断罪回避でスローライフ希望〜平凡令息は意外とお人好し〜

桃栗

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ストーリーって案外変わらないんだな

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2人と別れ、部屋のある寮に上機嫌な僕はスキップしながら向かっていた。
友達だよ?ヒルロース以外に初めて友達と呼べる人ができたんだ、上機嫌にもなるよ!
気持ちはルンルン!気分はウキウキだ!
世界中に叫びたいくらい嬉しい。
そして3棟ある真ん中の貴族子息が入る棟の入り口で、ヒルロースが立っていた。
思わず手を挙げて声を掛けようとしたら彼の横からぴょこんと誰かが飛び出して来た。
驚いた、心臓が飛び出るほどに驚いた。
なんで?どうして君がここに居るの?
見間違う訳がない。
彼だ。
主人公…、そうこの物語の主人公であるクラリス…。
短めマッシュでピンクの髪。
溢れそうなほど大きな瞳は茶色で、整った鼻筋に、ぷっくりとした唇。
忘れるはずのないゲームのパッケージで彼はいつも中心にいる。
その彼が仲良くヒルロースと話しながらお互い微笑みあっていた。
身体が動かない。
指一本ですら動かせない。
なんで?
やっぱり?
物語は残酷だな、2人の光景を眺めながらふと頬に伝わる冷たいものがこぼれ落ちた。
物語では友達のできない僕に、今日友人が2人もできた。
少しはストーリーが変わっているかも?なんて軽く思っていたけど、やっぱダメかぁ。
「仕方ない…仕方ないよな…」
この場に居たくなくて踵を返そうとした時、聞きなれた声が僕を読んだ。
「アンブローズ…」
正面にいたのはジルベールだ。
「ジル…」
駆け寄って来たジルベールは僕をギュッと抱きしめ背中を優しく撫でた。
彼の目の先はヒルロースを見ているようで、軽く舌打ちした。
「あれって公爵家の嫡男だよな?」
ジルベールの胸の中で僕は頷く。
「何だよ、あいつ、あれだけ俺がアンブローズを、守るとか言ってたくせに…」
ヒルロースとは何度かお忍びで街に出かけ、ジルベールの事も知っている。
お互い何故か牽制し合っているから、仲がいいとは言えないが…。
「ジル…僕ここに居たくない」
顔もあげず、ジルベールの胸の中でそう言葉を呟いた。
「俺の部屋に来るか?」
黙ったまま頷く。
主人公の笑った声が耳を突く。
遠いから小さな声なはずなのに、彼の笑い声が脳裏に焼きつく。
「ここは嫌だ…」
「わかった」
そう言ってジルベールは僕を抱え上げ、3棟あるうちの学園に1番近い棟に向かって歩いて行った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

