異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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作戦会議 1

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 部屋に戻ると、サヤとルーシーは手を取り合って何かを話し込んでいた。
 まだ早かったか?   と、引き返そうとしたのだが。

「あ、レイ様。もう済みましたから」

 カラッとした笑顔でルーシーが言い、サヤも少し、重荷の取れたような表情で、うっすらと微笑む。
 この短い間に、彼女と話したことで、なにやらサヤの雰囲気が変わっていた。

「ねっ。また何かあったら、いつでも相談してくださいな!」
「……はい。ありがとう、ルーシーさん」

 ルーシーが、にこりと微笑んで、叔父様、荷物を運びましょう。と、声をかけ、立ち上がる。

「手伝います!」

 と、サヤが二つ重ねた木箱をひょいと持ち上げ、扉の外へ駆けていく。残りの一つはギルが手を伸ばした。
 駆け抜けて行ったサヤを見送っていると、ルーシーに、

「レイ様。サヤさんと、約束をしたんです。
 雨季が終わったら、またうちに遊びに来て下さいって。
 雨季を乗り切ったお祝いを、うちでしましょう!   是非‼︎」

 拳を握って詰め寄られた……。

「ああ、そりゃいいな。
 雨季が終わればひと段落すんだろ。ならこっちに来い」
「サヤさんを、メバックの可愛いお店や美味しい甘味の店に、ご案内したいです。今まで凄く忙しかったんですから、少しくらい羽目を外したって、良いですよね⁉︎」

 二人掛かりで言い寄られ、たじたじと後退するしかない……。しかもその向こうで、木箱を運び終えたサヤが、ちらりと期待した視線を寄越すものだから……っ。や、やぶさかでは、ない……。

「わ、分かった……雨季が過ぎて……姫様方の方も、ひと段落したら、な」
「絶対ですよ⁉︎」
「はい……」

 その返事でやっとご満足頂けた様子だ。
 にしても、ルーシーのあっけらかんとした感じからして、昨日のことを相談されたわけではないように思える……のに……?
 サヤの表情が、思いつめた感じではなくなっていた。
 そのことに少なからずホッとする。
 ルーシーは凄いな。俺は何も言ってやれなかった……。彼女がここに居てくれて、本当に良かったと思う。

「ありがとうルーシー。
 こちらが上手く片付いたら、君もまた、遊びにおいで」
「はい!」

 サヤと二人並んで、馬車を見送った。
 ギルは最後に「何かあったらすぐ連絡しろ。ていうか、決める前に相談しろ!   分かったな⁉︎」と、しつこく念を押してから馬車に乗り込んだ。
 いやでも、あれはあの場でそうするのが最善だと思ったのだから、相談のしようもないんだけどなぁ……。
 そう思うものの、ギルが俺のことを心配し、そう言ってくれていることは痛いほど分かるわけで、善処します。と、伝えるのが、俺の精一杯だった。

 サヤを伴って、執務室に戻ると、ディート殿の食事は終わり、食後のお茶を楽しんでいた。
 執務室で食べた意味が、ほぼ無くなったな……。遅くなって申し訳ないと謝って、先程ディート殿が届けたくれた観察記録をサヤに渡す。

「状況説明を先にするから、サヤはこれをまとめておいてくれるか?」
「畏まりました」

 ディート殿が俺の横に立つ。護衛開始であるらしい。その彼に、昨日どこまで話してましたか?   と、聞くと、象徴派の存在が出てきた辺りだ。という返答。

「えっと、リカルド様が今の性格を演じてらっしゃるのではないか。
 って推測に、行き着いた辺りでしたか?」
「そこだな。それで、ルオード様より貴殿に開示して良いという情報を言付かってきた」

 ……言えること、言えないことがあるってことか。
 まあ、姫様の情報を、ホイホイと俺に与えるとは思ってなかったけれど。
 つまり、それを話し合っていて、遅くなったんだろうな。

「話を進めてくれ。そこに追加する情報があれば、口を挟む」


 ◆


 ディート殿に促され、昨日、姫様に伝えたことも含め、ディート殿に話をした。
 王家の白化という病は、血によってもたらされた病で、血が濃くなり過ぎたことが原因である可能性が高いことや、リカルド様との結婚では、将来的に王家が滅びる可能性があること等をだ。
 あまり物事に動じたりする様子を見せないディート殿が、珍しく困惑や驚愕の表情を見せる程の内容であった様子だ。
  
