溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

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回想 ①

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10年前、晴翔には内緒で僕は地元の高校を志望校に決めていた。

入学費用は親の残してくれたお金でなんとかなるし、公立だから授業料もそれほど高くないからじいちゃんの所でバイトするお金でもなんとか払えそうだった。
なにより、自転車で通えるから通学費もかからない。

だって祖父母の負担にはなりたくないもんね。

僕は結構勉強だけは出来たから、学力も問題なかったし、先生からも合格圏内だと太鼓判を押されていた。

じいちゃんは大学進学を望んでいるようだけど、僕としては高校を卒業したら、店の手伝いをして定食屋を継ぎたいんだ。
だからそこまでの学歴は必要ないと思ってた。

晴翔には自分と同じ高校に通え、って言われていたけど、あんな有名私学の高校なんてうちの財力じゃ入学金だけでも払えない。
だから志望校の話が出ても、
”一緒に通えたらいいねぇ”
なんてちゃんとした返事もせず曖昧にしていたんだ。

きっと晴翔は一緒に通えるって思ってる、けど、分不相応って言葉があるように、僕ん家では晴翔が通う高校にはどうしたって通えない。

早くそのことを伝えなきゃな、って思ってたら昨日、晴翔から”ケーキを買ってくるから夜、家に来い”っメールがきて、ちょうどいいや、ちゃんと言うぞって意気込んで神戸家に向かった。

玄関で祖母の同僚でもある、執事の山科さんが迎えてくれたけど、ここまで届くほど大きな声で晴翔とおじさんの怒声が響いて驚いた。

『なんで言わなかった!!』

『俺は聞いてない!!』

いつも不機嫌ではあるが、こんなにも怒声を張り上げる晴翔は稀だ。
僕が来たことを慌てて山科さんが伝えに行くと、リビングから飛び出してきた晴翔は僕を見て部屋の中にいるおじさんに

「すべて受け入れるかわりに、それだけは了承してくれ」
と荒々しくドアを閉めた。
無言の晴翔に手を引かれ彼の部屋に放り込まれたから、彼の背中に向かって言ったんだ。

「晴、何かあったの?」

「……何でもない……」

腹立たしげにソファに座った晴翔の前に立つ。

「何でもないのにあんなに声張り上げないでしょ?」

「……智には関係ない……」

僕の腰を引き寄せ抱きしめられる。
何故だかとても辛そうで、僕も晴翔の頭を抱き寄せた。
癖のある髪をそっと撫でる。

「関係ないかぁ、そんなふうに言われると淋しいじゃん。話すだけでも気が楽になるんじゃない?」

悩みは解決しなくても言葉に乗せるだけでも気持ちが軽くなるんだよ、って両親が亡くなった時にばあちゃん言われ、泣きながら色んな話をしたら本当に少しだけど心が軽くなったんだ。

「楽になっちゃえ!」
なんて。

肩を押して少し引き離し、晴翔の顔を覗き込む。
昔から何か嫌なことがあると、こうやって僕に抱きつくのは晴翔のくせみたいになっている。

おじさんと揉めるているのは何度かみたことがある。
大体が自分の意思を曲げて神戸の家に従わなきゃいけない時だ。
僕は出会った時から晴翔はスーパーマンじゃないかと思っている。
傍若無人でわがままで、俺様なんだけど、それは存外僕の前だけだったりするから、こっそり結構かわいいな、と思っていた。
一歩外に出ると晴翔は完璧でかっこいいアルファに変身するんだ。

出会ってから毎年開かれる晴翔の誕生日会では招待者の大人達に対し引けを取ることなく、対等に相手をしているし、僕の前でも滅多に見せない極上の笑顔で接したりしている。

僕の周りには平凡な中学生しかいない。
早弁したり、部活したり、エッチな話をしたり。
掃除中にふざけて遊んで先生に怒られたり。

パーティー最中の晴翔はどこからどう見ても最高のアルファで僕達みたいな普通のベータとは違う世界の人。

だから弱々しい晴翔に甘えられるのは僕の特権なんだ、って。


どれくらい経ったか、回された腕が緩み晴翔が僕を見上げた。

泣きそうな声で呟いたんだ。


「婚約者にあった」と。



「そっ、かぁ、会ったんだ…」


知ってる人だった?


どんな話をした?


素敵な人だった?


聞きたくないのに聞かなきゃいけない。


心が痛んで言葉が出ない。


少しづつ晴翔から離れようとしてきた。
進学のこともそうだし、極力会うのも避けてきた。

いつかはこんな日がくるとわかっていたから、自分を守ろう、傷つかないよう少しづつ距離をとってきたはずななのに。

嫉妬する嫌な奴になりたくないのに。


晴翔の婚約者が羨ましくて仕方ない。



晴翔は僕のモノなのに、って。

でも……


「よかったね、会えたんだね」



なんて本心でもない言葉を口にしていたんだ。

とっておきの笑顔で……

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