3 / 13
Episode2 幸也は、鈍い。
しおりを挟む
キーンコーン カーンコーン
まだ校庭に桜がのこる季節。高らかに、本日最後の鐘が鳴った。
「なーなー幸也ぁ。お前今日カラオケ来れねー?」
早速、とばかりに話しかけてきた高濱。しかし生憎、今日の幸也は用事があった。
「あー今日は部活あるから無理」
「おっけー部活ね、じゃあしょうがねーな………って、おい!」
さっさと帰り支度をする幸也に、高濱は急にガバッと顔を上げて幸也にチョップをした。
「おい、邪魔だぞ」
「いや、邪魔だじゃねーよ! お前帰宅部だろ! 危ねー、今一瞬騙されかけたわ」
「帰宅部だけど部活があんだよ」
「帰宅部に部活はねーよ。家に帰るまでのタイムアタックでもすんのか」
「ああそれ、小学校のときやったな。帰すのが早い先生だと、走れば自分で校門開けられたりして」
「あー、下駄箱までダッシュとかなー………ってそうじゃねー! おい幸也、支度早えーよ!」
「帰りの会の最中に荷物を纏めておくのは常識だ。さようならのとき荷物を背負うのは、許してくれる先生とくれない先生がいる。じゃーな」
「おぉい! 待てー!!」
「帰宅部のやる部活ってなんだよーっ!」と叫ぶ声を遠くに聞きながら、幸也は部室へ足を急いだ。最近、幸也は毎日が訪れるのが楽しくてしょうがなかった。
♯♯
ガラリ、と部室の扉を開く。
外向き資料室であるこの部屋は、普通の教室の半分ほどの広さしかない。入り口のポスターは他の人が迷い混んでくるのを防ぐため、既に外した。狭い教室を見渡すが、佑はいない。今日は幸也が先のようだった。
そう思い、部屋の窓際にあるいつもの机に歩み寄り鞄を置いたその瞬間。
「ばあっ!!」
後ろから、佑の大声が響いた。
「…………何やってんだ、おまえ?」
「えっ、何って………驚いたでしょ?」
「小学生か、おまえは!」
でかい図体して悪ガキみたいなことをするな、とドン引きして言うと、「えー、幸也先輩が小さいんでしょー」などとのたまうので、チョップしておいた。
幸也は別に小さくない。平均身長より五センチほど低いだけだ。そもそも中身が小学生の佑こそ、何で無駄に身長だけ高いんだと問いたい。
「これにも驚かないなんて、幸也先輩、意外と手強いなー」
幸也はこれでも前世では剣闘士だったので、血や暴力は好きじゃないが怖くもない。だから映画などは一通りいけるし、気配も読めるので、脅かそうと思ってもある程度近付けばわかってしまう。
「おれは生まれつき恐怖や痛みに鈍いんだ。いい加減諦めてくれ」
「えー」
本当は前世からだったが、それは黙っておいた。
「それより………そろそろ佑も部に馴染んできたことだし、いよいよ文芸部の活動を始めようと思うんだ」
「部活じゃないのに?」
「部活じゃないのに」
二人で顔を見合わせる。だって、いい加減二人で本ばっか読んでたって飽きるだろう。幸也は少しくらい部活らしいこともやってみたかった。
「今さらだけど、部活の要件ってなんなの? 人数が足りないとは聞いたけど」
佑に尋ねられ、幸也は頭のなかにある部活の条件を思い返した。
「えーっと。生徒五人と顧問、部室があること。
それがあれば部活として認められて、生徒会から月の予算が幾ばくか出る」
「部室はもうあるでしょ。おれと、先輩と……」
「実は二年に、幽霊部員がもう一人いるんだ。それから顧問も、去年やってくれてた先生がまだいるから、頼めば引き受けてくれると思う」
「えっ………え、じゃあ、あと二人探せばいいだけ!? おれ、クラスから何人か誘ってこようか?」
「部活まだ決まってないヤツ何人かいるし!」と告げ、そのまま走り出そうとする佑に、幸也は慌てて彼の手をパシリと捕まえた。
「いや、まてまて。別にそこまでしなくてもいいよ。現状、部活じゃなくて困ってることも特にないし」
「まあそっか………」
「でも何かあったらすぐに言ってね!」と胸を張って言う佑に、幸也は苦笑いして答えた。
佑に言ったことも嘘ではなかった。
しかし、それ以上にこの二人きりの放課後を惜しく思い、この空間に他人が入ることを苦々しく思ったことを、幸也はひとまずは気の迷いと思って忘れてしまうことにした。
