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3章
41 セーフワードは……
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「わかったよ。ウンシア、僕はここで見ているからね。何かあったら中止して、別の人を呼びに行くから」
「はい」
答えたウンシアの声は固く、緊張しているようだった。
そこで、健介はふと気づく。
(あ、あれ……)
この流れはいますぐこの場でプレイを始める感じだ。それもシュナが見ているところで。よく考えなくても、それはあまりに気まずいのではないか。
ウンシアとプレイをするということだけでも、健介の心理的ハードルは高い。それなのに、プレイを見られるとは……。
羞恥プレイか?
などと考えて、ウンシアの膝に抱えられた体を身じろぎさせる。
「え、あ、あの、いま、すぐに?」
「はい。今からプレイをしてケアをします」
ウンシアの反応は至って普通。当たり前のことのように「今から」だという。
プレイは人に見られながらするもの……だっただろうか。
いやいや、そんなことはない。いくらダイナミクスの知識が無いとはいえ、それぐらいは健介にもわかる。わざわざプレイルームという個室で行うくらいなのだから、プレイはDomとSubが二人きりで行うものに違いない。
でも、シュナはこのまま見守ると……?
そうだ、見守りなのだ。シュナに見せるためにプレイをするのではない。あくまで、あくまでシュナはウンシアがきちんとケアを出来るかを見守っているだけ。見るわけじゃない。違う、見守るということは見ているということで。よくわかんなくなってきた。
とにかく、恥ずかしがっている場合ではない。
そうは思うものの、第二皇子殿下……サイベリアンとプレイをするたびに自分が晒していた醜態を思い出すと、ウンシアに見せるのだけでも恥ずかしいというのに、シュナにまでそれを見せるのは──憚られる気がする。
ところで、シュナだってSubなのに、ウンシアする命令を聞いても大丈夫なのだろうか。
自分が目下体調が悪くなっているのは、ウンシアが放ったGlareのせいだが、シュナは特になんともなさそうだ。自分が知らないだけで、耐性とかそういうのがあるのかもしれないと思う。
そういえば……と、前に一度ウンシアとプレイをしたことを思い出す。あの時は特にサイベリアンとするような性的な接触が一つもなく、自分も昂ったりすることはなかった。シュナにウンシアの命令が効かないように、自分もウンシアとのプレイではサイベリアンとプレイのような痴態はさらさない可能性がある。
健介には一条の光が見えた気がした。
プレイを始める前だというのに、健介の頭の中はせわしない。
とにかく、いまはプレイをしないことには体調が回復しないことは明らかだった。健介はウンシアの膝の上で観念する。
「そ、うん。わかった。よ、よろしく、お願い、します」
「はい。じゃあ、体の力を抜いて、身を任せてください」
言われた通りにウンシアの腕に体を預ける。
「いい子です。セーフワードは何にしますか」
セーフワード……。これは、プレイのたびに決める者なのか──、それともプレイをする相手によって決めるものなのか──。
健介は答えに詰まってしまう。
「ケン。セーフワードを決めないでプレイをしていたの?」
すぐに答えない健介に、シュナが心配そうに尋ねてくる。
「あ、いえ。あの……」
社畜。
これをこのまま伝えればいいのに、健介の口はそれを拒む。
セーフワードはDomからの命令を拒否するときに使える唯一の言葉だ。それがどれだけの重みを持つ言葉なのか、他のSubがどう考えているのかはわからない。だが、健介にとってはサイベリアンと二人だけの符号のようでそれを他の人に伝えたくなかった。
とっさに、別の言葉を答えていた。
「べ、勉強」
「え? なんて」
シュナが困惑して聞き返す。
「セーフワードは『勉強』です」
健介はもう一度はっきりと宣言した。
シュナの反応を見るに、おかしな言葉選びだったのかもしれない。仕方がないではないか。健介にはセーフワードの標準がわからないのだ。それでも、プレイのなかで絶対に混同されない、普段のプレイの中で出てこない言葉にしないといけないと、一生懸命考えたのだ。プレイの最中に「勉強」は出てきはしまい。
「わかりました。『勉強』ですね。じゃあ、早速始めますが、いいですか?」
ウンシアは笑いもからかいもせずに、セーフワードと開始の確認をすると、支えていた腕に力を込めた。
シュナも健介の手を握っていた両手をすっと離して、距離を取った気配がする。
これから、洗濯場でウンシアと二度目のプレイをする。
改めてその事実を認識して、これからどんな命令がされるのか健介の胸は緊張に早鐘を打ち始めた。
「うん。始めよう」
「はい」
答えたウンシアの声は固く、緊張しているようだった。
そこで、健介はふと気づく。
(あ、あれ……)
この流れはいますぐこの場でプレイを始める感じだ。それもシュナが見ているところで。よく考えなくても、それはあまりに気まずいのではないか。
ウンシアとプレイをするということだけでも、健介の心理的ハードルは高い。それなのに、プレイを見られるとは……。
羞恥プレイか?
