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3章
8 あなたここで何しているの?
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温室の中は風もなく、暑すぎるということもなく過ごしやすい。朝のまだ柔らかい陽ざしがガラス越しに降り注ぎ、植えられた木々や花々を美しく照らしていた。
温室の中央だと思われるこの場所は天井が高く、ひと際大きな大木が植えられており、その下に配置するように用意されたテーブルセットには計算されたように木漏れ日が当たっていた。
えらくロマンチックだと思う。少しばかり気恥ずかしい。
だが、豪華を極めた風情の大きなホールと比べたら、随分と気易かった。
そして、席に座って待つこと……、どのくらい経っただろうか。
待てど暮らせど、サイベリアンは温室に姿を現さない。
(デジャヴ?)
三日前の朝と同じように、サイベリアンが来るのを健介はおとなしく待つ。
首を長くして待つこといくばくか……、なにせ時計がないので正確な時間はわからない。いい加減、ガラス天井の梁の本数を数えるのにも飽きてきた。
あくまで体感でしかないのだが、そこそこ待ったというころに、温室内の使用人さんたちに動きがあった。歩いてきた方向、見上げた階段の先から見慣れた執事長が足早に近づいてきた。
(デジャヴ!)
緩やかな階段を飛ぶように駆け下りて、健介の前へと歩み寄る。
「ケン様、ボルハウンド卿が……、」
「ケンちゃーん」
おそらく、執事長の言葉は「お越しになりました」だったに違いないが、その言葉は自分を呼ぶ声によってかき消された。
ボルハウンド卿? と疑問に思う間もなく、自分を呼ぶ声と、執事長のすぐ後ろから現れた姿でそれが誰だかわかった。
ゾイだ。
なぜゾイがここに──?
監査? にしたって朝早すぎる。こんな早朝に人様の家に訪問するのは非常識だ。サイベリアンは第二皇子だし、ちょっと……いやかなり失礼な気がする。
ゾイがあらわれたものの、朝食を約束していたサイベリアンの姿は見当たらない。
っていうか、ボルハウンド「卿」──。
卿というからには、ゾイはただのハウスの支配人というわけではなく、貴族なのだろうか。貴族がハウスの支配人をするものなのだろうか。
健介の頭にはいくつもの疑問がわいては消え、消えてはわいてくる。
そんな疑問で頭がいっぱいの健介に気づいているのかいないのか、ゾイは当たり前のように健介の隣に来て、サイベリアンのために用意されていると思った席に座った。
(え!?)
健介がその行動に驚いている間に、ゾイはメイドに指示してカップに飲み物を注がせている。
(えぇ!?)
その人を使うことに慣れた様子に、ハウスの気のいいおに……おね、おネエさんとは別の顔を見た気がした。
「ケンちゃん、あなたここで何してるの?」
元からその席は自分のために用意されていたかのようにゾイはお茶の入ったカップを持ち上げて一口飲むとふうと一息つき、目をすがめて健介を見た。
ここで何しているもなにも、ゾイが自分をサイベリアンのもとに派遣したのではないのか?!
そうでなくとも疑問でいっぱいの健介の頭は混乱を極める。
「え、え、……えっと、あの……」
正解がわからずに口ごもる。
どういうことなのだろう──。ゾイは派遣された健介の働きぶりを確認しに来たのではないのだろうか。そうでないなら、ゾイはここに一体なんの目的で来たというのだ。
「ケンちゃん、ここがどこかわかってる?」
ここがどこか? とは何を聞かれているのだろう。サイベリアンの屋敷ではないのか。
ゾイの質問の意図が全くわからない。
「あ、あの、り、り……さ、サイベリアン……殿下のお、お屋敷、では?」
健介は自分のわかる限りの答えを口にした。これは正解のはず。
「そうね」
やはりここはサイベリアンのお屋敷だった。サイベリアンだと思っていた人が実はサイベリアンではなくて、似た別人の相手をしていたとかではなさそうである。
ゾイの相槌に健介はあからさまにほっとした。
だが、その安堵もつかの間、ゾイの言った言葉が健介をより深い混乱におとしいれる。
ゾイは持っていたカップを置いて、健介の方に体を向けなおす。真剣な瞳で正面から健介を見つめて言った。
「ここはね、帝都よ」
温室の中央だと思われるこの場所は天井が高く、ひと際大きな大木が植えられており、その下に配置するように用意されたテーブルセットには計算されたように木漏れ日が当たっていた。
えらくロマンチックだと思う。少しばかり気恥ずかしい。
だが、豪華を極めた風情の大きなホールと比べたら、随分と気易かった。
そして、席に座って待つこと……、どのくらい経っただろうか。
待てど暮らせど、サイベリアンは温室に姿を現さない。
(デジャヴ?)
