6 / 51
6
しおりを挟む
「花梨さん」
何時も驚かれては堪らない、と思ったのだろう。ヴィラの低い声がゆっくりと花梨の名を呼んだ。
「うん……また年とったねぇ」
ヴィラの姿を確認すると、そう感心したように呟いた。
二人が夢で会うようになってから、もう一ヶ月ほどたっていた。
ヴィラの時間の進みは、ゆっくりな時もあれば早い時もあったが、花梨の方は毎晩夢で会えていた。
じっとヴィラの姿を見つめると、花梨は完全な癖になったため息をついた。
(――格好良くなっちゃって、あぁ。可愛いヴィラ。写真撮っておけばよかったなぁ)
ぷっくらとした白い頬。赤い唇。どこか女の子のように可憐だったヴィラ。しかし、今はまるで彫刻のように整った顔だち。昔の面影は目元の優しさだけだ。
「花梨さん」
無言のままじっと見つめてくる花梨に、軽く頬を染めて名前を呼ぶ。
(――身長も私より大きくなっちゃって。そりゃ、もう私と同い年だから仕方ないけどなぁ)
「花梨さん?」
こてっと首をかしげたヴィラ。その行動が昔と同じことに思わず花梨は笑い声を上げた。
「な、何だっ」
動揺したように言ったヴィラの口調は、敬語ではない。
花梨へ話す言葉は昔から敬語だが、恐らく他の相手には変わったのだろう。動揺したときのみ出る。
「ん~、大人になっちゃって」
ぽんっとヴィラの肩を叩いて、しみじみと言った。
その言葉にヴィラはむっとしたように、表情を微かに変えた。しかし、すぐに何かを思いついたかのように微笑んだ。
「花梨さんは全く変わりませんね」
「なっ!?」
その言葉に何の文句も言えずに、ただ口を尖らせる。その反応にヴィラはくっと喉の奥で笑った。
「王様の癖に、子供っぽい!」
そう指摘すると、彼はにっと笑って花梨の服装を見た。
「年若き乙女とは思えない服装ですね」
にっこり、と笑顔とともに言われた言葉に、再び花梨は押し黙る。
ヴィラが王だと知ったのは、ついこの前だった。
ヴィラの世界には二つの国がある。イガーと、ツザカの二つ。この二つはそれぞれイガー国とツザカ国と呼ばれているのだが、その国の主は、王様と呼ばれることは許されていない。大抵は~様、~殿などと呼ばれていた。
ヴィラ自身、この前王位を継承したばかりだった。
先王は混乱の際のストレスのせいで持病が悪化し、亡くなったのだ。それで、第一王位継承者であったヴィラが王位を継承したのだ。
「仕方ないじゃん。パジャマなんだから……」
ぶうっと頬を膨らました花梨。最近ヴィラの性格が分かってきたところだった。
「まぁ。仕方……」
ヴィラが口を開いた直後、光が花梨を包む。
(――このタイミング。わざとじゃないの?)
苦笑するが、その後に感じた頭の痛みに表情が崩れる。今までとは違う。すぐにそう悟るが花梨には何も出来ない。
痛みが治まったとき、そっと目を開ける。視界に移るのは何時もの部屋……ではなかった。
何時も驚かれては堪らない、と思ったのだろう。ヴィラの低い声がゆっくりと花梨の名を呼んだ。
「うん……また年とったねぇ」
ヴィラの姿を確認すると、そう感心したように呟いた。
二人が夢で会うようになってから、もう一ヶ月ほどたっていた。
ヴィラの時間の進みは、ゆっくりな時もあれば早い時もあったが、花梨の方は毎晩夢で会えていた。
じっとヴィラの姿を見つめると、花梨は完全な癖になったため息をついた。
(――格好良くなっちゃって、あぁ。可愛いヴィラ。写真撮っておけばよかったなぁ)
ぷっくらとした白い頬。赤い唇。どこか女の子のように可憐だったヴィラ。しかし、今はまるで彫刻のように整った顔だち。昔の面影は目元の優しさだけだ。
「花梨さん」
無言のままじっと見つめてくる花梨に、軽く頬を染めて名前を呼ぶ。
(――身長も私より大きくなっちゃって。そりゃ、もう私と同い年だから仕方ないけどなぁ)
「花梨さん?」
こてっと首をかしげたヴィラ。その行動が昔と同じことに思わず花梨は笑い声を上げた。
「な、何だっ」
動揺したように言ったヴィラの口調は、敬語ではない。
花梨へ話す言葉は昔から敬語だが、恐らく他の相手には変わったのだろう。動揺したときのみ出る。
「ん~、大人になっちゃって」
ぽんっとヴィラの肩を叩いて、しみじみと言った。
その言葉にヴィラはむっとしたように、表情を微かに変えた。しかし、すぐに何かを思いついたかのように微笑んだ。
「花梨さんは全く変わりませんね」
「なっ!?」
その言葉に何の文句も言えずに、ただ口を尖らせる。その反応にヴィラはくっと喉の奥で笑った。
「王様の癖に、子供っぽい!」
そう指摘すると、彼はにっと笑って花梨の服装を見た。
「年若き乙女とは思えない服装ですね」
にっこり、と笑顔とともに言われた言葉に、再び花梨は押し黙る。
ヴィラが王だと知ったのは、ついこの前だった。
ヴィラの世界には二つの国がある。イガーと、ツザカの二つ。この二つはそれぞれイガー国とツザカ国と呼ばれているのだが、その国の主は、王様と呼ばれることは許されていない。大抵は~様、~殿などと呼ばれていた。
ヴィラ自身、この前王位を継承したばかりだった。
先王は混乱の際のストレスのせいで持病が悪化し、亡くなったのだ。それで、第一王位継承者であったヴィラが王位を継承したのだ。
「仕方ないじゃん。パジャマなんだから……」
ぶうっと頬を膨らました花梨。最近ヴィラの性格が分かってきたところだった。
「まぁ。仕方……」
ヴィラが口を開いた直後、光が花梨を包む。
(――このタイミング。わざとじゃないの?)
苦笑するが、その後に感じた頭の痛みに表情が崩れる。今までとは違う。すぐにそう悟るが花梨には何も出来ない。
痛みが治まったとき、そっと目を開ける。視界に移るのは何時もの部屋……ではなかった。
4
あなたにおすすめの小説
天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!
灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ?
天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?
【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。
まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。
理由は、お家騒動のための避難措置である。
八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。
★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。
☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。
☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~
雪丸
恋愛
【あらすじ】
聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。
追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。
そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。
「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」
「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」
「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」
命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに?
◇◇◇
小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
カクヨムにて先行公開中(敬称略)
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~
川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。
そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。
それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。
村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。
ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。
すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。
村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。
そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる