異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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後日談

右腕 3

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 そしてその後聞かされたことに頭を抱えましたよね……。

「ロレンをお前の妻にする。
 お前の生涯を賭けなければならないと言ったのは、それが理由だよ」
「なんの冗談です……」
「冗談なんてひとつも言ってないのに」
「冗談ですよ!
 獣人が女近衛とつがいになるなど、誰が承諾するんです……」

 レイシール様の計画は最低でした……。
 いえ、何が有効かを的確に突いているとは思います、思いますが……それは、本人の承諾無しに進める話ですか⁉︎

「陛下はきっと了承するだろう。
 女近衛の未来に、ありとあらゆる前例を用意したいって、この前も言っていたから」

 もはや国の重役とみなされているレイシール様は、私の知らぬ一年でまた、発言力を強めている様子。
 陛下とは元々懇意にしているということもあり、表沙汰にできない愚痴や問題も、色々聞かされているよう。
 そして相変わらず、無理難題を押し付けられているのですね……。
 とはいえ、「こればっかりは難しいと思ってたんだよ」と、レイシール様はおっしゃいました。
 そうでしょうとも!
 獣人と、陛下のお傍にはべることが職務の女近衛をめあわせるなど、正気の沙汰ではありませんよ!

「だから陛下は反対しない」
「陛下はそうでしょうとも! ですが、私はともかく、ロレン様は承知などなさいません!」
「すると思うよ」

 その後の言葉は、サヤ様の手前、控えたのでしょう。けれど、レイシール様の瞳は、彼女はお前に身を許したろう? と、言っています……。

「……あれは、事情が事情だからでしょう……」
「別れの時、お前以外に女扱いは許さないって、言外に言っていたのに?」

 貴方はそれ、聞いてませんでしたよね⁉︎

 サヤ様を恨めしさのあまり睨みますと、困ったように眉を寄せて顔を伏せてしまわれました。
 ……くっ、この方に悪意など微塵も無いと分かっているだけに、責めにくくてかないません……。

「ロレンは、女近衛の職に誇りを持っているし、現状だって理解している。
 女近衛を続けることができるという条件を飲めば、それだけで伯爵家との婚姻よりも価値が出るよ。
 だから、憎からず思っているお前とだったら承知する。
 お前の気持ちや、お前がロレンの職務を後押しする心算こころづもりでいることは、贈り物の数々で伝わるはずだしね」

 にこにこと笑顔で語っていたレイシール様でしたが、そこで幾分か真面目な表情を取り戻しました。

「それにね……こうしなきゃならないんだよ。
 ロレンは貴族の妻となることに緘口令を敷かれているから、自らの口で陛下への密告などできやしない。
 地元に戻れば、彼女の意思なんて関係なしに、即座に職を辞す手続きが進められることになるだろう……。
 だがそれが、ロレンの本意ではないと、陛下に伝わる形を取れていたなら、陛下も動ける。
 伯爵家からの打診より前に、ロレンが陛下の極秘の任務を賜っていて、自ら職を辞すなどあり得ない。という状態を作れば良いわけだ」

 ですがそれには無理があると思いました。
 昨年の春よりロレン様は王都に戻られていたのです。獣人と関わる時間なんて無かったと、彼女の勤務実績を確認すれば簡単に分かってしまうでしょう。
 けれどその指摘にレイシール様は。

「何を言ってるんだ。昨年の冬からの密命だよ。
 彼女は獣人と俺の保護の密命を受けてオゼロに出向いた。その密命にはもうひとつ、獣人と接して彼らの真意を探り、友好的であるならば種の理解を深めよというものも含まれていたとするんだよ。
 そして陛下の命のもと、彼女はオゼロで、保護したお前と越冬したんだ。
 本来は交流だけのつもりだったんだけどね……いつしかお前たちは惹かれあった。
 離れてからも、文のやりとりを続け、今日まで関係を育んできたんだ。
 そしてそれは陛下にも報告され、大いに喜ばれていた。
 人と獣人が手を取り合い、愛し合うんだ。それはフェルドナレンの明るい未来を示唆する、喜ぶべきことだからね。
 けれどお互い生涯を捧げると決めている職務があるから、婚姻はお互いが落ち着いてからと話し合っていたんだよ。
 もちろん陛下もそれを了承していて、人と獣人という関係に横槍が入らぬよう、細心の注意を払うため、表には伏せられたんだ」

 流れる水のように滔々とうとうと語るレイシール様。
 なんなんです……その捏造甚だしい物語は……。
 この方はクオン様からもかなり悪い影響を受けてしまったようですね……。

「それが急に職を辞して故郷に帰るなんて言い出すんだから、陛下は慌てるだろう?
 お前と喧嘩でもしたのかと、俺に連絡が来る。
 俺もお前もそんなことは知らない。
 なにより彼女の職務を後押しするために、お前はありとあらゆる手段を行使しているんだ。
 彼女との関係が悪くなったとは思えないし、もちろん自覚もしていないよな。
 と、なると……地元。ヴァーリン公に確認してみることになるわけだ」

 どんどん上役を巻き込んでいくのですね……恐ろしい。

「女近衛という役職は人員不足だし、陛下の身を守るために大変重要な役職だ。
 だから、上位貴族人の中では、彼女らの職務を妨害してはならないと、示し合わせてある。
 それを伯爵家が、無視して後継確保のために得ようと動いた。
 しかし調べてみれば、第三夫人は身重だろう? 優先されるべき重要性が高い問題は、どちらだろうな?」

 勿論、この方は敢えてことを大きくしているのでしょう……。
 伯爵家が言い逃れできぬよう、ことが有耶無耶にならぬよう……ありとあらゆる逃げ道を塞ぎ、潰して、彼らを逆に、罠に嵌めるつもりなのです。

「秘密には秘密をぶつける。
 厄介には厄介をぶつける。
 地位には更に上位の地位をぶつけるんだよ」

 そう言ってにこりと笑ったレイシール様は、天使のように美しく、悪魔のように狡猾で、なんとも恐ろしく感じました。

「多分これでなんとかできると思う。
 ロレンを一人で伯爵家に立ち向かわせるなんてしないさ、俺の大切なハインの、妻となってくれる人だもの」

 自身を怪物だと思っていない怪物が一番怖いですね……。
 何せ油断などしませんから。
 ありとあらゆる可能性を潰し、絶対に勝ちをもぎ取りにくる……。

「…………私に選択権はないのですね……」

 悪あがきと分かっておりましたが、言わずにはおれませんでした。
 しかしレイシール様はその美しい笑顔のまま、こう宣ったのです。

「お前さっき、私はともかく・・・・・・って、言ったじゃないか。
 あれが答えだと俺は受け取ったんだけど?」

 やはり……言うだけ無駄でしたね。

「お前は執事長となったから、このセイバーンの地を離れることはできない。
 だから、伯爵家もお前に手出しできない。
 ロレンの危惧したことも対処できる。
 ほら、これが一番良い方法だ。
 だからハイン、腹を括れ」

 どうせ逃れる術もないのですよね、分かってます。

「……畏まりました」

 もうなんだって良いです。好きにしてください。
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