異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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対の飾り 17

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「……はす……ですか?」
「ええ、そう。耳飾の題材は、剣と蓮を使っていただきたいの」

 翌日、何事もなかったかのように振る舞うリヴィ様が、朝食の後、ルーシーとサヤを加えた俺たちの前でそう言った。

 昨日の件は、内密に進めるべき話であったのだということで、二人には説明してある。
 リヴィ様の恋人は、あまりことを公にしたくないと思っておられるのだと。
 自分の存在が、リヴィ様の賜る役職に影響してしまってはならないから、極力自分のことを伏せておきたいとお考えで、ただ、それでは彼女が王都で苦労を強いられることになるだろうから、せめてもの手向けにと、彼女の盾となる耳飾を欲したのだ……と。

「全くそぐわない題材ですものね……難しいとは思うのだけど……どうかお願いできるかしら?
 きっと大変でしょうから、意匠に関しては職人に一任します。表現できる範囲で構わないわ。
 ごめんなさいね、無理を言ってしまって。でも私には……、この二つがとても重要で、大切な、思い出ですの……」

 そんな風に言うリヴィ様に、ルーシーは奮い立った。
 大貴族のご令嬢が、庶民の自分たちをこんな風に気遣ってくださっている。その思いに応えずして何が職人か!

「お任せ下さい!    必ず素晴らしいものを、ご用意いたしますわ!」

 作るのはルーシーじゃなく、職人ロビンたちなんだけどな……。
 まぁ、ルーシーがやる気になるのは良いことだ。
 そんな風に、燃え上がっていたルーシーなのだけど……。

「それから、対の装飾品なのだけど……襟飾でなければ、ならないのかしら?」

 その問いは予想外で、はたと動きを止めた。そして俺に、どうなんですか⁉︎    と、視線で訴えてくる。
 え、そりゃべつに……なんだっていいんじゃないか?

「私の国では、指輪や首飾りが多いです。……指輪に敢えて鎖を通して、首飾りにしたりとかもします」

 気を利かせたサヤが、俺が答える前にそう、口を開いた。
 そういえばそんなことを言っていたな……。

「なら、指輪にしていただける?」
「…………敢えてですか?」
「ええ。襟飾は、役職を賜る方には身につけにくいものでしょう?」

 既に襟飾を有している場合は、確かに身に付けにくいだろう。襟飾はふたつしか飾れないのだし。

「昨日のお話だと、その方が良いと思いましたの」

 にこりと笑ってリヴィ様。
 影ながらリヴィ様を支援し、待つと決めた高位貴族……で、あれば、役職を賜っている可能性は高いし、影ながら……というならば、印を晒しているのもおかしい。
 そもそも隠しておかなければ、憶測を招く手法は使えない……。
 指輪であれば、当然指にもできるが、サヤが言うように、襟の内側へ忍ばせておくこともできるだろう。
それに…………。
ギルは貴族ではないうえに、俺の配下でもないから、襟飾を身につけたりはしない……。例え襟飾を作ったとしても、それはどこかにしまいこまれて終わりだろう。
リヴィ様の提案は、きっと対の装飾品を、ギルに持っていてほしいという、願いだ……。

「繋がりがあれば良いのですもの……それだけで、充分。私には、見えていることは然程、重要ではないの」
「畏まりました!    では指輪にしたしましょう!」

 なにやら琴線に触れたらしいルーシーが、更に張り切る。
 そのルーシーに、男性側の意匠は、指輪の内側に彫り込むという手法もありますよ。と、サヤが助言を添えた。
 例えば小鳥や花のような、男が身につけるには少々難儀な意匠でも、隠れる場所に彫り込めば悪目立ちしないらしい。……職人は大変そうだけど。

 ルーシーはふんふんと真剣に頷き、なにやら思案顔。

「場合によっては、見えない方が良いと考える方も、いらっしゃるのですね……。
 確かに、女性側に誰かの縁が繋がっていることが分かれば、一応問題無いですもんね。
 では、これからの受注に関しては、それも確認していくことにしましょう」
「貴族男性は装飾品をあまり身に付けない……と聞いたのですけど、身に付けてはいけないわけではない……のですよね?」
「うんまぁ……駄目ってわけじゃないよ。ちょっと変わった人って思われるかもだけど」

