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バート商会 5
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「……攻撃に出ようと思う」
王都に向けて、メバックを発つその日。
昼の出発に合わせ、それまでの細やかな時間、バート商会の応接室に、配下を全て集めた。
ハイン、サヤ、マルにウーヴェ。オブシズにシザー。吠狼からはジェイドとアイル。
ユストも呼ばれたことに、ジークらは少し不思議そうな顔をしていたけれど、本来部外者であるギルも呼んだから、そんなに込み入った話をするとは思わなかった様子。
「攻撃?」
そう聞き返してきたのは、この面子の中では最年長のオブシズ。
俺はそれに、こくりと頷いた。
「うん。王都での式典……姫様の戴冠式と、俺の任命式。
今からそれに出席するため、王都に向かうわけだけど……その前に、一つ片付けておこうと思ったんだ。
式が終われば、今まで準備してきたことが、本格的に動き出す」
俺の言葉に、一同が姿勢を正す。
決意を秘めていたり、少し不安そうであったり、なんで俺まで呼ばれたんだ? みたいな顔だったりと、表情は様々。
だけど姫様がこの式典で発表することを、前もって皆に言っておく方が良いと思った。
今までみたいに……受け身でいては、いけないと思った……。
あの発表がなされた瞬間から、フェルドナレンの歯車は、今までと違った方向に回り出す。俺はそれを、周りに流されていくのじゃなく、自らの意思で、思う速度で、回さなきゃならない。
「この式典で、王家はある重大事項を発表することになる。
正直国や、今までの常識がひっくり返るくらいのことなんだけどね……俺は、それに深く関わった。その上で、役職を賜ると決意した。
それを皆には知っておいてもらう方が良いと思ったんだよ。
どれだけ国の中が混乱しようが、俺たちは即座に動かなきゃならない。
交易路計画を進め、民の生活向上に力を入れるという、姫様の意思を体現しなくてはならない。
まぁつまり……確実に貴族は浮き足立つし、暫くまともに機能しないんじゃないかって思うんだよね……。だからその時にこそ、動く。そのために、お前達にはこのことを、先に話しておこうと思ったんだ」
病の発表は、言わば王家の土台を崩す行為だ。
尊き白、賢王の象徴とされでいたから許されていたこと、受け入れられていたことを、自ら否定して始まる、姫様の統治。
公爵四家は一応受け入れたと言うが、それは自らの足元にも、既に火が着いていることを、認めざるを得ない結果が、目の前にあったからだろう。
「な、なんですか、それ……国が、ひっくり返る?」
「うん。多分それくらい、混乱する。でも俺たちまで一緒になって混乱してられないからね」
「…………レイ様は、それをもう、ご存知ってことですか⁉︎」
「そうだね。と、いうか……うん。まぁ、知ってる」
知ってるというか……発端?
だけど、それを言うと、獣人にまでことが絡むし、全部を説明しなきゃいけなくなるから、今は誤魔化しておくしかない。
「……あの、そんな重大事項を前に、ギルを、同席させているという、のは……どういう?」
「ギルはもう関わってるから」
どういうこと⁉︎
と、雨季を共に過ごしていない面子は更なる混乱に突入した様子。
ギルはまぁ……学舎にいた頃から姫様の男装を知り、それに緘口令を敷かれていたという経緯がある。
何より俺やハインのことに深く関わりすぎているし、隠しようもなかったから、既に話していた。
今回のことを皆に伝えようと思ったのも……ギルの全面的な協力という承諾を、得たからだ。
俺は、今まではただ、状況に流されてきた。
与えられるものに縋り、過ごしていたのをサヤが変えた。俺に選ぶこと、望むことを許してくれた。
そして、今から俺は、国の礎を担う。
ただ貴族の末端ではなくなる。
そうなる以上、俺は、選ぶでは、足りなくなる。自ら探し、作り、進むことをしなければならない。役職を得るということは、その立場に立つということだ。
「心配しなくとも、俺たちのやることは変わらない。王家も、変わらないよ。
ただ、今まで俺たちが象徴とし、尊いと讃えていたものが、そうじゃないと知るだけのことなんだ。
とにかく先ずは聞くように。
では……王家の祝福、尊き白について。賢王の象徴と言われてきたあのお色はね、病だ」
俺は去年の夏に知ったことを、皆にかいつまんで話した。
王家の白は祝福などではなく、血の種が開花することで発症する病……サヤの国で、先天性白皮症と呼ばれているものである可能性が高いこと……。
それが、公爵家との間で繰り返されてきた婚姻によって、引き起こされていること。
