溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

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ノア ②

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その日俺は父親と些細な喧嘩をして予定にしていた会社関連のパーティーをほっぽり出し、電車に乗り込んだ。
適当に駅を降り、街をブラブラしていると川沿いの不思議な建物にたどり着いた。

建物全体に蔦が絡まり、入り口には、gallery and cafe rencontrer(ランコントレ)と書いてある。
いつもならそんな場所には興味もないが、この日は何かが違った。
行かないと、行くべきだ、なんて胸騒ぎにも似た何か。

ドアを開けて中に入る。

窓ガラス戸の向こうに自然と引き寄せられ目が離せなくなる。

テラス席にはとても、とても美しい人が本読んで座っていた。

その人の周りだけキラキラと輝き、凛とした後ろ姿を見ただけで胸が高鳴った。

顔が見たい、声が聞きたい。

初めての感情、初めての欲情。

進める足がテラス席に向かう。

左隣りの席に腰を下ろしてさりげなく隣を見る。

歳は10歳ほど上か?体に沿ったスリムな濃紺のツーピーススーツにピンクのシャツを合わせ、首元のボタンをいくつか外し、細い首がみえる。切れ長の瞳にスッとした鼻筋、薄い唇に尖った顎がとても印象的で、口元と顎先に目が吸い寄せられた。

あ、キスしたい。

注文したソーダ水が口の中でプチっと弾けた。

そっと読んでいた本から目を上げた、視線がぶつかって彼は少し口角を上げ微笑んだ。

晴翔が言っていた、出会ったらわかる、本能で感じるんだ、これは自分のものだ、と言っていたのがやっとわかった。

その本能が心から喜びを味わっている。

言ってた通りだ。

匂いはしない、オメガじゃない、でも俺の”運命”だ。

「なにか?」

「え?」
突然声をかけられて我にかえる。

「ずっとこっち見てるから」
美人が少し首を傾げた。

「あ…あ、貴方があまりにもキラキラしてて…」
「キラキラ…ですか」
考える素振りをして目を閉じた。
「あ、す、すみません、なんか貴方に目が吸い寄せられてしまいました」
ぷっと吹き出して優しく笑った。
「そんなこと言われたのは初めてで少し驚いています、でもありがとう、って言うのが正しいのかな?」
また笑いだした。
そして彼は立ち上がり
「素敵な時間をありがとうございました、では私はこれで。いい1日を」

ダメだ、何か言わなきゃ、行ってしまう。

「あの。また会えますか?」
乱暴に立ち上がり勢いよく彼に近付いた。

「お店の名前、rencontrer、意味わかりますか?」
「いえ…」
「フランス語で”出会う”です。もう貴方とは今出会いました。だから、きっとここでまた会えますよ、では」

そう言ってその場を後にした。


それから何度かに一度、会って話をするようになる。

少しずつ、少しずつ進めて行けたら。

早く大人になりたい、初めてそう思った。








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