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試練の時 2
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セイバーン村の交易路計画。
ただ今は、派遣された騎士と、視察のため他領からお越しになった担当官らに土嚢壁作りの重要性を理解してもらうため、ひたすら土嚢作りを繰り返してもらう期間となっている。
土嚢を作る流れ作業は、十人程の人足が組となり、土を掘り返す者、土を袋詰めする者、完成した土嚢を別場所に運ぶため、馬車に積む者と、役割分担をしつつ、それを回して交代する形で行われている。
上手い組は全体休憩をあまり挟まず、それぞれが疲れを溜め込みすぎないうちに交代し、休憩を小刻みに取り入れ、同じ時間でかなりの数の土嚢を作り上げることができる。
作り上げた土嚢の正確さと数により、給与に色がつくとあって、人足たちは皆お互い真剣だ。同じ働くなら給与は多く欲しいし、疲れたくない。それは当然のこと。
で、現在その組の中に、騎士が三人ずつ割り振られており、共に作業しつつ、土嚢の正しい作り方、正確な作り方を身に付けている最中だった。
セイバーンの騎士らには貴族出身者などほぼいないし、ここで立場をどうこう言うような輩もおらず、作業は問題無く進んでいるが、やはり視察のために来た方々が問題で……。
来訪者は基本的に貴族、連れて来た騎士らも、貴族出身者が圧倒的に多い。それゆえちらほらと問題が勃発していたよう。
「とはいえ、ヴァーリンのクロード様が同じことをやってのけてしまいましたから、現在は静かなものですよ。
正確な土嚢作りを行えることを騎士の必須技能にすることが女王の思し召し……と、この方に言われてしまえば、納得するしかありませんから」
見ものでしたとアーシュ。
「実際にやって見せたんだ……」
「当然です。口先だけなどと思われたのでは、ヴァーリンの名が廃りますので」
にっこりと笑って言うけど、全然当然じゃないのだよね……クロードの血筋、ありえないくらい高位なのだから……。
文官らしく汗など流しませんといった爽やかな風情のクロードだけど、彼の出身……ヴァーリン公爵家は、優秀な文官を多く輩出する家系でありながら、武にも精通していることで有名だ。
だから、彼も当然、身体を鍛えているし、武官が務まるほどに剣術を体得している。見た目に騙された者らは痛い目を見るだろう。
現在の領主たるハロルド様、二子であり、嫡子であるリカルド様も共に、人並み以上の剣の腕をお持ちで、特にリカルド様は、文官家系の中から武官どころか、騎士団の将にまで上り詰めてしまっている実力者。
技量が重視されがちな騎士団は、血だけで成り上がれるものではない。騎士団の務めは命懸け。部下を従わせるとは即ち、命を捨てろと命じれる立場ということ。当然、実力を示さなければ、命を預けることを受け入れてはもらえない。
つまり、将として認められている彼の方は、千や万の命を背負うに相応しい方ということなのだ。
そんな方の弟であり、しかも文官のクロードが、あの重労働を人足に混じってこなしてしまったとあっては、公爵家以下の血筋の者に無理ですとか、嫌です……なんて言えない……。
なにせクロードは、ヴァーリンのみならず、ベイエル公爵家の血をも引いていらっしゃる……要は貴族の中で最も血の地位が高い方の一人なのだ。
血筋や地位にとやかくいう奴のほぼ全てがクロード様に並べない。超えられる人に至っては、王家くらいしか存在しないのだから、従うしかない……となるのだよな。
「無理矢理にでもやってみれば、その難しさ、難易度の高さは身体が理解します。
初めは顔を顰めていた者も、後になる程真剣味が増しておりますよ。
彼らは故郷に戻れば、それを指導しなければならない立場なのですから、そこはきちんと弁えて戻って頂きます」
ただやって見せるだけじゃなく、きちんとその重要性も伝え、周知を広げてくれている様子のクロード。さすが、王都で文官をやっていた実力者。有能さが凄い。
