38 / 51
38
しおりを挟む
部屋の前まで行くと、タグミは足を止めて振り返った。
「花梨、ちょっと此処で待ってな」
「うん」
にこっと花梨が笑うと、タグミが一人で部屋に入った。
『花梨さん』
「え? あ、はい」
『そんなに緊張しなくてもいいわ。タグミの娘なら私の娘のようなものだもの』
くす、と笑われて、花梨は微かに頬を染めた。
『私はね、タグミが物心つくのと同時くらいに、タグミに呼ばれてきたの。だからタグミったら、ミケは聖獣に見えるけど、私は見えないなんて言うのよ? 酷いでしょ』
悪戯っぽい目でそう言われ、花梨は小さな笑い声をあげた。それから、ちらっとミケの方に視線を向ける。
「ミケの方が、聖獣には到底見えないけど」
『ご主人様、失礼ですー!』
ぷぅっと膨れるミケを、エリィが優しく宥めた。それだけで、ミケの機嫌はすぐに良くなった。
微笑ましい光景だな、と思いながら見つめていると、ふと誰かに似ていることに気がついた。二人の様子、というよりも、ミケのエリィを見る目が誰かに……
「あ!」
思い当たり、思わず声を出せば、ミケに訝しげな視線を向けられた。
(――チュイ! そうだ、チュイに似てるんだ。ライヤの事を話すチュイにミケはそっくり。最初私ったら、ミケがエリィさんの事を恋愛感情として好きって勘違いしてたけど、馬鹿だったなぁ)
ミケがエリィに向ける瞳は、尊敬の目だった。
話ってどのくらいで終わるんだろう? と花梨が言おうと口を開いた時、部屋のドアが開いた。
「あ、タグミ。もう終わったの?」
時間としては十分ほど。そんなに早く話が終わるものだろうか?タグミはそれに、微苦笑を浮かべて返した。
「花梨、ちょっと歩かないかい?」
「うん! 城の庭とか綺麗だから」
タグミの斜め後ろに、ついていく花梨。
今回は、エリィとミケは着いて来ず、その場でじゃれあっている。
この国は緑に溢れている、と花梨は思う。肌寒いこの季節にでも、青々とした葉のついた木が生えているからだ。
「綺麗だよね。この国の庭師さんは凄いよ」
嬉しそうに笑って、タグミを見てみれば、タグミは優しい表情を浮かべて花梨を見つめていた。
「花梨、ちょっと話しておかないといけないことがあってね。まず、何故私がこの年でこの見た目なのか、気になるだろう?」
足を止めたタグミ。花梨は素直に頷いた。
「さうさね。何から話そうか。私は、一度だけ龍様に会ったことがあるのさ」
「龍さんに?」
文献には載ってなかったなぁ、と少し首をかしげた。
「その時に、私は伝える役目。だと言われたね。その役目が終わった時、私の止まった時間が動き出す……」
どこか遠い所を見ているような目。その目は悲しそうでもあり、慈愛に満ちたものでもあった。
「どういう、こと?」
突然の展開に、花梨の頭上にはクエッションマークが飛び交う。
「花梨があの森に落ちてきたのは、偶然じゃないってことさ。私があの森番についたのも、その際に龍様に言われた言葉に従ったわけだからね。まぁ、拾った時は、まさか次の龍の娘だとは思わなかったけれど」
苦笑を浮かべるタグミに、花梨の頭は混乱気味。そんな花梨の様子に、タグミは一つため息をついて、花梨の頭を優しく撫でた。
「え、と。ちょっと待って! つまり、あの森に落ちたのは龍さんが決めてたって事?」
しっかりと頷いたタグミに、花梨の頭もようやく落ち着いてきた。
「後……タグミの時間が動き出すって言ってたけど。それは普通に?」
頭に浮かんだのは、浦島太郎のお話。玉手箱を開けたみたいに、今までの時間がタグミの体に降りかかってしまうのか?
想像して、花梨は顔を青ざめた。
「突然老いが来るとは思えないけど、まぁ。普通よりは早いだろうさ」
「そんな!」
(――普通より早いだなんて、一体どのくらいなの!?)
うぅ、と目に涙をためる花梨だが、タグミの表情は晴れ晴れとしたもの。
「それに、老いは怖くないよ。早く、サーファスに会いたいもんだね」
タグミの口から聞こえた名前。どこかで聞き覚えがあった。
「サーファスって、ヴィラのおじいちゃん?」
「そう。劇になったりしているのは知っているね? まぁ、本当はあんな話じゃないのだけど」
リルから聞いた話。
『ヴィラーネルト様のお爺様に当たるサーファス様のときに現れた方で。初めて聖獣様をお呼びになられた方です。ただ、サーファス様がお亡くなりになられた際にはヴィラーネルト様のお父様、ラルフ様にも仕えずに暫く城に在住したのち、姿を消されました』
リルの言葉が、鮮明に思い出される。
「何で、結婚しなかったの? 龍の娘だから、身分違いなんてことないし」
花梨の言葉に、タグミは悲しそうに笑った。
「逃げたのさ」
「逃げた?」
「そう。とてもじゃないけど、当時の正室の方に勝てる気がしなかった。サーフィスには結婚しようと言われたけれど、私は王族の女になれるような女じゃない」
複雑そうな表情から、その正室の人を恨んでいないことだけは花梨に分かった。
「そう、なんだ」
何も言えずにそう言えば、場を和ませるようにタグミが微笑んだ。
「後どのくらい、アンタと一緒に居れるか分からないけど。それまでは……」
耳を澄まさなければ消えてしまいそうな声。その声はしっかりと、花梨の耳に入っていた。最後までタグミが言う前に、花梨が声を出す。
「あ~、と。ヴィ、ヴィラに用事あるから。それじゃあね」
泣き笑いの表情を浮かべて、花梨はその場を走り去った。
心臓はドンドンと大きな音を鳴らし、頭は衝撃の事実にガンガンと響くように痛んだ。
自分の浮かべた表情が、完璧な笑顔ではなかった事には気がついていたけれどそれを訂正できるほどの、気持ちの余裕なんて無かった。
遠ざかる花梨の背中を、タグミは眩しそうにじっと見つめていた。
「花梨、ちょっと此処で待ってな」
「うん」
にこっと花梨が笑うと、タグミが一人で部屋に入った。
『花梨さん』
「え? あ、はい」
『そんなに緊張しなくてもいいわ。タグミの娘なら私の娘のようなものだもの』
くす、と笑われて、花梨は微かに頬を染めた。
『私はね、タグミが物心つくのと同時くらいに、タグミに呼ばれてきたの。だからタグミったら、ミケは聖獣に見えるけど、私は見えないなんて言うのよ? 酷いでしょ』
悪戯っぽい目でそう言われ、花梨は小さな笑い声をあげた。それから、ちらっとミケの方に視線を向ける。
「ミケの方が、聖獣には到底見えないけど」
『ご主人様、失礼ですー!』
ぷぅっと膨れるミケを、エリィが優しく宥めた。それだけで、ミケの機嫌はすぐに良くなった。
微笑ましい光景だな、と思いながら見つめていると、ふと誰かに似ていることに気がついた。二人の様子、というよりも、ミケのエリィを見る目が誰かに……
「あ!」
思い当たり、思わず声を出せば、ミケに訝しげな視線を向けられた。
(――チュイ! そうだ、チュイに似てるんだ。ライヤの事を話すチュイにミケはそっくり。最初私ったら、ミケがエリィさんの事を恋愛感情として好きって勘違いしてたけど、馬鹿だったなぁ)
ミケがエリィに向ける瞳は、尊敬の目だった。
話ってどのくらいで終わるんだろう? と花梨が言おうと口を開いた時、部屋のドアが開いた。
「あ、タグミ。もう終わったの?」
時間としては十分ほど。そんなに早く話が終わるものだろうか?タグミはそれに、微苦笑を浮かべて返した。
「花梨、ちょっと歩かないかい?」
「うん! 城の庭とか綺麗だから」
タグミの斜め後ろに、ついていく花梨。
今回は、エリィとミケは着いて来ず、その場でじゃれあっている。
この国は緑に溢れている、と花梨は思う。肌寒いこの季節にでも、青々とした葉のついた木が生えているからだ。
「綺麗だよね。この国の庭師さんは凄いよ」
嬉しそうに笑って、タグミを見てみれば、タグミは優しい表情を浮かべて花梨を見つめていた。
「花梨、ちょっと話しておかないといけないことがあってね。まず、何故私がこの年でこの見た目なのか、気になるだろう?」
足を止めたタグミ。花梨は素直に頷いた。
「さうさね。何から話そうか。私は、一度だけ龍様に会ったことがあるのさ」
「龍さんに?」
文献には載ってなかったなぁ、と少し首をかしげた。
「その時に、私は伝える役目。だと言われたね。その役目が終わった時、私の止まった時間が動き出す……」
どこか遠い所を見ているような目。その目は悲しそうでもあり、慈愛に満ちたものでもあった。
「どういう、こと?」