三日前の朝と同じように、サイベリアンが来るのを健介はおとなしく待つ。
首を長くして待つこといくばくか……、なにせ時計がないので正確な時間はわからない。いい加減、ガラス天井の梁の本数を数えるのにも飽きてきた。
あくまで体感でしかないのだが、そこそこ待ったというころに、温室内の使用人さんたちに動きがあった。歩いてきた方向、見上げた階段の先から見慣れた執事長が足早に近づいてきた。
(デジャヴ!)
緩やかな階段を飛ぶように駆け下りて、健介の前へと歩み寄る。
「ケン様、ボルハウンド卿が……、」
「ケンちゃーん」
おそらく、執事長の言葉は「お越しになりました」だったに違いないが、その言葉は自分を呼ぶ声によってかき消された。
ボルハウンド卿? と疑問に思う間もなく、自分を呼ぶ声と、執事長のすぐ後ろから現れた姿でそれが誰だかわかった。
ゾイだ。
なぜゾイがここに──?
監査? にしたって朝早すぎる。こんな早朝に人様の家に訪問するのは非常識だ。サイベリアンは第二皇子だし、ちょっと……いやかなり失礼な気がする。
ゾイがあらわれたものの、朝食を約束していたサイベリアンの姿は見当たらない。
っていうか、ボルハウンド「卿」──。
卿というからには、ゾイはただのハウスの支配人というわけではなく、貴族なのだろうか。貴族がハウスの支配人をするものなのだろうか。
健介の頭にはいくつもの疑問がわいては消え、消えてはわいてくる。
そんな疑問で頭がいっぱいの健介に気づいているのかいないのか、ゾイは当たり前のように健介の隣に来て、サイベリアンのために用意されていると思った席に座った。
(え!?)
健介がその行動に驚いている間に、ゾイはメイドに指示してカップに飲み物を注がせている。
(えぇ!?)
その人を使うことに慣れた様子に、ハウスの気のいいおに……おね、おネエさんとは別の顔を見た気がした。
「ケンちゃん、あなたここで何してるの?」
元からその席は自分のために用意されていたかのようにゾイはお茶の入ったカップを持ち上げて一口飲むとふうと一息つき、目をすがめて健介を見た。
ここで何しているもなにも、ゾイが自分をサイベリアンのもとに派遣したのではないのか?!
そうでなくとも疑問でいっぱいの健介の頭は混乱を極める。
「え、え、……えっと、あの……」
正解がわからずに口ごもる。
どういうことなのだろう──。ゾイは派遣された健介の働きぶりを確認しに来たのではないのだろうか。そうでないなら、ゾイはここに一体なんの目的で来たというのだ。
「ケンちゃん、ここがどこかわかってる?」
ここがどこか? とは何を聞かれているのだろう。サイベリアンの屋敷ではないのか。
ゾイの質問の意図が全くわからない。
「あ、あの、り、り……さ、サイベリアン……殿下のお、お屋敷、では?」
健介は自分のわかる限りの答えを口にした。これは正解のはず。
「そうね」
やはりここはサイベリアンのお屋敷だった。サイベリアンだと思っていた人が実はサイベリアンではなくて、似た別人の相手をしていたとかではなさそうである。
ゾイの相槌に健介はあからさまにほっとした。
だが、その安堵もつかの間、ゾイの言った言葉が健介をより深い混乱におとしいれる。
ゾイは持っていたカップを置いて、健介の方に体を向けなおす。真剣な瞳で正面から健介を見つめて言った。
「ここはね、帝都よ」
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𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
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