの部屋着ではなく、外着の美しいシャツであった理由がようやく理解できた。
(なるほど)
だが、ここで再び疑問を感じる。初日の朝食に大きな大きな豪華すぎる宴会場に案内されたときは、部屋履きを履いて行ったのだ。
そんな健介の疑問の表情に気づいているのか気づいていないのか、メイドさんは何も言わずに「では、ご案内いたします」と先を歩いて部屋を出る。
おいていかれないように健介もそのあとに続き、黙って後ろをついていくと、行ったことのない方角へとどんどん進んでいく。
よく覚えてはいないが、初日に案内された朝食会場である大ホールとは逆の方向だと思った。こんなに広い屋敷なのだから、朝食を食べる部屋もいくつもあるのかもしれない。
しばらく歩くと、廊下の先は少しさびれた雰囲気になってくる。とても、来客が訪れたり、ホールがありそうな様子ではない。
これは本当にどこにつれていかれようとしているのだろうか……。
健介は少し不安を感じながらも、前に案内のためのメイドさん、後ろを部屋の前にいつも待機してくれている騎士という布陣で、黙って足をすすめた。
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