まだ校庭に桜がのこる季節。高らかに、本日最後の鐘が鳴った。
「なーなー幸也ぁ。お前今日カラオケ来れねー?」
早速、とばかりに話しかけてきた高濱。しかし生憎、今日の幸也は用事があった。
「あー今日は部活あるから無理」
「おっけー部活ね、じゃあしょうがねーな………って、おい!」
さっさと帰り支度をする幸也に、高濱は急にガバッと顔を上げて幸也にチョップをした。
「おい、邪魔だぞ」
「いや、邪魔だじゃねーよ! お前帰宅部だろ! 危ねー、今一瞬騙されかけたわ」
「帰宅部だけど部活があんだよ」
「帰宅部に部活はねーよ。家に帰るまでのタイムアタックでもすんのか」
「ああそれ、小学校のときやったな。帰すのが早い先生だと、走れば自分で校門開けられたりして」
「あー、下駄箱までダッシュとかなー………ってそうじゃねー! おい幸也、支度早えーよ!」
「帰りの会の最中に荷物を纏めておくのは常識だ。さようならのとき荷物を背負うのは、許してくれる先生とくれない先生がいる。じゃーな」
「おぉい! 待てー!!」
「帰宅部のやる部活ってなんだよーっ!」と叫ぶ声を遠くに聞きながら、幸也は部室へ足を急いだ。最近、幸也は毎日が訪れるのが楽しくてしょうがなかった。
♯♯
ガラリ、と部室の扉を開く。
外向き資料室であるこの部屋は、普通の教室の半分ほどの広さしかない。入り口のポスターは他の人が迷い混んでくるのを防ぐため、既に外した。狭い教室を見渡すが、佑はいない。今日は幸也が先のようだった。
そう思い、部屋の窓際にあるいつもの机に歩み寄り鞄を置いたその瞬間。
「ばあっ!!」
後ろから、佑の大声が響いた。
「…………何やってんだ、おまえ?」
「えっ、何って………驚いたでしょ?」
「小学生か、おまえは!」
でかい図体して悪ガキみたいなことをするな、とドン引きして言うと、「えー、幸也先輩が小さいんでしょー」などとのたまうので、チョップしておいた。
幸也は別に小さくない。平均身長より五センチほど低いだけだ。そもそも中身が小学生の佑こそ、何で無駄に身長だけ高いんだと問いたい。
「これにも驚かないなんて、幸也先輩、意外と手強いなー」
幸也はこれでも前世では剣闘士だったので、血や暴力は好きじゃないが怖くもない。だから映画などは一通りいけるし、気配も読めるので、脅かそうと思ってもある程度近付けばわかってしまう。
「おれは生まれつき恐怖や痛みに鈍いんだ。いい加減諦めてくれ」
「えー」
本当は前世からだったが、それは黙っておいた。
「それより………そろそろ佑も部に馴染んできたことだし、いよいよ文芸部の活動を始めようと思うんだ」
「部活じゃないのに?」
「部活じゃないのに」
二人で顔を見合わせる。だって、いい加減二人で本ばっか読んでたって飽きるだろう。幸也は少しくらい部活らしいこともやってみたかった。
「今さらだけど、部活の要件ってなんなの? 人数が足りないとは聞いたけど」
佑に尋ねられ、幸也は頭のなかにある部活の条件を思い返した。
「えーっと。生徒五人と顧問、部室があること。
それがあれば部活として認められて、生徒会から月の予算が幾ばくか出る」
「部室はもうあるでしょ。おれと、先輩と……」
「実は二年に、幽霊部員がもう一人いるんだ。それから顧問も、去年やってくれてた先生がまだいるから、頼めば引き受けてくれると思う」
「えっ………え、じゃあ、あと二人探せばいいだけ!? おれ、クラスから何人か誘ってこようか?」
「部活まだ決まってないヤツ何人かいるし!」と告げ、そのまま走り出そうとする佑に、幸也は慌てて彼の手をパシリと捕まえた。
「いや、まてまて。別にそこまでしなくてもいいよ。現状、部活じゃなくて困ってることも特にないし」
「まあそっか………」
「でも何かあったらすぐに言ってね!」と胸を張って言う佑に、幸也は苦笑いして答えた。
佑に言ったことも嘘ではなかった。
しかし、それ以上にこの二人きりの放課後を惜しく思い、この空間に他人が入ることを苦々しく思ったことを、幸也はひとまずは気の迷いと思って忘れてしまうことにした。
1
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる