元剣闘士は、前世の仇(ライバル)を甘やかす。

夜のトラフグ

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Episode6 言えない言葉。

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 結局、幸也は本当の気持ちを言う勇気が出ず、ただ「よかった」とだけ伝えた。そんな幸也に佑ははにかんで笑い、「うれしい」と応えた。

 その様子もなんだか普段と違っていて、幸也はドキリとした。

 けれど殊勝だったのはそれまでで、幸也のエッセイの話になると、佑は途端に興奮して喋りだした。

「すごいね、幸也先輩! こことかこことか、読んでて腹が捻れるかと思ったよ」

 無いハズの尻尾をブンブン振って、必死に感想を伝える佑に、自然と幸也の頬が緩んだ。

「そうか。楽しんで貰えたならよかった」

 正面から作品を褒められるのは照れ臭かった。けれど悪い気もしない。そそくさと原稿を仕舞いながら、幸也はふと思い付いたように提案した。

「そうだ。おれ、今日はもう帰ろうと思うんだけど」
「えっ。もう帰っちゃうの?」

 幸也の言葉に、佑がションボリと眉を八の字にする。なんだか本当に飼い犬みたいだ、と幸也は思う。こんなでっかいわんこを飼った覚えはないが。

「うん。今日公開の映画があってさ。学校近くの映画館なら、この時間帯空いてるし」
「そう……」
「よかったらお前も来るか? おごるぞ?」
「!!」

 放課後に堂々と映画館に行けるのも、部活もどき・・・の特権だ。ずっと公開を楽しみにしていた映画なのだし、たまにはいいだろ、と誰に言うでもなく心のなかで言い訳をする。
 ついでとばかりに佑も誘ってみると、彼はシューンとした顔から一転、雨上がりの太陽みたいにパアッと顔を輝かせた。

「いく!!」

 その笑顔に、幸也はなんだかのまれそうになった。明るくて眩しくて、この笑顔を曇らせたくはないなと思った。

「……そーか」

 しかし、そんな動揺は押し隠して幸也は素っ気なく返事をする。さっさと自分の鞄を引っ掻けて部室の部屋の鍵を掴むと、佑も慌てたように鞄を持って追い掛けてきた。

「ねーねー、それで何の映画見るの?」
「ん? お前も知ってると思うよ。ほら、原作があの有名な少年漫画の」
「あっあれ! 今日公開だったんだー。
 ねえホントにお金出してくれるの? コーラとポップコーンも?」
「さりげに増やしてんじゃねーよ。それは自分で買え」
「えー? じゃあチケットの代わりに、飲み物とポップコーンはおれが幸也先輩におごってあげる!」

 機嫌よく笑いながら二人連れ合って歩く。遠くから見ると彼らは、長い付き合いの友人のような、深い信頼で結ばれた恋人のような関係に見えた。

「ね、楽しみだね。幸也先輩!」
「……そうだな」
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