このままを続ければ、近い将来王家の滅びが待っていること。
姫様は、それを回避するため此度、公爵家以外から夫を選んだこと。
姫様のお子は白とならない可能性が高く、今後も血を薄めるため、公爵家以外との婚姻を進めていくだろうこと……。
ユストとジェイドらには、アギーのクリスタ様が姫様の仮姿であるということも伝えていなかったから、それも含めて伝え、姫様はこの病の駆逐を目指すため、この事実を戴冠式で発表するだろうと、それらをまず、皆に話した。
「この王家の病を引き起こしているのが、劣勢遺伝子……と呼ばれるものであるらしい。
つまりね、王家と公爵家の血の中には、病の種が潜んでいて、それが結びつくことで開花、発症している。持って生まれたが最後、この病からは逃れられない。根は身体中に蔓延っていて、切り離すこともできないそうだ。
荒唐無稽な話と聞こえるかもしれないが、実際系譜を調べ、その結果を王家も確認している。
同じ調査を公爵家の系譜でも行ったそうだ。
公爵四家が姫様の王位継承を認めたのも、自らの血が、その劣性遺伝子に深く侵されていることが、実際実感できてしまったからだろう……。
このまま、今の状態を続ければ、王家だけじゃない、公爵四家も、絶える道しかない……って、ことだからね」
そこまでを話し、一旦言葉を止めた。
皆を見渡すと、どう反応して良いやら……といった表情の者、混乱のあまり、頭を抱えてしまった者……。まあ、残り半分は元から知っていたわけで、そのうちの一人、ユストは……混乱を通り越してしまったのか、呆然と視線を手元に落としていた。
うんまぁ……概ね、反応は予想通りか。
「これらを今ここで話しておこうと思ったのは、姫様の白化が病であるからだ。病であると公表することは、当然、神殿に関わる。
病は悪魔の手……我々はそのように考えてきたけれど、サヤの国では違う……。そして、この国の常識を一旦忘れ、サヤの国の常識でもって考えていくと、色々な部分の辻褄が、合ってしまった。
全てサヤの国が正しいとは言わないさ。ただ、こと病に関しては……系譜でもってそれが実証された形になった。しかも、待った無しの状況でね。
だから姫様は、自ら戦うことを、選んだんだ。
姫様の統治は、今までの常識との戦いであり、神殿との戦い……そうなるだろう。
…………神殿は、王家の尊き白を、神の祝福だと讃えてきたわけで……それを真っ向から、否定するんだから」
「あ、あの……じゃあ……じゃあ神殿の教えは?
悪魔は、獣人は…………経典は……?」
半ば混乱したといった表情で、そう言葉を発したのはウーヴェだった。
混乱した様子ではあっても、必死で考えていたのだろう……指摘内容が思いの外鋭く、俺は苦笑するしかない。
獣人……まぁ、俺がそれに深く関わっているから、それを出してきたのかな……だけど今は、まだ話せない……。
「……経典は、貴族と聖職者との間で都合の良いよう、改竄されている可能性が高いと、思っている……。
まぁ、経典の全てが虚構……とは、思わない。少なくとも国や地域によって、内容に差異があるのが事実だ。
解釈の違い、信仰を捧げる神の違い、色々あるだろうが、真実が一つではないという意味では、同じだろう。それが答えにならないかな?」
そう言うと、ウーヴェは押し黙った。
実際、経典は国や地域どころか、年代によっても差異がある。
時代背景により、国にとって都合の良い形に、少しずつ歪められてきているのだ。
「けど、これだけは、勘違いしないでもらいたい。
俺は、信仰の全てを否定しているわけじゃないよ。
貧しい時代、神に縋ることで心を救われてきた。だからこそ今がある。それも、間違いなく事実だと思う。
そうじゃなくてね…………。
王家の血は、白く生まれることに価値があるわけじゃないって、ことなんだ。
病に侵されていても、それを逃げる理由にせず、責任を貫き、全うしてきたこと。そこに王家の王家たる価値があるってことなんだよ」
神の祝福と言われていても、病にずっと、苦しめられてきたのだ。
長く生きられぬと知りつつ、それでも肩にのしかかる重責に、ただひたすら耐え、役割を果たしてきた……。
白を讃え、祝福する民衆の声が、苦痛でしかなかった時も、あったろう……。
その重責に、溢した涙だって、両の手では受け止められぬほどに流されたろう……。
「俺たちの姫様は、その責任を全うするため、この国を担う後世のために、病を駆逐する、その先陣を切ると決意された。
彼の方は、今日までずっと、身の病と闘いながら、王となるために自身を磨いてこられたんだ。
女性である以上彼の方は、子を残す責任すら、自ら担う。
