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獣 7
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「マルさんにも、不快感はありません。
先程みたいな発言さえ、控えて頂ければ……」
若干視線を逸らして、言いにくそうに言う。
「背負子を使って背負えば、直接触れる必要も無いです。
それに最近、ギルさんも大丈夫になりましたし……ハインさんも、多分、もう大丈夫じゃないかと思うんです。だからマルさんも……」
「サヤ……無理はしなくて良いんだよ⁉︎ 体調を崩す場合もある。本館に侵入した上で、そんなことになってしまったら……っ!」
必死で止めるが、大丈夫ですよと微笑まれてしまう。
頼って下さいと言ったじゃないですかと、その目が俺に訴えているのだが、格段に危険度の跳ね上がる今回の事に、サヤを関わらせるのは躊躇われた。それに、侵入する場所は本館なのだ。顔を知られているサヤが、万が一見破られたらと思うと、身の毛がよだつ。
俺の反応をどう思ったのか、胡桃さんが眉をひそめて、サヤに問う。
「貴女……その華奢な腕で、マルとはいえ、成人男子一人担げると思ってるのぉ?」
「ええ、担げます。ギルさんでも大丈夫です」
「あはは、サヤくん、寝台だって一人で担いで歩けますもんねぇ」
マルの発言に、信じられないわぁと、胡桃さん。
「本気で言ってるぅ? 獣人だって、結構難儀するわよぅ?」
サヤは、胡桃さんを見据えてきっぱり、出来ます。と、言い切った。
「確信を持てることしか出来るとは言いません。
それよりも、マルさんが直接交渉に行く弊害の方が心配です。
私を含め、顔や声を知られてしまうのは、良くないのじゃ、ないでしょうか?」
「ああ、その辺はねぇ、兇手の道具に都合の良いものが色々有りますから、適当に誤魔化せますよぅ」
サヤくんが出来るというなら、お願いしてみませんか。と、マルが言う。
「し、しかしだな、兇手でもないサヤが、兇手についていけるのか?
確かにサヤの身体能力は凄まじいが……更にマルを担いで行くってのは……」
「ギルさん、忍がどういったものかを、一番知っているのは私です。
胡桃さんたちに、忍について伝える為にも、私が同行した方が良い様に思います。
それに私、人を殺めず無力化するには、適してますよ。私の武術も、忍向きだと思うんです」
「だが! 同行する兇手は、初対面になるんだぞ? サヤの性別はもう知られているのに……」
ギルも止めに入ってくれたが、それでもサヤは引かない。
だから俺は、最後の言い訳を口にしたのだが……。
「じゃあ、マルの組は、マル以外女で編成するわぁ」
胡桃さんにそう口を挟まれ、言い返せなくなった……。
「そうですね。黒幕の元へは、素早さ重視で、小柄なもの中心の編成にしようと思ってましたので、丁度良いですねぇ。
あ、獣人でなくて構いませんよ。命のやり取りはしませんし、いざとなればサヤくんがなんとかしてくれるでしょうし」
「それじゃあ、サヤが危険の矢面に立つことになんだろうが!」
「やだなぁ、ギル、過保護になりすぎですよ?
サヤくんが本館の騎士や衛兵に遅れをとるとでも思っているのですか? 正直、十人が束になって掛かってきても、いなせそうな気がするんですけどね」
「実力でいやぁ、そうだろうよ! けどな、サヤは! ……サヤは……」
その先を、口にすることが出来ず、ギルは言い淀んだ。
サヤは異界の少女で、ここのことには関わる必要が無い。そして、もう怪我をさせる様なことには、首を突っ込ませたくない。
そんなギルの心情は、表情で充分伝わるが、サヤの秘密を、口にするわけにはいかない。
俺も、サヤを本館に乗り込ませたくなかった。
俺にとって本館は、恐ろしい場所だ。過去の、思い出したくない記憶が、ありとあらゆる場所に刻まれている。そんな所にサヤが赴くということに、気持ちが拒否反応を示す。
しかし、サヤがこんな風に何かを言い出した時、俺の意見が通った試しはない。
彼女が自分で、自分が適していると言う時は、確かにその通りなのだと思うのだ。
「エゴンの方は、主力を突っ込めば良いですよ。抵抗されてもあれなんで、痺れさせて担いでくれば良いです。少々雑に扱っても、文句は言いませんから、やり易い様にどうぞ」
「エゴンねぇ……あいつ担ぐのは大変だわぁ」
「ここ数日の環境で、若干でも痩せてくれてると良いですねぇ」
俺たちが口を挟みあぐねているうちに、俺たちの気持ちなどそっちのけで、サヤの同行は半ば決定して、話が先に進んでしまった。
そんな俺たちの様子に、サヤはやはり「大丈夫ですから」と、微笑み、引く言葉は口にしなかった。
「まあ良いわぁ。本館の客間に軟禁って話だったしぃ、さして手間ではないものねぇ。
死人は出しちゃ駄目だとしても、逃げ切るために、少々手傷を負わせるくらいは、許してくれるのよねぇ?」
「はい。けれど、誰も傷付けず、目にも触れずにエゴンの確保を成功させたなら、報酬を倍額にしますよぅ」
「ふふふ、気前が良いじゃなぁい?」
「そりゃあ、忍の初陣ですからねぇ、圧倒的な実力というのを示して欲しいわけですよ」
「じゃあ、連携の為にも、お嬢ちゃんの身体能力とやらを、一度確認させてもらわないとねぇ」
「彼女は特別な勇者ですよ。ほんと凄いので、びっくりしないで下さいね?」
「そんなに期待値上げて、良いのかしらぁ?」
そこからはもう、ほぼ二人の独壇場だった。
何故か本館の間取りまで把握しているマルが、それを図に書き、エゴンの居場所に目星を付ける。警備の場所や交代の時間帯をまで細かく把握しており、いつの間にそこまで調べてあったのかと驚嘆した。そして、侵入、脱出経路をいく通りか決定。黒幕の元へ出向く側にも、同じようなやり取りがされた。
その話の間、胡桃さんの目はギラギラと光を帯びている様で、その目をハインでもよく見かけていたなと思い至る。感情が高ぶっているときのハインの目は、よくギラついていた……。
思い返せば、確かにハインは、獣人の特徴を有していた。
細身のわりに、筋肉質だし……冷静な口調で誤魔化し、感情を押し殺しているけれど、結構直情だ。そういえば、従者となった当初は、よくキレて乱闘騒ぎを起こしていた。
鈍かったんだな、俺たち……。ハインが何かなんて、そんなこと、考えることもしなかった。
気付かないまま、ハインを傷付けていたことも、あるかもしれない……。
「後はあれですね。兇手の豺狼組ではなく、忍としての仕事となるのですから、別の呼び名を考えないと。
サヤくんに聞きましたけど、忍も流派ごとに呼び名があったそうですよ。風魔、霧隠、猿飛。かっこいいですよねぇ。何か良いの、思い付きませんか?」
「呼び名って……それ、今決めなきゃ駄目なことかよ……」
「当然ですよ。名乗りますから」
「何故名乗る⁉︎」
「宣伝しないと」
「マルさん、渡来語で『虚』のことを『ホロウ』と言うんです。それから、漢字で吠える狼と書いても、ホロウと読めるので、こちらでどうですか」
サヤが、マルの作った本館の間取り図の端に『吠狼』と書き込んだ。
「どこの文字よぅ?」と、首を傾げる胡桃さんにたいし、マルはその文字を気に入った様子だ。
「良いですねぇ! 吠える狼ですか。胡桃らしさがあって、とても気に入ったんですが、駄目ですか?」
胡桃さんにそう聞く。
「……あのねぇ、私はまだ、忍をやるだなんて、言ってないのよぅ?
そもそも、坊やをまだ信用してないもの。今回は、当初通り、一度限りの縁。としてしか、受けないわぁ」
マルが、俺にそれで良いかと問う視線を向けてきた。
……うん。今は、それも仕方がない。信頼を得る為に、まずは関わってもらわなきゃならない。
「そうですね。まずはレイ様を信用できるかどうか、判断する為に、この仕事を受けて下さい。今後のことは、この仕事が終わってからで良いですよ。で、『吠狼』で良いと思いませんか?」
「良いんじゃなぁい? 今回名乗るだけなんだしぃ」
「ふふふ、今回だけ……ねぇ。まあ、今はそのつもりでいてもらっても、構いません」
上機嫌のマルに、胡桃さんは嫌そうな顔をした。
そして、いつ実行に移すのかと問う。
「異母様方が戻られる前に決着を付けるべきですし、明日で良いなら明日」
「承知。嫌だわぁ、一日に二度も三本足になるのって疲れるのよねぇ」
「じゃあ、お詫びにこのクッキーあげましょうか?」
