【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

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 ドアに体当たりするほどの勢いで開けると、その物音に部屋主のヴィラが驚いたように声をあげた。

 しかし、入ってきた人物が花梨だと気がつくと、ヴィラはそっと花梨に近づいた。

「花梨?」

 顔を覗かれるのが嫌、と言うように、花梨は深く俯く。

 ぽたり、と花梨の頬を伝って涙が落ちる。その事実に気がつくと、ヴィラは心配と困惑が入り混じった表情を浮かべた。

「どうしたんですか?」

 優しい声で訊ねられても、花梨は俯いて泣くだけ。

 花梨の頭の中には、先ほどタグミに言われた言葉で一杯だった。

「……っしよう」

 嗚咽交じりで何かを言って、ヴィラに抱きついた。

「え?」

「どうしよう。タグミ……がっ。だって、分からないよ」

 顔をヴィラの胸に押し付ければ、涙がすっと服に消える。

 ヴィラはそっと花梨の背中に右手を添えて、左手で花梨の髪をかきあげた。

「タグミが、どうしたんですか?」

 目と目を合わせて、ヴィラは優しい表情を浮かべた。

「居なくなっちゃう……駄目なのに」

「駄目? 何でです?」

 ヴィラの言葉に、花梨は顔を上げてヴィラを睨んだ。

「駄目に決まってるよ! だって、だって」

 言葉が続かずに、う~と小さな唸り声を上げた。

「怖いんですか? それとも、寂しいんですか?」

 その両方とも違い、花梨はぶんぶんと首を横に振った。そして、顔をヴィラの肩に押し付ける。

「悲しいんだよ……」

 くぐもった声でそう言えば、再び涙がこみ上げてきて止まらなくなった。

「タグミのこれからの寿命なら、花梨自身が一番知ることが出来るでしょう?」

「私が?」

「そう、タグミの寿命を決めるのが龍様なら、花梨が訊ねてみれば良い」

「そっか……」

 涙が止まり、花梨はごしごしと目元を擦った。ひっくひっく、と勝手にしゃくりあげていた喉も、すっかり落ち着いてることに花梨は気がつく。

「あれ? 私、タグミの年のこと話してないよね?」

 あれ、と首を傾げれば、その動作にほっとしたようにヴィラが息をつく。

「あぁ、そのことなら、さっきタグミとの話で出ましたから」

「そうなの?」

「はい。それと、花梨に思い出してもらいたいんですが、タグミは辛そうでしたか? 寧ろ逆で、嬉しそうではありませんでしたか?」

 ヴィラの言葉に、花梨はタグミの表情を思い出した。

(――普通に笑ってた……辛いとも言ってなかったし)

 自分が何か大切な事を見逃していたことに気がつき、花梨は呆然とした。その花梨の表情を見て、ヴィラは優しく微笑を浮かべる。

「花梨のことを話すタグミは、嬉しそうでしたから」

「本当?」

「えぇ。……まぁ色々とクギは刺されましたけど」

「え?」

「いえ、なんでもないですよ。それよりも、赤くなってます」

 服の袖でゴシゴシと擦った目元が、赤くなってしまっていた。そこをヴィラは、心配げな表情を浮かべて指ですっと撫でた。

「あはは~。今酷い顔だよね」

 照れたように笑うと、花梨は急に気恥ずかしくなってきた。

(――取り乱してたとはいえ、ヴィラに抱きついて泣くだなんて)

 穴があったら入りたい! と考えてしまうのはしょうがないこと。目元だけではなく、花梨の顔自体が赤く染まった。

 花梨自身ではどうしようも出来ないそんな状況。タイミング良く、というのか悪くというのか、ミケが部屋に入ってきた。

『ご主人さ……ヴィ、ヴィラさん! ついに手を出したんですかっ!』

 入り口付近で抱き合う二人を見て、ミケが素っ頓狂な声をあげる。その勘違いにヴィラは呆れ顔、花梨はきょとんとしている。

『僕お邪魔ですか? でも~、エリィさんももう居ないし。暇なんですー』

 ゴロゴロと喉を鳴らして花梨に甘えるミケ。さっきまでのシリアスな雰囲気など何処へやら。花梨はパッとヴィラから離れると、ミケの頭をぐりぐりと撫でた。

「エリィさん帰った、って事は。タグミも帰っちゃったの?」

『そりゃそうですよ~。それにタグミさんって国境の森番ですから、長居は出来なかったんだと思うです~』

「そんなぁ」

 はぁ、とため息をついて、花梨は項垂れた。

 先ほどの別れ方が不満だった。今ならにっこり笑顔を浮かべられたのに、とそう思っている。

「まぁまぁ。今生の別れというわけでもありませんし」

 優しげな笑みを浮かべて、花梨の頭を数度撫でた。

「ん……そだね。ヴィラありがとう」

 ふわっと淡い笑みをヴィラに向かって浮かべれば、ヴィラは照れたように微笑を返した。






 今日は、タグミの事が知れた日でもあって、ヴィラの大切さも分かった日。
 
 暫くは、何もなければ良いって。私はそう思う。
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