だから俺は……俺たちはね、そんな姫様を一人で戦わせてはいけないんだ……。彼の方が捨てる足場、神殿に支えられてきた、尊き白。
それ以上のものを、彼の方のために築く。
俺が担う地方行政官という役職はね、その足場作りに、極めて適した地位であると、俺は思ってる」
民に最も近い場所に立つのは、俺だ。
尊き白を否定した王家に、民はきっと寄る辺を無くしたような心細さを感じることだろう。
だけど、王家は何も、変わっていない。今までと同じく、民のために身を粉にして働いていらっしゃる。それを自らで示すことができる立場なんだ。
「姫様の世を、素晴らしきものであると、そう民に言わしめる。
それは、俺たちの働きに掛かっている。
だから、今まで通りに守っていては駄目だ。俺は、機先を制し、姫様の進む道を切り開く」
そう宣言すると、場の空気がすっと、研ぎ澄まされたように感じた。
皆の瞳が、俺一点に注がれたのを、肌で感じる。
「お前たちがいてくれれば、俺はそれを成せると確信してるから、心配なんて微塵も無い。
皆が皆のやるべきことをしてくれれば、あとは俺が、それを束ねる。
お前たちの働きを無駄になんてしない。必ず、形にしてみせるから、共に、戦ってくれるか」
そう問うと、一番にハインが、胸に手を当て、頭を下げた。
続いてマル、サヤが……ウーヴェ、シザーと続き……!
正確には配下ではないはずの、ジェイドとアイルすらも。俺に従うと、示してくれた。
「……ありがとう。
ではまず、王都にて初めの一手。これをギルにお願いしようと思う。
と、いうのもだな、神殿と貴族を一気に相手取る必要があって、真っ正面から喧嘩売っちゃうと、即座に潰されるだろ?
だから、時間をかけて少しずつ、外皮を削り取っていく作戦でいこうと思うんだ」
前もってギルには伝えていたとはいえ、やはりドキドキしたのだけど……。
「任せとけ」
ギルは不敵に笑って、勇ましくそう答えた。
王都に向けて、メバックを発つその日。
昼の出発に合わせ、それまでの細やかな時間、バート商会の応接室に、配下を全て集めた。
ハイン、サヤ、マルにウーヴェ。オブシズにシザー。吠狼からはジェイドとアイル。
ユストも呼ばれたことに、ジークらは少し不思議そうな顔をしていたけれど、本来部外者であるギルも呼んだから、そんなに込み入った話をするとは思わなかった様子。
「攻撃?」
そう聞き返してきたのは、この面子の中では最年長のオブシズ。
俺はそれに、こくりと頷いた。
「うん。王都での式典……姫様の戴冠式と、俺の任命式。
今からそれに出席するため、王都に向かうわけだけど……その前に、一つ片付けておこうと思ったんだ。
式が終われば、今まで準備してきたことが、本格的に動き出す」
俺の言葉に、一同が姿勢を正す。
決意を秘めていたり、少し不安そうであったり、なんで俺まで呼ばれたんだ? みたいな顔だったりと、表情は様々。
だけど姫様がこの式典で発表することを、前もって皆に言っておく方が良いと思った。
今までみたいに……受け身でいては、いけないと思った……。
あの発表がなされた瞬間から、フェルドナレンの歯車は、今までと違った方向に回り出す。俺はそれを、周りに流されていくのじゃなく、自らの意思で、思う速度で、回さなきゃならない。
「この式典で、王家はある重大事項を発表することになる。
正直国や、今までの常識がひっくり返るくらいのことなんだけどね……俺は、それに深く関わった。その上で、役職を賜ると決意した。
それを皆には知っておいてもらう方が良いと思ったんだよ。
どれだけ国の中が混乱しようが、俺たちは即座に動かなきゃならない。
交易路計画を進め、民の生活向上に力を入れるという、姫様の意思を体現しなくてはならない。
まぁつまり……確実に貴族は浮き足立つし、暫くまともに機能しないんじゃないかって思うんだよね……。だからその時にこそ、動く。そのために、お前達にはこのことを、先に話しておこうと思ったんだ」
病の発表は、言わば王家の土台を崩す行為だ。
尊き白、賢王の象徴とされでいたから許されていたこと、受け入れられていたことを、自ら否定して始まる、姫様の統治。
公爵四家は一応受け入れたと言うが、それは自らの足元にも、既に火が着いていることを、認めざるを得ない結果が、目の前にあったからだろう。
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「うん。多分それくらい、混乱する。でも俺たちまで一緒になって混乱してられないからね」
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「そうだね。と、いうか……うん。まぁ、知ってる」
知ってるというか……発端?
だけど、それを言うと、獣人にまでことが絡むし、全部を説明しなきゃいけなくなるから、今は誤魔化しておくしかない。
「……あの、そんな重大事項を前に、ギルを、同席させているという、のは……どういう?」
「ギルはもう関わってるから」
どういうこと⁉︎
と、雨季を共に過ごしていない面子は更なる混乱に突入した様子。
ギルはまぁ……学舎にいた頃から姫様の男装を知り、それに緘口令を敷かれていたという経緯がある。
何より俺やハインのことに深く関わりすぎているし、隠しようもなかったから、既に話していた。
今回のことを皆に伝えようと思ったのも……ギルの全面的な協力という承諾を、得たからだ。
俺は、今まではただ、状況に流されてきた。
与えられるものに縋り、過ごしていたのをサヤが変えた。俺に選ぶこと、望むことを許してくれた。
そして、今から俺は、国の礎を担う。
ただ貴族の末端ではなくなる。
そうなる以上、俺は、選ぶでは、足りなくなる。自ら探し、作り、進むことをしなければならない。役職を得るということは、その立場に立つということだ。
「心配しなくとも、俺たちのやることは変わらない。王家も、変わらないよ。
ただ、今まで俺たちが象徴とし、尊いと讃えていたものが、そうじゃないと知るだけのことなんだ。
とにかく先ずは聞くように。
では……王家の祝福、尊き白について。賢王の象徴と言われてきたあのお色はね、病だ」
俺は去年の夏に知ったことを、皆にかいつまんで話した。
王家の白は祝福などではなく、血の種が開花することで発症する病……サヤの国で、先天性白皮症と呼ばれているものである可能性が高いこと……。
それが、公爵家との間で繰り返されてきた婚姻によって、引き起こされていること。
このままを続ければ、近い将来王家の滅びが待っていること。
姫様は、それを回避するため此度、公爵家以外から夫を選んだこと。
姫様のお子は白とならない可能性が高く、今後も血を薄めるため、公爵家以外との婚姻を進めていくだろうこと……。
ユストとジェイドらには、アギーのクリスタ様が姫様の仮姿であるということも伝えていなかったから、それも含めて伝え、姫様はこの病の駆逐を目指すため、この事実を戴冠式で発表するだろうと、それらをまず、皆に話した。
「この王家の病を引き起こしているのが、劣勢遺伝子……と呼ばれるものであるらしい。
つまりね、王家と公爵家の血の中には、病の種が潜んでいて、それが結びつくことで開花、発症している。持って生まれたが最後、この病からは逃れられない。根は身体中に蔓延っていて、切り離すこともできないそうだ。
荒唐無稽な話と聞こえるかもしれないが、実際系譜を調べ、その結果を王家も確認している。
同じ調査を公爵家の系譜でも行ったそうだ。
公爵四家が姫様の王位継承を認めたのも、自らの血が、その劣性遺伝子に深く侵されていることが、実際実感できてしまったからだろう……。
このまま、今の状態を続ければ、王家だけじゃない、公爵四家も、絶える道しかない……って、ことだからね」
そこまでを話し、一旦言葉を止めた。
皆を見渡すと、どう反応して良いやら……といった表情の者、混乱のあまり、頭を抱えてしまった者……。まあ、残り半分は元から知っていたわけで、そのうちの一人、ユストは……混乱を通り越してしまったのか、呆然と視線を手元に落としていた。
うんまぁ……概ね、反応は予想通りか。
「これらを今ここで話しておこうと思ったのは、姫様の白化が病であるからだ。病であると公表することは、当然、神殿に関わる。
病は悪魔の手……我々はそのように考えてきたけれど、サヤの国では違う……。そして、この国の常識を一旦忘れ、サヤの国の常識でもって考えていくと、色々な部分の辻褄が、合ってしまった。
全てサヤの国が正しいとは言わないさ。ただ、こと病に関しては……系譜でもってそれが実証された形になった。しかも、待った無しの状況でね。
だから姫様は、自ら戦うことを、選んだんだ。
姫様の統治は、今までの常識との戦いであり、神殿との戦い……そうなるだろう。
…………神殿は、王家の尊き白を、神の祝福だと讃えてきたわけで……それを真っ向から、否定するんだから」
「あ、あの……じゃあ……じゃあ神殿の教えは?