「……餌付けしないでよぅ……」
そう言いつつ、手を差し出す胡桃さん。案外気に入っている様子だ。マルのクッキーを貰い、口に放り込んだ。
そうして懐から大きめの風呂敷を取り出す。
それを床に広げてから、外套をそこに放り投げる。更に、足の棒を括り付けていた紐を外しにかかる。
棒は、真ん中から二つに分けられるようになっていて、分解され、長椅子の上に置かれた。右足のみの長靴を脱ぎ、その中に先程の棒が突っ込まれ、風呂敷の上に寝かされる。
そして胡桃さんは立ち上がると、あろうことか、腰帯を外し、衣服を脱ぎ出したのだ。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!何してるんですか⁉︎」
「獣人の獣人らしい所をお見せしようと思って」
こちらの動揺など素知らぬ風に、細袴がすとんと床に落ち、途中から断たれた左太腿と、美しい曲線の右脚が露わになる。そして後ろにわさりと毛の束が現れた。尾だ。
更に、纏っていた短衣を脱ぎ捨てると、彼女は肌着を纏っておらず、白い下着が目に飛び込んできて、俺はつい悲鳴を上げ、腕で目を隠した。横から同じくサヤの、「ひゃああぁ」という声が聞こえ、慌ててるのは俺だけじゃないなと、的外れな安堵感を覚える。
「初心だわねぇ。新鮮な反応で、なんだか面映ゆいわぁ。商人さんは見慣れてそう」
「……仕事柄、よく目にするからな」
「ほら坊や、腕を外しなさいな。お嬢ちゃんも、滅多に見せやしないんだから、見ておく方がお得だわよぅ」
ちらりと横を伺うと、両手で目元を隠していたサヤと視線が合った。
どうしましょうと問う表情に、彼女が俺を軽蔑する素振りは無いなと判断する。それが正直、一番傷付く。
見ろと言うのだし、見る……。そう決意の頷きをサヤに送り、二人で、意を決して視線を胡桃さんにやると、下着姿で腕を組み、笑っている彼女がこちらを見ていた。やはり目のやり場に困って、結局俺は、彼女の右脚に視線を落とす。……綺麗な曲線だけれど、傷の無数に付いた、脚だった。
「じゃ、刮目よぉ」
そういった彼女が、膝をついて四つん這いになる。
ただでさえ豊満な胸がそれはもう見事にゆっさりと揺れて、ゔあぁぁと、知らず、呻いてしまった。
筋肉質な胡桃さんの肢体、全身に力を込めているのか、筋肉が盛り上がる。と、ギチ、とか、ゴリ……とかいう音がどこからか、聞こえてきて、それは直ぐ、胡桃さんからだと気付いた。
先程みたいな発言さえ、控えて頂ければ……」
若干視線を逸らして、言いにくそうに言う。
「背負子を使って背負えば、直接触れる必要も無いです。
それに最近、ギルさんも大丈夫になりましたし……ハインさんも、多分、もう大丈夫じゃないかと思うんです。だからマルさんも……」
「サヤ……無理はしなくて良いんだよ⁉︎ 体調を崩す場合もある。本館に侵入した上で、そんなことになってしまったら……っ!」
必死で止めるが、大丈夫ですよと微笑まれてしまう。
頼って下さいと言ったじゃないですかと、その目が俺に訴えているのだが、格段に危険度の跳ね上がる今回の事に、サヤを関わらせるのは躊躇われた。それに、侵入する場所は本館なのだ。顔を知られているサヤが、万が一見破られたらと思うと、身の毛がよだつ。
俺の反応をどう思ったのか、胡桃さんが眉をひそめて、サヤに問う。
「貴女……その華奢な腕で、マルとはいえ、成人男子一人担げると思ってるのぉ?」
「ええ、担げます。ギルさんでも大丈夫です」
「あはは、サヤくん、寝台だって一人で担いで歩けますもんねぇ」
マルの発言に、信じられないわぁと、胡桃さん。
「本気で言ってるぅ? 獣人だって、結構難儀するわよぅ?」
サヤは、胡桃さんを見据えてきっぱり、出来ます。と、言い切った。
「確信を持てることしか出来るとは言いません。
それよりも、マルさんが直接交渉に行く弊害の方が心配です。
私を含め、顔や声を知られてしまうのは、良くないのじゃ、ないでしょうか?」
「ああ、その辺はねぇ、兇手の道具に都合の良いものが色々有りますから、適当に誤魔化せますよぅ」
サヤくんが出来るというなら、お願いしてみませんか。と、マルが言う。
「し、しかしだな、兇手でもないサヤが、兇手についていけるのか?
確かにサヤの身体能力は凄まじいが……更にマルを担いで行くってのは……」
「ギルさん、忍がどういったものかを、一番知っているのは私です。
胡桃さんたちに、忍について伝える為にも、私が同行した方が良い様に思います。
それに私、人を殺めず無力化するには、適してますよ。私の武術も、忍向きだと思うんです」
「だが! 同行する兇手は、初対面になるんだぞ? サヤの性別はもう知られているのに……」
ギルも止めに入ってくれたが、それでもサヤは引かない。
だから俺は、最後の言い訳を口にしたのだが……。
「じゃあ、マルの組は、マル以外女で編成するわぁ」
胡桃さんにそう口を挟まれ、言い返せなくなった……。
「そうですね。黒幕の元へは、素早さ重視で、小柄なもの中心の編成にしようと思ってましたので、丁度良いですねぇ。
あ、獣人でなくて構いませんよ。命のやり取りはしませんし、いざとなればサヤくんがなんとかしてくれるでしょうし」
「それじゃあ、サヤが危険の矢面に立つことになんだろうが!」
「やだなぁ、ギル、過保護になりすぎですよ?
サヤくんが本館の騎士や衛兵に遅れをとるとでも思っているのですか? 正直、十人が束になって掛かってきても、いなせそうな気がするんですけどね」
「実力でいやぁ、そうだろうよ! けどな、サヤは! ……サヤは……」
その先を、口にすることが出来ず、ギルは言い淀んだ。
サヤは異界の少女で、ここのことには関わる必要が無い。そして、もう怪我をさせる様なことには、首を突っ込ませたくない。
そんなギルの心情は、表情で充分伝わるが、サヤの秘密を、口にするわけにはいかない。
俺も、サヤを本館に乗り込ませたくなかった。
俺にとって本館は、恐ろしい場所だ。過去の、思い出したくない記憶が、ありとあらゆる場所に刻まれている。そんな所にサヤが赴くということに、気持ちが拒否反応を示す。
しかし、サヤがこんな風に何かを言い出した時、俺の意見が通った試しはない。
彼女が自分で、自分が適していると言う時は、確かにその通りなのだと思うのだ。
「エゴンの方は、主力を突っ込めば良いですよ。抵抗されてもあれなんで、痺れさせて担いでくれば良いです。少々雑に扱っても、文句は言いませんから、やり易い様にどうぞ」
「エゴンねぇ……あいつ担ぐのは大変だわぁ」
「ここ数日の環境で、若干でも痩せてくれてると良いですねぇ」
俺たちが口を挟みあぐねているうちに、俺たちの気持ちなどそっちのけで、サヤの同行は半ば決定して、話が先に進んでしまった。
そんな俺たちの様子に、サヤはやはり「大丈夫ですから」と、微笑み、引く言葉は口にしなかった。
「まあ良いわぁ。本館の客間に軟禁って話だったしぃ、さして手間ではないものねぇ。
死人は出しちゃ駄目だとしても、逃げ切るために、少々手傷を負わせるくらいは、許してくれるのよねぇ?」
「はい。けれど、誰も傷付けず、目にも触れずにエゴンの確保を成功させたなら、報酬を倍額にしますよぅ」
「ふふふ、気前が良いじゃなぁい?」
「そりゃあ、忍の初陣ですからねぇ、圧倒的な実力というのを示して欲しいわけですよ」
「じゃあ、連携の為にも、お嬢ちゃんの身体能力とやらを、一度確認させてもらわないとねぇ」
「彼女は特別な勇者ですよ。ほんと凄いので、びっくりしないで下さいね?」
「そんなに期待値上げて、良いのかしらぁ?」
そこからはもう、ほぼ二人の独壇場だった。
何故か本館の間取りまで把握しているマルが、それを図に書き、エゴンの居場所に目星を付ける。警備の場所や交代の時間帯をまで細かく把握しており、いつの間にそこまで調べてあったのかと驚嘆した。そして、侵入、脱出経路をいく通りか決定。黒幕の元へ出向く側にも、同じようなやり取りがされた。
その話の間、胡桃さんの目はギラギラと光を帯びている様で、その目をハインでもよく見かけていたなと思い至る。感情が高ぶっているときのハインの目は、よくギラついていた……。
思い返せば、確かにハインは、獣人の特徴を有していた。
細身のわりに、筋肉質だし……冷静な口調で誤魔化し、感情を押し殺しているけれど、結構直情だ。そういえば、従者となった当初は、よくキレて乱闘騒ぎを起こしていた。
鈍かったんだな、俺たち……。ハインが何かなんて、そんなこと、考えることもしなかった。
気付かないまま、ハインを傷付けていたことも、あるかもしれない……。
「後はあれですね。兇手の豺狼組ではなく、忍としての仕事となるのですから、別の呼び名を考えないと。
サヤくんに聞きましたけど、忍も流派ごとに呼び名があったそうですよ。風魔、霧隠、猿飛。かっこいいですよねぇ。何か良いの、思い付きませんか?」
「呼び名って……それ、今決めなきゃ駄目なことかよ……」
「当然ですよ。名乗りますから」
「何故名乗る⁉︎」
「宣伝しないと」
「マルさん、渡来語で『虚』のことを『ホロウ』と言うんです。それから、漢字で吠える狼と書いても、ホロウと読めるので、こちらでどうですか」
サヤが、マルの作った本館の間取り図の端に『吠狼』と書き込んだ。
「どこの文字よぅ?」と、首を傾げる胡桃さんにたいし、マルはその文字を気に入った様子だ。
「良いですねぇ! 吠える狼ですか。胡桃らしさがあって、とても気に入ったんですが、駄目ですか?」
胡桃さんにそう聞く。
「……あのねぇ、私はまだ、忍をやるだなんて、言ってないのよぅ?
