【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

文字の大きさ
40 / 51

40

しおりを挟む
「ミケ、また何処に行ってるんだか」

 姿の見えない聖獣に、花梨は困ったように呟いた。

 聖獣はご主人様に付き添うのが普通です! と言うくせにミケは、よく花梨の前から姿を消す。大抵は厨房や食べ物のある場所にいるのだが。

「また厨房かなぁ。まったくもう」

 ぶつぶつと呟き、下を向いて歩く。

「龍巫女様、ちょっと良いでしょうか?」

「へ? わ、へぶっ」

 声に体が反応できず、そのまま顔面から誰かにぶつかった。

「ごめん、えっと。ライヤ」

 顔を上げれば、楽しげに口元に笑みを浮かべるライヤが立っていた。

「少し、ここでは出来ぬ話ですので」

 ライヤに案内されるままに、一つの部屋に入る。

 その部屋は良い意味で質素だ。使っている人の感性が良く出ている。

「ここは?」

「私の部屋ですよ。ここに座ってください」

 ライヤの部屋か、と妙に花梨は納得した。
差し出された椅子に腰掛けて、ライヤに向き直る。

「えっと、どうしたの?」

「実は、二つほど花梨に話がありまして」

 真剣な表情のライヤに、花梨の表情も自然と引き締まる。一体なんの話なのか、花梨には検討もつかない。

「まずは、ネルの事です。ドヒュル殿を覚えていますね?」

「うん。ヴィラのお兄さんでしょ?」

 花梨の言葉に、ライヤは満足そうに微笑した。

「えぇ。ネルには敵が多いのですよ。ドヒュル殿だけじゃありません」

「何で? だって、皆のこと良く考えてるのに」

 ライヤの言った事に、花梨が眉を顰めた。

「ネルに兄上が居たのも知ってますね? その方が本来の第一王位継承者でした。能力も、家柄も。全てが王にふさわしく、誰もがその方が王になると信じて疑いませんでしたよ。

 逆に、正室により生まれた次男にも関わらず、ネルは全く期待はされていませんでした。青色の目を持って生まれたため、寧ろ、疎まれて育ったんですよ」

 一呼吸置いて、ライヤが悲しげな表情を浮かべた。

「お兄さんが亡くなって、ヴィラはすぐに第一継承者になれたの?」

「えぇ。ネルの場合も青の目以外は完璧と言われましたから。ただ、困ったのは王族や重臣達です。ネルではなく、兄の方へ媚っていました。そして、ネル前で堂々と仕事をやらなかったり……ネルは王位についてすぐしたのが、そうした地位だけを持つ者の排除でしたよ」

 くっと、ライヤの口元が皮肉気に歪む。

「それで、恨まれてるの?」

 納得できない! と花梨の表情が、ライヤに訴えかける。

「えぇ。まぁ、私も影ながら排除してますけどね」

 突然表情を変えて、ばちっとライヤがウィンクをした。

「えっ」

「私は、稀に見る最高の宰相ですよ? そんな人間をどうにかする事なんて、たやすいことです。さて、と。何故花梨にこんな話をしたかというと……」

「言うと?」

 にぃっとライヤが猫のように笑う。

「花梨がネルと一生居ると思ったからです」

「私が?」

「そうですよ。まぁ、それがどういう形かは花梨次第ですけどね」

 ふふっと笑うライヤに、花梨も少し微笑した。

「話は終わり?」

「えぇ。もうこれで終わりです」

 ライヤの言葉に、花梨はミケを探すために部屋から一歩出る。しかし、違和感を感じて振り向いた。

「最初に、二つって言ってなかったっけ?」

 そう花梨が言えば、わざとらしくライヤはぽんっと手を叩いた。

「そうそう。つくほうが決まりそうですよ?」

「つくほう?」

「えぇ。王族がつくほうが、もう決まりそうです」

「そ、それって。忘れるのおかしくない?」

 ひくっと口元が引きつるのが分かる。そんな花梨に比べて、ライヤはのほほんと笑うだけ。

「ちょっと、ヴィラに相談してくるね! それじゃあ」

 走り出した花梨は、部屋のドアを閉めるのも忘れていった。



「真っ先に頼るのが、ネルねぇ……これは花梨がネルに嫁ぐ日も遠くはなさそうですね」

 ふふ、と笑うと、ライヤはドアをゆっくり閉めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

処理中です...