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Episode12 ゆきくん、って。
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「ほら、呼んでごらんよ。れいちゃんって。れいちゃん先輩でもいいよ」
「はあ……えっと」
明らかに引いた様子なのに、零人はなおも食い下がる。どんなメンタルしてるんだ、と幸也は思う。
「おい、下級生を弄るな。それくらいにしておけ」
見ていられなくなって幸也が助け船を出す。すると、今度は零人が幸也に向けてニヤッと笑った。
「じゃあゆきくんはどう呼ばせてるの? 意外と、二人だけの呼び名とか」
「!」
「普通に先輩呼びだよ。何だ、二人だけの呼び名って」
「えー、つまんなーい」
そう言ってチラッと佑を見た零人は、言葉の割になぜか楽しそうだった。幸也はいい加減付き合いきれず、ずっと聞きたかったことを切り出した。
「……で? おまえは今日、一体何しに来たんだ?」
こんなに長く休んでたのにひょっこり出てきた訳は、やっぱり幸也からの話を聞いたからだろうか。
しかし、幸也の言葉に零人はむっとした顔をした。
「何さ。用が無ければ来るなって?」
「そうは言わないが…」
「あー、はいはい。別に僕もこんな埃っぽい所に長居する気ないから。ほら、これ」
そう言って零人が差し出したのは…見覚えのある紙の束だった。というか前に家へ行ったとき、幸也が渡した課題だった。
「はい、僕んちに来たときの忘れ物」
いけしゃあしゃあと言う零人に、幸也は呆れて返す言葉も無かった。
「……これはもともとおまえの物だが」
「中身はやってあるから。出しといて」
「自分で行け……おい!」
幸也に渡すや否や、「じゃあね~」と立ち去っていく。プロの帰宅部・幸也も呆れるほどの素早さだった。同時にピロンと鳴った携帯を見ると、〈本はあげるから(ピース)〉と書いてある。やられた。それ以上に、幸也に言えることは無い。
仕方なく幸也はトントンと紙を揃え、内容をチェックする。確かに空欄は無い。それもその筈で、真面目にやれば零人は抜群に頭が良いのだ。それなりに努力してもそこそこ止まりの幸也からすれば、羨ましい限りだ。
「はぁ~、しょうが無いなあ……。
佑、悪いな。あいつも何て言うか、そんなに悪い奴じゃ無いんだが……ちょっと独特で…」
「ゆきくん、って」
ポツリ、と独り言のような声で聞こえた。
幸也はとくに深く考えず、プリントを読みながら聞き返した。
「ん?」
「ゆきくん、って呼ばれてましたね」
「そうだったか?」
零人はいつも幸也を、「幸也くん」と呼んでた気がする。指摘されてもとくに思い出せなかった。だが、気付かなかっただけで、さっきのノリまま零人は幸也をふざけてそう呼んだのかもしれない。
「すごく仲が良さそうな感じでした」
「……そうかな。まあ付き合いは長いけどな」
「そうなんですね」
「結構人に壁作るタイプなんだけどな。不思議とお前のことは気に入ったの、かも…」
ふと顔を上げて、幸也は押し黙った。
「……あのさ、佑」
「? どうしたんですか?」
「なんか、その……、ひょっとして怒ってる?」
佑はパチクリと目を見開いた。
「いいえ……? 何でですか?」
「いや、何でも無い。おれの気のせいだった」
ハハハ、と幸也が誤魔化すように笑うと、佑も同じように笑った。
「おれが怒るところ、どこにも無かったじゃないですか」
「だよなあ」
「変な先輩」と、佑はいつもと変わらない無邪気な顔で言う。それを眺めながら、幸也は心の中で呟いた。
ーー噓をつけ。おまえ、滅茶苦茶怖い顔してたぞ。
ー体何が、そんなに気に入らなかったんだよ。
「はあ……えっと」
明らかに引いた様子なのに、零人はなおも食い下がる。どんなメンタルしてるんだ、と幸也は思う。
「おい、下級生を弄るな。それくらいにしておけ」
見ていられなくなって幸也が助け船を出す。すると、今度は零人が幸也に向けてニヤッと笑った。
「じゃあゆきくんはどう呼ばせてるの? 意外と、二人だけの呼び名とか」
「!」
「普通に先輩呼びだよ。何だ、二人だけの呼び名って」
「えー、つまんなーい」
そう言ってチラッと佑を見た零人は、言葉の割になぜか楽しそうだった。幸也はいい加減付き合いきれず、ずっと聞きたかったことを切り出した。
「……で? おまえは今日、一体何しに来たんだ?」
こんなに長く休んでたのにひょっこり出てきた訳は、やっぱり幸也からの話を聞いたからだろうか。
しかし、幸也の言葉に零人はむっとした顔をした。
「何さ。用が無ければ来るなって?」
「そうは言わないが…」
「あー、はいはい。別に僕もこんな埃っぽい所に長居する気ないから。ほら、これ」
そう言って零人が差し出したのは…見覚えのある紙の束だった。というか前に家へ行ったとき、幸也が渡した課題だった。
「はい、僕んちに来たときの忘れ物」
いけしゃあしゃあと言う零人に、幸也は呆れて返す言葉も無かった。
「……これはもともとおまえの物だが」
「中身はやってあるから。出しといて」
「自分で行け……おい!」
幸也に渡すや否や、「じゃあね~」と立ち去っていく。プロの帰宅部・幸也も呆れるほどの素早さだった。同時にピロンと鳴った携帯を見ると、〈本はあげるから(ピース)〉と書いてある。やられた。それ以上に、幸也に言えることは無い。
仕方なく幸也はトントンと紙を揃え、内容をチェックする。確かに空欄は無い。それもその筈で、真面目にやれば零人は抜群に頭が良いのだ。それなりに努力してもそこそこ止まりの幸也からすれば、羨ましい限りだ。
「はぁ~、しょうが無いなあ……。
佑、悪いな。あいつも何て言うか、そんなに悪い奴じゃ無いんだが……ちょっと独特で…」
「ゆきくん、って」
ポツリ、と独り言のような声で聞こえた。
幸也はとくに深く考えず、プリントを読みながら聞き返した。
「ん?」
「ゆきくん、って呼ばれてましたね」
「そうだったか?」
零人はいつも幸也を、「幸也くん」と呼んでた気がする。指摘されてもとくに思い出せなかった。だが、気付かなかっただけで、さっきのノリまま零人は幸也をふざけてそう呼んだのかもしれない。
「すごく仲が良さそうな感じでした」
「……そうかな。まあ付き合いは長いけどな」
「そうなんですね」
「結構人に壁作るタイプなんだけどな。不思議とお前のことは気に入ったの、かも…」
ふと顔を上げて、幸也は押し黙った。
「……あのさ、佑」
「? どうしたんですか?」
「なんか、その……、ひょっとして怒ってる?」
佑はパチクリと目を見開いた。
「いいえ……? 何でですか?」
「いや、何でも無い。おれの気のせいだった」
ハハハ、と幸也が誤魔化すように笑うと、佑も同じように笑った。
「おれが怒るところ、どこにも無かったじゃないですか」
「だよなあ」
「変な先輩」と、佑はいつもと変わらない無邪気な顔で言う。それを眺めながら、幸也は心の中で呟いた。
ーー噓をつけ。おまえ、滅茶苦茶怖い顔してたぞ。
ー体何が、そんなに気に入らなかったんだよ。
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