そもそも、坊やをまだ信用してないもの。今回は、当初通り、一度限りの縁。としてしか、受けないわぁ」
マルが、俺にそれで良いかと問う視線を向けてきた。
……うん。今は、それも仕方がない。信頼を得る為に、まずは関わってもらわなきゃならない。
「そうですね。まずはレイ様を信用できるかどうか、判断する為に、この仕事を受けて下さい。今後のことは、この仕事が終わってからで良いですよ。で、『吠狼』で良いと思いませんか?」
「良いんじゃなぁい? 今回名乗るだけなんだしぃ」
「ふふふ、今回だけ……ねぇ。まあ、今はそのつもりでいてもらっても、構いません」
上機嫌のマルに、胡桃さんは嫌そうな顔をした。
そして、いつ実行に移すのかと問う。
「異母様方が戻られる前に決着を付けるべきですし、明日で良いなら明日」
「承知。嫌だわぁ、一日に二度も三本足になるのって疲れるのよねぇ」
「じゃあ、お詫びにこのクッキーあげましょうか?」
「……餌付けしないでよぅ……」
そう言いつつ、手を差し出す胡桃さん。案外気に入っている様子だ。マルのクッキーを貰い、口に放り込んだ。
そうして懐から大きめの風呂敷を取り出す。
それを床に広げてから、外套をそこに放り投げる。更に、足の棒を括り付けていた紐を外しにかかる。
棒は、真ん中から二つに分けられるようになっていて、分解され、長椅子の上に置かれた。右足のみの長靴を脱ぎ、その中に先程の棒が突っ込まれ、風呂敷の上に寝かされる。
そして胡桃さんは立ち上がると、あろうことか、腰帯を外し、衣服を脱ぎ出したのだ。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!何してるんですか⁉︎」
「獣人の獣人らしい所をお見せしようと思って」
こちらの動揺など素知らぬ風に、細袴がすとんと床に落ち、途中から断たれた左太腿と、美しい曲線の右脚が露わになる。そして後ろにわさりと毛の束が現れた。尾だ。
更に、纏っていた短衣を脱ぎ捨てると、彼女は肌着を纏っておらず、白い下着が目に飛び込んできて、俺はつい悲鳴を上げ、腕で目を隠した。横から同じくサヤの、「ひゃああぁ」という声が聞こえ、慌ててるのは俺だけじゃないなと、的外れな安堵感を覚える。
「初心だわねぇ。新鮮な反応で、なんだか面映ゆいわぁ。商人さんは見慣れてそう」
「……仕事柄、よく目にするからな」
「ほら坊や、腕を外しなさいな。お嬢ちゃんも、滅多に見せやしないんだから、見ておく方がお得だわよぅ」
ちらりと横を伺うと、両手で目元を隠していたサヤと視線が合った。
どうしましょうと問う表情に、彼女が俺を軽蔑する素振りは無いなと判断する。それが正直、一番傷付く。
見ろと言うのだし、見る……。そう決意の頷きをサヤに送り、二人で、意を決して視線を胡桃さんにやると、下着姿で腕を組み、笑っている彼女がこちらを見ていた。やはり目のやり場に困って、結局俺は、彼女の右脚に視線を落とす。……綺麗な曲線だけれど、傷の無数に付いた、脚だった。
「じゃ、刮目よぉ」
そういった彼女が、膝をついて四つん這いになる。
ただでさえ豊満な胸がそれはもう見事にゆっさりと揺れて、ゔあぁぁと、知らず、呻いてしまった。
筋肉質な胡桃さんの肢体、全身に力を込めているのか、筋肉が盛り上がる。と、ギチ、とか、ゴリ……とかいう音がどこからか、聞こえてきて、それは直ぐ、胡桃さんからだと気付いた。
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