1棟の最上階がジルベールの部屋らしく、一階でジルベールが指をパチンと弾くと部屋の中に到着した。
転移魔法が使えるなんて聞いてないけど、知り合った頃からジルベールは何でもできたから、不思議と驚く事はなかった。
「最上階なんてさすが…」
出会った頃から、ジルベールの近くには従者兼護衛の影の様な存在がいて、欲しいものがあるといつの間にか用意されているなんて事が多々あった。
今も、ソファーに座らされると同時にココアが運ばれてきている。
そしてジルベールの手の中にもカップが握られている。
「で、ストーリーの強制力は本物だったと…」
飲み物を喉に流し込みながら彼は僕の隣に座った。
「まぁ、わかってはいたんだけど、でもやっぱりショックだったんだな、なんて…」
机の上のカップを両手で握りしめ、膝の上に置いた。
「僕さ、自分でも半信半疑だったところもあってさ、自分が転生者だなんて夢なのかも?勘違いだって思っていたところもあったんだよね、だから、あの姿見て”あーっ、やっぱり…”って」
湯気の出ているカップを握りしめた。
もう涙は出てこないけど、気落ちしている自分が情けない。
「なんかごめんね、何か用事あったんじゃないの?」
「別に、フィンに会ったか聞こうと思っただけ、でアン…アンブローズを見つけたら大泣きしてたから」
「おっ、大泣きなんてしてない!!ちょっとゴミが入っただけだ!!」
そう、決して僕は泣いてない!!
こんな事は想定していた事だ。
「あいつなんてほっといて、俺にしとけば?俺ならその攻略対象者には入ってないんだろ?」
まぁそうだけど、でもジルベールは巻き込みたくない。
出来れば僕が街でスローライフする時に色々協力してほしいから彼だけは巻き込めない。
僕はジルベールを横から見上げた。
「ありがとう、でもジルベールに断罪後たくさん助けてもらわなきゃいけないから、巻き込みたくないんだ」
ん?
どうしたんだろう?
ジルベールがカップに口をつけたまま動かない彼の顔を覗き込む。
「どうしたの?ジル…」
こちらを見ようともしないから、立ち上がって額に手を置いた。
「んー、熱はないようだけど…本当に大丈夫?」
顔を傾げて目を覗き込む。
するとコップを置いた手で腰を引き寄せられた。
「あんま可愛い顔で見るなよ、このまま連れて行ってやろうか?」
驚いた僕はジルの胸元に埋もれた顔を引き上げた。
「可愛いって…僕だよ???」
「お前だからだ、ったく何も分かってねーな」
「ねぇ、腕痛いって、話してよ」
「やだよ、離して欲しけりゃキスでもして見せろよ、できね…」
目の前にある唇にキスをした。
だってやれって言ったのジルだし。
そのジルは顔を真っ赤にして固まってる、なんだよ、自分からしろって言ったのに。
「したよ?離して!」
固まったまま両手を上げた。
「もう!なんだよ、キスくらいで真っ赤になっちゃって」
ふふっ、見た目イケイケなのに、反応可愛いよね。
「はっはぁ??やり潰すぞ!クソアンブローズ!」
へへっ、なんだ、元気じゃん。
「ふふっ、ジルもまだまだ大人の階段登れてないね!」
また手を引かれそうになったから、彼から離れた。
「なんか今ので元気出ちゃった!僕のキスでお礼になるかわかんないけど、嫌じゃないなら良かった!」
でも皆んななんでキスくらいで真っ赤になっちゃうんだろう?
謎だ…。
「ジル、僕部屋に帰る、ウジウジしてても僕の断罪は変わらないしね!」
「もしお前に何かあったら俺がちゃんと助けてやるから心配するな!」
「うん、ありがとう、なんせジルは将来の旦那様だからね、期待してる!」
僕がそう言うとジルベールは大きなため息をついた。
「ホントにお前は…」
もう一度ため息吐くと、部屋の前でいいな、と声をかけてジルベールが指をパチンと弾くと、僕だけが寮の部屋の前に移動した。
「ジルベールって平民なのに俺より魔力お化けって凄いよな~」
ドアノブに手をかけた瞬間、部屋からドアが開くとヒルロースが険しい顔で僕を引き入れた。
「どこに行ってた?ずっと寮の入り口で待ってたんだぞ?」
「え?ちょっとヒルロース、離して…」
思わず距離が近くて胸を力いっぱい押したけど、ヒルロースの腕が身体に絡みついて離れない。
「…だって”彼”と仲良さげに話し込んでたから」
「彼?」
「そう”彼”主人公の彼だよ!」
何とボケてんだよ!
あの場所は貴族の子息達が入る棟だ、”彼”がそこに居るのなら”誰か”に会いに来たのか、”彼”と来たのかのどちらかしかないはずだ。
「やっぱり気になっちゃってる?気持ち動いてるでしょ?僕の言ってること、やっとわかった?」
表情が歪んで僕を拘束した腕をといた。
「俺…俺はアンブローズから聞いていた場所には行かなかった、お前の言う事が本当なら、惑わされて気持ちを持っていかれると思ったんだ。だからもう接点はないと思ってお前を迎えにいこうと教室に向かったんだ…」
ソファに頭を抱えてヒルロースが座り込む。
カーテンの隙間からまだまだ強い日差しが差し込んでくる。
静まり返った部屋に沈黙が広がって僕も彼の横に腰掛けた。
「で…会っちゃったんだ…」
「話の通り教室に彼の姿がなかったから、その間にお前を迎えに行こうと教室を出たところで、あいつにぶつかった…」
額に両手を押さえつけているからヒルロースの顔が見えない。
「で?」
「…あいつを見た途端”俺の運命”だと…思ってしまった…」
そっかぁ、ヒルロースが悩み悔やんでいる、僕が余計なことを吹き込んだから、悩まなくていいことで彼を苦しめているのがわかった。
なんて声をかければいいか分からず、暫く黙っていたが、重い空気に僕が耐えれそうになかった。
「…ごめんね、ヒルロースに僕がこれから起こることを話しちゃったから悩ましちゃったね…」
「………」
「それはヒルロースの本当の感情だから…うん、僕に遠慮する事ないよ!」
額から手を離して少しだけヒルロースが僕を見る。
「アンブローズ…」
「…だって”そうなる事が決まってる”んだもん、仕方ないよー、なんせ僕は”悪役令息”だからね、うん、そうだ!自分のことは自分で何とかするよ!だからヒルロースは自分の気持ちに素直になればいい」
胸がモヤモヤするし、チクっと針を刺されたように痛い…痛いけど、ヒルロースも大事な幼馴染だ、苦しめたくない。
僕は立ち上がって拳を握った。
「うん!何とかするから大丈夫!さぁ、ヒルロースは自分の部屋行って、僕のことはもういいから!そんな悩むな!今日はゆっくり休んで、また明日”友達、んで幼馴染”として仲良くしてよ!」
さぁ、と促し険しい顔をしたヒルロースを部屋から追い出した。
そうしないと大声で泣いちゃいそうだったから…
ドアを背にズルズルとしゃがみ込む。
弱いな…僕は…
腕の中に顔を埋めて瞳いっぱいに溜まった零れ落ちる涙を
落とさないよう力を込めた。
僕のエゴで計画に引きづり込んだ。
あいつは悪くない。
悪いのは僕が物語に抗いたかっただけだ。
「本当にごめんね、ヒルロース、巻き込んじゃって…」
言葉にしたらもうダメだった。
次から次へと溢れる涙が止まらず、嗚咽を漏らす。
ごめん、ごめんなさい!
泣いて泣いて涙が枯れるまで泣こう。
で、明日からはもう泣かない。
出来るだけ回避できるように頑張らなきゃ!!
もうヒルロースを当てにしちゃダメだ。
そう心に誓って、思う存分その日は泣き明かした。



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