悪魔は、獣人は…………経典は……?」
半ば混乱したといった表情で、そう言葉を発したのはウーヴェだった。
混乱した様子ではあっても、必死で考えていたのだろう……指摘内容が思いの外鋭く、俺は苦笑するしかない。
獣人……まぁ、俺がそれに深く関わっているから、それを出してきたのかな……だけど今は、まだ話せない……。
「……経典は、貴族と聖職者との間で都合の良いよう、改竄されている可能性が高いと、思っている……。
まぁ、経典の全てが虚構……とは、思わない。少なくとも国や地域によって、内容に差異があるのが事実だ。
解釈の違い、信仰を捧げる神の違い、色々あるだろうが、真実が一つではないという意味では、同じだろう。それが答えにならないかな?」
そう言うと、ウーヴェは押し黙った。
実際、経典は国や地域どころか、年代によっても差異がある。
時代背景により、国にとって都合の良い形に、少しずつ歪められてきているのだ。
「けど、これだけは、勘違いしないでもらいたい。
俺は、信仰の全てを否定しているわけじゃないよ。
貧しい時代、神に縋ることで心を救われてきた。だからこそ今がある。それも、間違いなく事実だと思う。
そうじゃなくてね…………。
王家の血は、白く生まれることに価値があるわけじゃないって、ことなんだ。
病に侵されていても、それを逃げる理由にせず、責任を貫き、全うしてきたこと。そこに王家の王家たる価値があるってことなんだよ」
神の祝福と言われていても、病にずっと、苦しめられてきたのだ。
長く生きられぬと知りつつ、それでも肩にのしかかる重責に、ただひたすら耐え、役割を果たしてきた……。
白を讃え、祝福する民衆の声が、苦痛でしかなかった時も、あったろう……。
その重責に、溢した涙だって、両の手では受け止められぬほどに流されたろう……。
「俺たちの姫様は、その責任を全うするため、この国を担う後世のために、病を駆逐する、その先陣を切ると決意された。
彼の方は、今日までずっと、身の病と闘いながら、王となるために自身を磨いてこられたんだ。
女性である以上彼の方は、子を残す責任すら、自ら担う。
だから俺は……俺たちはね、そんな姫様を一人で戦わせてはいけないんだ……。彼の方が捨てる足場、神殿に支えられてきた、尊き白。
それ以上のものを、彼の方のために築く。
俺が担う地方行政官という役職はね、その足場作りに、極めて適した地位であると、俺は思ってる」
民に最も近い場所に立つのは、俺だ。
尊き白を否定した王家に、民はきっと寄る辺を無くしたような心細さを感じることだろう。
だけど、王家は何も、変わっていない。今までと同じく、民のために身を粉にして働いていらっしゃる。それを自らで示すことができる立場なんだ。
「姫様の世を、素晴らしきものであると、そう民に言わしめる。
それは、俺たちの働きに掛かっている。
だから、今まで通りに守っていては駄目だ。俺は、機先を制し、姫様の進む道を切り開く」
そう宣言すると、場の空気がすっと、研ぎ澄まされたように感じた。
皆の瞳が、俺一点に注がれたのを、肌で感じる。
「お前たちがいてくれれば、俺はそれを成せると確信してるから、心配なんて微塵も無い。
皆が皆のやるべきことをしてくれれば、あとは俺が、それを束ねる。
お前たちの働きを無駄になんてしない。必ず、形にしてみせるから、共に、戦ってくれるか」
そう問うと、一番にハインが、胸に手を当て、頭を下げた。
続いてマル、サヤが……ウーヴェ、シザーと続き……!
正確には配下ではないはずの、ジェイドとアイルすらも。俺に従うと、示してくれた。
「……ありがとう。
ではまず、王都にて初めの一手。これをギルにお願いしようと思う。
と、いうのもだな、神殿と貴族を一気に相手取る必要があって、真っ正面から喧嘩売っちゃうと、即座に潰されるだろ?
だから、時間をかけて少しずつ、外皮を削り取っていく作戦でいこうと思うんだ」
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