「本日は父上が体調を崩されているから、村の巡回は俺が行くことになる。交易路の方にも顔を出すと思うから、宜しく頼むよ」
そう伝えたら、クロードは一瞬だけ、口を噤んだ。そうして……。
「左様でございますか。
……でしたらその……例の若女将……彼の方を少し、気にかけてやっていただけますか?」
交易路に関してではなく、そんな風に話を振られて……。
「若女将……って、カーリン……? あぁ、やっぱりまだ仕事、続けてるのか……もうそろそろ八ヶ月だろう?」
「そうなのです。腹も随分と大きく迫り出しておられて……たまに顔を顰めておられます……。もうかなり、お辛いのではと……」
それまで話を黙って聞いていたサヤが、ぴくりと反応し、顔を上げた。
逡巡するように視線を彷徨わせてから、意を決して「あの、クロード様……」と、おずおず声を掛けて。
「カーリンさんのお腹、張ったりしている様子でしょうか……?」
「すまない、そういった細かいことは、私にはなんとも……。
妻にも聞いてみたのだけど、こればかりは個人差も大きくある様子で、私の話ではなんとも言えぬと言われたのだよ」
「そう、ですか……」
考え込むサヤ。
そうして、私もセイバーン村に同行しても良いですかと、俺に聞いてきた……。
俺が、サヤを連れて行きたくないと考えていることを、もう見透かしているのだろう。けれど、立ち向かうと決めている……。
サヤとのこれからのことは、ロジェ村でしっかり話し合った。だから……今回はサヤを伴おうと、俺も決めた。
「分かった。ちょっと様子を見てみよう」
午後を待ち、昼食を終えて、今回も馬で向かうことにする。
色々溜まっていた書類を片付けていたら、出発が少し遅れてしまったのだけど、馬だし、まぁ良いだろう。
「空模様が少々怪しいですね……」
「本当だ。この時期に雨か……収穫が滞るんだよなぁ……」
「毎年必ず一度は降るのですから、明日から数日は休息日だと割り切るしかないでしょうね」
ハインとそんな風に話しつつ、アーシュ、クロード、そしてサヤと、シザー、オブシズを伴って。
俺たちはセイバーン村へと出発した。
ただ今は、派遣された騎士と、視察のため他領からお越しになった担当官らに土嚢壁作りの重要性を理解してもらうため、ひたすら土嚢作りを繰り返してもらう期間となっている。
土嚢を作る流れ作業は、十人程の人足が組となり、土を掘り返す者、土を袋詰めする者、完成した土嚢を別場所に運ぶため、馬車に積む者と、役割分担をしつつ、それを回して交代する形で行われている。
上手い組は全体休憩をあまり挟まず、それぞれが疲れを溜め込みすぎないうちに交代し、休憩を小刻みに取り入れ、同じ時間でかなりの数の土嚢を作り上げることができる。
作り上げた土嚢の正確さと数により、給与に色がつくとあって、人足たちは皆お互い真剣だ。同じ働くなら給与は多く欲しいし、疲れたくない。それは当然のこと。
で、現在その組の中に、騎士が三人ずつ割り振られており、共に作業しつつ、土嚢の正しい作り方、正確な作り方を身に付けている最中だった。
セイバーンの騎士らには貴族出身者などほぼいないし、ここで立場をどうこう言うような輩もおらず、作業は問題無く進んでいるが、やはり視察のために来た方々が問題で……。
来訪者は基本的に貴族、連れて来た騎士らも、貴族出身者が圧倒的に多い。それゆえちらほらと問題が勃発していたよう。
「とはいえ、ヴァーリンのクロード様が同じことをやってのけてしまいましたから、現在は静かなものですよ。
正確な土嚢作りを行えることを騎士の必須技能にすることが女王の思し召し……と、この方に言われてしまえば、納得するしかありませんから」
見ものでしたとアーシュ。
「実際にやって見せたんだ……」
「当然です。口先だけなどと思われたのでは、ヴァーリンの名が廃りますので」
にっこりと笑って言うけど、全然当然じゃないのだよね……クロードの血筋、ありえないくらい高位なのだから……。
文官らしく汗など流しませんといった爽やかな風情のクロードだけど、彼の出身……ヴァーリン公爵家は、優秀な文官を多く輩出する家系でありながら、武にも精通していることで有名だ。
だから、彼も当然、身体を鍛えているし、武官が務まるほどに剣術を体得している。見た目に騙された者らは痛い目を見るだろう。
現在の領主たるハロルド様、二子であり、嫡子であるリカルド様も共に、人並み以上の剣の腕をお持ちで、特にリカルド様は、文官家系の中から武官どころか、騎士団の将にまで上り詰めてしまっている実力者。
技量が重視されがちな騎士団は、血だけで成り上がれるものではない。騎士団の務めは命懸け。部下を従わせるとは即ち、命を捨てろと命じれる立場ということ。当然、実力を示さなければ、命を預けることを受け入れてはもらえない。
つまり、将として認められている彼の方は、千や万の命を背負うに相応しい方ということなのだ。
そんな方の弟であり、しかも文官のクロードが、あの重労働を人足に混じってこなしてしまったとあっては、公爵家以下の血筋の者に無理ですとか、嫌です……なんて言えない……。
なにせクロードは、ヴァーリンのみならず、ベイエル公爵家の血をも引いていらっしゃる……要は貴族の中で最も血の地位が高い方の一人なのだ。
血筋や地位にとやかくいう奴のほぼ全てがクロード様に並べない。超えられる人に至っては、王家くらいしか存在しないのだから、従うしかない……となるのだよな。
「無理矢理にでもやってみれば、その難しさ、難易度の高さは身体が理解します。
初めは顔を顰めていた者も、後になる程真剣味が増しておりますよ。
彼らは故郷に戻れば、それを指導しなければならない立場なのですから、そこはきちんと弁えて戻って頂きます」
ただやって見せるだけじゃなく、きちんとその重要性も伝え、周知を広げてくれている様子のクロード。さすが、王都で文官をやっていた実力者。有能さが凄い。
「本日は父上が体調を崩されているから、村の巡回は俺が行くことになる。交易路の方にも顔を出すと思うから、宜しく頼むよ」
そう伝えたら、クロードは一瞬だけ、口を噤んだ。そうして……。
「左様でございますか。
……でしたらその……例の若女将……彼の方を少し、気にかけてやっていただけますか?」
交易路に関してではなく、そんな風に話を振られて……。
「若女将……って、カーリン……? あぁ、やっぱりまだ仕事、続けてるのか……もうそろそろ八ヶ月だろう?」
「そうなのです。腹も随分と大きく迫り出しておられて……たまに顔を顰めておられます……。もうかなり、お辛いのではと……」
それまで話を黙って聞いていたサヤが、ぴくりと反応し、顔を上げた。
逡巡するように視線を彷徨わせてから、意を決して「あの、クロード様……」と、おずおず声を掛けて。
「カーリンさんのお腹、張ったりしている様子でしょうか……?」
「すまない、そういった細かいことは、私にはなんとも……。
妻にも聞いてみたのだけど、こればかりは個人差も大きくある様子で、私の話ではなんとも言えぬと言われたのだよ」
「そう、ですか……」
考え込むサヤ。
そうして、私もセイバーン村に同行しても良いですかと、俺に聞いてきた……。
俺が、サヤを連れて行きたくないと考えていることを、もう見透かしているのだろう。けれど、立ち向かうと決めている……。
サヤとのこれからのことは、ロジェ村でしっかり話し合った。だから……今回はサヤを伴おうと、俺も決めた。
「分かった。ちょっと様子を見てみよう」
午後を待ち、昼食を終えて、今回も馬で向かうことにする。
色々溜まっていた書類を片付けていたら、出発が少し遅れてしまったのだけど、馬だし、まぁ良いだろう。
「空模様が少々怪しいですね……」
「本当だ。この時期に雨か……収穫が滞るんだよなぁ……」
「毎年必ず一度は降るのですから、明日から数日は休息日だと割り切るしかないでしょうね」
ハインとそんな風に話しつつ、アーシュ、クロード、そしてサヤと、シザー、オブシズを伴って。
俺たちはセイバーン村へと出発した。
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