【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

文字の大きさ
45 / 51

45

しおりを挟む
「ここへ入っていてください」

 とんっと軽く背中を押され、花梨は一歩踏み出した。鉄格子の中、それも薄明かりすら見えない闇の中へ入れられる、花梨はぞっとした。

 兵士は花梨を一瞥すると、何気ない動作で自分の灯りをその場に置いた。

「え?」

 灯りでぼんやりと浮かんだ兵士の表情は、とても苦しそうなものだった。

「隊長、その……つけなくてよろしいのでしょうか」

 灯りを置いてくれた男へ、他の兵士が恐る恐る言った。

「龍巫女様に、手枷足枷を付けられるとお前は思うのか」

 諦めるような口調で言うと、隊長、と呼ばれた男は花梨を見つめた。

「龍巫女様、けして暴れないでください。マイヤ様も、戦争が終われば貴方を出してくれますから」

 そう言うと、花梨の言葉を待たずに、兵士達が帰っていった。残ったのは数人の、見張り番のみ。

「ミケ……」

 後悔を含んだ声でそう呟いて、ぎゅっと花梨は膝を抱えた。酷く静かでいて、時折聞こえる息の音で、他にも牢へ入れられている者がいるとわかる。

(――ライヤの言う、用意した部屋がこれか。随分酷い場所だなぁ)

 カツンカツン、と見張り番の男達が、歩く足音が響く。

 ぴちゃ、と頬に雫が流れ、花梨は上を見上げた。

「うわぁ、もしかして雨?」

 花梨の思ったとおり、耳を澄ませば地を打つ雨の音が聞こえた。

「最悪……さて、と。どうやって抜け出そうかな」

 パチッと頬を叩いて気合を入れて、にっとわざと笑ってみせた。

 諦める気など、花梨にはなかった。考えるのはどうやって外に出るか、だけ。先ほどの兵士の言葉なんて、聞いていなかったようだ。

『苦しい、痛い、苦しい』

 か細い鳴き声が響き、花梨はきょろきょろと辺りを見た。声の主はどうやら、花梨と同じ牢へ入っているようだ。

「どこ?」

『下、居る』

 声の通りに下へ視線を向けると、チチチ、と弱弱しく鳴くネズミが居た。その小さな体から、赤い血が流れている。

 花梨は慌ててそのネズミを手の平に乗せると、治療を始めた。すっかり慣れたその行為は、数秒で終わる。ネズミの体の傷は完全に塞がっていた。

「よっし。もう大丈夫だよ?」

 鼻の上を、人差し指でそっと撫でる。

『嬉しい。ありがとう』

 チチチ、キーキーと嬉しそうに鳴いて、ネズミが花梨の手の平から床へと降りた。

『龍の娘、何で居る?』

「ん~、捕まっちゃって。出られないんだよ」

 悲しそうに花梨が言うと、一際高い声でネズミが鳴いた。

『鍵、とる!』

「え? ちょ、ちょっと」

 勢いよくネズミが鉄格子の間から飛び出していった。その様子を呆然としてみていたが、暫くするとネズミが戻ってきた。

『鍵!』

 誇らしげに胸をはって、くわえている物を花梨へ差し出す。

「わ、ありがとう」

 嬉しさに花梨が微笑んで礼を言うと、ネズミは嬉しそうにキキキと鳴いて姿を消した。

 花梨はすぐに鍵を使って、ドアを開けた。見張りに見つからぬように、細心の注意を払ってそっと牢から抜け出した。

 城の兵達は思ったよりも少ないことが、花梨のこの状況での唯一の幸運だった。兵士達は、殆どの者が戦争に出ていたためだ。

「私が居たのは地下牢だから、ひたすら上に行けば良いんだ」

 ぐっと拳を握って、花梨は走り出した。しかし、兵士が少ないと言っても、勿論居るわけで。

「そこの不審者、止まれ!」

 背後の男にそう言われ、花梨は飛び上がるほどに驚いた。後ろを確認すれば、キラリと光る剣を持った男が走ってくるのが見えて、花梨は死の物狂いで走り出した。

(――こればまずい、冗談じゃ無しに殺される! あぁ~、もう。ドッキリでした~っていう展開を希望するよ、私は! ……それはそれで、腹が立つかもだけど)

 追いかけてくる人数は次第に増え始め、それと変わるように花梨の体力が減ってきた。

 これ以上は無理だ、と花梨は一か八かで一つの部屋に飛び込んだ。中に人が居ればそれで終わり、居なければ寿命が延びる。

 花梨は居ませんように、と祈りながらそっと瞳を開けた。

「ルーファ?」

 驚愕に目を見開いた花梨の視線の先には、ゆったりと足を組むルーファが居た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

【長編版】孤独な少女が異世界転生した結果

下菊みこと
恋愛
身体は大人、頭脳は子供になっちゃった元悪役令嬢のお話の長編版です。 一話は短編そのまんまです。二話目から新しいお話が始まります。 純粋無垢な主人公テレーズが、年上の旦那様ボーモンと無自覚にイチャイチャしたり様々な問題を解決して活躍したりするお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...