などと考えて、ウンシアの膝に抱えられた体を身じろぎさせる。
「え、あ、あの、いま、すぐに?」
「はい。今からプレイをしてケアをします」
ウンシアの反応は至って普通。当たり前のことのように「今から」だという。
プレイは人に見られながらするもの……だっただろうか。
いやいや、そんなことはない。いくらダイナミクスの知識が無いとはいえ、それぐらいは健介にもわかる。わざわざプレイルームという個室で行うくらいなのだから、プレイはDomとSubが二人きりで行うものに違いない。
でも、シュナはこのまま見守ると……?
そうだ、見守りなのだ。シュナに見せるためにプレイをするのではない。あくまで、あくまでシュナはウンシアがきちんとケアを出来るかを見守っているだけ。見るわけじゃない。違う、見守るということは見ているということで。よくわかんなくなってきた。
とにかく、恥ずかしがっている場合ではない。
そうは思うものの、第二皇子殿下……サイベリアンとプレイをするたびに自分が晒していた醜態を思い出すと、ウンシアに見せるのだけでも恥ずかしいというのに、シュナにまでそれを見せるのは──憚られる気がする。
ところで、シュナだってSubなのに、ウンシアする命令を聞いても大丈夫なのだろうか。
自分が目下体調が悪くなっているのは、ウンシアが放ったGlareのせいだが、シュナは特になんともなさそうだ。自分が知らないだけで、耐性とかそういうのがあるのかもしれないと思う。
そういえば……と、前に一度ウンシアとプレイをしたことを思い出す。あの時は特にサイベリアンとするような性的な接触が一つもなく、自分も昂ったりすることはなかった。シュナにウンシアの命令が効かないように、自分もウンシアとのプレイではサイベリアンとプレイのような痴態はさらさない可能性がある。
健介には一条の光が見えた気がした。
プレイを始める前だというのに、健介の頭の中はせわしない。
とにかく、いまはプレイをしないことには体調が回復しないことは明らかだった。健介はウンシアの膝の上で観念する。
「そ、うん。わかった。よ、よろしく、お願い、します」
「はい。じゃあ、体の力を抜いて、身を任せてください」
言われた通りにウンシアの腕に体を預ける。
「いい子です。セーフワードは何にしますか」
セーフワード……。これは、プレイのたびに決める者なのか──、それともプレイをする相手によって決めるものなのか──。
健介は答えに詰まってしまう。
「ケン。セーフワードを決めないでプレイをしていたの?」
すぐに答えない健介に、シュナが心配そうに尋ねてくる。
「あ、いえ。あの……」
社畜。
これをこのまま伝えればいいのに、健介の口はそれを拒む。
セーフワードはDomからの命令を拒否するときに使える唯一の言葉だ。それがどれだけの重みを持つ言葉なのか、他のSubがどう考えているのかはわからない。だが、健介にとってはサイベリアンと二人だけの符号のようでそれを他の人に伝えたくなかった。
とっさに、別の言葉を答えていた。
「べ、勉強」
「え? なんて」
シュナが困惑して聞き返す。
「セーフワードは『勉強』です」
健介はもう一度はっきりと宣言した。
シュナの反応を見るに、おかしな言葉選びだったのかもしれない。仕方がないではないか。健介にはセーフワードの標準がわからないのだ。それでも、プレイのなかで絶対に混同されない、普段のプレイの中で出てこない言葉にしないといけないと、一生懸命考えたのだ。プレイの最中に「勉強」は出てきはしまい。
「わかりました。『勉強』ですね。じゃあ、早速始めますが、いいですか?」
ウンシアは笑いもからかいもせずに、セーフワードと開始の確認をすると、支えていた腕に力を込めた。
シュナも健介の手を握っていた両手をすっと離して、距離を取った気配がする。
これから、洗濯場でウンシアと二度目のプレイをする。
改めてその事実を認識して、これからどんな命令がされるのか健介の胸は緊張に早鐘を打ち始めた。
「うん。始めよう」
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