突然の展開に、花梨の頭上にはクエッションマークが飛び交う。
「花梨があの森に落ちてきたのは、偶然じゃないってことさ。私があの森番についたのも、その際に龍様に言われた言葉に従ったわけだからね。まぁ、拾った時は、まさか次の龍の娘だとは思わなかったけれど」
苦笑を浮かべるタグミに、花梨の頭は混乱気味。そんな花梨の様子に、タグミは一つため息をついて、花梨の頭を優しく撫でた。
「え、と。ちょっと待って! つまり、あの森に落ちたのは龍さんが決めてたって事?」
しっかりと頷いたタグミに、花梨の頭もようやく落ち着いてきた。
「後……タグミの時間が動き出すって言ってたけど。それは普通に?」
頭に浮かんだのは、浦島太郎のお話。玉手箱を開けたみたいに、今までの時間がタグミの体に降りかかってしまうのか?
想像して、花梨は顔を青ざめた。
「突然老いが来るとは思えないけど、まぁ。普通よりは早いだろうさ」
「そんな!」
(――普通より早いだなんて、一体どのくらいなの!?)
うぅ、と目に涙をためる花梨だが、タグミの表情は晴れ晴れとしたもの。
「それに、老いは怖くないよ。早く、サーファスに会いたいもんだね」
タグミの口から聞こえた名前。どこかで聞き覚えがあった。
「サーファスって、ヴィラのおじいちゃん?」
「そう。劇になったりしているのは知っているね? まぁ、本当はあんな話じゃないのだけど」
リルから聞いた話。
『ヴィラーネルト様のお爺様に当たるサーファス様のときに現れた方で。初めて聖獣様をお呼びになられた方です。ただ、サーファス様がお亡くなりになられた際にはヴィラーネルト様のお父様、ラルフ様にも仕えずに暫く城に在住したのち、姿を消されました』
リルの言葉が、鮮明に思い出される。
「何で、結婚しなかったの? 龍の娘だから、身分違いなんてことないし」
花梨の言葉に、タグミは悲しそうに笑った。
「逃げたのさ」
「逃げた?」
「そう。とてもじゃないけど、当時の正室の方に勝てる気がしなかった。サーフィスには結婚しようと言われたけれど、私は王族の女になれるような女じゃない」
複雑そうな表情から、その正室の人を恨んでいないことだけは花梨に分かった。
「そう、なんだ」
何も言えずにそう言えば、場を和ませるようにタグミが微笑んだ。
「後どのくらい、アンタと一緒に居れるか分からないけど。それまでは……」
耳を澄まさなければ消えてしまいそうな声。その声はしっかりと、花梨の耳に入っていた。最後までタグミが言う前に、花梨が声を出す。
「あ~、と。ヴィ、ヴィラに用事あるから。それじゃあね」
泣き笑いの表情を浮かべて、花梨はその場を走り去った。
心臓はドンドンと大きな音を鳴らし、頭は衝撃の事実にガンガンと響くように痛んだ。
自分の浮かべた表情が、完璧な笑顔ではなかった事には気がついていたけれどそれを訂正できるほどの、気持ちの余裕なんて無かった。
遠ざかる花梨の背中を、タグミは眩しそうにじっと見つめていた。
6
あなたにおすすめの小説
異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……?
しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし!
危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。
彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。
頼む騎士様、どうか私を保護してください!
あれ、でもこの人なんか怖くない?
心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……?
どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ!
人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける!
……うん、詰んだ。
★「小説家になろう」先行投稿中です★
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果
下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。
一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。
純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる