元剣闘士は、前世の仇(ライバル)を甘やかす。

夜のトラフグ

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Episode11 文芸部への訪問者。

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「わー、相変わらず狭くて汚い部屋だね。ここ」


 ある日の放課後、失礼な言葉とともにすっと伸ばせば高い背を窮屈そうに屈めた男が入ってきた。
 キョロキョロとあたりを見渡し、埃の積もった棚をすっと拭い、「うわあ」と嫌そうに顔を顰める。

「好き好んで毎日入り浸っている人たちの気が知れないや」
「零人……おまえやっと来たのか。その格好はなんだ」

 佑が「誰ですか?」と不思議そうな顔をしているのに、短く「例の幽霊部員だ」と答えて幸也は歩み寄る。

「ああこれ? いいでしょう、また染めたんだ」

 零人は腰までとどく髪を、真っ白に変えていた。

「……服装違反を再三にわたって注意された末に停学になったことは、全く懲りていないようだな」
「何がいけないの? 僕の髪が長くて、誰かに迷惑を掛けた?」

 零人は平然と答える。幸也は目眩がした。本当に全く懲りていないじゃないか、こいつ。

 零人は十歳のときから、ずっと髪を切っていない。理由は知らない。こいつのことだから何か深い理由があるのかも知れないし、なんの意味も無いのかも知れない、と幸也は思っている。

 そのことで零人は、入学当初から先生方に目を付けられていた。それならそれで事情を説明するなり穏便に対象すればいいものの、「は? どんな格好しようが僕の勝手でしょう?」と正面きって戦争を仕掛けたので、授業をサボったりテストを白紙で出したりする態度もたたって、とうとう今年の春に停学となってしまった。成績はとても良いのに、勿体ないなと幸也は思う。
 そうして停学が明けても、そのまま家に閉じ籠もっていたのだ。

「……髪を伸ばすだけならまだしも、よりによって脱色、とは……。おまえ卒業できなくなるぞ……」
「ふん。時代遅れの校則に、僕が一石投じるのさ」

 挑発的に笑う零人に、幸也は顔を覆った。そんなことをして一体何の得があるんだ。
 しかしそんなことはどうでも良いとばかりに、零人が佑に近付く。出遅れた幸也はただハラハラと見守っていることしか出来ない。

「やあ、きみが檜村くんか。はじめまして・・・・・・?」

 零人はそう言って手を差し出した。佑はそれをポカンと眺めたあと、少し置いて慌てたように応じた。

「はい、はじめまして。……檜村佑です」
「うん、僕は永菅零人。れいちゃんって呼んでもいいよ?」

 ニコッと見せかけだけの優しげな笑みを浮かべた零人に、佑は戸惑うような顔で答えた。
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