「つまり、公爵家との婚姻を繰り返し続けると、白化は進む。最終的に、子が出来なくなる可能性があるわけか」
「そうですね。既にその兆候が、現れている可能性も拭えません。
 今、王家の系譜を取りに行かせているので、その者が戻り次第、年代ごとの違いを、このグラフで表してみようと思ってまして、それによって結果が目に見える形となるかと」
「十日程度で用意できるかは甚だ疑わしいのだが……本当に?」
「そのはずです」
「……まあ、貴殿がそう言うなら。……ここは何かと、不思議なものが多いからな」

 顎に手を当てて、ディート殿が呟く。
 そうしてから、続きを促される。

「まあそれで、昨日は風呂をご一緒させて頂いたんですが……。
 感触からして、リカルド様は王への拘りは薄いと思います。
 王になりたくて、ああしているわけではないと感じました……別に何か、目的があるのだと思います。
 なんていうか……全くその話題に興味はない風なんですよね……。
 俺と話をしていて、姫様の指名を辞退しろとか、命が惜しくばこちらに付けとか、そういった話は全く無かったんですよ。
 象徴派の長であることは事実であるのでしょうが……姫様が警戒される様な理由では無いと思います……」
「俄かには信じ難いがなぁ。
 ……冷静沈着な方だとは到底思えん。剣を交えてみろ、烈火の如くだぞ?
 昨日の様子を見ていても、レイ殿の言う様な様子は、全く、感じなかったのだがなぁ」
「けれど、将としてはどうです?」
「……まぁ……確かに将としては……少し様子が変わってくるな」

 そう呟いてから、ちらりと視線をこちらに寄越す。
 一つ咳払いをしてから、おもむろに口を開いた。

「ルオード様は……彼の方のかつてをご存知だ。
 つまり、エレスティーナ様の婚約者であった頃だな。
 彼の方は、存外物静かな方であったそうだぞ。
 一族の責任……嫡子として、剣の腕を磨くことには、とても真剣に挑まれていたそうだが、普段は、エレスティーナ様と、ハロルド様との三人で、書物を楽しんでいる姿をよく見かけたそうだ。
 どちらかというと、ハロルド様とエレスティーナ様が盛り上がるのを、横で静かに眺めている様な感じだったと聞いたぞ。
 エレスティーナ様が早逝されてから、リカルド様は荒れて、粗暴になっていったという。ご兄弟の仲も、その辺りから険悪になっていったらしい。
 もしそれが、演技であったなら……レイ殿が言う様に、その当時の印象が、本来のリカルド様なら、色々と、違ってくるな」

 エレスティーナ様とハロルド様。そしてリカルド様は、三人でよく過ごされていたらしい。
 リカルド様とハロルド様は、エレスティーナ様の他愛ない悪戯に振り回されつつ、良好な関係を築けていたということか。
 うーん……マルが篭ってしまったから、ハロルド様についての情報が聞き出せないな……。

「ディート殿は、ハロルド様をご存知ですか?」
「ああ、存じ上げている。社交的で、穏健な方だぞ。まるでリカルド様と対である様にな。
 ご兄弟の仲は悪いと言われているが、リカルド様が一方的に喧嘩を吹っかけている風だな。
 いちいち人目のある場所でやりあっているから……うーむ……人目のある場所をあえて選んでいたのか……?
 あああぁぁ、疑いだしたらきりがない、訳が分からん!」

 ガシガシと頭を掻き毟るディート殿。
 まあ、彼の方を苛烈な方だという印象を持っている状態で、その逆を想像するのは難しいよな。
 けれど、ディート殿が仰っていた様に、人目を意識して演技をしていた可能性は高いと思う。

「午後から、リカルド様を土嚢壁の見学にお連れすることになっているので、またあの方と交流を重ねてみます。
 配下の方と引き離せれば、もっと腹を割って話せるのですけどね……。
 どうも、お連れの方は皆が皆、信用できる方ではない様です」
「ほう、そういうのも分かるのか?
 ならば、土嚢壁見学の時、引き剥がしてみるか?」

 近衛の方々の協力が得られるなら、やれることが増えるな。
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