 装飾品というか、身分を示すために、印綬や紋章印を、首飾りや指輪として身につけるから、その他の品はあまり使わないってだけだと思う。
 特に紋章印の指輪はよく利用するのだし、指輪ならばそんなに悪目立ちするわけじゃないだろう。
 あ、でもうっすらとした記憶だけど、アギー公爵様は指輪をされていた覚えがあるな……。流石というか、なんというか……。

「他に選択肢を作るとしたら、どんな装飾品が考えられますか?」
「んー……腕輪?……あ、でもこの国なら、帯飾りや……剣帯に、飾りを付けるのもありかもですね。
 レイシール様の印綬を、印籠みたいにしてみたのですけど、花結びを使わなくても、見栄え良くする方法はいくらでもありますし。
 キーホルダーやチャームだと考えれば……」
「なんですかそれ⁉︎」

 装飾品への食いつきが凄いな、ルーシー……。
 だけど昨日のことが誤魔化せて丁度良かった。今朝は早くから、大丈夫だったのかって半泣きで縋られて、大変だったものな。
 盛り上がる女性陣に、和まされてほっこりしていたのだけど、ふと気付けばギルが固まっている。

「……ギル?」
「…………蓮……?」
「蓮がどうかした?」
「いや、今……なんか引っかかった気がしたんだが……忘れた」

 なんだったっけなー……分からんっ。と、ガシガシ頭を掻いていたけれど諦めた様子。
 そうして呼ばれたロビンがやって来て、その場で意匠案を検討し、図案が纏まる頃には頃合いとなった。
 リヴィ様の、ご帰還の時……。

 帰りの馬車が準備される中、ギルが使用人に呼ばれた。
 失礼。と、断りを入れて場を離れたギルを見送っていたら、リヴィ様が俺の隣にやって来て、そのまま無言で横に並ぶ。
 そうして、独り言を呟くように、口を開いた。

「私、本当は七年よりもっと前に、お会いしたことがございますの」

 視線をやると、まっすぐ前を向いたリヴィ様が、馬車を見つめたまま、言葉を続ける。

「私がまだ、本当に幼かった頃……。お忍びで、母方の実家に、避暑に赴いていた時に。
 私、使用人とはぐれて、入ってはいけないという場所に、知らず踏み込んでしまっていて……番犬に、追われてしまったの。
 今となっては笑い話ね。あの時私ったら……ただの犬を猛獣か何かだと勘違いしてしまって。
 悲鳴を上げて、走って逃げたけれど、直ぐに躓いて、転んでしまった。
 もう食べられちゃうって、そう思った時に……」

 木の上から、騎士様が降って来たのだと、笑った。

「木の棒を剣に見立てて、姫、止まってはなりませぬ、お立ちください!    って。
 何かの遊びだったのかしら?    私、お忍びでしたから、町の娘とさして変わらぬ服装でしたのよ?
 なのにまさか、自分が姫なんて言われているとは思わなくて、ぽかんとしてしまって……」

 恐怖も吹き飛んでしまったわ。と、くすくすと笑う横顔。
 けれど番犬は、年端もいかぬ子供二人に、太刀打ちできる相手ではなかった。
 運良く振り回した棒が番犬の鼻っ柱に当たり、怯んだ隙に逃げ出して、蓮の咲き乱れる泉のほとりに追い詰められたのだという。

「そうしたら騎士様、剣を捨てて私を抱きかかえてくださったの。それで、そのまま泉の中に」
「ええっ⁉︎」
「番犬は、水の中には追ってこなかったわ。その代わり、けたたましく吠えかけられて、私、怖くて泣いてしまって……。
 騎士様は、一生懸命宥めてくださったの。大丈夫です。必ずお守りしますって。
 それで大人が見つけてくれるまで、頑張って私のこと、濡らさぬよう、抱き抱えていてくれた」
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