お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス

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13話

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 ライの家のリビングには、ほとんど物がなかった。ぱっと見ると人が住んでいるとは思えないほどだ。そんな物のないリビングにぽつんと置かれた机で、ビオラは薬師と向き合っていた。

「確かに。この5つの薬草を組み合わせても体に害はないでしょうか。でも、本当にこれが何かに効果があるのですか?」

 ライの家で働く薬師のマイノは、困惑したような表情でビオラを見つめた。

 ビオラが指示した薬草は、王都の近くに自生するものばかりだったが、どれも大した効果があるようには思えなかったのだ。

「彼女の指示通りにしてほしい」

 雇い主であるライにそう言われて、困惑しながらもマイノは頷いた。

「効果はどれくらいで出てくるの?」

「そうですね。今日の昼から飲み始めて、早ければ3日。遅くても5日後には目を覚ますと思います」

 その言葉にマイノはまるで、詐欺師でも見るような目つきでビオラを見た。ライも変わらず疑っているような表情ではあるが、ビオラに自身を騙しても得がないことは理解していた。

「マイノ。準備してほしい」

「かしこまりました。すぐに手配し、調合いたします」

 マイノはそう言うと市場へと急いで向かった。

「ビオラちゃんも帰ってもいいよ。来るときに乗った馬車を待たしてあるから、それに乗ればいいから」

「分かりました」

 ぺこり、と頭を下げてビオラが部屋から出て行こうとすると、その腕をライが掴んだ。

「本当に。ピュリテは目を覚ますの?」

「はい。大丈夫です」

 ビオラが目を見つめ返して頷くと、ライは泣きそうな表情でぐっと涙をこらえるように目を閉じた。

「止めてごめんね。行っていいよ」

 そう言うとビオラを掴んでいた手を放し、下を向き手をひらひらと振った。

 






 屋敷へと戻ったビオラは、アルゼリアの屋敷内にある自室のベッドに座っていた。

 屋敷へと戻るとすでにアルゼリアは招かれたお茶会へと言っており、侍女長に休んでいいと言われたのだ。

「大丈夫だよね」

 ぽつり、とつぶやくと、不安な気持ちが水に垂らした絵具のようにばっと心の中に広がった。今まで子爵領でも、病にかかった人を同様に治療したことがあった。100%病を治すことはできたのだ。

 もしも治せない病気の場合は、手を握った時点で分かるようになっていた。実際に治す手立てのない病もあり、子爵領にいた際にそういった人も見てきた。

「不安だな」

 抱えた膝に額を付けて、ため息をつく。

「暇そうだな」

「ひっ。殿下!」

 いつの間にか開いていた扉から、ジェレマイアが顔を出していた。あまりにも驚いたビオラは悲鳴を上げて飛び上がる。

「ライのやつが帰ってこないから。直接会いに来てやったぞ」

 そう言うと部屋の中に入り、ばたんとドアを閉める。

「殿下!ほかの方に見られたら勘違いをされます」

「安心しろ。人払いをしておいた。殺されたくなければ第三妃以外は屋敷の外に出ろとな」

「そんな」

 めちゃくちゃな命令をした本人は機嫌よさそうに笑顔を浮かべ、ビオラの隣に腰かけた。

「上手くいったか?」

「そうですね。大丈夫だと思います」

「何だ。自信がないのか?」

「そんなこと。ないと思います」

「どうなったか教えろ」

 ジェレマイアにライの家で見たこと、薬を調合するように依頼したことを伝える。

「お前の能力が神からもらったものなら、おそらく大丈夫だろう。この世界には俺やお前みたいに、突然能力を持って生まれる人間がいるが、その能力が途中でなくなった人間は一人もいないからな」

「そうなんですか?」

 自身の能力について何も調べたことのないビオラは、能力がいつかなくなるかもしれないと思って生きてきていた。

「ああ。それよりも、今日は昼もこの屋敷で食うから。お前も一緒に食べろ」

「え!何でですか」

「光栄だろう?俺のことを愛しているんだから」

 そう言うとビオラの顎を掴んで、ジェレマイアが笑った。至近距離から整った顔と魅力的な笑顔を見てしまったビオラの頬が、一瞬でぼっと赤く染まる。

(――ううう。イケメンはずるい)

 ぼぼぼっと顔を赤く染めているビオラを見て、ジェレマイアはにやっと笑うと頬に口づけをした。

「殿下!」

「こういう戯れは好きではないと思ったんだが、意外だな。やってみると楽しい」

 いたずらっ子のように笑うジェレマイアを、ビオラは思わず両手で突き飛ばす。

「冗談が過ぎます!」

「お前の無礼は猫みたいだな。にゃんにゃん鳴かれても可愛いだけだ」

 そう言って突き飛ばした手の甲に、ジェレマイアが唇を落とす。

(――なんでこんなことを?!)

「何をするんですか」

「さっきも言っただろう。俺は意外とお前と戯れるのが好きなことに気が付いたんだ」

 ははっと笑うとジェレマイアは立ち上がり、扉の方へ歩く。

「腹が減った。行くぞ」

 どこまでも自分のやりたいように振る舞うジェレマイアに、ビオラは文句も言えずに拗ねた顔でその後ろをついていく。

 ジェレマイアに振り回され、先ほどまでの暗い気持ちが吹っ飛んだことにビオラ本人は気が付いていなかった。
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